じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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36 僕の弟は可愛い!

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 ヨフミィは手持ち無沙汰になった。
 作業部屋にジールさんと逃げ込み、温室から人がいなくなるまで時間潰しをしていた。だけどジールさんは上から呼び出しがあったと言って出て行ってしまった。
 呼び出しに来た人の服が王太子殿下専属のメイドだと他の人達が囁いていた。
 まさかさっきの騒ぎのせい?
 どうしようとヨフミィの方がドキドキしてしまうが、ジールさんは大丈夫だからと言って上着を着て出て行ていこうとした。

「ヨフ、暇なら騎士団にこれ持って行くか?」

 ジールさんが渡したのは観葉植物が乗った台車だった。わりと大きめの鉢植えが五つある。

「交換?」

「そうだ。本部の受付に渡せば勝手に交換してくれるから、少し見学してこい。」

 さっき話していた公爵家の双子の片割れがたまに来るという話を思い出す。どうせ暇だしと思い行ってみることにした。

 うんしょと取っ手に手を乗せ押していく。庭師は力仕事だ。皆んな簡単に押していくのに、ヨフミィには少し重たい。これでもおばあちゃんとの二人暮らしで力はついたと思っていたのに…。オメガは筋肉がつきにくいと言われている。本当にその通りだなと思った。
 ふんふんふーんと鼻歌を歌っていると、前に立つ人物がこちらを見ていた。

「…………。」
 
 あばばばばば。
 ラニラルーーーーー!?なんでここに!お茶会は?公爵家は?ラニラルはヘミィネの専属侍従じゃなかったの!?
 どーしよう。どーしようと思いながらも足は歩くしかないんだけどね?だって止まった方が不審だし。
 なぁんか笑顔だねぇ?
 
「それは今からどこに持って行かれるのですか?」

 なんで話しかけてくるの?

「えと、騎士団の本部ですぅ。」

 なるべく目は会わせまい。いや本当は元気かなぁとか、さっき種を投げつけたけど大丈夫だったかなぁとか気になるからちゃんと見たいよ?
 でも僕がヨフミィだと知られるわけにはいかないからねぇ。
 バレてないよね?不安。

「重たそうですね。手伝いましょう。」

 うん、他人行儀だ!バレてないとみた!
 そしてあっさり台車の持ち手を取られてしまった。早くない?

「…………ありがとうございます?」

「いいえ。」

 ゴロゴロゴロと台車のタイヤが転がる音が響く。
 何を話したらいいんでしょうか。結局本部に着くまで無言で来てしまった。
 ラニラルが受付のカウンターを指でコンコンと叩く。

「観葉植物の交換だそうです。任せても?」

 受付の女性はラニラルをポーと見ていた。麗しいもんねぇ、ラニラルって。知的アルファって感じがするんだよね。騎士にありがちな野生味あるアルファとはまた種類が違う。そのくせ子供の頃のラニラルって喧嘩も強かったんだよね~。なんかいろいろ美味しいやつだよね。
 わかるよ~見惚れちゃうよねぇ。とヨフミィは頷いた。

「少し小部屋を貸して下さい。」

 何故かラニラルは騎士団の部屋を貸して欲しいと願っていた。何か用事があって騎士団に向かっていたのかな?僕に会ったのは偶然?
 僕は隣でどうしたらいいのか分からず黙って聞いているしかない。もう行ってもいいかな?

「あ、奥の部屋なら。」

 受付の女性が赤い顔で案内しようとした。

「いえ、以前も使わせてもらいましたから。」

 案内は不要だと言ってあっさりと断ってしまい、女性はあからさまに残念そうな顔をしていた。
 ラニラルは僕の方を振り返り、スッと僕の手を取る。
 ん?なんで手を繋ぐの?
 グイグイと引っ張られ、先程受付の女性が言っていた小部屋に到着した。そしてグイッと部屋の中へ押し込まれる。
 これはマズイ?

「さて、先程はお世話になりました。」

 ラニラルは後ろ手に扉を閉めてしまった。
 えーーー…………?

「さきほどは、何もありません。」

 とりあえずとぼけてみよう。
 適当に返事をしたら、ラニラルは少し苦しそうな顔をした。なんで?

「王太子の勘違いだと言いたいのに、これでは否定出来ませんね。」

「???」

 王太子?何を勘違いしたと言うんだろう?

「先程投げつけた袋の中身についてお尋ねしたいのですが。」

 袋?種のことかな。ジールさんもなんか様子が変だったよねぇ。
 というかもう僕がさっき温室から逃げたやつだと断定されてるんだ~。なんか罰があったりするのかなぁ。やだなぁ。

「…………。」

 ここで頷けば僕だと認めたようなものになる。僕はいいけどジールさんに迷惑掛けちゃうよね。どーしよう。頼りになるジールさんがいないよぉ~。
 不安になってチラッとラニラルを見上げると、ラニラルは何故かジーと僕を見ていた。
 顔、ちゃんと隠れてるよね?僕の顔ってジュヒィーお父様とそっくりなんだもん。目の色も父上に似た色だし。
 慌てて顔を伏せて隠す。

「逃げたことに関しては不問にしますよ。それより大人しく袋について話した方が身のためです。」

 なんか言い方が不穏。喋らないと、まさか、拷問…?

「ええ……。まさか縛ったり歯を抜いたりするの?」

「…………私がそのようなことをする人間に見えるとでも?」

 笑顔が怖い。
 ここは首を振っておかねば。

「その袋は花の苗を受け取った時に渡されたんですよ。料理に使える何かが生える種なんだって。」

「花の苗を?商人からですか?」

「うん。いつも来る人だったし、変な種だと思わなかったんだもん。」

「何が生えるのかは聞いていないのですか?」

 聞いてないので首を振った。植物には詳しくないので聞いても分からないと思って聞きもしなかった。
 ラニラルは少し考え、ふ…と僕の方を見た。

「あれって貰ったらダメなやつだったの?」

 ジールさんもあの種を見て変な顔をしていた。態々袋を用意して持って行ったくらいなので、何か良くないものだったのかもしれない。

「ここは王宮です。王族が暮らし身分の高い者も多く過ごしています。決められたものしか入れてはいけません。特に外部から仕入れる物は、指定した物以外は入れてはいけません。」

 …………つまりダメってことなんだね?物凄く小難しいけど、そう言うことなんだね?
 僕がポケッとして頷くと、ラニラルの目が柔らかくなった。

「次からは受け取ってはいけませんよ?」

 うわぁ、フブラオ先生っぽい~。やっぱり親子なんだねぇ。大人になると本当にそっくり~。なんか言い方がね!
 フブラオ先生元気にしてるのかなぁ。

「うん、次からは受け取らない。」

「お菓子などもいけません。」

「子供じゃないんだからぁ。」

「本当ですか…?」

 再確認しないでよー!なんでそんな疑い深い目で見てるのさー!
 プンプンと怒っていると、ラニラルは優しく微笑んで閉めていた扉を開いた。

「時間をとってしまい申し訳ありませんでした。次からは赤の他人と二人きりにならないよう用心しなければいけませんよ。」

 それ自分が言っちゃう!?

「えー?どうやってぇ?」

 もうっ、まさか小部屋に連れて行かれるなんて思ってなかったんだもん!
 二人で部屋から出ると何故か外にいた人達がザワザワとしていた。

「まだ交換は終わっていないようですね。」

「あっ、じゃあ訓練の見学がしたい!」

 元々そのつもりだったもんね!子供の頃に来たことあるけど、騎士達の動きって迫力があったなぁ~。特に筋肉がっ!

「では案内しましょう。」

「自分で行けるよ?」

 ラニラルは僕の背中を軽く押して訓練場の方へ促した。

「アルファ性を持つ者は身体能力が高いので平民出身だと騎士への道に進みがちです。ここにもそんな者が大勢いるのですよ。」

「ふーん?」

 そうなんだぁ?確かにそうかもしれないね。学院は通うにはお金がかかるっぽかったし、学問を習うことの出来なかった人は自分の身体で力を手にしなければならない。最も有効なのは兵士や騎士になることなんだろうね。
 商人でもある程度の学問が必要って聞いたことあるし、いくらアルファが頭いいって言っても、商売で頭角を表すなら相当な努力が必要だろうと思う。まだ騎士の方が簡単なのかも?この国って戦争なさそうだけど。

「アルファの人は多いのかなぁ?」

「市井に比べれば圧倒的に多いですよ。番を持たない者もいますから、貴方も気をつけないと。」

「王宮の騎士がオメガを襲うの?」

「何事も用心するに越したことはありません。」

 ふむぅーう。ラニラルって変わってないなぁ。

「ラニラルが公爵家意外の奴を世話してるなんて珍しいな。」

 二人で喋りながら歩いていると、横から声をかけられた。
 もう既に訓練場に入り観覧席に到着していた。席に座って誰か身体を拭いているなぁとは思っていたけど、その人がラニラルに話し掛けてきた。
 どうやら知り合いらしい。

「ええ、先程少しお尋ねして時間をとってしまいましたので、お詫びに案内を。」

 ラニラルは普通に返事をした。この人がいたって気付いてたんなら声掛けようよ。
 声を掛けてきたのは金髪に赤い瞳をした青年だった。一目でアルファとわかる体躯をしている。背は高く鍛えられた身体は彫刻のよう!

「うわぁ、筋肉…!」

「……筋肉?」

 隣のラニラルの声がちょっと低いなぁ。

「見たことない奴だな。」

 立ち上がるとますます身体が大きく感じる。あれ?これソヴィーシャ?目が赤いし。ちょっとキツめの生意気そうな目に面影がある。
 うわぁ~と見上げていると、なにか視線を感じた。

「…ん?」

 ソヴィーシャの隣には細身の青年が立っていた。
 ……………っ!この子っ、ルヌジュ・アクセミアじゃん!双子の弟~。うわぁ、僕の瞳と同じ色~。瞳は父上に似たんだねぇ。
 お父様似と言うより父上に似たのかもしれない。父上も一応綺麗な顔はしてるんだもんね。オメガならこういう顔になるのかぁ。
 背は僕より少し高い。というかオメガって聞いたけど腕とか見ると鍛えた感じがある。まだ十五歳だから細いけど、このまま成長するともう少し腕も太くなるのかな?
 僕がマジマジとルヌジュを観察していると、気まずそうにソヴィーシャに隠れてしまった。
 あ、見過ぎたかも。人見知りなのかな?

「王宮庭園総管理人の親族の方だそうです。最近王宮に入られた方ですよ。お名前はヨフでよろしいのですよね?」

 あ、そういえば名乗ってなかった。でもなんで僕のことそんなに知ってるの?

「はい、ヨフです。」

「ヨフ………?」

 何故かソヴィーシャがジーと僕を見ている。なんだろう?

「へぇ…。仕事の配属は?」

「庭師の助手ですよ。」

 ふぅーんとソヴィーシャは僕を見ている。

「なんか似てるな。」

 ソヴィーシャがボソッと呟いた。ルヌジュが何が?とソヴィーシャを見上げ、ラニラルが溜息を吐いた。

「王太子も彼を見ていました。」

「それ大丈夫なのか?」

「今回は止めましたが……。私も暫くは調査の為に王宮を出入りしますので、ソヴィーシャも見かけたら声を掛けて下さい。」

 二人は何やらよく分からない話をしている。
 ルヌジュにも話の内容が分からないのか、ソヴィーシャの脇からコチラをジトっと見ているのに気付いた。
 なんだろう。気難しい猫みたい。

「こんにちは。」

 声をかけるとビクッとした。

「…………ねぇ、オメガなの?」

 僕の首に巻いたネックガードを見ている。ルヌジュもちゃんと巻いていた。

「オメガですよ~。」

「番いるの?」

「いませんよ?」

 いるように見えるのかな?
 ルヌジュはチラッとソヴィーシャを見上げた。んん?あれ?ルヌジュはソヴィーシャに気があるのかな?
 ルヌジュは女神に文句を言って増やしてもらった受け要員。ちょっと失礼な言い方だけど、数合わせで双子にしてもらった子だ。
 四人全員がヘミィネに集中しないようにとお願いした結果だけど、ルヌジュがソヴィーシャとくっついてくれるとちょっと嬉しい。
 ここはお兄さんとして応援してあげたいなぁ。

「観葉植物の交換に来たんですけど、待つ間訓練を見ようかなと思って来たんですよ。」

「訓練に興味あるの?」

「訓練というか身体?」

「身体?」

 二人で話していると視線を感じた。ラニラルとソヴィーシャだった。そのなんとも言えない感じの視線やめて欲しいな。




 ラニラルとソヴィーシャはまだ話があると言って僕達から少し離れて喋りだした。
 なので僕はルヌジュとお喋りをすることにした。最初は警戒心いっぱいで見ていたルヌジュだけど、少し話すと素直になんでも話す子だった。

「なんで僕がソヴィーシャのこと好きって分かったの?」

「ん~、なんか微笑ましい感じで~。」

 好きなんでしょう~と聞いたらアッサリ白状してくれた。でもソヴィーシャはルヌジュのことを弟くらいにしか見ていないらしい。よくある設定だよね!

「弟と思っていた子が急に可愛く見えてくる!いいよね!」

 僕は大興奮するよ!

「そんな簡単に可愛く見てくれると思わないよ。ソヴィーシャの好きな人は僕の兄上なんだから。」

 ええーーー!?兄と言えばヘミィネ!?

「でも双子なんだし、似てるでしょう?」

 諦めないで!

「あ、違うよ。兄って今行方不明の兄の方。もうずっと前にいなくなった人なのに、今でも忘れられないみたい。」

 ガ、ガーンッ!それ僕じゃん!あ、あれー?ソヴィーシャは寡黙でいつも何も言わずにヘミィネを慰めていたはず。あ、でもソヴィーシャも結局ヨフミィを想っていたって書いてあるからそうなのか!
 
「そんな昔にいなくなった人のことなんてルヌジュの可愛らしさで忘れさせちゃえ!」

「でも…。兄上はお父様に似てるんだ。だから僕よりヘミィネの方が似てるんだよ。」

「何言ってるのさ。瞳の色はルヌジュの方が似てるよ?」

「兄上の瞳の色を知ってるの?お父様とヘミィネは綺麗な薄紫色なんだけど。」

 あ、しまった。うわ、二人に聞かれてないよね?おそるおそる少し離れて話をしている二人を見ると、どうやら聞いてなかったらしい。ホッと一安心。

「えーと、王宮はいろんな噂が飛び交うからぁ~。でもルヌジュの瞳も綺麗だよ。光の当たり具合で色が変わって。」

 褒めてあげるとルヌジュは嬉しそうな顔をした。

「うん、父上と同じ色なんだ。お父様も綺麗って言ってくれるんだよ。」

 おおっ、急遽差し込んだ双子設定なのに、ルヌジュ可愛い~~!僕の弟可愛い~~!
 素直なルヌジュは僕の推しになれるよ!







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