じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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39 ファーストキッスが!

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 僕の発情期は始まる時はなんとなく分かるので、ギリギリまで仕事をするつもりだった。
 部屋を借りて三日目。少し熱っぽく身体が怠い。

「ジールさん、そろそろっぽいので帰ってもいいですか?」
 
「ん?ああ、大丈夫か?送ろう。」

 そう言ってジールさんは立ち上がる。
 今僕達は朝から花の苗を植えていた。花が咲く時期を終えた植物を抜いて、新しく今から咲く苗への植え替え作業をしている途中だった。

「まだ昼間だし走っていくから大丈夫ですよ。」

 ジールさんは少し眉を下げた。

「匂いはまだそう感じないが、何があるか分からんだろう?」

 心配そうに言われてしまう。王宮の中でもジールさんは僕の身をいつも心配してくれるんだよね。
 立ち上がったジールさんは僕に近付いて首の近くに自分の鼻を寄せた。そしてクンと匂いを嗅ぐ。

「ちょっと出てるな。」

「え?そうですか?まだなり始めだと思うんですけど。」

 もう二十回か三十回目かあたりの発情期だ。数えてないけど。今がどの程度で、この後どうなるかは把握している。
 だから大丈夫ですよと断ろうとした時、誰かに腕を掴まれてグイッと後ろへ引っ張られた。

「わわっ……!」

 ポスンとその誰かにぶつかる。見上げるとラニラルだった。ジールさんに顔を向けて口を開くところだった。

「私が連れて行きましょう。」

 ええ?

「なんだ。今日は出てきたのか。」

 ジールさんがよく分からないことを言っている。

「貴方はアルファですよ?」

「そういうバハルジィ子息もですが?」

 なんだろう?仲悪いの?
 なんか昔からラニラルって喧嘩腰の時あるよね~。なんでだろう。

「僕一人で…。」

「ダメです。」

 断ろうとしたら即座にダメ出しされてしまった。

「あい。」

 すぐに返事をすると頭の上からクスッと笑い声がする。

「ま、子息なら襲いかかるようなこともしないか。じゃあよろしく頼むよ。ヨフ、手袋とエプロンはここに置いて真っ直ぐいけよ。」

 頷いてモソモソと手袋を外しだすと、ラニラルが手早く脱がせてしまった。気付けばエプロンも外れている。

「早業!?」
 
 なんてこと!

「ヨフが遅いんだよ。」

 え?そんなことないよ?ひどいよジールさん!
 
「行きますよ。」

 ラニラルは僕の腕を掴んだままズルズルと引き摺られるように庭園から離れて行った。






 僕一人で行けるのになぁ。覚えたんだよ。このひっろい王宮の中!
 
「先ほどの場所から使用人棟までは遠いので一人では危ないですよ。」

「でもまだ匂いは少しってジールさんは言ってましたぁ!」

 この程度の匂いなら大丈夫って聞いてるのに。

「………アルファが全て理性的だというわけではありません。」

「急に襲ってくるやつもいるってこと?」

「そうですよ。」

 この王宮の中で?
 ラニラルは僕の手首をずっと掴んでいる。

「ねーねー、どうせなら手を繋ごうよ。」

 ラニラルが振り返り、え?と驚いていた。
 構わず掴んでいる手を振り解き手を繋ぎ直す。

「……………。」

「わぁ、ラニラルからいい匂いがするー。でもこれくらいなら僕も平気だから、僕から匂いが出てても大丈夫でしょう?」

「ええ……。」

 そうでしょう~。でもアルファの匂いって本当にいい匂いなんだね!
 オメガとアルファは抑制剤を飲むから普段は匂いがしない。だけどオメガは発情期に入ったり、感情が昂ると薬が効かずにフェロモンを出してしまう。そしてアルファの匂いもわかりやすくなる。
 オメガのフェロモンにアルファが反応する所為もあるけど、これは個人差だ。身体の相性が関係するらしい。
 残念なことに僕は長いこと田舎にいたのでアルファに出会ってこなかった所為でアルファの匂いを嗅いだ経験が少ない。
 前回の発情期の時、階下にいるジールさんから少し香ったけど、僕はラニラルの匂いの方が好きかなぁ。匂いにも違いがあるし好みがあるって聞いてたけど、本当なんだね~。

「……私からはどんな香りがしますか?」

 前を向いて歩くラニラルの表情は見えない。声は小さく固かった。

「うーん、清々しい感じかな?澄んだ空みたいな。」

「……そうですか。」

 この匂いだよって言える名称はないけど、ラニラルの匂いは凄く広く感じる。広い外にいるのに、まるで包み込んでくれる様に優しい。
 安心感って感じだ。だから手を繋ぐととても安全な気がした。一緒に来てもらって良かったのかもしれない。
 使用人棟に着いた時はちょっと残念なくらいだった。

「着きましたよ。」

 ラニラルと手を離すと心許ない。
 
「ありがとう……。」

 使用人棟の建物の周りにいた人達がまたチラチラと見ている。あんまり見ないで欲しいなぁ。
 ラニラルに早く入りなさいと急かされて玄関に入った。仕方なく部屋に行くことにする。ラニラルはアルファだから入れるのは玄関までだ。

「ヨフ……。」
 
 うん?
 名前を呼ばれて振り返った。ギュッと抱き締められて固まる。

「…え?」

「交代で見張をします。ですので安心して下さい。」

 ええ?
 頭を抱えられて唇に柔らかい感触がする。頬を撫でられて、建物の玄関を閉めるラニラルを見送った。あっという間の出来事。
 ポポポポと頬に熱がたまる。

「僕のファーストキッスっっ!」

 突然のラニラルのキスに動揺した。




 建物から出るとソヴィーシャが待っていた。

「おーい、王宮内の移動は俺の役目じゃなかったのか?」
 
 どこか非難する言い方にラニラルは申し訳なく思い謝った。

「すみません。総管理人に話しがあって行ったのですが、ヨフがいて……。」

 いても話し掛けて良かったのだが、なんとなくその作業を見守っていた。
 ラニラルは調べることがあるので王宮内はソヴィーシャに任せていた。基本的にヨフはジール・テフベルと一緒にいるのだが、それでもつきっきりというわけではない。騎士団によく遊びに行くのでソヴィーシャに気掛けておくよう行ったのはラニラルだ。
 どこかヨフミィ様に似ているヨフ。
 レジュノ王太子まで使用人を何人か使って監視が付いている。
 だからヨフが急に発情期になっても危険になるわけではないが、ラニラルは王太子がつけた使用人もあまり信じていなかった。
 本当は自分が見守りたかったが、そういうわけにもいかない。ラニラルはヘミィネ様の専属侍従なのだ。

「玄関入って何かしただろ?」
 
 ソヴィーシャからジトーと見られる。

「いいえ。」

 流れる様に嘘をつくと、ソヴィーシャはずいっと近付いてきた。

「ヨフの匂いがついてる。」

「……………。」

 ヨフは普段抑制剤を使っているので匂いがしない。知っているわけないと思い無視することにした。

「ラニラルも疑ってるんだろ?」

 ヨフがヨフミィ様かも知れないと。
 全員一致する意見だった。

「メガネ外させるか?」

 続けてソヴィーシャから言われてラニラルは首を振った。

「いえ、無理矢理外させたくありません。」

 誰もヨフの素顔を見ようとはしなかった。何故顔を隠すのかと疑問に思い、そのメガネをとって欲しいと四人とも思っている。
 だが誰一人ヨフに問い掛けてはいない。それで嫌われたくない。隠すということは見られたくないからだ。
 ソヴィーシャだって分かっているから強硬手段に出ていないのだ。ラニラルから敢えて嫌われ役を引き受けたくはない。

「テフベル総管理人の所へ戻ります。」

 ソヴィーシャはハイハイと返事をしてヨフミィが寝泊まりしている部屋が見える位置に移動していった。
 ラニラルも元来た道を戻りながら、口元を触る。
 自分からアルファは理性的でない者もいると言いながら、自分が真っ先に動いてしまった。
 手を繋がれて嬉しいと思ってしまった。思わずヨフのフェロモンにつられて自分の匂いが出たことに気付き慌てて平静を保つよう努めたが、ヨフには匂いが届いてしまっていた。
 いい匂いだと言われて心が騒いだ。
 手を離すのが怖くなった。
 湖で、離れた小さな手が脳裏に浮かんだ。
 早く中に入れと急かしながら、少し不安そうな様子で行こうとするヨフを引き止めた。
 衝動で唇を奪うなんて。
 あってはならないことだ。
 だけど手を繋いだヨフの体温が、どうしてもあの日離れた小さな手のようで………。もう離れて欲しくないと抱き締めてしまった。

「はぁ…………。一番期待しているのは私なんでしょうね…。」

 大きな溜息が出てしまった。




 防音防臭を考慮してこの建物は頑丈に出来ている。だから安心していいとは言われている。廊下からベッドのある部屋の間に小部屋がついていて、頼んでおけばそこに食料や着替えをもってきてくれる仕組みだった。料金はお高めで僕の給料じゃ心許なかったけど、ジールさんが出してくれると言ってくれた。
 お風呂とトイレもついた立派な部屋だ。
 ジールさんには申し訳ないけどこの部屋の方が籠りやすい。
 いそいそと服を脱ぎ布団に潜り込む。メガネは脇にある机に置いた。
 うん、ベッドがふかふかだぁ。子供の頃に寝ていた公爵家のベッドには及ばないけど、その後に過ごしたベッドに比べればふかふかで十分気持ちがいい。

「はぁ………。」

 少しだけさっきのラニラルのキスを思い出す。
 柔らかかった。いい匂いが身体の中にまで溢れてくるようだった。
 僕のフェロモンの所為かなぁ。ラニラルがまさかキスしてくるなんて思わなかった。自分にも他人にも厳しい人なんだと思ってたし。
 ぷにぷにと唇を触る。
 前世含めて初めてのキスだ。なにせモテなかったし、自分から相手にいこうとも思わなかった。というか誰かを好きになったことがなかった。
 色恋沙汰なんて無経験。

「いやいや、あれはフェロモンの所為だよね。」

 ラニラルも本能に逆らえなかったんだよ。アルファとオメガでそういう話よくあったしね!
 だからこれは、カウントしない方が……。しない、ほう、が…………。

「……………無理無理無理無理ぃぃっ!あんなちょーイケメンのキッスだよ!?無理ぃぃぃ!!」

 うわぁぁーー!と頭を抱えて起き上がる。
 急なことで目を瞑る暇もなかった。というか驚きすぎて目を見開いちゃった!
 ラニラルの閉じた瞼に並ぶ睫毛の綺麗なこと!顔が離れる時開けられた目の奥にある蒼眼が透き通って美しかった!
 美しかったよぉぉぉぉーーーっ! 
 あぅ、ジールさんには黙っとこっ!だってラニラルとキッスだよ?拝んじゃうよっ!

「あ、思い出したら勃ってきちゃった。」

 うーん、不思議。不思議現象。

「……あっ、んん、んぁあぁぁ………。」

 まだ本格的に始まらないと思ってたのに、なんだか興奮する。
 もうちょっと、長くしてくれたら良かったなぁ。

「はぁ……、っ、はっ、………ああっ……!」

 ぴゅぴゅとイッてしまう。
 はぁ、はぁと荒く息を吐くが、興奮は止まらない。全然おさまらない。
 胸に指を這わせるとキュウウと下腹が痙攣した。
 
「あ、や……、触ってない、のに………。」

 うわぁ、ここまで感じるの初めてかも……。アルファの匂いを嗅いだから?それともラニラルとキスしたから?
 うわぁ、うわぁ、うわぁぁ……!
 お尻の間がびしょ濡れだ。ここまで濡れたの過去一じゃないかな!?
 あれだよね~、前世の記憶なくすと知識もなくすというか。実はやり方知らなかった!記憶が戻って二回目の発情期だけど、前回は思い出したばかりで慌ただしかったというかね。
 だから前回より今回の方が余裕があった。
 でもラニラルからキッスされるとは思ってなかったんだよ~!
 あ、お尻の穴がムズムズする!指入れたことないけど、入れてみようかなぁ。
 えいっ!

「あ、ん、気持ちイイ、かも………。」
 
 あ、あぁ、ふわぁ、なんだか、ふわふわするぅ~……。

 ん……………。

 パチンッと何かが弾けた。



 
「え?」

 んぇ?ええ?ここ……。
 風が吹くと花びらが舞う。花の甘い香りの庭園。木々にも地面にも、多種多様な花が咲き乱れ、白いテーブルと椅子が置いてある。

「良かった。やはり二人分で呼べば来れそうですね。」

 ヨフミィはパチパチと瞬きした。
 ここは駄女神の庭園だ。でも自分が以前会った女神ではない?似てるけど、髪の色がホワイトベージュで、瞳の色が桃色じゃなかった。雰囲気もかなり違う。

「……どちら様ですか?僕まさか一人エッチ中に瀕死に…!?」

「なってないわ。」

 ほっ、良かったぁ。腹上死とか笑えないよ。発情期中のオメガ、一人、番も作れず死亡。とか言われちゃうよ。恥ずかしー。

「えっと、ここって前に駄女神……じゃなかった黒髪の女神様に連れてこられた場所だと思うんですけど…。」

 尋ねると第二の女神様っぽい人は頷いた。この人も白いドレスを着た姿をしているが、前見た女神様より質素な気がする。

「そうよ。貴方が思うところの駄女神はわたくしの姉になるの。」

 おおぅ、しっかり駄女神って聞こえてた!

「お姉様がこの世界をどうしてるのか気になって様子を見にきたのだけど…。最初の話から変わりつつあるのね。」

「え!?そんなに変わってます?」

 ええ~。双子にはしてもらったけど、駄目だったのかな?

「双子が問題ではないのよ。」

「じゃあ何が?」

「貴方、自分が死んだ兄だと全然隠せてないじゃない。」

 ……!?そんなバカなっ!

「変装してますよ!?」

「……………。」

 第二の女神様は額に手をやり唸った。

「お姉様がやらかしたことだから、わたくしにも責任はあると思うの。だから手助けするわ。」

「え!?本当にっ!?」

 やったぁ!もうどうしたらいいのかよく分かんなかったんだよね~!

「わたくし、俗世のゲームが好きなの。」

 ああ、そういえば乙女ゲームを入れたのってこっちの女神様になるのか。

「だからゲームをさせてあげるわ。」

 え?
 なにやら面倒臭いことやろうとしてないよね?
 桃色の瞳がにっこり笑う。そーいやこの女神様達って自分の色を主人公にしてんだぁ?

「頑張ってね。」

 景色がぐるっと回る。
 ぐるぐるぐるぐる回って手を振る女神が遠のいていく。
 ま、またぁーーーー!?
 もっと詳しく教えろーーーっ!











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