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48 心強い仲間って!
しおりを挟む出て行った息子三人を見送って、ジュヒィーはボロリと涙を落とした。
「ジュヒィー…。」
リーテが気遣わしげに声を掛けてくる。
「う、うぅ………。」
フブラオが素早く濡れタオルを用意させ持ってきてくれた。リーテが受け取り流れる涙を拭いてくれる。
早く泣き止まないと。お昼も一緒に食べるのだから泣いた顔なんてしていてはいけない。平気なフリをしなければ。
そう思うのに涙は止まらなかった。
全然変わっていなかった。
ちょっと変な明るい性格も、ニコニコ笑う姿も。仕草も何もかも。小さな六歳のヨフミィは大人になっても可愛いまま。
僕のヨフミィが帰ってきたのに、ヨフミィに記憶がないなんて………!
「この屋敷にも、そのうち公爵領の屋敷にも招待しよう。見覚えのある場所を見たら思い出す可能性が高くなる。……そうなのだろう?」
リーテは僕に言い聞かせながら、リュハナに尋ねた。
「そうですね。まずは記憶に刺激を与えてみましょう。」
リュハナは頷きながら答えた。
「では公爵夫人もヨフがヨフミィであると認めるのだな?」
レジュノ王太子がジュヒィーに確認してきた。
ジュヒィーが王太子に宛てた手紙には、直接ヨフに会って、ヨフミィ本人か確認したいとしたためた。
ヨフミィを一番知るのは生みの親であるジュヒィーだ。
「そうだ……。あの子はヨフミィだよ。」
ジュヒィーの言葉にしんと空気が静まり返る。喜びと悲しみが部屋を包み込むが、ジュヒィーは自分の考えを皆んなに伝えることにした。
「あの子は記憶を失っている。間違いないよね?」
ジュヒィーは調べたと言うラニラルとリュハナに尋ねた。
「間違いなく当時の医師が確認しております。」
ラニラルが答え、フブラオも頷いて付け足した。
「現在保護者となっているテフベル卿もそう言っておりました。戻っている形跡はないのでしょう。」
ジュヒィーは頷き夫でありヨフミィの父親であるリウィーテルを見た。
「あの子は貴族に興味がないんだよ。元からそんな性格だったんだから有り得ると思うんだ。平民で庭師の仕事を楽しいと思っている。今無理矢理公爵家の子供だと知っても喜ばないかもしれない。公爵家と関わるのが嫌で顔を隠して髪を染めてるんじゃないかな?だから僕は暫くはあの子を庭師のヨフとして接しようと思う。」
リウィーテルも頷いた。
「そうだな。生きていてくれただけでも喜ばしい。後はあの子が望む通りに助けてあげよう。」
集まった全員へ視線をゆっくりと渡らせリウィーテルは告げた。
「ヨフに全てを告げ将来を尋ねる権限はジュヒィーにある。皆は勝手な行動を取りヨフの人生を狭めることのないようにしてくれ。」
全員頭を下げたが、この中で唯一王族であるレジュノ王太子は持っていた茶器をカチャリと態と音をたててテーブルに置いた。
「それは私にもということか?」
優し気な桃色の瞳をしていながら、その瞳は冷たくリウィーテルを見ていた。
「勿論です。王太子殿下。我がアクセミア公爵家の後ろ盾が必要ではありませんか?」
今この国の中でアクセミア公爵家ほど権力を誇る家はない。この国が平和なのは公爵家が王家に忠誠を誓うからだ。
ジュヒィーは公爵夫人として王太子に強く告げた。
「僕が社交界を握っていることは十分に理解しているはずです。」
レジュノ王太子は静かに目を伏せた。そして小さく溜息を吐く。
「公爵夫人にはいつも王妃を立てていただき感謝しております。」
それは了承の返事だった。
「それでは、ヨフがたとえ平民を望み続けることになったとしても、彼を我が家にどんな形であれ引き入れようとは思います。ですが無理矢理ではなく、望んで来てもらうのです。そのつもりで。」
まだ涙を溜めた瞳で強くジュヒィーは全員に告げた。
僕は絶対にヨフミィが生きているのだと信じていた。帰ってきたら、全力で助けてあげるのだと思って強くなろうとしてきた。
今ある権力はヨフミィの為。双子達のため、リウィーテルの為だ。
全力で守ってあげないと!
ジュヒィーは力強く誓った。
ヘミィネの部屋に三人で集まり、大きなヘミィネのベッドでゴロゴロとしながら、部屋の主人であるヘミィネと、双子の弟ルヌジュ、客人のヨフミィは話をしていた。
ヘミィネのベッドはスプリングが効いていて飛び込んだらボヨンボヨンだった。今寝たら柔らかすぎて身体痛くしそう~。
なんだかすっかり公爵家でくつろいでしまっているけど大丈夫なのかなと心配になりつつも、双子達と話しを続けることにする。
「ねぇねぇ、ヨフはこの前発情期だったんだよね?発情期過ごすために王宮の使用人が使う部屋を借りたんでしょう?発情期ってどんな感じなの?」
「あ、僕も気になる!辛いって言う人もいるんだけど、そうなの?」
ヘミィネの質問にルヌジュも食い付いてきた。二人はやっぱりまだ発情期がきていなかったのだ。
ヨフはゴロリと仰向けからうつ伏せに転がり肘をついて二人を見た。
ヘミィネも同じ格好でヨフミィを見ていた。ルヌジュは枕を抱いて上を向き転がっている。顔だけヨフミィの方を向いていた。
こうやって見ると、あまり似てないなと思っていた二人もなんとなく似ている。
僕の弟は可愛いなぁと嬉しくなる。
「僕の発情期はそうひどくないよ。抑制剤飲んでゆっくりしてればいいかなぁ。この前初めてお尻に指入れてみたけど気持ち良かった。」
聞かれたので答えたら双子の顔がプシューと赤くなっていった。
「お、お尻?」
「ふぇ……。」
あ、こんなことまだ発情期のきてない子に言うんじゃなかったのかな?なんか自分は経験者ですよと自慢してる自分に気付いて我に返ったような気分になっちゃった!
「あ、でも、ほら、ヘミィネなら相手がすぐに…。あっ。」
「え?なんで僕に相手が?」
あばばばば…!余計なこといっちゃってる!小説では舞踏会で急に発情期になったヘミィネは、休憩室にやってきたレジュノ王太子と関係をもっちゃうんだよね。
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「………っ!てっっことはダメじゃん!」
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突然叫んだ僕に、双子は上半身を起き上がらせて驚いている。
あ、ごめんごめん。興奮しちゃった。
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表情の通りヘミィネは好きな人と過ごす発情期に期待しているようだった。でもルヌジュの方は難しい顔をして否定した。
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「誰かじゃなくて好きな人とでも?」
ヘミィネが尋ねている。
おお、ルヌジュは発情期は慎重派なのか~。
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流石、剣が好きで騎士団にまで足を運んでいる子だ。男の子なんだなぁと思う。
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割と憧れに近いんだ~。
ルヌジュは筋肉は作りたい派なんだね?僕は眺めたい派だけど。
なんか双子の恋バナって可愛いなぁ~。ニマニマと笑いながら眺めていたら、ルヌジュは僕の方に話を振ってきた。
「僕じゃなくてヨフの話を聞こうよっ!経験者の話を聞く方がいいって!」
確かにっ!とヘミィネは興味を僕の方へ戻した。
「ヨフは発情期を過ごしてくれる恋人はいたことないの?」
「こらこら今いるのって聞くべきでしょ~?」
「さっき初めて指入れたって言ったのに?」
うぐっ!
「い、田舎にはアルファがいなかったんだもん~。僕の保護者が王宮にはいっぱいいるから大丈夫って言ったもん~。」
なかなか恋人候補はいないけどね。なんで誰もお誘いしてくれないんだろう?最初来た頃なんかはそれなりにデートのお誘いあったんだけどなぁ?
ヘミィネの顔がスンとした。
「なぁんだ。ヨフってもう二十二歳でしょう?行き遅れだね。」
ぐっさぁーーーっ!痛いっ、痛いよっ!ヘミィネ!
あぁ、なんか昔子供の頃そんなこと思ってた人がいたような……。子供って残酷なんだねぇ。
「僕の方が先に番作っちゃったりしてっ!」
にぱぁと笑う君の笑顔ならすぐに番も出来ちゃうよ。心から血を流しながらヨフミィは頷く。
「ヘミィネはやっぱりラニラルとがいいの?」
ラニラルかぁ。ラニラルって小説では生涯独身だったよね?ガード高そうだなぁ。レジュノ王太子と結婚して番になったヘミィネの側に仕え続けるんだっけ?固すぎるよ。
「えっ…?そりゃあ~、その……。」
そうなのか。ここは舞踏会でラニラルと二人きりになるシチュを作るべき?
舞踏会の時ってラニラルはどこにいたのかな?小説でも出てこなかったし、当日にならないとって感じかな?
そんなことを話していたら、ピロリ~ンと軽快な電子音がした。
んん?なに?いつもの音と違う?
見上げると青いスクリーンが出ていて、『報酬を受け取りました!』と書いてある。
『報酬を受け取りました!報酬、ジュヒィー・アクセミアが仲間になりました。これで貴方は庭師のヨフとして行動の幅が広がります!』
………んんんんん!?お父様ぁ?これってチュートリアル報酬の心強い仲間だよね?つまりお父様が仲間になって、僕は庭師のヨフと定着した、ような?何のことだかさっぱり分からん。
僕が空中を見つめて頭を捻っていると、ヘミィネとルヌジュが起き上がって僕の前に座り、失礼なことを喋っていた。
「僕もヨフになら勝てそうな気がする。」
「僕の方は勝つつもりだけどね。」
何の勝負なんだよっ!
昼食が出来たと呼ばれて僕達はテラスに向かった。
僕がいた時にはなかったテラスだ。一階の窓から綺麗なタイルで模様が作られた同じ高さの床が広がり、屋根には蔦の張った天井が作られていた。
風が吹き、蔦から木陰が出来ていて気持ちがいい。
晴れた日にはここにテーブルと椅子を並べて食事を摂るんだとお父様は教えてくれた。また僕の隣に座って……。嬉しいけど、何でだろう?
「どうかな?このトマトは領地の屋敷で採れたトマトで作ったスープだよ?酸っぱくない?」
「はい、コクがあって美味しいですよ。」
いつものようにカップに注いでズズズ~とはいかない。お上品に、お上品に………。一応テーブルマナーは六歳までに教わった記憶はある。あるけど結構抜けちゃったんだよっ!
平民バンザイっ!
マナーってなんだったかなぁ~。なんかみんなの視線が痛いなぁ。
「ヨフって平民のわりには綺麗に食べてるね。」
はぅあっ!ルヌジュ天使か!?褒めてくれたっ!
「そそそそうかな?頑張ってるよ~…。」
さっきのチーズケーキの時とは違って流石にね。貴族の食事はマナーが大事。
「いいんだよ?こうやってたまに招待するからその時に覚えれば大丈夫だよ。」
お父様はにっこり。
……え?僕はテーブルマナーを覚えなきゃですか?
「急に覚えろって言っても大変じゃないの?」
ヘミィネが庇ってくれたぁ!うちの弟ちゃん達は大天使か!?
「私が教えて差し上げますよ。」
ゲフゥッ!!フブラオ先生のパンチがきたっ!
「王宮でご一緒した時に私も教えますから。」
頑張りましょうね、とラニラルが言うと、自分達も教えるからと、あちこちから挙手されてしまった。
な、なじぇに……。
そんなホッコリ?とした昼食会は和やかに終わった。帰りにはチーズケーキの手土産を渡され、テフベル男爵によろしくねっとお父様から言われてしまった。
帰りの馬車はレジュノ王太子を迎えに来た王族用の馬車に同乗になった。これが一番警備が厳重だからと何故か押し切られてしまう。
………僕、町まで歩いて乗合馬車でもいいよ?
でもそんなこと言える雰囲気ではなかった。
馬車の周りには迎えに来た護衛騎士と、ソヴィージャが周りを警護していて厳重で、抜け出すのが困難な雰囲気になっている。なんで僕はここにいるんだろうね……?
王太子が手を出して馬車に乗るエスコート付きで乗り込んだ。この対応に緊張するんですが……。
お父様が心強い仲間になったらしいから安心なはずなのに、超不安。
レジュノ王太子も乗り込もうとすると、お父様が王太子の背中をトントンと叩いて止めた。
入るのをやめた王太子の代わりに、父上に手伝ってもらって何故かお父様が乗り込んでくる。馬車の中に僕とお父様の二人きりになった。入り口は父上が身体で塞いでいるので誰も中が見えない状態になっている。
「?」
「ヨフ。」
お父様に優しく名前を呼ばれた。
「はい?」
お父様の手が伸びてきて、メガネのフレームに指がかかる。そっとメガネが上に上げられた。上がったメガネと一緒に長い前髪も上がって、僕の視界が一気に広がる。
微笑むお父様が目の前にいた。薄紫色の瞳は相変わらず綺麗で、笑む唇がふわりと綻ぶ。
「必ずまたおいで?」
歌うような天使の誘いに、僕はボヘーと頷いた。
「あい。」
お父様は満足気に頷いてメガネを戻した。そして軽快に馬車から降りて行った。
代わりにレジュノ王太子が乗り込んできて、扉は閉められ馬車は走り出した。
「………大丈夫か?」
王太子がボンヤリと思考停止している僕に話しかけてくる。
「…………え?いま、夢の国!?」
「現実だ。」
顔見られちゃったんですけどぉーー!?
でもお父様の笑顔は妖精さんでしたぁーーー!!ありがとうございますぅぅ!
帰りは行き同様、レジュノ王太子から落ち着けと宥められて帰るはめになった。
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