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53 クエスト③を進めよう〜
しおりを挟むラニラルの説明はこうだった。
まず初めて僕が聞いたメーリュンデ侯爵家。
ラニラルがここに行き着いたのは被害に遭った家を調査していて浮き上がってきたかららしい。
メーリュンデ侯爵家は王妃の派閥に属している数少ない貴族家だった。その理由はアクセミア公爵家の派閥に入っても何の力もないから。王妃の下にいる限りは王妃の側近としての立場が確立されていた。
腐っても王妃は王妃。権力はあるのだ。
ただアクセミア公爵家が強すぎる。しかも単純な王妃は息子の王太子に公爵の双子のオメガを婚約者に据えようと考えていた。
慌てたに違いない。
メーリュンデ侯爵家には王太子に与えれるようなちょうどいいオメガがいない。
おそらく王妃が公爵家の言いなりにならないよう知恵を絞ったのだろう。
ラニラルが調べていくと、メーリュンデ侯爵家は他国から薬を調達した記録が出てきた。個人的に人を遣わして手に入れていたので証拠を掴むのに時間がかかったが、ラニラルが調べた呪術師とやらが使う植物を国に持ち帰っていた。
ラニラルはメーリュンデ侯爵の遣いで紫の汁を出す植物を持ち帰った男を捕まえ吐かせた。
その男はまだ国には無い、人をいいなりに出来る薬を持ち帰れと命じられていたので、噂を追ってあの植物を手に入れたと証言した。
「こ、殺したの…?」
「まさか。生かしてありますよ。証言者ですから。」
「歯を抜いたり、爪剥がしたり……?」
「歯は全部抜いては証言出来ませんから。聞き取りづらくなっては面倒ですよ。舌も残さないと。」
ん?微妙な返事が返ってきたね…?どっか抜いたの?つ、爪は…?訊くのやめとこ……。この澄み切った蒼い目がそんな酷いこと、するのかな?とかね?思っちゃうよねぇ。前に聞いた時はそんな残酷なことしません的な話してたのにねぇ。
さらにラニラルの説明は続く。
例の植物を手に入れたメーリュンデ侯爵は、オメガの発情を促す薬を作った。作ったのは王妃宮の白月草を管理するフォブルス伯爵家だ。
フォブルス伯爵家は白月草の管理と共に薬の調合も行っている。そして王妃の専属医師も務めている。しかも王妃派閥の一つだ。メーリュンデ侯爵に協力し依存性の高い発情促進剤を作った。それが今回使われていた薬だった。
現在被害に遭ったオメガ達は、実験台ではないかとラニラルは考えている。
「何でそう思うの?」
「少しずつ量や投与する間隔を変えた形跡がありました。使用量を試しているのです。」
その試験的に薬を使っていたのが火事にあったあのオメガ用の建物だったらしい。王宮で働くオメガは下級貴族家や名ばかりの領地を持たない中央貴族家出身のオメガが多い。オメガを探さずともちょうどよくそこにいるので実験台に使われていた。
何の為にそんなことを?しかも王妃様の派閥の家が主導でやっている。
公爵家の双子とレジュノ王太子を婚約させようとする王妃様をまさか操る為に?
「レジュノ王太子は知ってるんだよね?」
「勿論です。ことは重大です。状況から違うとは思いますが、万が一にもエリュシャ王妃が命じたなどとメーリュンデ侯爵やフォブルス伯爵を捕えた時に証言されては王家が崩れてしまいます。王家の被害を最小限にする最善の手は現王妃とレジュノ王太子の廃位となってしまうのです。現国王には妻子がエリュシャ王妃とレジュノ王太子しかおられません。つまり、お二人を廃位してしまうと王弟殿下達に継承権が渡ってしまいます。」
ええーーー!?自分達で自分達の首を絞めにいっている!?
部下に指示が終わったソヴィーシャも近付いて来て会話に混ざった。
「だから極秘任務なんだ。王太子から黒幕を暴き密かに処理しろと言われている。」
なるほどねー。それでソヴィーシャの隊が密かに動くことになったんだ?
つまり今回の任務は妹女神の『クエスト③ 黒幕を暴け!何の目的で薬が作られたのか調べましょう。場所、王妃の私室。』
これって無茶苦茶ヒントじゃ?王妃の私室を調べろって出てるんですけど。
「闇討ちしましょうか?」
手っ取り早く。とラニラルが物騒なことを言っている。
「いや、いきなり侯爵家と伯爵家が二つもいっぺんに消えたらおかしいだろ?」
「上手に消す自信はありますよ?」
どんな自信だよとソヴィーシャがツッコんでいる。
「じゃあ第一騎士団第四隊っていうのは?」
さっきメーリュンデ侯爵と一緒に怪しいって言ってたよね?
「メーリュンデ侯爵と何やらやりとりをしているのが第一騎士団第四隊なのです。第四隊は王妃宮の警備担当でもあります。まだ調査中なのですが、王妃宮の中の動きを把握していないとは思えません。」
第一騎士団と第二騎士団は同じ騎士団でも管轄が違う。迂闊に怪しいからと調べられないのだとソヴィーシャは苦々しそうだ。
「まずは薬を何の為に作ったのかを調べよう。普通そういった薬は手広く市井から広めて貴族家にも買わせて資金調達に使うことが多いんだが……。」
「してるの?」
「それがしていない。お試しみたいに何人かのオメガを狙っているだけだ。だから別の目的があるはずだ。」
目的…。クエストもそれを調べろって言ってるしね。
「まずはあの薬が広まってないか調べてみる。ヨフはラニラルかフヒィルと一緒にいてくれよ。」
僕は勿論と頷いた。怖いもんね。
「まだ不確かなことなのですが、下手をすればレジュノ王太子が危うい立場になりかねない状況です。王妃の側近であるメーリュンデ侯爵やフォブルス伯爵を何者かが操り、失脚を狙っている可能性が高いのです。状況から首謀者は継承順位第二位以下の誰かではないかと私達は思っています。」
その誰かが誰なのかをラニラルは調べるつもりらしい。レジュノ王太子より下の継承順位を持っているのは国王様の弟達になるんだっけ?
王妃とレジュノ王太子を廃位させたい誰か。それが黒幕になる可能性が高い。
クエスト達成の為にも調べなきゃ!その為には王妃様の私室を調べなきゃなんだけど……。うーん、どうやって?
うーん……。
うーんと悩んでいたら、何を悩んでるの?っとお父様に尋ねられた。
僕はうっかり本音を漏らしちゃった。だってとっても綺麗なお父様の薄紫色の瞳が僕を見てるんだよ?瞳の中にメガネと前髪で顔を隠してツインテールした間抜けな僕の顔が写ってるんだよ?
うわぁ~何これぇ~綺麗~ってポーとなっちゃうでしょう?
「そうか……王妃の私室を探りたいんだね。」
お父様が頷いている。
「……ダメですよ。忍び込むのは。危のうございます。」
フブラオ先生がすかさず止めた。忍び込むなんて言ってないよ!
「こんなことなら王妃宮の使用人にでもしてもらえばよかったですね。」
そうしたら僕が潜り込んで調べること出来たのにね。
「ヨフを王妃の下に?ヨフが王妃に使われるっていうの?あの、王妃に?」
どどどーしたの?お父様!笑顔が黒いよ!しかも王妃様を敬う気がさらさら無いよ!?この十六年で何があったの!?
「あ、うん。僕が王妃宮の使用人になるなんて無理だよねぇ。」
仮にも王妃が住んでるところ。突然田舎から出てきた平民オメガが入れるわけがないもんね。皆んなどっかの貴族家出身の人達しか働けないよね。
「何言ってるの?ヨフが望むならどんな椅子にも僕が座らせてあげるよ。嫌だけど。」
????
お父様の人格が大変お変わりになられたようで?流石に王様の椅子は無理だと思うよ?僕も嫌だけど。
「じゃあ僕が連れて行ってあげるね。調べる時間も作らなきゃだね。」
うん?
何でかお父様が王妃様の部屋に連れてってくれることになった。
王妃宮は基本オメガの王妃の為に、入れる人間はオメガかベータしか入れないという決まりがある。例外は番である国王陛下か、専属医師を務めるフォブルス伯爵家だけ入れるらしい。
側近のメーリュンデ侯爵はアルファなので入れず、王妃様と会うのは王宮の本宮にある執務室の方になる。
なので本日王妃宮に入ったのはお父様と僕、フブラオ先生と護衛のフヒィル副隊長だけになった。連れて来た公爵家の護衛騎士達は外で待機になる。
王妃宮に入るからってお父様は態々僕とフヒィルに正装を用意してくれた。
ラニラルが凄く心配そうにし、レジュノ王太子は何故王妃宮で会うんだとゴネていた。
いや、クエストがね?そうしろって言うしね?
何も聞かずに僕の為に動いてくれるお父様には感謝しかない。チュートリアル報酬の心強い味方っていうのは本当なんだなぁと思ってしまう。
「うふふふふ、急に私の宮でお会いしたいなんて驚きましたわ。」
「こちらの我儘を叶えていただき光栄です。」
エリュシャ王妃とお父様の会話は続く。そして僕は気付いた。
王妃バカなんだなと。
普通こういったお茶会では貴族らしく腹の探り合いとかさ?しないの?
お父様からは王妃は上手く丸め込めるから大丈夫とは聞いていたけど、本当だった。驚いた。
入って挨拶をしてテーブルに着いて話を始めたんだけど、お父様が僕とフヒィルを前に出して二人を今後アクセミア公爵家が後援者となり育てていくのだと紹介すると、王妃様は目を輝かせた。
急に公爵家が紹介したサポートするという二人のオメガ。
つまり双子公子以外にも公爵家と繋がりを持てるオメガが二人も現れたことになる。
レジュノ王太子の婚約者候補が一気に倍に!?とか思ってそうな顔をしていた。
「二人が王妃宮を是非見てみたいと言うのだけど、散策させてはダメでしょうか?」
「まぁ…。では案内人をつけましょう。」
王妃様はにっこりと承諾した。
いいのか?そんなに簡単に許して?心配だ。単純すぎて。
王妃様は侍従を呼びつけた。
僕とフヒィルは難なくお茶会から出れてしまった。
「すごいな、公爵夫人は。」
フヒィルが感心している。僕は鼻高々だよ!
「妖精さんみたいに綺麗だけじゃなくて賢くて強いとか、もう女神様いらないよねぇ。」
「いや、そこまで言ってないけど…。」
フヒィルが呆れていた。
「こちらで御座います。」
呼ばれたこの案内人さん、実はアクセミア公爵家のスパイしてる人だった。
スパイさんが言うには、王妃様は今回の薬について何も知らないようだという。王妃宮でも怪しい動きはないと報告していた。
スパイさんが案内して来たのは、勿論王妃様の私室だ。お父様が事前に指示してくれていた。すごいね、お父様。
「時間はそう取れません。お急ぎ下さい。」
僕とフヒィルはスパイさんが開けてくれた扉の中に素早く潜り込んだ。
「うぅ~、ドキドキするねっ。」
「しっ、一応人払いしてあるって言ってたけど、静かにな。」
フヒィルは早速ベッド周辺から探り出した。
えっと、僕はクエストを確認~。何か出てるかもしれないしね!
意識を集中すると青いスクリーンが目の前に出てくる。ピロンと音がした。
『緊急クエスト、捏造された証拠品を探し出せ!
1・ベッド横のサイドボート
2・クローゼット
3・カーペットの下
チャンスは一回きり!正解は一つ!正解したら女神との対話券一回を手に入れるよ!』
うん?カーペットの下?一つだけ謎な位置がある。怪しいところが正解なのか、基本的な場所が正解なのか…。悩むってばっ!
捏造された証拠品ってなにぃ!?
報酬が女神様とのお喋りかぁ。でもまぁ会えるなら会っておきたいかも?この謎なクエスト報酬を聞きたいかも?
よしっ、正解を当てよう!
僕が悩んでいる間もフヒィルはゴソゴソと調べていた。ゴソゴソというか堂々と?
王妃様のベッドは綺麗にベッドメイキングされていたのに、遠慮なくバサァッとめくってるしね。
棚に入っていたクッキー食べてるし。
流石の僕も……、そんな、そんな………!サクッ、サクサクサク………。
「うまぁ…!」
「これ王都の有名菓子店のやつだ。こっそり買ってんのかな?」
へぇ、そうなんだ?
おっと、つまみ食いしてる場合じゃない。クイズクイズっ!
「ねぇねぇ、今から三箇所怪しい場所言うから当ててみてぇ。」
ここはフヒィルの直感を頼ろう。
「おっ、いいよ。」
フヒィルはお日様みたいな笑顔で頷いた。自国の王妃の部屋を荒らしている人物とは思えない清々しさだね!
「じゃあ出すよぉ~。怪しいブツを探しましょお。一つ目はベッド横のサイドボート。」
「あ、さっき開けようと思ったら鍵かかってた。」
「二つ目はクローゼットの中!」
「王妃のクローゼットかぁ~。ドレスとかいっぱい入ってて探すの大変かも。」
「三つ目はカーペットの下ぁ。」
「カーペットの下にモノがあったらすぐ分かると思うけど?」
「さぁ、どこだっ!」
「よし、ここだな。」
バキィとフヒィルはサイドボートの引き出しを壊した。
「どえぇぇぇぇ!?」
「ヨフ、静かに。」
この人しれっと引き出しの鍵壊しちゃったよっ!引っ張っただけで鍵って簡単に壊れるもん!?
「何だこれ?薬?オメガ用の抑制剤か。あ、この薬っ!」
ああっ!
なんと引き出しの中にはいろんな薬が入ってたけど、その中に例の依存性の高い発情促進剤の薬が入っていた。この紫色の液体は間違いない。それにこれみよがしにその材料となる植物の実まで入れてある。
ピロリ~ンと電子音が鳴り、『正解!女神との対話券一回を手に入れました!』と目の前に出て来て邪魔になる。しっしっと手を振って青いスクリーンを消して引き出しの中をもう一度見た。
何でこんなとこにコレが?
フヒィルは薬を手に取り袋に慎重に入れ始めた。実も回収している。
「持って行って大丈夫なの?」
「うん。持って行かないと。殿下は極秘裏にと仰っている。王妃様の私室にコレがあるのはまずい。犯人だと言ってるようなものだろ?」
あ、そうかっ!言われてそれは確かにと思った。
回収し終えるとちょうど扉がノックされた。
「そろそろ宜しいですか?」
さっきのスパイさんだ。僕達は慌てて部屋の外に出た。
お父様達と王妃様の所へ急いで戻り、暫くお茶をして退室した。
帰りの馬車の中で見つけた物をお父様に報告する。
「よしよし、すごいね。かなり重要な物を発見したんだね。持ち帰ってくれて正解だよ。」
わーい、褒められたぁ!
お父様は僕とフヒィルの頭を交互に撫でてくれた。フヒィルも嬉しそうだ。
「あ、でも部屋荒らしたままなんですけど。引き出しも鍵壊れてます。」
そのまま慌てて出て来たのだ。泥棒が家探しした後みたいになっているよ。
「大丈夫。言っておくからね。」
そうお父様は微笑んで頷いた。
ん?誰に言っておくんだろ?
その夜。
珍しく三人で晩餐をと国王陛下は王妃と王太子を呼び出した。最近は家族三人で会うことも少なくなっていた。
レジュノ王太子が何気なく母親であるエリュシャ王妃に、今日なにをしていたのかを尋ねた。
王妃はアクセミア公爵夫人とのお茶会で、今後公爵家が後援することになった二人のオメガを連れて来た話をした。
カティーノル国王がそろそろ部屋を模様替えしてみてはと話を振ると、王妃は今日自分の部屋が荒れていたことを話した。
「サイドボートも新しい物を私が贈ろう。ついでにいくつか家具を見繕ってやろう。」
「では私が母上に新しい壁紙とカーテンの色を選んで差し上げます。」
「まあっ…!」
夫と息子の気遣いに、王妃は部屋を荒らされていた不安も吹き飛んで喜んでいた。
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