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56 楽しい絵本
しおりを挟む父上の執務室の前で会ったハーディリさんと挨拶を交わして、僕はリュハナに執務室の中に入れてもらった。
リュハナの入室の申し出に中にいた父上は懐かしい声で平坦に返事を返していたけど、一緒に入って来た僕を見てガタンと勢いよく立ち上がった。
「ヨフが後援者になってくれたお礼を言いたいと言うので連れて来ましたよ。」
リュハナは僕の背中を押して中へ入るよう促した。
「…そうかっ!ではお茶を頼めるか?」
「メイドに伝えましょう。僕は外で待機しておきますね。」
父上はリュハナに頼むと言い、リュハナは頷いて出て行ってしまった。
うわぁ、父上と二人っきり!久しぶりすぎて緊張しちゃうねぇ。
「ソファで話そうか。」
父上はソファへ促してくれた。なので言われるがまま長椅子の方へスポンと座る。そして父上は隣に座ってきた。
………なぜに隣に?お父様もだけど、こういう時って隣だったっけ?対面に座ってたような気がするんだけど……。もしや公爵家流の接客術とか?隣に座るとよりフレンドリぃーみたいな?
そんなことを考えていたらメイドさんが入ってきて紅茶を用意していってくれた。
僕の隣に父上が座っているのをチラチラ見ていたのが気になる…。やはり変?
「晩餐前だからお菓子は少しだ。」
うん、クッキーが少しだけだね。残念。
「その代わりデザートは豪華にすると言っていたぞ。」
「うわぁ!楽しみぃ!」
喜ぶと父上も楽しそうに笑っていた。
「今日はジュヒィーと王都を回ったのだろう?大変ではなかったか?」
「大変でした。」
素直に認めると、父上はそうだろうと頷く。もしや父上もよく連れ回されるのかな?なんにしろ二人が仲良しで嬉しいなぁ。昔はお父様の良さに後から気付いた父上にイラッときたけど、長い間お父様を守ってくれていたのだ。信頼って信用の積み重ねだよね。父上の素晴らしさに気付いちゃったよ。
「後援者には無理矢理なってしまったようなものなんだが、負担に感じたらすぐにいうんだ。」
父上は僕が疲れないか心配なようだった。なので僕はプルプルと首を振る。
「いいえ、大丈夫ですよ。楽しいです!後援者になってくれて有難うございます!」
お礼を言うと父上は嬉しそうにしてくれた。父上あんまり変わってないなぁ。ちょっと老けたけど。少しだけ白髪がふえた?元々真っ黒な黒髪だから耳の上のとことかグレーになっている。それはそれで渋みが出て似合っている。うむ、これはこれでヨシ!
「そうだ、学習などはどの程度やっていたんだ?」
学習ー……。僕はアクセミア公爵家に産まれたので三歳からフブラオ先生が家庭教師について学んでいた。でも六歳で行方不明になったので、それ以降はなぁんにも勉強していない。
……前世の知識?いやいやなんの役にも立たないよ?うーん、思考力とか、数学?いや、算数かな?そこまでなら役に立つかも。
つまり僕は無学です。へへへへ。
「田舎のおばあちゃんとずっと一緒にいたので何にもしてないですよ。うーんと、読み書きと簡単な計算くらい?」
それ以上出来るとかホラ吹きにはなりたくないもんね!
父上はそうか、と頷いている。特に失望したとかそんな感じではなく、学力を知りたかったみたい。
「フブラオに家庭教師についてもらおうかと思っているんだ。彼なら長く公爵家に勤めて子供達を見てくれているから適任だろう。」
フブラオ先生!?え~、それなら嬉しいなぁ。
父上は立ち上がり執務室の端にある本棚に向かった。ちょいちょいと手招きされる。
なんだろうとついて行くと、本棚の本を一冊取り出して僕に渡してきた。
開いてみると絵本だった。
「このくらいは読めそうか?」
なんで公爵家当主の執務室に絵本が?しかも内容は簡単で僕にも読める程度のものだった。前世で言うなら文字の多い絵本といったくらい。
「識字率は高くないからこの程度を読めるのなら平民では重宝される。」
そうなんだ?そういえばおばあちゃんは読み書き出来たので世間では識字率が低いって知らなかったな。
もう一冊渡された。
「これくらいは読めそうか?」
渡されたのも絵本のような物語だった。
「うーん、ん~……『北の、ち?地…、土地?では、雪が降る…、大きく降る。』大雪?」
単語が難しくなったり幾つか繋がったりすると難しい。たどたどしく読んでいると恥ずかしくなってきた。もうちょっと練習しとけばよかったなぁ。
「じゃあこの二冊を貸すから読んでみるといい。ここは『北の大地では吹雪が続き』と読むんだ。まだ難しいだろうから誰かに一度読んでもらって、内容を把握してから自分でも読み返すんだ。そうして覚えていくといい。」
むむ、なるほど。折角父上が貸してくれるのだから頑張ってみよう。
本棚にはまだまだ同じような本が並んでいた。題名からなんとなく英雄譚や恋愛物が多い気がする。
「なんでここにこんな本がいっぱいあるんですか?」
本当にいっぱいある。
「これはいつかあげようとジュヒィーと二人で集めていった本だ。私はもう少し歴史やいろんな分野も混ぜてみたらと言ったんだが、絶対あの子は物語が好きなはずと言って聞かなくてな。」
あの子?
「だから是非借りて行ってくれ。そして読んだら返しにきて次はもう少し難しい本を借りていくんだ。」
父上はそう言いながら、こっちが簡単な本で、窓側から下にいくほど難しくなるのだと教えてくれた。言われて見てみれば、上の方は少し色褪せているし、下に行くほど新しい。まるで数年以上もここにずっと置いているかのように。
誰の為に集めたのか理解した。
「…………ずっと買い集めてるんですか?」
僕が読みそうな本を二人で集めてたのかな。
座って下の方の本を取ってみる。
「ああ。毎年数冊ずつ増えたからこんなにいっぱいになってしまった。」
パラパラパラとページをめくってみる。
ふむふむ。なるほどね。むむむ、もうちょっと挿絵が欲しい!まだ難しいけどなんとなく内容を把握。
「そんなところにしゃがんでないでソファで読めば…………っっ!」
バッと父上に読んでいた本を奪われた。
「あっ!ひどいっ!返してっ!」
「だめだっ!どうしてもっと違う本があるのにこれを取ったんだ!」
「だって赤黒いキラキラ背表紙に金色の文字で薔薇って見えたんだもんっ!気になるでしょう!?」
「気になるか!?」
コンコンと扉がノックされる。
「それ読むっ!借りていくから返してぇぇーー!」
「ダメだっ!お前には早いっ!」
「僕もう二十二歳~っ!」
ガチャとドアが開く。
「それ読むからちゃんと練習するってばっ!ケチケチっ!」
「ケチとか言うんじゃないっ!」
父上の手から本が奪われた。
僕と父上の動きが止まる。あ、お父様とフブラオ先生だ~。
「二人とも仲良しだねぇ。」
「その本を取り合うのはどうかと思いますが。」
薔薇と書かれた赤い本はお父様の手に渡っていた。
「これね、結構描写に使われる単語が難しいんだよ?内容も複雑で理解するの大変なんだ。意外と国史も知っておかなきゃならないし、多方面の知識が必要になるんだよ。」
「僕、頑張る!」
そっか。とお父様はその本を僕に渡してくれた。これね、僕のイチオシなんだよ、と微笑むお父様。その表情は無垢で穢らわしいことなど一切知りませんといった感じでしかない。
………そーなんだぁ、お父様の趣味なんだぁ~。お父様の新しい顔を発見しちゃったよ。
「ちゃんと読めるように頑張ってね。」
わあーーーいっ!エロ本をゲットしたぁ~!ひゃっほーいと喜んでいたら、父上とフブラオ先生が何故かこの世の終わりのような顔をしている。
「ジュヒィー、何故それを読ませるんだ?確かに内容から見れば難しいし、アレを読めるようになれればいいとは思うが……。」
「誰が教えるんでしょうか?かなりきわどい性描写があるのですよ?」
そういえば誰かに教えてもらわないとになるのかな?そんなにエグいこと書かれてるのかな?知りたいような、教えてもらうのは恥ずかしいような。
お父様はうーんと上を見た。
「多分まだ難しくて今すぐには読めないと思うんだ。でも読めるようになった時には誰かが隣にいそうな気がする。」
誰かって誰が?
お父様がその人が教えるよ、きっと。と笑って言い切ったら、父上は悲壮な顔をしていた。
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