じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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60 連れ去られたリュハナ

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 リュハナの研究室がある建物に来た僕達は、四階に上り研究室のドアをノックした。

「どうぞ?」

 中からリュハナの返事が聞こえたので僕は遠慮なくドアを開ける。
 今は何か書類を読んでいたのか、リュハナは部屋の中央に立って紙の束を広げていた。

「怪しい人だったらどうするの?」

「警護の騎士達が通したんだから怪しい人ではないよ。」

 それもそうか。

「ルヌジュ様がここに来るなんて珍しいね。」

 ニコリと笑ってリュハナはルヌジュを椅子に座らせた。僕にも勧めてきたけど、僕はキワーレと一緒に観察したいので二人でソファのほうへ移動し座った。フヒィルは護衛だからと扉の横に立っている。
 どうぞとお菓子を出してくれた。

「焼き菓子?」

「あ、安心して。非常食用に自分で持ってきたヤツだからね。もらい物ではないよ。」

 もらい物は安心出来ないの?
 リュハナはまだ調べ物があるからと持っていた書類を読み始めた。
 
「医局に出す許可申請書だ。例の新しい治療薬の申請を出すんだよ。たぶん。」

 コソッとキワーレが教えてくれる。チラッと見ただけでなんの書類か理解したらしい。本気でキワーレは頭いいのかもしれない。人間って見た目じゃないんだね。

「お前絶対失礼なこと考えてるだろう?」

 僕はプルプルと首を振った。

「エユドはどうしたの?」

 リュハナの助手だから一緒にいるだろうと思ったのに、研究室にはリュハナしかいなかった。

「白月草の下処理を作業部屋の近くに作ったんだよ。そっちに行って作業してもらってる。」

 白月草の下処理は時間が勝負。しかも手間も掛かって付きっきりになる為、エユドはその作業に専念しているらしい。
 ……てことはエユドはジールさんといるってことになるのかな?
 落ち着いたアルファのジールさんと、オドオド大人しいオメガのエユド。うん、後で見に行こう。あ、キワーレ誘って行こうっと!
 僕達がリュハナの研究室に遊びに来て暫くすると、リュハナに呼び出しが掛かった。
 リュハナは王族専用の王宮医師をしている。担当はレジュノ王太子だけど、他の王族でもその王族の担当医師が不在時は代わりに往診に出向くらしい。
 今回は何人かいる王弟殿下のうちの一人の召喚だった。応じないわけにはいかないってことでリュハナは用意を始めた。

「ごめん、折角来てくれたのに。」

 申し訳なさそうなリュハナに、僕達は立ち上がった。リュハナが居なくなるのに僕達が研究室にいても仕方がない。

「遅くなるの?」

 ルヌジュがリュハナを見上げながら尋ねた。

「うん、戻りが何時になるかわからないから先に休んでおくんだよ。」

 優しく諭すような話し方のリュハナに、ルヌジュは素直にうなずいていた。
 そして僕とキワーレはそんな二人の雰囲気を壊さないように静かに見守っていた。フヒィルは何やってるんだと僕たちを見ている。
 全員で研究室から出て、慌ただしく立ち去るリュハナを見送り騎士団の建物に戻りながら、キワーレが僕の腕をツンツンとつついてくっついてきた。

「これ、絶対なんかあるよ。」

「……なんかって?」

「言っただろ?罠を張るはずだって。」

 僕は目を見開いた。驚いて勢いよく尋ねようとした僕を、目線だけでキワーレは制止してきた。チラッとフヒィルの方を見る。

「アイツだけは知ってるはずだ。私達が関わる前に帰らせようとするよ。」

 ええ!それは困るよ。黒幕を暴かないとクエストが終わらない!
 キワーレが言っている罠とは、リュハナが向かった王弟殿下の召喚のことだよね?
 キワーレの説明では第一騎士団第四隊のバックが怪しいという話だった。つまり第四隊のバックがダジィル王弟殿下ってこと?
 キワーレはうなずいた。

「私も騎士団の権力派閥に詳しくないけど、王宮医師っていう役職はそうそう別の王族を診たりしないもんなんだ。いろんな秘密を抱える場合が多いからさ。だからリュハナが呼ばれたのも偶然じゃないはずだ。それなのにリュハナは平然と王弟殿下の所に向かっただろ?」

「つまり予想してた?」

 そうだ、とキワーレはニヤッと笑った。だから罠ってことなんだね?
 わざと敵の懐に飛び込んだんだ。
 うーんと考えていると、久しぶりにピロンと電子音が鳴った。
 んん?

『緊急クエスト!連れ去られたリュハナを見つけろ!
 王宮医師リュハナが連れ去られたよ。早く助けないとリュハナが危ない!
 1・王宮から抜け出す地下道
 2・王宮から離れた森の中
 3・北にある今は使われていない塔
 正解したら恋の強運ペンダントをプレゼント!』

 ななな何ぃぃ~~~!?恋、の、強運、ペンダントぉぉーーーーっ!!…て、なに?
 クエストよりも報酬が気になり過ぎる!!
 いや、リュハナも心配ではあるけどね?
 僕が目を剝いて驚いていると、その様子を見たキワーレも驚いていた。

「変な性格とは聞いていたけど、本当に変だな……。」

 失礼な!
 でもそんなこと気にしている場合ではない。

「危ない、ヤバい。リュハナを助けないと……。」

「…へ?ああ、そんな急に襲われることはないと思うけど。まずは治療薬作ったリュハナを抱き込みにかかるんじゃないか?リュハナもわかってて向かったんだろうから上手くやるさ。今日は交渉だけで帰ってくるって。多分こっち側としては薬を使う目的を明確にしたいんだと思うよ証拠がないと捕まえられないし。」

 ええー?でもクエスト出てきたし……。絶対何かあるんだと思う。
 僕が心配でオロオロしていると、キワーレはふむ、と考えだした。

「でも、でも、帰ってこなかったら?」

 僕の心配にキワーレが答えた。

「帰ってこないってことはリュハナは交渉されてあまりの内容に即拒否してしまったか、交渉目的ではなく始末するつもりか。どっちにしろあの鬼侍従と第一隊長が見張ってるって。」

 相変わらずラニラルのこと嫌ってるなぁ。
 
「でも僕、心配。」

「……行ってみてもいいけど、どこに行けばいいか分からないし、副隊長もどうするかって問題があるぞ?」

 う、走ってフヒィル撒けるとは思えないしなぁ。僕、鈍足だし。
 ここは巻き込むに限る。

「フヒィルっ!クイズっ!」

 突然名前を呼ばれたフヒィルは驚いた顔で僕を見た。

「お、おお、うん。いいよ。」

 目を瞬かせながらクイズと言われてうなずいている。

「クイズっ!王宮で人がさらわれたらどこに連れて行く?」

「なにそのヤバいクイズ。」

「いいからっ。1・王宮から抜け出す地下道。」

「地下道ー?王族しか知らないと思うぞ?って言っても王族それぞれ違う場所を知っているらしい。」

 そうなんだ?

「2・王宮から離れた森の中。」

「ここから森?結構遠いな。市街地抜けてかなきゃだし、門の検査も通らなきゃだし、さっきの地下道を通ったとしても、町から出るまで人目につきやすい。」

 ちょっと厳しいね。

「3・北にある今は使われていない塔。」

「あ~、あそこは確かに…。不気味だし幽霊の噂もあるから人も来ないな。連れ去って一時的に身を隠せる。」

「どれ!」

「俺なら3だな。」

「よっしっ!行こうー!幽霊探検だ!」

 三人はえぇ?と目を丸くしている。僕が走るとフヒィルが止めてきた。

「まて、そっちは西だ。」

 あ、そうなんだぁ?



 そして僕達は見てしまった。
 北の塔はなかなか遠かった。日が暮れるから帰ろうと言うフヒィルを、幽霊が出てくるいい時間だよと説得してやって来た。
 そして塔には何故か第一騎士団が集まっているのを目撃する。
 僕達は四人でやって来て、遠くから隠れて見ていた。

「何でここに第一騎士団がいるんだよ…。」

 フヒィルがボソリと呟く。
 
「この塔って何なの?」

 塔は見た感じ四階程度の高さに見えた。ちょうどリュハナの研究室が四階で、外から見た時と同じくらいの高さに感じたからだ。
 塔の下は雑木林のように草木が生い茂って、今まで使われていなかったのがわかる。入り口の木の扉まで人が通れるくらいの道が作られており、真新しい感じから最近誰かが伐採して作ったように見えた。
 フヒィルはすぐに塔の周りにいる人間を第一騎士団と言ったが、僕には分からなかった。第一騎士団の騎士服ではなく、王宮の下男が着るような服を着ていたからだ。ただ全員帯剣していて物々しい。

「あの体格の男達を下男にするのは無理があるよ。」

 キワーレが呆れている。
 男達は全員背も高く体格もいい。下男といえば、食べる物も質素で常に働き詰めの下働きになる。男達はとても下男には見えなかった。騎士と言えば憧れの要職だ。品があり顔付きが違うのですぐにバレてしまう。

「でもいかにも悪いことしてますって人達もいるよ?」

 ルヌジュも興味津々で見ている。
 騎士達は馬車で何かを運んでいる途中だった。大きな袋を二人で抱えて、ルヌジュが悪いことしてる人達と言った男達に引き渡していた。
 
「………あれ?」

「どうしたの?」

 ルヌジュがクンクンと鼻を鳴らしている。何だか子犬みたいで可愛い。

「リュハナの匂いがする。」

 ルヌジュはパッと立ち上がった。
 隠れていたのに丸見えになっちゃうよ?

「……俺には分からないけど袋の中身はロデネオ伯爵子息か?」

 フヒィルがルヌジュに尋ねた。

「うん。」
 
 ルヌジュが言っているのはリュハナのアルファの匂いだろうと思うけど、僕にも感じなかった。でもルヌジュには感じるらしい。流石幼少期から一緒にいただけあってルヌジュにはわかるんだねぇ。
 ルヌジュは突然走り出した。フヒィルが止めようとしたが間に合わない。
 塔の前にいた下男姿の騎士達が慌ててルヌジュを止めようとしていた。
 えっ!どうしたらいいの!?

「追おう!」

 フヒィルがルヌジュを追いかけた。
 騎士達がフヒィルを見て顔色を変える。フヒィルは第二騎士団第一隊副隊長だ。向こうもフヒィルの顔を知っていたのだろう。
 ルヌジュは騎士達の前で立ち止まり、フヒィルが追いついた
 騎士達が剣を抜いたので、フヒィルも剣を抜く。そしてどこに持っていたのか短剣を取り出してキワーレに投げて渡す。

「手伝え。」

「ええっ……。」

 襲い掛かってきた騎士の剣をフヒィルが止めながらキワーレに言った。その横をルヌジュは腰に差していた剣を抜いて通り過ぎた。

「あっ、ルヌジュ様っ!勝手に行ったら危ない!」

 騎士達の剣を止めながらフヒィルは叫んだがルヌジュは塔に入る細道を潜り抜けて扉の中に突っ込んで行ってしまった。

「私が追いかける。」

 キワーレがルヌジュの後を追いかけた。
 
「え、えっと、じゃあ、僕も~~!」

 どこにいたらいいのか分からないので僕も追いかけることにした。

「ええっ!!待って、ヨフっ!お前に何かあったら……っ!くそっ!」

 僕の後ろからギィンギンと刃が合わさる音が聞こえてくる。騎士団の訓練場でよく聞く音ではあったけど、鬼気迫る気配が全く違う。
 足が震えて怖いけど、ここに一人残されるのも怖いっ!
 フヒィルは集まって来た騎士達を止めるのに必死だ。でも一人で相手出来るって凄いなと思う。
 ルヌジュとキワーレを追って塔に入ると、中はあまり広くなかった。壁が分厚い所為で塔内の面積が狭くなっている。
 すぐ奥に手すりもない階段があり、そこをルヌジュが登って行こうとしていた。
 塔の一階には男が二人転がっている。腕や足を切られてルヌジュの刃から血が滴っていた。

「ひょえぇぇぇ。」

 ルヌジュってば、そんなこと出来るの?

「おいっ、危ないから私の後をついてこい。」

 すぐ後についてきた僕に、キワーレが声を掛けた。勿論ついて行きますとも!置いてかないでぇーー!
 フヒィルには負けていたルヌジュだったけど、ルヌジュは強かった。階段を転げ落ちてくる男を慌てて僕は避ける。
 怖くて階段を登る僕の足はプルプルだ。
 上からルヌジュの叫び声が響いてきた。

「お前達っ!その袋の中に人が入ってるだろう!?」

「なんでこんなとこに子供が!?話が違うぞっ!」

 塔の四階に上がると、そこは丸い一つの部屋にはなっていたけど、窓には戸板が被さり暗かった。
 うわっ、皆んな見えてるのかな?僕にはさっぱり見えない。
 キワーレがサッと近くの戸板を上げた。
 外は茜色になりかけた夕空が見えた。もうそんな時間になっていたようだ。
 一瞬で暗闇に差した光をたよりに、ルヌジュは素早く近くの男を切り伏せた。
 すすす、凄いっ!
 ルヌジュは剣が好きなだけで、あくまで趣味程度と思っていたのに、かなり実践向きで強かった。
 男達はまだこの部屋の中に五人もいた。
 下にいた騎士とは違う、粗野な顔付きは王宮の外から来たような印象を受ける。雇われてきた人達といったところなのかな?

「おいっ、そこで止まれっ!」

 そう言って男の一人が持ってきた袋を引っ張り上げ口を開けた。中から本当にリュハナが出てきた。
 殴られたのか綺麗な顔の片頬が腫れている。

「………っ!リュハナっっ!」

 ルヌジュが叫ぶとリュハナの目が開いた。
 良かったー!生きてるー!と僕は安堵する。
 そこでまたピロリ~ンと電子音が鳴った。この緊迫した空気の中で、この音はやめて欲しいな。

『クエスト達成!リュハナを見つけたので報酬が支払われます!』

 へ、どうやって?
 と思ったら僕の手にはいつの間にかペンダントが!

『恋の強運ペンダントを使って解決しましょう!』

 ………どうやって?
 僕は青いスクリーンの文字を見つめて停止した。
 どうせなら強力な武器が良かったのでは?
 僕にはどうも出来ない。戦えないし、階段からちょこっと顔を覗かせて応援するのが限度だ。
 ということはこの恋の強運ペンダントは現在恋バナが発生している人間に渡すのがベスト!

「ルヌジュっ、受け取れっ!」

 僕はルヌジュに恋の強運ペンダントを投げたのだった。











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