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64 王太子とご対面
しおりを挟む僕が連れてきた場所にヘミィネとフヒィル、キワーレの三人は何とも言えない顔をしていた。
目の前には金髪巻毛をポニーテールにしたレジュノ・リクディーバル王太子殿下が座っている。巻毛なのにボワっと広がらない艶々の巻毛ってどうやってるんだろう。櫛を朝晩使って綺麗にしてるのかな?
僕は三人を引き連れてレジュノ王太子の執務室に遊びに来た。
目の前で足を組み優雅にお茶をする王太子を前に、ヘミィネとキワーレは僕に文句を言った。
「急に王宮の中に行くから何かと思えば王太子殿下との謁見だったの?」
「謁見じゃないよ。遊びに来たんだよ。」
「そんな思いつきでホイホイと遊びに来られるような場所じゃないだろう?」
「でも少し前に遊びに行っていいか手紙を出したら、いつでもいいけど大抵ここにいるから、執務室に来るようにって書いてあったんだもん。」
ちゃんと聞いたよ?
「アバウトすぎる!」
ヘミィネってば~、興奮しないのっ。
「遊びに同行させたい三人とはこの三人のことだったのか?」
ほら、王太子もこれは遊びだって言ってるし。
「そうですよ~。ほら、フヒィルも座ろうよ。」
「勤務中でーす。」
フヒィルは長椅子に三人で座った僕達の後ろに立っていた。
「君も座るといい。」
レジュノ王太子に座るよう勧められて渋々一人掛けの椅子に座った。
「友人の紹介か?」
桃色の瞳を少し和らげて僕に尋ねてきた。
「そうですよ。これからこのメンバーでよく会うかもかなっと思って。」
「そうか。ヨフの周りは賑やかだな。」
そうかな?
レジュノ王太子が微笑んでくるので、僕もヘラヘラと笑い返した。
「いやいや私はそうそう会わないって。というかヘミィネ様が言ってたのはこういうことね…。」
キワーレは王太子に会うつもりがないらしい。でもクエストの候補に上がってるんだよ?絶対何かあるって。次もあるハズー。
「でしょう?みんな様子がおかしくなったんだよ。前まではもっとビシッとしてて厳しくて頼れる感じだったのに、みーんなしてダルダルの甘々になっちゃって、ヨフは何か病気でもうつしたんじゃないの?」
ヘミィネったら、それを僕と王太子の前で言っちゃう~?
それだと僕は病原菌で、王太子もラニラル達も菌がうつってるってことになっちゃうじゃん。
「……………全員似たもの同士の同類で集まったんだな。」
やだなぁ、そんな無表情で言わないでよ。
「え~、似てるって言われると嬉しい~。」
僕は喜んでるのに、ヘミィネとキワーレは嫌そうな顔をした。
バンっとフヒィルは机を叩いて王太子に食ってかかった。
「俺は同類じゃありません!」
そんなフヒィルを見て王太子はうなずいた。
「大丈夫だ。理解した。」
何を?
僕達が和気藹々とティータイムを楽しんでいると、王太子の執事らしき人が近づいてきて耳打ちしていった。何やらうなずいてフヒィルの方を見ている。
「いいだろう。通せ。」
誰か来たの?
入ってきたのは少し前に別れたはずのダノテ・クゼラ騎士団長だった。
「あ、兄上?」
フヒィルが動揺して立ち上がった。そんなフヒィルを一瞥し、ダノテ騎士団長はレジュノ王太子に近づくと、ソファに座る王太子の傍に跪いた。
「………話とは?」
「はっ、我が第一騎士団第四隊の不始末について謝罪しに参りました。」
「謝罪は先日も受けた。処分についても沙汰は告げたはずだが?」
騎士団長は下げていた頭を勢いよく上げた。
「減給のみとは納得出来ません!」
おお、第一騎士団のトップの処分は減給だけだったんだ?
騎士団長はこの件には全く関わっていなかったらしい。だから処分も軽く済んでいると聞いたけど、一応トップだしねぇ。もっと重い罰が下されてもおかしくない。懲戒免職みたいなのとかね。それとか罰金払えとか。
騎士団長本人が納得出来ないという表情をしているからか、レジュノ王太子はため息を吐いた。
「騎士団長が領地で起こった山賊被害の対応に赴くことを了承したのは私だ。ならば私も同じ厳罰を課されると言うのか?」
「そんなはずありません!」
あ、不在中に第四隊が勝手に動いてたんだ?
「それよりも領地の被害は終息したのか?山賊は捕えたと聞いたが。」
「はい、殿下のおかげで無事解決しました。」
「ならばいいだろう。もう済んだことだ。」
騎士団長はググッと顔をしかめた。
「殿下っ!」
「何だ?」
まだ何かあるのかとレジュノ王太子は怪訝な顔をしている。
「フヒィルを召し抱えて下さい!」
突然の嘆願に淡々と対応していた王太子が驚いた。もちろん僕達も驚くし、急に自分の名前を出されたフヒィルは怒りで顔を赤くした。
「はあぁ!?急に何で俺!?」
「急ではない!お前はオメガだ!いつまでも騎士を貫き通すのは難しいだろう。どうしても騎士を続けたいなら第二騎士団ではなく王宮警備が基本の第一騎士団に入れと言っているだろう。」
「嫌だ!」
「では護衛騎士だ。」
「だから何でだよー!勝手に決めるなぁ!だいたいそうやって婚約の打診も相談もなく決めたんじゃないか!」
「お前のためだ!」
ありゃぁ~、また喧嘩始めちゃった。
レジュノ王太子を見ると目を見開いて驚いている。ま、王族のしかも王太子の前で兄弟喧嘩する人はそうそういないよねぇ。
「王太子殿下っ、我がクゼラ家は殿下こそ次期王であると信じておりますっ!殿下に忠誠を誓います!だからフヒィルを側に置いて下さい!こんな性格ではどこにいっても大変なことになります!」
「俺は一人でやっていけるって言ってる!」
フヒィルは王太子の前で跪く兄を足で蹴った。
「やめんかっ!王家なら質のいい抑制剤が手に入るんだっ!番を得ることが出来なければオメガは歳をとった時大変なんだぞ?今から殿下に媚を売ってオメガ用の抑制剤をもらうんだ。そうすれば長く余生も過ごせる。」
レジュノ王太子の前で二人の喧嘩は続いている。というか騎士団長がそんなこと言っていいのかな。
「はあ?もうクゼラ家から出てるんだから余計なお世話だけど?」
「出ておらん。貴族籍はそのままなんだぞ。どうしても嫌なら俺と番え。」
どえぇぇぇぇぇーーー!?
きょきょきょ兄弟でぇ!!
僕はパッとキワーレを見た。可能なの?
キワーレは僕を見てやや悩みうなずいた。あんまりしないけど出来ないことはないってことね。でも常識的ではないってことかな?キワーレの顔は喜んでるけど。
言われたフヒィルは鳥肌を立てていた。心底嫌そう。
「うわわわ、ヤバいって。ウチの兄は変態かよっ。」
嫌すぎて顔は青くなり震えている。
目の前で訳のわからない喧嘩を見させられている王太子が、プッと笑い出した。
「ふふ、面白い兄弟だな。」
おや、珍しい。王太子の笑い方って薄ら笑いか嫌味ったらしい笑い方が基本な気がしたのに、今は目を細めて少年みたいに楽しそうに笑っている。
「俺はまだ番がいませんので本気ですが。」
「俺は絶対ヤダっ!」
良い兄弟だなぁ。フヒィルのお兄さんもなかなか性格が飛んでる人なんだねぇ。フヒィルも忍び込んだ王妃様の部屋を躊躇わず荒らしたくらいだし、普通ではないもんね。
「騎士団長。」
「はっ!」
王太子に呼ばれてダノテ騎士団長はすぐに返事をした。
「フヒィル副隊長は現時点では問題なく能力を発揮していると報告を受けている。そう急ぐ問題でもあるまい。心には留めておこう。」
「是非。」
王太子が一つ頷いてこの件は終わりみたい。面白かったのに。
王太子の執務室から全員退室して、今日は終わりだねと帰りながらフヒィルの袖を掴む。
「お兄さんって面白い人だね。弟想いなんだねぇ。」
「やだよ。何で殿下の前であんなこと言うんだよ。」
フヒィルの肩が落ちる。
「第一騎士団の団長が変わり者って本当だったんだね。」
ヘミィネは団長のことを噂で知っていたらしい。
「何か知ってるの?」
尋ねるとヘミィネは結構有名だよと頷いた。
「若くして第一騎士団の団長に上り詰めた優秀なアルファなんだけど、好きになるのがオメガだけじゃないというか、なんでか気に入ったら性別とか年齢とか関係なしにすぐに告っちゃうって。気に入った馬とか門の外にいた捨て犬とか。」
それって人でもないよ?
「恥ずかしいっ!」
フヒィルが必死だ。よっぽど嫌なんだな。そんなフヒィルをダノテ騎士団長は厳しい顔で見ている。
「博愛主義なだけだ。」
「犬に告るってなにって感じがする。」
ヘミィネは引いている。
「だからオメガには嫌われるアルファなんだよ。弟の番を心配するより自分の心配しろってね。あ、だから兄弟でか。それはそれでオイシイ…?」
キワーレ……、まだ本人がいるよ?
「正直者は素晴らしい。」
ダノテ騎士団長はキワーレを褒めた。変な人。
「ねぇ、このまま解散するの?どうせならジールさんのところ覗きに行かない?」
僕は主にキワーレを誘った。
「なんかあるの?」
誘われたキワーレは不思議そうにしている。あ、そうか。キワーレは知らないもんね。
「うん、ジールさんは僕の保護者で王宮庭園総管理人をしてる人なんだけど、エユドさんってリュハナの薬剤師してるオメガの人が一緒に作業してるんだよ。ちょっと行ってみない?」
ざっとした僕の説明にキワーレは食いついた。
「よし行こうか。」
ピンとくるよね?
僕はここのところジールさんの仕事場に行けずにいたんだよね~。進展あったかなぁ。楽しみっ!
腕を組んでるんるんとスキップする僕とキワーレの後を、呆れた顔のヘミィネとフヒィル、それから謎にダノテ騎士団長までついてきた。
ジールさん専用の作業部屋の隣には、新たに小屋が増築されていた。石造りで作業部屋より立派な部屋だ。最初その部屋を覗いたけど誰もいなかった。部屋の中にはいろんな器材や薬品らしきものが所狭しと並べられていた。
作業部屋奥の地下にいるのかと、全員で奥の階段に向かった。
階段を降りていくと中から話し声が聞こえてくる。
僕とキワーレが気配を消してそろそろと降りて入り口付近で立ち止まると、後ろの三人も真似して立ち止まった。
「右側はまだあと一週間程かかるんでしょうか。」
エユドの声だ。
「そうだな。あまり早く摘むと効果が薄かったんだろう?少し長く育つのを待った方がいい。」
白月草を採っているのかな?
地下だからか声が反響して聞こえてくる。
「………すみません。栽培から採集までお任せしてしまって。」
「構わんさ。」
エユドがボソボソと謝ると、ジールさんは明るい声でなんでもないと言っている。
ジールさんって優しいもんねぇ。エユドみたいに大人しい子なら尚更だと思うんだよね。
しかしこう雰囲気がお年寄りみたいに色気がない。
隣を見たらキワーレが手の指を苛立たしげにワニワニしていた。もどかしいよねぇ。
「……くしゅん。」
あ、エユドがくしゃみした。
「もう一枚上着を着た方がいい。」
床を歩く音がする。
そおっと僕達は階段を降りて中を覗いた。ジールさんが予備に置いておいたマントをエユドの肩に掛けてあげていた。
エユドは恥ずかしそうに俯いている。
「これこれっ!これだよっ!」
「あ、バカっ!」
思わず興奮して叫んだ僕の頭をキワーレが叩いた。痛いよー。
「……何やってるんだ、お前達は。」
あ、見つかっちゃったぁ。
僕達は全員上に戻った。地下は狭いし、今は白月草の繁殖を急ぐ為に鉢を沢山増やしたので入るなと言われてしまった。
エユドは摘んだ白月草を入れた瓶を大事そうに抱えて隣の増築した作業部屋に移動して行った。
ジールさんが何で第一騎士団長までいるんだという顔をしている。僕にもそこのところはよく分からない。
そろそろ帰る時間帯になってきた。ヘミィネもいるし陽が暮れては危ないからね。
「こちらにいましたか。」
作業部屋から外に出ると、ラニラルが待っていた。今日は別行動だったけど何してたんだろう?基本王宮ではラニラルと別行動が多い。
「ラニラルっ!」
ヘミィネが嬉しそうに走り寄って行った。
ラニラルはヘミィネに向かって微笑んでいる。特に変ではない。普通にいつものラニラルだと思うんだけどなぁ。
「バハルジィ伯爵子息。」
ダノテ騎士団長がラニラルに話し掛けた。ラニラルはスッと微笑みを消して騎士団長の方を見る。
「ヘミィネ様達は先にお戻り下さい。」
そう言ってラニラルは僕を見た。
「ヨフも馬車を別に用意致します。」
「え?いいよ、僕の家は門を出てすぐだもん。」
ジールさんと帰ればいいしー。
と言ったらラニラルがこの世の終わりのような顔をした。こういうところが変なのかな?ヘミィネが目をクワっと見開いて見てるよ。
ここから使用人が使う門は近いんだし、ジールさんもいるから大丈夫なのにねぇ。
「子息、俺もいるし護衛をつけてくれれば十分だ。」
ジールさんが断ってくれた。ラニラルも無理強いはせず僕達を帰してくれた。
みんなとバイバイと別れてジールさんと並んで家から一番近い門へと向かう。僕達の後ろには護衛が少し離れてついてきていた。
「ここまでしなきゃなのかな?」
「……主犯格が捕えられていないから仕方ないんだろう。」
でも主犯格はもう分かってるんだよね?
ダジィル王弟殿下なんでしょう?
「証拠がないの?」
「そうらしい。この前捕まえた第四隊を吐かせようとしたが全員牢の中で死んでいたと聞いた。」
ええっ!
「食事に毒が盛られていた。そのくらい平気で人の命を弄べる奴が相手なんだ。ヨフは不用心なんだから気をつけろよ。」
教えるのは用心させる為なんだからなと注意されてしまった。
怖いなぁ、王弟殿下。
こうなると王妃様とレジュノ王太子を冤罪で廃位させるより、命を狙う方が可能性高い気がする。まさか国王陛下の命まで狙ってないよね…?
やだなぁと僕はジールさんの腕にくっついて帰宅した。
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