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65 僕は決めた!
しおりを挟むそして問題の舞踏会がやってきた。
六歳の頃にも参加した舞踏会だ。舞踏会は午後の明るいうちから始まっていた。王族が一番最後に入場する為、他の貴族達はその時までに徐々に集まる決まりになっていた。
アクセミア公爵家は格上なのでほぼ最後に入場する。僕は平民だけどアクセミア公爵家が後援する人間なので、父上とお父様達と一緒に入場した。パートナーは約束通りラニラルだよ。ラニラルは言っていた通り、僕の衣装に合わせていた。まるでお揃い…。ヘミィネにズルイと言われてしまった。
公爵家の次が王族だ。
中央を国王と王妃が先に進み、後ろからレジュノ王太子が歩いて中央を進んでいた。
「がんばれー、フヒィル~。」
小声で応援したのにフヒィルがギッと僕を睨んできた。フヒィルってば、地獄耳さん!
本日レジュノ王太子のパートナーはフヒィルだった。
最近第二騎士団第一隊の副隊長フヒィル・クゼラは公爵家の後援を受けてオメガと知られたばかりなのに、まさか王太子の為に公開されたのかと騒めきが起きていた。
隣でお父様が微笑みながらボソリと呟く。
「うわぁ、意図したわけではないけど、なかなか効果があるね。」
お父様ってば、その笑顔は意図してないわけないよねって気がしちゃうよ?絶対こういう流れを予想してたよね?
賢くて美しい妖精なお父様が策略巡らす姿に感動しちゃうっ!父上が隣で誇らしげにうなずいてるよ!
「あの二人はお似合いです。」
僕の隣ではラニラルがニコニコと嬉しそうに笑って、この国も安泰ですねとか言っている。まだ王弟殿下をやっつけてないよ。
「僕は助かったけどフヒィルには申し訳なかったよね。」
「お前……、邪魔者が一人片付いたとか思ってるんだろう?」
ヘミィネはフヒィルのことを可哀想だと同情していた。そして本日ヘミィネのパートナーとなったソヴィーシャは呆れながらラニラルを肘でつついていた。
「でも何でフヒィルが王太子のパートナーになったの?」
フヒィルは昨日まで僕の護衛をしていたけど何も言っていなかったよ。
「護衛騎士は待機していますが社交の場ではどうしても距離ができてしまいます。フヒィルはオメガですし腕が立ちますので一番近くで護衛するには適役なのですよ。」
確かに後ろにゾロゾロと騎士を連れて歩くわけにもいかないし、ダンス中は近寄れないもんね。
今朝急に王太子のパートナーをするよう言われたフヒィルは、服装もシンプルだった。王族のパートナーにしては華やかさがない。
僕なんてお父様とラニラルによってフリフリにさせられている。
でもツインテールとメガネはそのままだ。重たい前髪だけ分けられて、オデコが見えるようにされてしまった。
僕は姿見を見て「ちんちくりんだねぇ。」と自分を評価したんだけど、お父様とラニラルは「可愛い。」と褒めちぎってくれた。……この二人の美的感覚が不安だけど、僕とは対照的に二人とも今日の姿は決まっている。
僕だけが変なような……。
そう言ったのに、二人はこれでいいんだと笑顔で言い切っていた。
ラニラルは僕とお揃いなのに何でフリフリしてないのさ。そこもお揃いにしろー。
「もう少しフヒィルはアクセサリーをつけても良かったんじゃない?」
お、ヘミィネもそう思うよねぇ。
「フヒィルが動きにくくなるから嫌って言ったんだよ。」
僕も出発前に言ったんだけどね。
「そういうヨフの格好はなんというか……。まとまっているような、異彩を放っているような?」
「素直に変だと言っていいよ。」
だってお父様とラニラルがこれ以外はないって言い張るし。
「…………。」
ソヴィーシャも黙って僕を見ている。
「僕は言われた通り着ただけだよ?」
むうっと頬を膨らませて文句を言うと、ソヴィーシャは溜息を吐いた。
「分かってる。変な虫がつかないようにだろうから着ていてやれ。安心するんだろう。まさか公爵夫人とラニラルにそんな共通点があるとはな。」
「どういうこと?」
聞き返してもソヴィーシャは何でもないと答えた。
舞踏会は順調に進み、僕はラニラルとダンスを踊った。ヘミィネはソヴィーシャと、フヒィルはレジュノ王太子と踊り、子供の頃とは違いちゃんとしたダンスに感動する。なんとちゃんと踊れるのだ!
「練習の成果が出ていますね。」
ラニラルに褒められた。ダンスはラニラルとフブラオ先生に教わったからね。
「ラニラルも上手だね。今までいっぱい踊ったの?」
ラニラルならモテモテだろうから、オメガの子とか女の子達から誘われてそう~。
「いいえ、公の場では今回が初めて踊らせていただきました。」
「……え?」
初めて?
「私は踊りたい方としか踊らないと決めております。」
うんんんん?
「でも今は僕と踊ってるよ。」
ラニラルはニコッと笑って僕を軽く持ち上げてクルリと回した。広い会場と美しく着飾った人々が舞う様子が、僕の視界に広がり目を見開く。
「うわー。」
思わず感嘆の声を上げるとラニラルは楽しそうに微笑んだ。
ダンスが終わり戻ろうとすると、数人の令嬢達が近寄ってきた。
「ラニラル様、パートナーを交換しませんか?」
とても上品に優雅に話しかけてくる。でも僕のことは綺麗に無視だ。
ラニラルの目が冷ややかに彼女達を見下ろした。
「申し訳ありませんが本日は私のパートナーから離れる気はありません。」
口元は笑ってるんだけど目が全く笑っていない。
「ですが…、パートナーの交換は普通ですわ。公爵様には私達から伝えておきますから。」
どうやらラニラルは主君である僕の父上から命じられてパートナーを組んだと彼女たちは思っているらしい。
彼女達の目が僕を上から下までじっくりと眺めている。そんなあからさまに侮辱しなくてもねぇ。僕も今日の格好はどうかなぁとは思うんだよ?
「不要な気遣いです。ヨフとは私の意思でパートナーを組んだのですから。」
はっきりと断られて全員渋々と元の場所に戻っていった。
ラニラルは何事もなかったかのようにくるりと僕の方を見る。
「さあ、喉が乾きませんか。テーブルについて食事も運ばせましょう。」
令嬢達に向けていた冷たい目とは真逆の優しい微笑みでテーブルへエスコートしてくれた。
ラニラルがあれこれと食事や飲み物を並べてくれるものだから、また食べ過ぎている気がする。
しばらくすると父上とお父様、ヘミィネとソヴィーシャの四人が僕達のテーブルに来て一緒に座った。
僕の隣にはお父様が座り、お父様を挟んで反対側にはヘミィネが座った。僕の隣にはラニラルが座っているのでヘミィネの隣に父上が座る。ソヴィーシャは座るつもりがないのか父上とヘミィネの背後に立っていた。今日は舞踏会ということで帯剣していない。
父上がラニラルに話しかけた。
「先程御令嬢方を振ったのだろう?」
「報復してもよろしいですか?」
突然の報復宣言?
「既にいくつかやったからもういいだろう。」
「左様ですか…。先方から提案されていた事業を切ろうと思いましたが。」
「全部切るには惜しい部分もあるのは理解しているだろう?お前にやらせると奪った挙句に相手を潰しにかかるだろうから私の方で処理した。」
「ですが。」
「これ以上仕事を増やすと構えなくなるぞ。」
ラニラルが黙っちゃった。
隣のお父様にコソコソと尋ねる。
「何を構うの?」
お父様は薄紫の瞳をふわりと細めて僕を見た。
本日も麗しい~~~。今日何度目の感動だろう!
お父様は人差し指を一本突きつけて、僕の鼻の頭をちょんとつついた。
「ふふ。」
なんてこった!天使の笑顔だよっ!もう自分が何を尋ねたのか記憶が飛んじゃったよ!
お父様の向こう側ではヘミィネがええ?という顔でお父様を覗き込んでいる。
「お父様もおかしくなってる……。」
ヘミィネは全てがヨフの病原菌の所為だとぶつぶつ言っていた。
そんな会話が進みつつも、お父様は僕とヘミィネの皿にデザートを載せ続けている。
美味しそうだけど入るかな?
「最近太ってきたんです。これ以上食べると買ってもらった洋服が入らなくなるかもしれません。」
最近良いものばっかり食べすぎなんだよねぇ。美味しすぎて止まらない。
「いいんだよ。少し余裕をもたせて寸法は測らせたし、ヨフはまだ細いからもっと太ってもいいんだよ。」
え、僕細いっけ?
「もう少し体重を増やしましょう。あまり細いと心配です。」
ラニラルはジュースを差し出してきた。
いや、何度も確認するけど細いっけ?
「ヘミィネならわかるけど?」
ヘミィネは本当に華奢だよ。でも僕もう二十二歳なんだよ?横には伸びても縦には伸びないんだよ?
お願い、僕のお皿をてんこ盛りにしないで~!
父上が微笑ましげに僕達を見守っていた。
ヘミィネの目がドン引きしてるよ。
しかたないから僕は妹女神様のクエストについて考えることにした。
本日の舞踏会でレジュノ王太子は媚薬を盛られるはず。その時ヘミィネかフヒィルかキワーレのうち誰か一人が救出に向かわなければならない。
……あれ、キワーレいないじゃん!
キワーレは公爵家と一緒に入場すると目立つから先に一人で会場入りしておくと言っていたはずなのに。
キワーレは偽ヨフミィとして公爵家に滞在はしても、僕のように後援を受けていない。
本物のフリをしているのに後援を受けるのは公爵家の人間ではないと言っているようなものだということから、そうしているらしい。
でもはっきりと公爵家のヨフミィだとも言っていないので、本日キワーレにはアクセミア公爵家名義の招待状を持って入れるようにしてあった。
「キワーレは来てないんですか?」
お父様はにっこりと笑った。
「来ていたよ。誰と入場したと思う?」
「一人で入ると聞いてましたよ?」
急遽パートナーが見つかったの?
お父様ったら、そんな楽しそうな顔で微笑んじゃって。隣の父上がデレデレだよ。妖精で天使なお父様は小悪魔さんにもなれるんだねっ!
「ヨフ、あちらにいますよ。」
隣のラニラルが教えてくれた。
んんっ?
「一緒にいるのってフヒィルのお兄さん?」
ダノテ・クゼラ第一騎士団長がキワーレにグラスを渡しているところだった。
お父様は楽しそうに説明してくれた。
キワーレは招待状を持って、公爵家の馬車で城の門を潜ろうとしたらしい。だがキワーレが一人乗った馬車は門の外で止められてしまった。
門を守るのは一般兵だが、今日は兵士の数も多い。槍を持った兵士達に馬車ごと列から離され城壁のすみに追いやられた。そして公爵家を語る偽物だと言われたらしい。
キワーレが招待状を見せると、なんと受け取った兵士は確認すると言って奥へ引っ込んでしまった。
公爵家の御者は本物だと主張したが聞き入れてくれず、槍を持った兵士数人に取り囲まれ待機させられてしまった。
どこかのバカが金を握らせて足止めするように言ったのだろうと思い、キワーレは誰か知った人間が通るのを待つことにした。
今は大混雑している門も、アクセミア公爵夫妻が乗る馬車が通る頃には空いている。そうなれば通りかかった時にキワーレが乗る馬車にも気付くだろう。
諦めて寝ようかとしたら、馬車の外が騒がしくなった。
そして外にいた御者が、ダノテ・クゼラ騎士団長が助けてくれましたと報告してきた。
キワーレが外に出ると、騎士団長が兵士達を叩きのめし、一人一人糾弾しているところだった。
というのが夕方少し前の話。
「誰が足止めしようとしてたんですか?」
そんな面倒なことがあってたのか~。だからキワーレは王宮に来たがらないんだね。
ヨフミィ・アクセミア公爵子息かもしれない人物に意地悪する意味がわかんない。調子乗んなよって感じ?
「うん、さる御令嬢が自分の取り巻きの令嬢に命じてやらせたようだからね、そんな小さな度量では王都に住むことは難しいでしょうって伝えて、嫁ぎ先は地方の貴族家を勧めてあげたんだよ。」
ほえー、へぇー。お父様の笑顔が黒い気がする~。でも妖精で天使で小悪魔なお父様が魔王様になっても僕はへっちゃらだよ!
「ご安心下さい。ちゃんと邪魔にならないような場所に飛ばしてあげましたから。」
それは安心材料なのかな?
お父様とラニラルは僕の両脇でニコニコだ。
二人は息ぴったりなんだね。
「つまりキワーレは騎士団長に拾われたんだね。捨て猫みたいに好かれたりしてぇ。」
あはっ、と笑ったらお父様の笑顔が固まった。
「違うよ、ヨフ。捨て猫じゃなくて捨て犬だよ。」
「ヘミィネ、問題点が違う。」
黙って後ろで聞いていたソヴィーシャが頭痛そうにしている。
「キワーレはベータだからねぇ。でもそれはそれで…。」
お父様がやや頬を染めて呟いている。お父様って実はキワーレと同類なんだね。というかキワーレはやっぱりベータだったんだね。
観察していると騎士団長がキワーレに顎で使われているような…。キワーレって大物だよね。
さてさて。となるとキワーレの今のパートナーはダノテ・クゼラ騎士団長になってしまっている?
ヘミィネはここにソヴィーシャのパートナーとして参加。
やっぱりここはレジュノ王太子のパートナーを務めるフヒィルが有力?
今どこにいるんだろうときょろと見回すと、離れた場所に王太子と一緒に立っていた。パートナーというよりあれは護衛騎士だよね。
「…ここはフヒィルを狙うべきか。」
思っていたことが口に出てしまった。目ざとくお父様とラニラルが聞いてくる。
「何を狙うの?」
「フヒィル副隊長は同じオメガですよ?」
二人でいっぺんに聞かないで。
「僕は狙わないよぉ。王太子の相手は誰かなぁって。ヘミィネかフヒィルかキワーレのうち誰かなんだよ。」
聞いていたヘミィネが「嫌だ!」と叫んだ。
「じゃあフヒィルにしようよ。」
「そうですね。副隊長に押しつけましょう。」
ソヴィーシャが「お前ら…。」と呟いたけど、相手が公爵夫人だということを思い出して口を閉ざした。
そうか、ここは多数決でフヒィルに決定か。
「よしっ、僕もフヒィルに決めちゃおうっと!」
目の前に青いスクリーンが現れ、三択の中からヘミィネとキワーレが消えてフヒィルの名前が残った。
その時会場からグラスが割れるような音があちこちから響いてくる。
誰かが医師を呼べと叫び、僕達が座る場所からでも倒れる人達が現れ出した。
父上がパッと立ち上がる。
「ラニラル、ソヴィーシャ、三人を頼む。」
呼ばれた二人がうなずくのを確認して、父上は国王陛下のもとへ歩いて行った。
「………どうしたの?」
驚く僕にお父様は椅子にゆったりと座って微笑んだ。
「始まったんだよ。」
ラニラルとソヴィーシャも落ち着いていることから、三人は何が起きているのか理解しているらしい。
僕とヘミィネはどういうことだろうと目を合わせ、辺りを見回した。
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