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番外編
82 私は捨て猫ではない!②
しおりを挟むダノテ騎士団長は朝と夜には帰って来て、一緒に食事を摂ってくれた。客人に対する配慮だろうと思うのだが、何故かいつも食べる姿をじっと見てくる。
大皿に乗せられた料理は騎士団長自ら取り分けて差し出してくれるし、溢したり口元が汚れたりするとサッと拭いてくれる。
「………あの。」
「なんだ?」
「私の性別はベータですが……。」
「ふむ、そうだな。」
……いやいや。この人のバース性はもしかして狂ってる?
アルファはオメガを庇護対象にしている。自分のテリトリーに囲い込み、執着する生き物だ。
ダノテ騎士団長はアルファだ。相手がオメガだったら、この世話焼きっぷりも納得出来る。しかし自分はベータだ。
なんでこんなにご機嫌で私の世話を焼くんだろう?
日が経つにつれ、増える服に装飾品。最初は客間だったのに、数日後には騎士団長の隣の部屋に…?
私は貞操の危機を感じた。
早くこの屋敷を出たほうがいいと、私の勘が告げている!
「あの、私の家はどうなったんでしょう?」
とにかく元の家に帰って、ダノテ騎士団長とはあまり会わないようにしたほうがいいだろうと感じた。
日増しに騎士団長の愛情が増している気がして怖い。
気のせい…。気のせいだよな……?
「ああ、少し修理したほうがいい箇所があって、今工事中だ。もうしばらく待ってくれないか?」
え、そんなはずは…。住み始めた時、かなり綺麗に管理されていたのに。
「あの、修理代金は働いて返します。」
買い戻しの金額もあるので、合計するといくらになるのだろう?
金額を尋ねるのが怖い。分割で死ぬまで払い続けることになるかも。
「………………大丈夫だ。気にしなくていい。」
笑顔でちょっと沈黙したあとに、気にするなと言われてもね?
フヒィルは弟なんだから、ここに帰って来ないんだろうか。来たらなんとか連れ出してもらいたい。
外に出ようとするとやんわりと老執事と使用人達に止められるし、庭の散策には護衛騎士がついてくる。
嫌な予感しかしない。
外には出してくれないが、それ以外はなんでもやってくれるところも怖い。
暇だと言えば本をくれたり、買い物に出させてくれない代わりに商人を呼びつけて、好きなだけ買っていいと言われる。後から代金払えと言われても困るので買えるわけがない。
「あの、まだ詐欺師は捕まらないんですか?」
思い切って尋ねると、ダノテ騎士団長はひょいと眉を上げた。
「捕まえたな。言うのを忘れていた。」
…………捕まえたならなんで私はここにいるのだろう?
「ええ…?」
呆れて言葉が出ない。
「牢に入れて余罪を纏めている最中だ。会いたいなら会わせるぞ?」
「詐欺師にですか?」
なんで私が?
不思議になって怪訝な顔をすると、ダノテ騎士団長は外に出ようと言った。
久しぶりの外出だった。
今日も朝から雪が積もり、道の雪は溶けていたが、木々や草、塀の上や道の端に残る雪を眺める。
吐く息は白く、早朝ということもあってかなり寒かった。冬の空を眺めながら考える。家のこと、家族のこと、騎士団長が言う詐欺師のこと。
今日は二人だからと馬車で屋敷から出て、向かった先は騎士団本部の中だった。
大人しくついて行くと、地下に向かっているようだ。
罪人を捕まえて取り調べをしているのだから、向かう先は牢屋なんだろう。
捕まえた詐欺師が誰だろうかと思ってはいたが、なんとなく予想はついていた。
暗い地下には松明が焚かれ、牢の奥には自分の家族がいた。
「あの家を勝手に売った罪人として捕まえた。侯爵家の持ち物に手を付けたんだ。立派な犯罪者だ。」
思った通りだった。
血の繋がる家族ではそこまで罪に問えない。しかも平民なので、騎士団が動く動機としては弱かったのだろう。だからあの家をクゼラ侯爵家の所有に戻して捕まえたのだ。
騎士団長が言う通り、彼等は貴族の所有物を盗んで勝手に売った罪人だ。貴族の物に手をつければ、斬首刑は免れない。
「キ、キワーレっ!このっ!あの家はお前の物じゃなかったのか!」
「お兄ちゃんっ!あたしは知らなかったの!助けてよっ!」
「ああ……キワーレ……。お願いよ。騎士団長様に言ってちょうだい!」
それぞれが鉄格子に縋り付いて各々叫んでいる。
「………。」
「これで今後の憂いはなくなるだろう。公爵夫人に頼まれていた。キワーレが財産を手にすると薄汚いネズミどもが寄り付いてくるだろうから排除していてほしいと。」
ダノテ騎士団長はにっこりと微笑んだ。元々綺麗な顔の人物ではあるので、この暗い地下牢の中ではその美しさが異様に感じた。
「それからキワーレに支払われた金銭も、所持していた所有物も、奴等は使い込んでいたので罪に加算しておいた。たった数日で半分以上消えたからな。慈悲は必要ないだろう。」
半分…。何に使えばそんなに減るのか。普通に暮らせば、働かなくても十年以上は暮らせる金額があったのに。
「でも、私の実の親です。罪に問うのは…。」
無理なんじゃないだろうか。そう思ったのだが、ダノテ騎士団長は大丈夫だと笑っていた。
助けろと叫ぶ家族を見捨てて、重い足取りで地上に出る。
冬の空も空気も清々しいが、どこか心は重たかった。
どうしようもない家族だ。
それでも血を分けた家族だった。
「………処刑が終わってから言うべきかと思ったんだが、知らない内に全てを聞かされるより、先に希望を聞いたほうがいいと思ったから教えた。そこまで望まないのならやめてもいい。」
ダノテ騎士団長は静かに自分の答えを待ってくれた。
いろいろ考えた。
過去の辛い記憶も、少しだけ感じた幸せを奪われる瞬間も、たった今叫んでいた彼等の顔も。
「…………いえ、いいです。罰してください。」
それが彼等の罪だ。自分が背負う必要も、慈悲を与える必要もないも感じた。
ただ、罪悪感はあるけども。
ダノテ騎士団長は背中を撫でてくれた。
「我が家でゆっくりするといい。刑の執行は年内に行うが、地下牢は寒い。今は元気だが……。」
執行する前に凍死してもおかしくないだろう。
「それでいいです。」
自分だってあの日、家から閉め出された時、凍死を考えた。
彼等は息子と兄が凍死しようとかまわないと思って閉め出したのだろうから、これは当然の報復だ。
来た時同様、クゼラ侯爵家の馬車に乗って、クゼラ侯爵家の屋敷に帰った。
クゼラ侯爵邸はアクセミア公爵邸とは違い、とても静かな屋敷だった。
侯爵家の人間が当主一人だからかもしれないし、使用人達はとても洗練されていて、無駄口一つしないほど有能な人達だったからかもしれない。
普通の貴族家ならこんなものだよなと感心する。アクセミア公爵家がちょっと騒々しいのだ。
「屋敷の散策はしてみたか?」
珍しく休みなのだと言って、ダノテ騎士団長が散歩に誘ってきた。
平民の自分が許可もなく公爵家の屋敷を散策するのも気が引けて、ほとんど与えられた部屋から出ていない。
気が滅入って出る気がしなかったというのもあった。
「あ~、してませんね。」
それでもダノテ騎士団長とは、わりと気兼ねなく話せるようになっていた。
ダノテ騎士団長から見せたいものがあると言って散策に誘われた。
小説を書いたり絵を描いたりしていたが、気乗りせずあまり進みもしなかったので、何を見せたいのかと興味が引かれてついて行くことにする。
屋敷の裏側、使用人が作業する場に近い場所まで連れて来られた。
案内された場所から動物の鳴き声がする。
そこには犬や猫などの動物が飼われていた。片足がなかったり、歳をとって動けない子達もいる。
「……保護しているんですか?」
噂ではダノテ騎士団長は捨て犬にまで求愛すると言われていた。まさか保護していたのがそんな噂になったのか?
本人は博愛主義だと主張していたが、真っ当な理由があったらしい。
「見かけたらつい拾って来てしまうんだ。」
にゃーんと猫が擦り寄って来た。
おお、猫……。尻尾の長いふさふさの毛が綺麗な猫だった。
「その子はキワーレに似ているな。」
「私は捨て猫じゃありませんけどね。」
そうか? と不思議そうな顔をしないでほしい。
「動物が好きならここで遊んでやってくれ。」
出入り自由な部屋と、塀に囲まれた動物達の庭は、世話をする使用人達がいるだけでとてもいい雰囲気だった。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
その日からなんとなくスケッチブックを持って動物達の部屋に通うようになった。
動物達の部屋には暖炉があり、パチパチと爆ぜる音が聞こえるだけの静かな空間だった。
よく躾されているのか、犬も猫もあまり鳴かない。それぞれが静かに遊んだり寝たりしていた。
置かれたソファに寝転がり、遊んでいる犬をサラサラと描く。
文章も絵もどちらも好きだった。
持ち込んだ本が山積みになり出しても、使用人達は少し整理して掃除をするだけで邪魔することもない。
ダノテ騎士団長がいない時は、食事もここへ運んでくれるようになり、ほとんどの時間を動物達と過ごしていた。
そのうち体毛が増えて、自分もこの中の一匹になりそうだ。
傍に置いた本を手に取り、しおりを挟めた場所を開いて、ソファに寝転がったまま読み始める。
さっき昼食の食器を下げて、ポットとティーカップを置いて使用人達は出て行った。掃除も済んで、動物達の世話も終わらせていったので、しばらく誰も入って来ない。
とても静かで、かといって孤独ではない空間。
暖かくて空腹も感じない、平和な場所に、眠気が増してくる。
読んでいた本が手から滑り落ち、コトンと下に転がった。瞼が重たくて目を瞑る。
寝たのだという意識もなかった。ちょっと目を瞑っただけで、起きていたはず……。
だけど思考はボヤけて、身体が動かないことに気づいた。
ふと触られているような感覚に驚く。
まだ眠たくてボウとしているが、違和感に目が覚めてくる。
なんだろう? 撫でられている?
妙に気持ちが良く、はぁと吐息が出てしまう。
いや、これは撫でるというより撫で回されている…!
ハッと目が開く。
「…………え、ダノテ騎士団長?」
撫で回していたのはダノテ騎士団長だった。
寝ていたソファにいるのは変わらないが、誰かが上掛けをかけてくれていたらしい。そしてダノテ騎士団長の手が上掛けの中に潜り込んでいた。
「ああ、起こしたか?よく寝ていたな。」
騎士団長はニコッと笑った。
ええ、よく寝ていたとも。
「なにしているんですかね?」
どこを触って…。
上掛けの所為で見えないが、明らかに自分の弱い部分を弄られていた。
「よく寝ていたからな。ずっと我慢していたんだが、そろそろ大丈夫だろうと思って。」
はぁ……。なにが?
「相手は人間なのだから慎重にと言われていたんだが、もうそろそろいいよな?」
「……ちょっと意味がわかりません。」
固まって返事をしたら、ダノテ騎士団長は不思議そうに首を傾げた。
騎士団長の手は私のあらぬところを触り続けている。
「どう攻めるべきかと相談したら、ほぼ全員身体から落とすのがいいだろうという見解だった。」
「か、からだから……?」
恐る恐る上掛けを捲る。
ベストとシャツのボタンは全て外され、ズボンも下着も膝まで下りていた。
喋りながらも騎士団長の手は動いている。
私の陰茎は勃ち上がって気持ちよさそうに涎を垂らしていた。ここまでされてよく眠っていたなと、自分自身に愕然とする。
「大丈夫だ。ベータの相手は慣れている。」
そんな報告はいりません!
ぬぷっとお尻に何かが入る感覚がした。
「………はうっ!」
「せめてほぐすまでは寝ててくれて良かったんだが…。睡眠薬の量を抑えたせいか?」
「す、睡眠薬ぅ!? は、犯罪っ!騎士団長のくせに、犯罪ーーー!」
やっぱ頭おかしい人だったのか!?
「医療で使われる程度のものだ。」
「ひーーーーっ!」
ぬぷっ、ぬちゅ…と広げられる感覚に腰が抜ける。
「わ、私はベータだっ!恋人だって女性しか……!抱いたことはあっても抱かれたことなんてないんだぞ!」
「知っている。公爵夫人の調査書に書いてあったからな。大丈夫だ。私の屋敷でこれから過ごすのだから。」
えぇっ!
意味わかんない!
のしっと上に乗り掛かられ、胸や陰茎を弄られながらお尻も開かれていく。
「あぅ………、あ、ああ………っ!」
「安心して任せればいい。」
金茶色の瞳がニィと笑う。無駄に綺麗な顔が悪魔みたいだ。
「あ、ありえない…………!」
どうしてこうなったのか全く理解できなかったが、刺し貫かれた衝撃に悲鳴をあげると、寝ていた動物達が驚いて逃げていった。
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