じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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番外編

84 小さなお家①

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 アルファは苦手。
 そばにいると圧を感じるし、残り香が残って嫌い。
 ベグデーン子爵家の子供として生まれた僕は、十歳でオメガと言われたけど、判定を受ける前から鼻が利くほうだった。その所為かアルファの近くは避けるような子供だった。
 他のオメガの子達はアルファの匂いを良い匂いだと言う。
 僕には匂いというか、存在が濃く感じられて嫌悪感のほうが先にたった。
 そんな僕を心配して、学生の頃に紹介されたのがリュハナ・ロデネオ伯爵子息だった。恋愛だとか恋人だとか、そういう理由ではなく、リュハナ様が医学に精通していたからだ。
 既にレジュノ王太子殿下の専属王宮医師が確定している方に、僕のアルファ嫌いを相談するなんてと断ったのに、オメガの友達は大丈夫だと言って無理矢理紹介されてしまったのがきっかけだった。
 会ったリュハナ様は中性的な容姿に柔らかい雰囲気の方で、アルファでありながら威圧感があまり感じられない人だった。
 そのおかげか、アルファなのに珍しく話すことの出来る人だった。
 鼻が良すぎたり、ごく稀にバース性を敏感に感じ取れる人がいるのだと聞き、病気ではないが慣れるしかないと言われてしまった。
 リュハナ様は自分で大丈夫なら、自分の近くで少し慣らしていってみてはと提案してくれた。ただリュハナ様は酷く忙しい為、定期的に時間は取れないと言うので、僕が合わせることにした。
 僕は薬学を専攻していたので、専属で助手を務めると申し出た。
 そこからリュハナ様は僕の上司となった。
 周りはアルファのリュハナ様と、オメガの僕を恋人同士なのかと勘ぐる人もいたけど、そういう雰囲気になったことは一度もない。
 リュハナ様も僕も仕事人間だったので、仕事の話しかしないし、個人的な付き合いは皆無だった。
 それにリュハナ様は仕事が終わるとすぐにアクセミア公爵邸に帰る。
 一緒に食事?
 王宮で働き始めて、研究室で仕事をしながらお互い食べ物片手に作業していることを、一緒に食事したというのなら一緒に食べたことになるのかもしれない。

「……そうなのか、歳も近いしてっきり。」

 最近よく一緒にいるジール・テフベル男爵と仕事をしながら、そんなお喋りをしていた。
 リュハナ様とは違い、テフベル卿はよく話しかけてくる人だった。
 仕事の様子を見ていると、他の庭師の人達以外にも、王宮の使用人や騎士や兵士にも話しかけるので、明るく社交的な人のようだ。
 あまり喋らない僕にもよく話しかけてくる。

「僕はリュハナ様にそういった好意はないですよ。」

 テフベル卿は大きな身体を窮屈そうにしながら階段を上っていた。
 手には採ったばかりの白月草入りの瓶がある。とても繊細な葉なので、必ず密封して素早く運んでいた。といっても運んでいるのはテフベル卿だけ。僕は先に上るように言われて、手ぶらでテフベル卿の前を上っていた。

「アルファが苦手と聞いたからな。王宮医師には平気そうだったから勘違いしてしまったな。」

 低い声なのに話し方が柔らかい所為か、嫌な気分にならない。
 この人もアルファなのに、あまり威圧的ではなかった。歳がかなり離れているからだろうか。倍以上は離れていたはず。逞しくて衰えを感じさせないので、そこまで歳が離れているという実感が湧かない。
 階段を上りきって、下処理を行う作業部屋に入った。テフベル卿も一緒についてきて、白月草入り瓶が入った箱をテーブルに下ろしてくれた。

「ありがとうございます。」
 
 お礼を言うと笑顔が返ってきた。
 
「いいさ。そろそろ人を増やした方がいいだろうな。」

 白月草は王妃宮でも栽培されている。本来はフォブルス伯爵家が代々守ってきたのだが、王家を窮地に追いやったとして処罰された。
 今後王妃宮の白月草もテフベル卿が管理するかもしれないと言われている。その為にもテフベル卿に爵位を与える話が出ていた。
 そうなったらただの役職のような男爵位ではなく、きちんとした爵位を持つ貴族になるのだろう。社交とまではいかなくても、いろいろなしがらみが出てくる。
 そこが少し心配だった。
 確かテフベル卿は独身だったはず。
 すでに五十歳を超えてはいても、アルファ性だし誰かしら番なり結婚相手なり探すのかもしれない。

「どうした?」

 明るい笑顔が問い掛けてきた。
 テフベル卿の顔を見つめたまま考え込んでいたらしい。人の顔をじっと見ながら考え込むなんて!

「あ、……い、いえ。すみません…。」

 しまったなと思いつつ謝った。
 本当に人付き合いが苦手なのだ。早く一人になりたい!
 テフベル卿は苦笑していた。

「謝る必要はないさ。……そうだ、白月草の下処理は夕方までに終わるのか?」

 下処理作業は簡略化を図って、かなりスムーズに済むようになっていた。夕方までには終わる予定だ。だからコクリとうなずいた。

「そうかっ、じゃあ晩御飯を一緒に食べないか?」

「えっ……?」

 驚いてしまった。

「あ、変な意味ではなく、ヨフが……、いや、ヨフミィ公子がアクセミア公爵家に帰っただろう?今までの癖でつい一人分余分に作ってしまうんだ。エユドは確か王宮の宿舎住まいと聞いていたから夕飯は王宮の食堂を使ってるんじゃないか?」

「あ、ああ、はい。そうです。」

 つまり作り過ぎたから食べないかって話なのかな?
 期待した目で見られている。
 
「えと…。じゃあ、いただきます。」

 返事をするとパッと笑顔が返ってきた。
 う……、眩しい。

「分かった!仕事が終わったらこっちの作業場に来てくれるか?夕方から報告書をまとめる予定だから都合のいい時間に来てほしい。」

「わかりました。」

 了承すると、テフベル卿は手を振って出て行った。

「………。」

 ご飯…。
 人と食べるなんて学生の頃以来かもしれない。手土産とかあるべき?
 慣れないことに急に不安になってきた。



 言われた通り、仕事が終わるとテフベル卿のもとへと向かった。
 庭師の作業部屋は僕が使っている作業部屋よりも広いが、造りは木造で室内には肥料の袋や砂利の袋が積んであったり、積荷を運ぶ荷車や、作業道具が所狭しと置かれている。
 
「ああ、来たか。俺は帰るからお前たちも済んだら帰れよ。」

 同じ庭師の人達は思い思いに返事を返していた。
 騎士のようにビシッと引き締まっているわけでもなく、かといってだらけているわけでもない雰囲気は、テフベル卿がここの長をしているからなのだろう。

「いいなぁ、デートですか?」

 他の庭師はテフベル卿を揶揄っている。

「作り過ぎたご飯を食べるんだよ。お前達にも持ってきただろ?」

 気楽なやり取りをしながら、上着を羽織ってテフベル卿は出てきた。
 行こうと促されて後をついていく。

「あの……、手ぶらでは申し訳ないので…。」

 何か買っていこうと言おうとしたら、先に制されてしまった。

「ああ、デザートもあるんだ。これ以上何か用意すると食べきれないだろうからそのままでいいか?」

 そう言われてしまうとうなずくしかない。僕にはこれ以上の対人スキルはなかった。
 一番近い門から街に出て、テフベル卿の家は近かった。

「近いんですね。」

「近さで選んだんだ。王城近くの家を購入するのは高いんだがあまり遠いのも面倒でな。」

 なんとなくわかる気がする。
 僕も行き来が面倒と感じて王宮の中の使用人部屋を借りたのだから。
 到着した家は、小さく可愛らしいものだった。
 あちこちにいろんな種類の鉢植えが置かれ、天井からも鉢植えが吊るされていた。伸びた蔓がぶら下がり、小さな花を咲かせていた。
 家が小さいからかテーブルも暖炉も少し小ぶりだ。
 そんな中に大きな身体のテフベル卿が身体を小さくして動いているのが微笑ましい。
 たまらず小さく笑ってしまった。
 アルファでもこんな人がいるのだと驚いてしまった。
 料理を手伝うと言ったが、作ってあるのを温めるだけだからと椅子に座らされた。
 テーブルには焼き直したパンや、温めたスープ。温野菜のサラダとタレのかかった肉料理が出てきた。

「……全部自分で作ったんですか?」

「そうなんだ。下ごしらえをし過ぎた。」

 テフベル卿は笑って照れながら、対面にある二人がけの椅子に座った。身体が大きいからなんだなと気づくと、またおかしくなって笑ってしまった。
 料理は素朴でおいしかった。
 会話は僕に合わせてゆっくりと進み、お酒も出されて調子にのって飲み過ぎてしまった。
 お腹いっぱいで、ポカポカして、自分の部屋に帰るのが面倒に感じる。

「あ、おい。あー……、飲ませ過ぎたか?しまった。」

 テフベル卿が何か言っている?
 あれ?
 目の前に皿が近づき、大きな手が身体を支えていた。

「使用人棟は……。どこの棟か聞いたことないな…。」

 上で寝ていくかと聞かれて、あまりの眠たさにうなずく。ふわふわとしながら眠ってしまった。



 次の日、目が覚めてびっくりした。
 小さなベットしかない部屋に寝ていた。寒くないようになのか、布団を重ねてかけられていた。
 困惑しながら起きて部屋を出ると、すぐに小さな階段があった。急な傾斜に恐る恐る降りていくと、昨日食事を摂った部屋が目に飛び込む。
 窓から入る朝日の煙るようなモヤの光と、暖かな食卓に少し感動してしまった。
 童話に出てくる小さな小人の部屋のようだ。
 だけどこの部屋の持ち主はアルファの大きな身体をしたテフベル卿だ。テフベル卿はどこだろう…。
 部屋の中は無人だったが、隣のキッチンには火の上に鍋が乗り、スープがコトコトと煮立っていた。
 美味しそうな匂いにお腹の音が鳴る。
 ガチャと家の玄関が開いた音がした。すぐにテフベル卿が部屋に入ってくる。

「起きたか。昨日は飲み過ぎたんだが体調はどうだ?」

 近づいてきて、身体を縮こまらせて僕の顔を覗きこんできた。顔の近さに驚いてしまう。

「大丈夫……、です。」

「そうか。お腹は空いてないか?あっさりしたものを作ったんだが。」

 お腹は空いているのでお願いした。
 まるでお伽話の中に入ってきたような気分がする。こんな朝は初めてだった。思わず鼻歌が出てしまう。
 ゆっくり朝食を摂っていると、目の前のテフベル卿がクスッと笑った。
 
「……すみません。ずうずうしくて…。」

 恥ずかしい。鼻歌を聞かれていた。

「いや、喜んでくれているようで嬉しいだけだ。」

 優しい笑顔に大人の余裕を見せつけられた気がする。
 テフベル卿はアルファだけど、歳が離れているからか一緒にいても苦痛じゃなかった。










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