悪役令息が戦闘狂オメガに転向したら王太子殿下に執着されました

黄金 

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番外編

128 王弟殿下の紅玉⑩

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 花火が上がり紙吹雪が舞う。
 大聖堂の長い階段の上で、笑顔で手を振りゆっくりと降りてくるナリシュ王太子殿下とオリュガを見上げて、ニンレネイは涙を滲ませて拍手をしていた。
 多くの貴族が参列する中、本日晴れやかな挙式が行われた。
 真っ白な王族の衣装と、それに合わせたオリュガの衣装は、お腹に子供がいる為ゆったりとしたものになっている。ズボンではあるが、上着の裾が長く広がるドレスのようにも見える衣装だ。長いレースのベールが階段に敷かれた真紅の絨毯に広がり、とても豪奢で美しい。
 普段は王城内にある奥深くの宮で過ごしているツィーニロも、表には出て来れないので、少し離れるが塔の上から見ているはずだ。
 新たに侍従となったペルリャと、専属護衛となりつつあるタフィマ副団長に任せているので大丈夫だろう。
 ニンレネイ達は親族として参列しなければならないので、一緒に見れないのが非常に残念だった。
 ノルギィ王弟殿下とニンレネイの婚約式の時は一緒にツィーニロも並び、養子として迎えることを宣言する予定なので、その時が待ち遠しくもある。

 王都をぐるりとパレードする二人を見送り、夜はまたパーティーとなる。
 招待客は他国からも来ているので、三日間は続く予定だった。
 その一日目のパーティーに参加し、各所に挨拶を済ませてニンレネイは会場の端に寄り少し休憩することにした。
 ノルギィ王弟殿下は王族の周りに影として護衛する魔法師団の確認をする為に離れている。
 オリュガと挨拶をしたが、今日の主役は忙しい。また後で話そうと言って別れた。あの我儘令息だったオリュガが今や王太子妃とは感慨深い。
 綺麗に着飾り王太子殿下の隣に並ぶ姿は、堂々として誇らしかった。
 
 それにしても………。

「ラスラナテル侯爵にご挨拶申し上げます。これは我が家の娘でして…。

 などと何故かオメガの子息子女を勧める貴族家が後を絶たない。ニンレネイがノルギィ王弟殿下と婚約することは周知の事実。そこにウチのオメガはどうですかと紹介してくるのだ。ノルギィ王弟殿下の側妃か、または二人の愛人にでもどうですかと言うのだ。もし子供が産まれれば大公家の子供。王家に連なることが出来ると思うらしい。
 その度にニンレネイは無表情にお断りしていた。

「ふ、くくく、みろ、アルファのくせにアルファに尻を突き出すくらいだ。オメガはいらないんだろう。」

 そんな声がどこかから聞こえる。
 ……あれは、他国の者か。他国の公爵家の息子だったか?親について来たのだろう。まだ若く学生のように見えた。
 無視しよう。
 他国の貴族を注意したって面倒臭い。聞こえなかったフリでいいだろう。アニナガルテ王国の者ならノルギィ王弟殿下にそんな口きける者はいない。必ず不幸になるからだ。
 はぁ、と息を吐くと、ニンレネイは人目を避けてカーテン奥の通路に出た。人の騒めきは聞こえるが、通路には誰もいない。
 
「ニンレネイ・ラスラナテル侯爵にご挨拶します。」

 カーテンから先ほどの青年が姿を現した。態々追って来てまで何をしたいのだろうかと内心溜息を吐きながらも、ニンレネイは視線を送る。

「貴国では挨拶の仕方も習わないのか?」

 ニンレネイはラスラナテル侯爵家当主だ。国は違うが目の前の青年から無遠慮に名を呼ばれる地位ではない。
 ニンレネイの冷たい視線に青年は狼狽えた。

「……っ、ちが、俺はっ!」

 青年がニンレネイに近付こうとすると、間に人が一人立ち塞がった。

「それ以上の接近はご遠慮願います。」

 腰に下げた剣の柄に手をかけて、ザーティルが牽制した。
 
「いたのか?」

 ニンレネイは驚く。

「はい、ニンレネイ様専用の護衛に昇格しましたので。」

 ……それは昇格なのか?ニンレネイは首を傾げた。
 青年が怯んだところで、青年の侍従が飛んできた。

「ひえっ、何を!」

 侍従はキョロキョロと青年とニンレネイを見比べ、慌てて頭を下げる。

「申し訳ございませんっ!」

 ニンレネイはしょうがないと頷く。

「これが会場内ならば問題になっていた。連れて行くといい。」

 侍従はペコリと頭を下げて青年を引っ張って行った。

「…ちょ、待ってくれ!」

 青年は何か言いたそうにしながらニンレネイをチラチラ見ていたが、ニンレネイは知らない顔をする。なんだか面倒臭そうだ。

「……なんだったんだ。」

 呟いたニンレネイに、ザーティルが剣から手を離して苦笑する。

「そりゃーアルファにモテるニンレネイ様ですから。」

 意味が分からないとニンレネイは怪訝な顔をした。


 翌日早朝、昨夜の青年から真っ赤な大輪の薔薇の花束が届いてニンレネイは驚愕する。
 手紙には昨晩は申し訳ありませんでした。是非滞在中にお茶に招待したいのですがと書かれている。

「?????」

 何故?
 ノルギィ王弟殿下がそれを見て黒い笑顔をしているのが怖い。どうやら何があったのか知っていそうだ。

「ザーティル、それはお断りの返事を出しておけ…そうだな……、姉が嫁ぎ先で既婚者と遊んでいたはずだ。そろそろ妊娠したんじゃないか?是非公爵閣下に教えてやれ。」

 …何故知っている?いや、それいいのか?他国のことだからどうでもいいのか?
 ニンレネイは本気か?と王弟殿下を凝視した。


 午前中は魔法師団が警護に当たっていた為、ノルギィ王弟殿下は朝食後直ぐに仕事に出掛けた。
 ニンレネイは結婚式の準備に携わっていなかったので休暇扱いとして仕事がなかった。明日までのんびりと離れの宮でゆっくり過ごせる為、昼食をツィーニロと摂って遊んで過ごした。
 夜になり漸く王弟殿下が帰宅して、三人で夕食を摂り、ツィーニロを寝かしつける。
 こんな生活が続くのかと思うと、ニンレネイとしては嬉しい。
 ノルギィ王弟殿下は寝てしまったツィーニロをペルリャに任せ、ニンレネイを散歩に誘ってきた。

「外に行こう。」

 カゴと袋を持っている。

「まさか外の屋敷に出るのか?」

「ああ、俺も明日はのんびり出来る。少し夜更かししてもいいだろう?」

 仕方ないな、とニンレネイは了承した。

 また二人乗りで行こうとするので、ニンレネイはもう一頭に乗ろうとしたのだが、軽々と王弟殿下の馬に乗せられてしまう。

「馬が可哀想だろう?」

「よく見ろ、この鞍はレクピドが作ってくれた魔導具なんだ。」

 説明によると魔獣の皮を使って馬用の鞍を作ったらしい。何故魔獣の皮かというと、魔力を通しやすいから付与魔法が掛け易いのだという。付与魔法で軽量化を図ったらしい。防御機能もついているし、治癒とまではいかなくとも、体力回復くらいまでは効果がついているのだという。なかなかの優れ物だ。

「もう直ぐ婚約だろうからお祝いだと渡された。離れの宮は入れないからな。ノビゼル公爵から睨まれながら渡されたなぁ。」

 睨みつけるビィゼト兄上と笑うノルギィ王弟殿下の顔が浮かぶ。レクピドは国王陛下の分も用意して、国王陛下の前で渡すように言ったらしい。ビィゼト兄上が微妙に使われている気がしてならない。レクピドは凄いなと感心する。

 ということで、と言われてまた二人乗りになってしまった。

 以前来た王弟殿下の屋敷は、秋色になろうとしていた。

「紅葉樹林が多い?」

「ああ、好みでな。」

 以前来た時は花が咲く春の森という感じだったのに、今は赤や黄色に色付きだしている。混ぜて植えているのだろう。
 またテラスに連れられて同じように足の無いソファに座った。
 夜だというのに明るいのは、ところどころに魔道灯が置かれていたからだった。森の中にポツポツと灯す光は、森の色を浮かび上がらせて美しい。
 葉の間から月と星が覗き、夜の風は少し冷たいが、ノルギィ王弟殿下が肩に毛布を掛けてくれたので暖かい。
 景色に見惚れている間に、目の前には料理が並び、果実酒が置かれていた。手際よく王弟殿下が用意してくれていた。

「……………贅沢だな。」

 至れり尽くせりで笑ってしまった。

「はは、そうだろう?俺はこう見えてマメなんだ。」

 そうかもしれない。手紙のやり取りだって面倒臭がらず毎回返事を返してくれていたし、こちらの質問や相談にもキチンとこたえてくれていた。
 頼りになる人だなぁと思う。
 王弟殿下が用意した酒は度数弱めの飲みやすいものだった。前回どうも酔っ払ったらしい。あまり自覚がなかったが。
 ツマミにハムやチーズが用意され、二人で喋りながら酒が進む。
 ああ、うん、これは飲み過ぎている気がする。
 とても楽しいのだ。
 闇世の中に、金の光が輝いている。王弟殿下のプラチナブロンドの髪が夜を照らし、とても綺麗でぼんやりと見つめた。
 
「………………。」

 ふと思いついてしまったことに思考が取られ、ニンレネイは黙り込んでしまった。

「どうしたんだ?飲み過ぎたか?」

 暗くてもニンレネイの肌が赤く色付いているのが分かる。
 普段はキリッと冷静な瞳が、今はトロンと落ち掛けていた。

「…………殿下は…………。」

 ウツラウツラとしながらニンレネイは話し出す。隣に並んで座っていたので、肩を抱いてノルギィは支えた。

「よく、こうやって……、付き合った人と過ごしたのか?」

 揺れる緋色の瞳がノルギィを見た。いつもは自分から決して触れようとしないくせに、今日はノルギィの服を掴んで近付いてきた。

「こうやって、楽しく、過ごしたのか?」

 ノルギィは目を見開いてニンレネイを見つめ返した。

「………一緒に過ごすことはあったが、ここに連れてきたのはニンレネイだけだ。」

 ニンレネイは何かを考えようとしているのか、クリクリと頭を動かしているが、思考が纏まらないといった感じで眉を顰めた。

「でも、楽しく過ごしたんだ…。」

 ………これは、可愛いな?
 ニンレネイは恐らくノルギィの過去に付き合ってきた者達に嫉妬しているのだろう。付き合っているというには性処理の一環であり、恋人でもなんでもないのだが、必要ならば酒を飲み交わしたりもしている。
 だがこんなに打ち解けた楽しい関係は今までなかったのだが、ニンレネイにはそれは分からないだろう。

「楽しく過ごしたのはニンレネイだけだ。」

 優しく諭すように話しかけ、肩に置いた手をニンレネイの頭に添えて引き寄せた。簡単にノルギィの肩にポスンと寄り掛かる。
 ボー……としながらもニンレネイはまだ何か言いたそうだ。

「うーん………。でもしただろう?」

「………………ニンレネイは本当に可愛いな。」

 過ぎ去った過去のことはどうしようもない。ニンレネイ以外と遊んだのは事実なので素直に謝ることにした。

「もうニンレネイ以外とはしないさ。こんなに可愛い人が手に入ったのに、他に目移りするわけない。」

 どうやったら信じてくれるだろう?
 両手で頬を包み込み小さくキスを落としていく。こんなに優しく相手を扱ったことなんてない。
 信じて欲しくて優しく優しく見つめてキスをした。
 緋色の瞳がトロトロと潤んでノルギィを見ている。いつもはどこか逃げるように視線を逸らすのに、今日はノルギィを見ていた。
 ニンレネイはいつも人を見る時、感情を読まれないよう表情を消してしまう。だから冷徹だと言われてしまうのだが、本当は穏やかで優しい人だ。
 ノルギィから視線を外すのは恥ずかしいから。
 自分の心を読まれたくなくて、恥ずかしいと視線をずらす。その姿は可愛いし、その後にノルギィを見る表情も可愛い。
 冷徹な仮面を取ってしまえは、すぐに赤くなるニンレネイがとても愛おしい。
 これで仕事は割り切って完璧なのだから、ニンレネイは本当に素晴らしい。守るものがある時の決断力はノルギィでも感心するほどだ。
 
「………おれは、かわいくない…。オメガじゃないし、女でもないし……。」

 まだ気にしてるのか。

「ふふふふ、バカだなぁニンレネイは。俺の好みは男性のアルファだと言ってるのに。」

 ニンレネイの左手を掬い取り、目の前で指輪にキスをして見せる。
 眠たそうな瞳がふわふわと笑った。

「………そうか。そうだった、でも………。」

 嬉しそうにスリスリと頭を揺らす。

「でも?」

「俺よりも、……殿下の方が、とても、綺麗……。」

 ふぅ~と瞼が閉じてしまった。

「あ………。」

 寝てしまったか。
 ニンレネイは俺のことを綺麗と思っているのか?俺よりも遥かにニンレネイの方が綺麗な顔立ちをしているのだが。
 ニンレネイは酔っ払うと正直になるらしい。その代わり寝てしまう。良し悪しだ。次は酔ったまま襲ってしまうか?起きた時怒るだろうか。
 ノルギィはくだらないことを暫し考えた。

ーーー団長……。ーーー

「どうした?」

ーーー任務終了です。公爵親子は急ぎ帰国するそうです。ーーー

 発信者はザーティルだった。ノルギィ達がどこにいるのか分からなかったので、風魔法で報告してきたのだろう。

「分かった。今後同じようにニンレネイに接触する者が増えるだろう。その都度対処し報告しろ。」

 命じると了解と短く返事をしてザーティルは魔法を遮断した。

 王太子の結婚式で、幸せそうに笑う弟に、涙ぐんで微笑み拍手を贈るニンレネイを、惚けて見ている者は多かった。ノルギィが威圧をかけるとすぐに青い顔で視線を逸らせていたが、少し離れただけで直ぐに話しかけてくるバカがいる。
 ニンレネイは決して弱くはないが、あまり争いごとを好まないので、咄嗟に対処出来ないだろう。ザーティルを隊長にして数名護衛をつけることにするしかなかった。
 本当はノルギィが常に側に置いて守りたいのだが、そういうわけにもいかない。
 赤い顔でスピーと寝息を立てるニンレネイを胸に抱き、ノルギィはさてどうやって帰るかと思案する。
 ツィーニロがいるので宮には帰る必要がある。
 この束縛される面倒臭さもまた、心地よいものだ。







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