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番外編
155 ツィーニロの黄玉①
しおりを挟むツィーニロの両親はどちらも男性アルファだ。アルファ同士の夫婦はたまにいるけど、男性同士のアルファというのは珍しい。
でもそんなことはどうでもいいと思えるくらい、ツィーニロは両親のことが好きだった。
強くてカッコいいノルギィ父上と、優しくて綺麗なニンレネイ父様が大好きだった。
ツィーニロの本当の父親が、ツィーニロのことを心配してノルギィ父上達に僕を預けたらしい。僕は三歳にもう直ぐなるよというくらい幼い時だったので覚えていない。
僕を引き取ったのは二人が結婚する前だったらしいけど、結婚と同時に大公という爵位を得て王族から退いたと聞いている。大公領は王都から近い場所になる。
王族のアルファで王位に就かない者が、臣下降格した場合に与えられる爵位として使われており、ナリシュ王太子に嫡子が誕生したことで、王弟ノルギィ・カフィノルアは臣下へと降ることが決定した。
クシェヌ大公と大公妃。それが両親の爵位になる。
ツィーニロは父上とそっくりだとよく言われる。養子なのに見た目がそっくりな所為で、陰ではノルギィ・クシェヌ大公閣下の隠し子だと囁かれている。
でもその理由をちゃんと父上は話してくれた。ノルギィ父上と僕の本当の父親が兄弟だから似ていてもおかしくないって。それに王族の先祖返りという同条件が余計に見た目を似せてしまったのだろうって説明してくれた。だから他所の人間が何を言おうと僕は気にしない。
僕は十歳になった。
午前は剣術の練習、午後は座学と毎日忙しいけれど、たまに王城へ遊びに行ったりもする。
ロラシュ王子殿下の遊び相手だ。
ロラシュ・カフィノルア王子はナリシュ王太子殿下とオリュガ王太子妃の子供だ。歳が近いから僕達は遊び相手として引き合わされた。ロラシュは今七歳になる。
オリュガ王太子妃はニンレネイ父様と兄弟だ。父様達は四人兄弟で、よくノビゼル公爵家や王城で会っている。すごく仲良しだ。
ロラシュにも下に弟達がいる。
僕は流石に僕以外の兄弟は出来ないので、ずっと一人っ子なのは仕方ないけど、たまにいいなぁって羨ましくなる。
そう言ったらロラシュが僕達が兄弟だからいいだろうって言ってくれた。
ある日ロラシュから旅行のお誘いが来た。
場所はアニナガルテ王国から南にあるテイローラワ国のリフィッツエ伯爵領だった。
両親の学生時代の友人と先生がいるらしい。昔、テイローラワ国を訪問中、海賊討伐や疫病の治療に尽力したとして、リフィッツエ伯爵領を授かり現在もテイローラワ国民として領地を治めている人達だと聞いた。
オリュガ王太子妃はずっとこの国に来てみたかったらしいのだが、出産が相次ぎ来れなかった。
ロラシュの下にはオメガの弟チュレジュ五歳と、ハリュシュ三歳のアルファの弟がいる。
チュレジュはオリュガ王太子妃そっくりの容姿をし、ハリュシュは王族のアルファ性であるのにプラチナブロンドの髪に緋色の瞳を持って生まれた。
王族のアルファで瞳の色が群青色でない者は初めてらしく、皆驚いたらしい。
今回の旅行は王太子家族と同行になった。
オリュガ王太子妃はとても楽しみにしている。
「ハリュシュの三歳のお披露目が済むまでダメっていうから我慢したんだぁ~!」
「……………四人目もいいんだよ?」
「そのうちねっ!そのうち!」
「そう?残念だね。」
僕に自由を頂戴っ!とオリュガ王太子妃は叫んでいた。
リフィッツエ伯爵領はアニナガルテ王国の国境から近いのか、国境を越えてから一日も経たずに到着した。
元は王家所有の港町だったというだけあって活気がある。
伯爵家が暮らす屋敷は、リフィッツエの町の北側にあった。中央を真っ直ぐ走る大通りの最終地点に新しく建てたらしい。元々はオメガ保護施設があったのだが、保護施設も新しく建て替えて引っ越したのだという。
「………うわ~~~、ホントに来た。」
出迎えたのは見目麗しい番の夫々だった。
ネイニィ・リフィッツエ伯爵夫人は金とピンクが混じり合って輝く綺麗な髪をしていた。鮮やかな緑色の瞳はオリュガ王太子妃をギンッと睨みつけていたが、オリュガ王太子妃はその視線を受けてもニコニコとご機嫌だ。
「やっほぉ~、来ちゃった!」
仲のいい学友かと思いきや、ライバル同士か何かだったのかな?
「ほら、ネイニィ。お客様を玄関に立たせたままは失礼だよ。小さな子供達もいるから案内しよう?」
アルファのヨニア・リフィッツエ伯爵は穏やかに笑って出迎えてくれた。歳的にこっちが先生?
「突然の来訪に対応していただき感謝致します。」
「いいえ、以前よりお世話になったのはこちらです。我々からは訪ねにくく、いらして下さり嬉しく思います。」
ナリシュ王太子殿下が挨拶をすると、伯爵も笑って応えている。この二人は貴族~という感じだ。
部屋に荷物を運ぶ間、僕達は応接間でお茶をいただくことになった。
リフィッツエ伯爵家にはオメガの男の子が一人いるのだと言われ、紹介しても構わないかとナリシュ王太子殿下は尋ねられた。
それに応えたのはオリュガ王太子妃の方だった。
「ええ!?ネイニィの子?見たい、見たいーー!」
「あのねぇ!相変わらず喧しいよね!?」
「こらこら。」
興奮する伯爵夫人を伯爵が止めていた。
オリュガ王太子妃は伯爵夫人のことが好きなようだけど、伯爵夫人の方はどうも嫌っているらしい。
「六歳になるリーニィーです。」
呼ばれて入ってきたのはストロベリーブロンドの髪に大きな灰色の瞳の男の子だった。
僕とロラシュには直ぐにリーニィーがオメガだと分かった。だって凄く良い匂い!それにこんなに可愛い子初めて見た!
勿論チュレジュも可愛いけど、チュレジュはどちらかといえば弟みたいなものだから、他家のオメガの子で可愛いと思ったのは初めてだった。
「こんにちは。」
僕達は早速リーニィーを遊びに誘った。
「いいの?オリュガの子供、僕の子に夢中みたいだよ?」
「あ、うん、良いんじゃない?」
伯爵夫人はガクッと頭を落とした。
「そんなことより海賊は?出たんだよね?」
「はぁ?まさかそれ見にきたの?出たのうちの国じゃないからっ!隣だよっ!」
「えー?救援に来ましたぁって言って乱入しに行こうよ。」
「え!?ちょっと、なんでアンタ性格変わってないの!?ちょっとは王太子妃っぽくなってなよ!」
「やってる、やってる!仕事はちゃんとやってるよぉ~!しゅっぱぁーつ!」
ちょっと!?と叫ぶ伯爵夫人を引っ張って、オリュガ王太子妃は消えていった。
「…………。」
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リフィッツエ伯爵がタラリと汗を流しながらナリシュ王太子に尋ねる。
「………そろそろ引き止めるのも限界でしたから。」
妊娠出産や子育てを理由にたまにしか外に出して貰えなかったオリュガ王太子妃は、とうとう我慢の尾が切れた。
四人目にストップをかけ、暫く間を置くと宣言し、ネイニィの所に遊びに行くと言ったのだ。国内ならば兄弟達の所に頻繁に遊びに行くが、他国には出ていなかった。
自分は王太子として外交に出るくせに~っ!とオリュガは駄々を捏ね、ナリシュに旅行を認めさせた。
アルが言うにはナリシュ王太子は元々番は王宮の奥深くに隠すタイプなので、アレでもかなり隊長に譲歩してると思いますよ、と言われた。
それでもっ!
もう限界だった。ナリシュも子供達も一緒に行けば良いでしょ?と強行したのだ。
子供達にはそれぞれ護衛が付いている。
ロラシュにはミリュミカが、チュレジュにはオメガのフェロモンを感じないシカヒィーロが普段から護衛に付いている。末っ子のハリュシュはまだ三歳なので両親のうちどちらかが見ておくことにして、ロラシュが誘ったツィーニロには侍従のペルリャと魔法師団のタフィマ副団長が護衛として付いてきた。ツィーニロの両親はどちらも急な日程だった為、仕事の都合が合わなかったので、今回はツィーニロだけ参加している。
暴れるなら国外で。しかも海の上になりそうだし、まぁいいかとナリシュは納得して連れて来た。
「では、出港の準備を急がせます。我々も行きましょうか。」
ヨニア・リフィッツエ伯爵の対応は柔らかい。
ナリシュも和やかに微笑んで伯爵邸を出発した。
用意されていた船は海軍から借り受けた海軍船一隻だった。
隣国の要請ではリフィッツエ伯爵を指名して救援要請をしてきた。隣国の戦力では対処しきれず、国土まで攻め込む勢いなのだと言って、滅べばテイローラワ国にも進軍するだろうというやや脅し気味の依頼だったのだが、ネイニィは攻めてきたら殲滅すれば良いでしょ?と行く気がなかった。
用意していた海軍船はその時の為のもので、隣国の為に用意したわけではない。
ヨニア・リフィッツエ伯爵の命で直ぐに出港の準備がなされ、港を出て二日後、目的の海賊の群れを見つけた。
「うわっ、うわわっ、結構いるねっ!ねっ!ネイニィっ!」
ガクガクと揺らされながら、ネイニィはもう諦め顔でうんざりしている。
「あー、はいはい、そうだねぇ。いっぱいだよ。好きにやれば良いよ。」
ネイニィは海賊討伐に出ればヨニアと一緒に居られないから嫌なだけだった。かと言ってヨニアが一緒に船に乗るよと言えば、それも嫌だった。
ヨニアは一度海賊に殺されかけている。
もう二度とそんな目に合わせたくなかった。
「僕はヨニアの側を離れるつもりないからね。」
「え~?ネイニィの強さを見たかったのにぃ。」
「この船を真ん中に突っ込ませるから見れるよ。」
ネイニィは海軍船を海賊達の中に進軍させて、聖魔法で無理矢理倒していくつもりだった。絶対に船から降りるつもりはない。
「じゃあ、それでも良いよ~。」
オリュガの号令で海軍船は真っ直ぐに突っ込んでいく。
ヨニアは王太子達の末っ子ハリュシュを受け取り抱っこして、まだ小さいオメガのチュレジュも足元に立たせた。
「君達は危ないからここでお留守番ね。」
二人は大人しく言われた通りに待つ。
チュレジュの護衛役シカヒィーロも側で待機するので、後は残りの人間で大丈夫だろうと思った。
ヨニアとネイニィの子供、リーニィーもオメガなのだが、この子はネイニィと一緒で規格外なオメガだった。
それにナリシュ王太子とオリュガ王太子妃がいる。彼等の強さは今では世に語られるくらいだ。今は自国が平和で政務に明け暮れているだろうが、まだまだ二人は若い。
ヨニアは自分がまるっきり戦力外だと自認しているので、大人しく見守るつもりでいる。
「戦力外で申し訳ないね。」
「僕が守るからいいんだよ。」
フンッと意気込むネイニィに、ヨニアは微笑みシカヒィーロと海軍の護衛兵達を見る。彼等も頼もしく頷くので、ヨニアは安心することができた。
じゃあ、足場を作ろうか。
そう言ったナリシュ王太子から、凍える魔力が渦巻いて吹き出る。魔法剣を抜き船首に立つと、何度が剣を空に走らせた。風が大気を切るように走り、船の集団によって荒く波打つ海面を切り裂く。
波が一瞬割れて、そこが瞬時に凍りつく。
ピキピキと氷の筋が走り、数分後には真っ白な氷の海が出来上がった。
「一日くらいはこのままだよ。」
暖かい南の海で、海面が凍ることなどあり得ない。初めて見た者が殆どだ。
あちこちで驚き恐怖する声が聞こえた。
オリュガはヒョイと船から飛び降りると、近くにあった中型船を縦に切るべく走る。双剣金青を抜いて、金の剣から雷を降らせた。
ズッ……………、ドオォォォンと眩く落ちて、船は崩壊するように真っ二つに割れる。
「………うわぁぁ。」
ネイニィ以外、一緒に海軍船でやってきた面々は言葉を失った。
ナリシュは平然と他の船への攻撃に移る。
「……すごぉーい。」
リーニィーは灰色の目をキラキラとさせて見ていた。目が輝くとそれは銀色にも見えて、ツィーニロとロラシュは綺麗だなと見惚れる。
「僕もやる。」
リーニィーはフンッと握り拳を作った。
アニナガルテの王太子妃様はオメガだと聞いている。同じオメガ。父様だってオメガで凄く強い。僕だって!
両手を握りしめて、リーニィーはオリュガを真似するように、エイッと片手を頭上から振り下ろした。
オリュガの金の剣のように、リーニィーの片手に魔力の塊が出来て、振り下ろした瞬間ポワワンと広がった。
「…え、可愛い。」
「なんかフワフワっとした魔力だね。」
ツィーニロとロラシュが攻撃の有無はともかくリーニィーを誉める。
リーニィーはそんな二人のことは気にせず、自分が作った魔力が何故かふわっと散ったことにガッカリした。
「………へぇ、凄いね。魔力を打ち消したのか。」
ナリシュは自分が凍らせた海面を覗き見た。
リーニィーが放った光の塊が、フワフワと海面に落ちて、落ちた場所の氷を消滅させていた。範囲は広くないがそこは魔力操作次第だろうなと観察する。
「わぁ~、これはこれで面白いねぇ。」
オリュガも海面を走ってきて、消えた氷を覗き込んだ。
「落とし穴?」
ヨニアとネイニィ達と一緒にいたチュレジュも手摺りから覗き込み、ほえぇ~と感心しなが感想を言っている。
ヨニアとネイニィは我が子の意外な能力に、これはこれで珍しい魔法なので、うう~んと頭を抱えた。リーニィーはネイニィの子供と言うだけでなく、美しいオメガだった。まだ幼いにも関わらず、求婚目当ての招待状が多い。
魔力も多く珍しい魔法使いとなると、また騒がしくなりそうだった。
「………二人目は作らないのかな?」
ナリシュの興味津々と言った顔に、ネイニィはなんで昔ナリシュが一番と思ってのかとヒクッと頬を引き攣らせた。
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