君は僕の道標、貴方は俺の美しい蝶。

黄金 

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10 僕の希望

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 ラダフィムが襲ってくるのは毎日では無かったが、あれから浄化の旅に出る度に、必ず1度犯されていた。
 どうやら旅の間はジュリテアがヒュートリエ様とほぼ2人きりになるらしく、それが我慢ならずに僕で欲を晴らしているらしかった。
 少しだけ助かったのは、ラダフィムがお風呂に入らずにいる人間を抱きたくないと思ったらしく、王宮の僕の部屋が少し良い部屋になった事だ。
 純粋にお風呂付きでちゃんと石鹸が置かれる様になった。
 
 旅の間はラダフィムが、王宮ではナギゼアの暴力行為が続いていたが、治癒しても意外とこの頭巾でバレないのだと気付いた。
 ラダフィムはナギゼアの制裁の時はいないので、どの程度傷付けられているのか知らないし、ナギゼアはラダフィムが僕を犯す時は離れている。
 あの2人はあまり僕の身体を確認しない。
 2人の行為が終わり、離れた隙に身体を治す。
 この流れが定着していった。

 アルゼトは相変わらず僕に優しい。
 ツベリアーレ公爵家との橋渡しをしてくれて、父様からの援助をこっそりと繋いでくれている。
 アルゼトにも父様にもラダフィムとナギゼアの事が言えずにいた。
 酷く自分が汚くなった気がして、2人を悲しませる気がして、言えなくなってしまった。
 このまま最後まで言わなかったら、2人は僕がこんな目に遭っていたと知らずに、また前の様に笑って一緒に過ごせるかもしれない。
 そう思うと、それが僕の心からの希望になっていた。

 
 僕がアルゼトにツベリアーレ公爵家の様子を聞くと、僕の様子を伝えて父様達が悲しんでいると教えてくれる。
 どうか浄化の旅が終えるまで、王家に逆らわず待ってて欲しいと願うと、分かったと了解してくれた。
 王家が少しでもツベリアーレ公爵家に不信感を抱かない様に、そう願う事しか出来ない自分が情けなかった。


 年度の終わりにヒュートリエ様が卒業していった。
 卒業パーティーには『神の愛し子』であり婚約者であるジュリテアをエスコートし、2人は仲睦まじくダンスを踊る。
 そういう話の流れだった筈だ。
 そして来年度はラダフィムの卒業で、そして僕達の学年ではナギゼアが相手を務めた筈だ。
 上手い事一年おきに相手がいるのだなと感心した。


 新しい年が始まり、僕達は新しい学年に上がった。
 今年から学院にはヒュートリエ様がいないので、ラダフィムの苛つきも減る事だろう。
 そうしたら僕を当たり散らす様に抱くこともない。
 痛い思いをする回数も減る。
 
 

 僕は早く小説の内容が終わればいいと思っていた。
 このまま何事も無く浄化の旅も終わり、両親とアルゼトが死ぬ事もなく、僕は静かに退場したい。
 今のところラダフィムとの婚約もされてないし、浄化が終わりジュリテアがヒュートリエ様と結婚すれば物語は終わるのだ。
 そうしたら自由だ。

 僕はツラツラとそんな事を考えながら歩いていた。
 昼をどこで食べようか。
 いつもこれが悩ましい。
 頭巾があるので顔を見られず食べるのに手間がかかった。

 小説の話から自由になる、そればかり考えてて、内容を反復するのを疎かにしていたのかもしれない。
 だから、自分が内容通りに動いていると、今更ながらに気付かされた。
 でも仕方ないと思う。
 小説の中でもし何日の此処とか書かれてても、1度読んだくらいじゃ覚えてない。
 だから今とは思わないじゃないか。



「ジュリテア様、この気持ちは持つべきで無いと理解しております。ですが、貴女が愛しくて仕方ないのです!」

 上級生らしき男子生徒が、ジュリテアを呼び出し告白している現場に出くわした。
 なんか知ってるかもしれない。
 そして、これが小説の通りなら………。

 カサリ…。

 僕はジュリテアと男子生徒に見つかるのだ……。
 気付くのが遅れて逃げれなかった。
 この話が進むと、カシューゼネは益々痛い思いをする事になる。

 前世の姉ちゃんの推しはカシューゼネだ。
 哀れで可哀想で美しい双子の兄。愛に飢えたヤンデレと言われていた。
 何故正規ヒーローとも言うべき王太子のヒュートリエ様が1番の推しにならなかったか……。それはヒュートリエ様はサド気質。
 なんと言ってたけっけ?
 ドS攻めは美味しいけど鞭はないわぁ~と言っていた。
 強すぎる快感に主人公が喘いでもうやめてぇ~と言うのはいいけど、鞭で叩くは姉的にNG。とかなんとか………。
 いや、主人公ジュリテアの前に試し打ちされてたのカシューゼネだし…。
 それ僕だし…。
 ジュリテアに与える鞭では足らないとばかりに、カシューゼネは何度も鞭打たれ傷付いていく。

 そのヒュートリエ様の相棒、鞭が出てくるのがこの話からだった。

 僕はどうやってこの現場から離れようかと思案した。
 無言で走って逃げる?
 そう思って足に力を入れた時、ジュリテアが男子生徒の前に立って、僕をキッと睨みつけた。
 子猫の威嚇程度で怖くもなんともないけど。

「兄様、こんな校舎から離れた場所で何をされてるのですか?」

 何も悪い事はしていない。ただお昼のパンを食べる場所を探してただけだ。
 静かに誰にも邪魔されずに過ごしたいだけ。
 何でか僕は悪者の様に見られている。
 
 本来未来の王太子妃となるとジュリテアを人気のない場所に呼び出し告白するなんて、一塊の貴族子息が許される事ではない。
 王家に知れれば良くて退学、悪くて家に何かしらの制裁がいく。
 ジュリテアもそれを理解しているのか、この生徒を庇うつもりの様だ。
 分かってるなら何故呼び出しに応じたのかと問いたい。
 小説の中のジュリテアは応じる事は出来なくても、思いを聞いて断ち切らせるのも彼の為になる……。等と言っていた。
 『神の愛し子』で王太子の婚約者なのだから、今のジュリテアに想いを寄せる生徒なんて大量にいるのに、いちいち応じる必要は無いと、今の僕なら思う。

「まさか、ジュリテア様に害をなそうと!?」

 なんでか男子生徒が興奮しだした。
 この学院は15歳で加護を授かった貴族子息が来る場所だ。だからこの男子生徒も何かしらの加護を持っているのだろう。
 手のひらに何か力を溜め出している。
 攻撃系だろうか。
 流石に学院で戦闘はしたく無い。
  
 僕が何かを言う間もなく男子生徒は力の圧を投げつけて来た。
 それは暴風となり僕に勢いよく飛んでくる。
 直撃は受けたく無いので、僕は炎を出してその暴風を受け止めた。
 樹々が軋み葉が散って空気が暴れた。
 こんな所で、ジュリテアが直ぐ側にいるのに攻撃するなんて。
 
 僕はとりあえず逃げようと踵を返した。
 走り出そうとして腕を捕まえられる。

「……!?」

 遅かった……。
 ラダフィムが呼び出されたジュリテアを心配して迎えに来たのだ。
 本来はここで更に攻撃を仕掛けようとするカシューゼネを、ラダフィムが取り押さえるのだが、この流れはどなるのだろう。
 
 ラダフィムは僕を離さずに、ジュリテアだけを見ていた。
 頬に傷。
 ジュリテアの白く滑らかな頬に、シュッとかすり傷がついていた。
 僕の喉がヒュッとなる。
 ジュリテアに傷が付いたらナギゼアの折檻があるのはいつもの事。
 でも今回は意味合いが違う。
 
「………貴様っ!」

 ラダフィムの怒りは僕に向いていた。
 
「ラダフィム!違うんだ。僕が前に出たからいけないんだよ!」

 ジュリテアが慌てて怒るラダフィムを宥めようとラダフィムに走り寄った。
 
「…………ジュリテア、わかった。カシューゼネには後から話を聞こう。まず先に傷の手当てをしようか。」

 ラダフィムは僕に耳打ちして、ジュリテアを連れて去っていった。

 ヒュートリエ様に報告する。

 僕は強く掴まれ痛んだ腕を握りしめて、呆然と立ち尽くした。
 男子生徒はいつの間にか逃げている。
 僕も逃げ出したかった。









 王宮に帰りたく無かったのに、今日はナギゼアが帰り道で待っていた。
 僕の顔は思いっきり嫌な顔をしただろうが、灰色の頭巾で見えなかっただろう。
 
 逃がさないとばかりにナギゼアが先に連れ立って帰路につき、僕は自分の自室に連れ戻される。

 部屋につき勉強する為の椅子に座らされた。
 程なくヒュートリエ様がやってくる。
 手には細長いケースを持っていた。

 あれに入っている物を知っているだけに、この部屋から走って逃げ出したくなるが、座った僕の肩をナギゼアが捕まえて抑え込んでいた。

「久しぶりだね、カシューゼネ。」

 ジュリテア無しで会うのは本当に久しぶりだった。
 あの日、15歳で加護を授かった日から、ヒュートリエ様はジュリテアにベッタリとくっついていた。
 元婚約者はアッサリと切り捨て、ジュリテアを王命で婚約者にした。
 浄化の旅の時に少し一方的に話されただけで、会話は無い。
 目すら合っていなかったのでは無いだろうか。
 今ですら久しぶりと言いながら、ヒュートリエ様が命じた頭巾を被ったままである。

「ああ、返事はいいよ?今日はジュリテアに傷を負わせたと聞いてね。君が直接ジュリテアに危害を加えた時は、婚約者である僕が対応しようと思ってたんだ。ナギゼアの折檻だけでは君の凶暴な性格は抑えられなかった様だね。」

 にっこりとヒュートリエ様は微笑んだ。
 顔は笑んでいても、瞳の奥は笑っていない。
 その中には怒りと憎しみを湛えていた。
 僕は、カシューゼネは嫌われている。
 15歳に前世を思い出すまで知らなかった。
 小説の内容を思い出して、初めて嫌われていたのだと知った。
 愛しいジュリテアを傷つける、憎い双子の兄。
 ヒュートリエ様の中のカシューゼネは、そんな立ち位置だった。
 カシューゼネは産まれた時から婚約者だったヒュートリエ様を好きだった。
 他に誰かを好きになる事も出来ないし、ヒュートリエ様は賢く美しい王太子だ。
 好きであると、信じていた。
 ヒュートリエ様が本当はジュリテアを好きなのだと理解して、多少はショックは受けたけど、小説の内容を知って納得もした。
 だから、別に良かった。
 ヒュートリエ様とジュリテアが婚約しても、愛し合ってても、小説の中のカシューゼネ程傷ついても憎んでもいなかった。

 それでも、話はちゃんと流れてくるのかと、僕は項垂れた。
 小説の内容は綺麗にトレースされている。
 多少僕が違う行動をとったくらいじゃやっぱり変わらない。
 
 僕は今からあの鞭で叩かれる。
 叩くシーンはアッサリと書かれていただけだけど、今は現実なのだ。

 ついて来た護衛は部屋の外に待機させられた。
 ゆっくりとケースから取り出される黒い鞭。

「ヒッ…!」

「さあ、今回は私が君を罰しよう。」

 ヒュートリエ様が持って来たのは、姉ちゃん情報によると一本鞭と呼ばれる物らしい。
 編み上げた革製の鞭で長さは1メートル弱からもっと長い物まで。
 ヒュートリエ様が持って来たのは短い一本鞭と呼ばれる物だった。
 目配せを受けたナギゼアが僕の頭を頭巾ごと掴んで下に下げさせ押さえつける。

「さ、カシューゼネ様、お尻を突き出してください。殿下が打たれますよ。」

 ……え?

 頭を下げた状態で、制服のズボンの腰を引っ張られてお尻を高く上げた状態にさせられる。
 
「脱がせますか?」

「そうだね。一応革の柔らかい物を持って来たから大丈夫だろう。」

 僕の上で2人が会話をし、僕のズボンは膝の辺りまで下ろされ、僕の下半身が露わになった。

「……あっ、やっ…やめっ…て!」

 ブルリと震え腰が引ける。

「ちゃんと立って。ズレたら余計痛いよ。」

 ヒュンという音と共に、肉にあたる弾ける音が部屋に響いた。

「ああぁっ!?」

 皮膚に痛みが走り悲鳴を上げる。
 パシンッーーピシャーパシンッパンッッー

「あ゛あ゛っっ!!あっひぎっ!い゛だ、いぃぃ!!」

 涙が出て悲鳴を上げるが、ナギゼアの抑える手は緩まず、打ち付ける鞭も容赦が無かった。
 何度も何度も痛みと熱が走る。
 お尻から太ももの裏に掛けて打ち付けられ、救いを求めて手をバタつかせるが、ナギゼアは上半身を抱え込む様に押さえつける為動けなかった。

 十数回と受けた鞭が漸く終わる頃には、痛みで皮膚の感覚が無かった。

「ふぅん、数回程度ならこの鞭でも良いけど、遊びならもっと柔らかくしなきゃか。」

 ヒュートリエ様の声は冷静に僕の叩かれ熟れた部分を、じっくりと観察している様だった。

 頭巾の隙間から見えた足元には、血がポタポタと落ちて絨毯にシミを作っている。

 ナギゼアの拘束が漸く解けて、僕は力が出ずにベシャリと倒れた。
 
「次からは拘束具を用意してもらわないとですね。いちいち押さえておくのは面倒です。」

 ナギゼアの声にも冷たく、僕を労わるものは無かった。

「考えておこう。」

 床に倒れて意識が朦朧とする中、2人は何か話しながらそのまま出て行った。

「………………。」

 こんなの知らない。
 こんな酷い話し知らない。
 小説の中はジュリテアの可憐な美しさと、美しい男達のそれぞれの愛し方が書かれており、こんな痛みと苦しみは、どこにも書かれていなかった。
 カシューゼネは確かに鞭打たれたが、それすらもカシューゼネの孤独を強調するスパイスで、後からジュリテアを愛する為の布石でしかなく、カシューゼネの苦しみなんて書かれていなかった。

 苦しい。
 痛い。
 寂しい。
 悲しい。

 

 助けて……。






















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