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「えーーーー!」
「レイシャル様、若い女性がそんな口を開けてはしたない!」
「だって・・・アンヌが勝手にリリアンに屋敷を貸したって言うから」
「だから説明した通り、シェドの王都にはもう空き家はないのです。レイシャル様は王宮に泊まればいいでしょう。それともご高齢のカミュール男爵を寒空の下で寝させろと?」
「そうじゃないけど・・・じゃあ、ここで面倒を見れば良かったじゃない」
「なんですって?聞こえませんよ」
「いえ、何でもありません」
「それとミカエル、いつまで王宮にいるのです。さっさとワイアット様の屋敷に帰りなさい」
「俺はレイシャル様の護衛だぞ。仕事をして何が悪い?」
「貴方の勤務は10時から6時までです。結婚したら家庭を守るのも妻の役目です」
「俺は妻じゃない!っーーーか、ホワイト企業かよ」
「ワイアット様もさっさとミカエルを連れて帰りなさい!」
「うわっ!だから抱き付くなって・・・はあ、帰るよ。じゃあなレイシャル様」
最近ミカエルは俵抱きに慣れたのか、ワイアット様の背中から手を振っている。夜勤の護衛からも「お、帰るのか?」と普通に声を掛けられていた。
「レイシャル様、明日からは王妃教育を始めますから朝はしっかり起きてくださいませ」
「え?王妃教育?私はスザン王子と婚約破棄したのよ」
「せっかく学んだことを忘れては勿体ないでしょ。それにシェドの文化を知る事は、オーロラ商会でも役に立つはずですよ」
「それもそうね。じゃあ歴史を中心にお願い」
「かしこまりました」
***
馬車に乗っている間お互い沈黙が続き、堪らなくなったミカエルは屋敷に着くなり急いで自分の部屋に入った。
(アンヌが妻とか言い出すからすごく気まずい)
出国を理由にして断った結婚を、レイシャルによって止められたのだ。
(こんなことになるなら、ワイアットの屋敷に居座らなければよかった)
「ミカエル、入るぞ」
(っーーーーーー!)
「・・・・・」
内扉を塞いでも、廊下からマスターキーを使って入って来るワイアットに諦め、最近は内扉を塞ぐのを止めていた。ミカエルは相変わらずワイアットが内扉から現れると気恥ずかしくなるのだ。
「話がしたい・・・今いいか?」
「駄目だって言っても入るだろ」
「ああ、そうだ」
ワイアットが面白そうに目を細めると、目の端に薄い皺ができた。ミカエルはその皺が好きだった。
(くっそ。なんで俺が男なんかに見惚れないといけないんだよ)
「先ほどの話だと、ミカエルはこの国に残るのだな」
「そうなるな」
「ミカエル、改めて私との結婚を考えてくれないか」
「そんなこと言われても俺には無理だ」
「何故無理なんだ?」
「結婚なんて・・・。ただ一緒に住むだけじゃ駄目か?」
「確かにミカエルが側にいれば幸せだが、ミカエルを結婚相手として堂々と紹介したい」
「もし結婚をしたとして、ワイアットが俺を嫌いになったらどうする?」
「私の気持ちを疑っているなら、それはないと断言できる」
「そんなのこと分からないだろ。それに喧嘩をしたら?」
「ミカエル、夫婦でも喧嘩をする時もある。両親は仲がいい方だと思うが、そんな両親でもベラが実家に帰るほど大喧嘩になったことがある」
「あの両親がか?」
「そうだ。すぐに父上が迎えに行ったがすぐには許してもらえなかった。俺たちも一緒にいれば喧嘩やもっと厄介なことに直面するかもしれない。しかし、ふたりで知恵を出し合って乗り越えればいいと俺は思う」
「そうだな・・・。ところで、実家に帰るほどの喧嘩って何があったんだ?」
「ベラが話しているのに父上が返事をしなかった」
「はあ?それだけか」
「あの時は父上は肩を負傷して騎士を辞めるか悩んでいたのだ。何も聞かされていなかったベラは、そんな父上の態度に不安を覚えたのだろう。父上は、こんなことになるなら最初からベラに相談していれば良かったと言っていた。だから、俺はミカエルに些細なことでも話をしたいと思っている」
「話し合うってことか・・・」
「そうだ」
ミカエルは何かを考えるように、ワイアットの腕に輝く腕輪を見つめていた。ワイアットもミカエルを急かすこともなく、自然と言葉が出てくるのを待っているようだった。
「キースの話で俺は人を殺していないらしいが、それ以外にも俺は悪いことをしてきた。そんな人間が側にいれば迷惑がかかるだけだ。それにワイアットは貴族だろ。もっとちゃんとした令嬢を探さないと」
口では否定をしてもミカエルは幼い子供のように、椅子の上で膝を抱え込む姿はとても寂しく見えた。ワイアットは静かにミカエルを見つめていたが、立ち上がると膝を抱えているミカエルを抱きかかえると、椅子に座り直した。
「それはお前の意思でしたことではない。幼いお前は必死にリリアンを守ろうと命令を遂行しただけだ。でも、そのことが心の重みになるなら、これからはふたりで世の中が良くなるよう努力しよう」
「・・・・・」
「ミカエル、お前だから好きなんだ」
「駄目だ。俺といると不幸になる」
「俺を信じろ。俺たちならばどのような困難でも乗り越えられる」
ワイアットの逞しい腕に抱かれ、ミカエルは産まれてはじめて守られていると実感できた。
「ミカエル愛している。俺と結婚してくれ?」
「ああ、ワイアットを信じるよ。僕も愛している」
「レイシャル様、若い女性がそんな口を開けてはしたない!」
「だって・・・アンヌが勝手にリリアンに屋敷を貸したって言うから」
「だから説明した通り、シェドの王都にはもう空き家はないのです。レイシャル様は王宮に泊まればいいでしょう。それともご高齢のカミュール男爵を寒空の下で寝させろと?」
「そうじゃないけど・・・じゃあ、ここで面倒を見れば良かったじゃない」
「なんですって?聞こえませんよ」
「いえ、何でもありません」
「それとミカエル、いつまで王宮にいるのです。さっさとワイアット様の屋敷に帰りなさい」
「俺はレイシャル様の護衛だぞ。仕事をして何が悪い?」
「貴方の勤務は10時から6時までです。結婚したら家庭を守るのも妻の役目です」
「俺は妻じゃない!っーーーか、ホワイト企業かよ」
「ワイアット様もさっさとミカエルを連れて帰りなさい!」
「うわっ!だから抱き付くなって・・・はあ、帰るよ。じゃあなレイシャル様」
最近ミカエルは俵抱きに慣れたのか、ワイアット様の背中から手を振っている。夜勤の護衛からも「お、帰るのか?」と普通に声を掛けられていた。
「レイシャル様、明日からは王妃教育を始めますから朝はしっかり起きてくださいませ」
「え?王妃教育?私はスザン王子と婚約破棄したのよ」
「せっかく学んだことを忘れては勿体ないでしょ。それにシェドの文化を知る事は、オーロラ商会でも役に立つはずですよ」
「それもそうね。じゃあ歴史を中心にお願い」
「かしこまりました」
***
馬車に乗っている間お互い沈黙が続き、堪らなくなったミカエルは屋敷に着くなり急いで自分の部屋に入った。
(アンヌが妻とか言い出すからすごく気まずい)
出国を理由にして断った結婚を、レイシャルによって止められたのだ。
(こんなことになるなら、ワイアットの屋敷に居座らなければよかった)
「ミカエル、入るぞ」
(っーーーーーー!)
「・・・・・」
内扉を塞いでも、廊下からマスターキーを使って入って来るワイアットに諦め、最近は内扉を塞ぐのを止めていた。ミカエルは相変わらずワイアットが内扉から現れると気恥ずかしくなるのだ。
「話がしたい・・・今いいか?」
「駄目だって言っても入るだろ」
「ああ、そうだ」
ワイアットが面白そうに目を細めると、目の端に薄い皺ができた。ミカエルはその皺が好きだった。
(くっそ。なんで俺が男なんかに見惚れないといけないんだよ)
「先ほどの話だと、ミカエルはこの国に残るのだな」
「そうなるな」
「ミカエル、改めて私との結婚を考えてくれないか」
「そんなこと言われても俺には無理だ」
「何故無理なんだ?」
「結婚なんて・・・。ただ一緒に住むだけじゃ駄目か?」
「確かにミカエルが側にいれば幸せだが、ミカエルを結婚相手として堂々と紹介したい」
「もし結婚をしたとして、ワイアットが俺を嫌いになったらどうする?」
「私の気持ちを疑っているなら、それはないと断言できる」
「そんなのこと分からないだろ。それに喧嘩をしたら?」
「ミカエル、夫婦でも喧嘩をする時もある。両親は仲がいい方だと思うが、そんな両親でもベラが実家に帰るほど大喧嘩になったことがある」
「あの両親がか?」
「そうだ。すぐに父上が迎えに行ったがすぐには許してもらえなかった。俺たちも一緒にいれば喧嘩やもっと厄介なことに直面するかもしれない。しかし、ふたりで知恵を出し合って乗り越えればいいと俺は思う」
「そうだな・・・。ところで、実家に帰るほどの喧嘩って何があったんだ?」
「ベラが話しているのに父上が返事をしなかった」
「はあ?それだけか」
「あの時は父上は肩を負傷して騎士を辞めるか悩んでいたのだ。何も聞かされていなかったベラは、そんな父上の態度に不安を覚えたのだろう。父上は、こんなことになるなら最初からベラに相談していれば良かったと言っていた。だから、俺はミカエルに些細なことでも話をしたいと思っている」
「話し合うってことか・・・」
「そうだ」
ミカエルは何かを考えるように、ワイアットの腕に輝く腕輪を見つめていた。ワイアットもミカエルを急かすこともなく、自然と言葉が出てくるのを待っているようだった。
「キースの話で俺は人を殺していないらしいが、それ以外にも俺は悪いことをしてきた。そんな人間が側にいれば迷惑がかかるだけだ。それにワイアットは貴族だろ。もっとちゃんとした令嬢を探さないと」
口では否定をしてもミカエルは幼い子供のように、椅子の上で膝を抱え込む姿はとても寂しく見えた。ワイアットは静かにミカエルを見つめていたが、立ち上がると膝を抱えているミカエルを抱きかかえると、椅子に座り直した。
「それはお前の意思でしたことではない。幼いお前は必死にリリアンを守ろうと命令を遂行しただけだ。でも、そのことが心の重みになるなら、これからはふたりで世の中が良くなるよう努力しよう」
「・・・・・」
「ミカエル、お前だから好きなんだ」
「駄目だ。俺といると不幸になる」
「俺を信じろ。俺たちならばどのような困難でも乗り越えられる」
ワイアットの逞しい腕に抱かれ、ミカエルは産まれてはじめて守られていると実感できた。
「ミカエル愛している。俺と結婚してくれ?」
「ああ、ワイアットを信じるよ。僕も愛している」
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