婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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「え、ウエン?」

ウエンは一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐに恐い顔になってしまった。ウエンが怒った顔は私でも2・3回しか見たことがない。

余りの珍しさにヴァンと抱き合っているなんて、すっかり忘れていた。

こちらに向かって来るウエンを茫然と見ていたら、ヴァンの方が先に状況に気づいたのだろう。ぱっと私から離れたのだ。

「なぜふたりで抱き合っていた?」

「へ?」

「レイシャル、こっちに来るんだ」

「きゃ」

そう言って近づいて来たウエンに強引に腕を引っ張られると、気づいたらウエンと口づけをしていたのだ。

「あらら・・・」

「ん・・・ふぁ・・・ちょっと・・・ちょっと、ウエンなにするのよ!」

「私以外の男と結婚するなど許さない。好きだ。子供の時からずっと好きなんだ」

「はぇ?」

「子供の頃はスザン王子と婚約しているレイシャルを諦めるしかなかった。でも、レイシャルはこの腕の中に戻って来た。もう二度とレイシャルを手放す気はない」

「ウエンが私を好き・・・」

頭でウエンの言葉を反復していると、またあの病気が起こったのだ。胸の動悸が早くなる狭心症のような症状だ。もう心臓が口から飛び出しそうなぐらいドキドキしている。

「悪いが君には諦めて欲しい」

「ウエン王子、誤解です。私はレイシャル様の護衛としてお側にいるだけで、お会いするのも今日が2回目です。先ほどはウェディングドレスをご両親に見せたかったと涙を流すレイシャル様を慰めていただけで、やましいことは何もありません」

「んぅ?しかし、レイシャルがウェディングドレスを頼んだと聞いた」

そう言いながらウエンは並んでいるウェディングドレスに気づいたのだろう。

「・・・7着も頼んだのか?」

「ウエン王子、良くお越しくださいました。説明をしてもよろしいでしょうか?レイシャル様は従業員の為にレンタルドレスの製作を依頼されただけで、ご自身のウェディングドレスではございません」

「レイシャルが結婚するのではないのか?・・・・・・アンヌめ、また騙された」

「それとレイシャル様をそんなに強く抱きしめると、潰れてしまいますよ」

「あっ・・・レイシャル、大丈夫か?」

ウエンが腕を緩めると、茹でだこの様に真っ赤になったレイシャルがウエンの腕の中でぷるぷると震えていた。

「人前で口づけとか・・・。うぅーーー、ウエンの馬鹿!」

パーーーーーーン!

「兄上・・・その顔は?」

「何も聞かないでくれ・・・」

***

「ワイアット、そっちの様子はどうだった?」

「駄目だな・・・いつも冷静沈着なウエン王子が珍しく動揺している。本人は冷静を装っているようだが全く隠せてない」

「ハネムーンから戻ってきたらリリアンはあのキースと婚約したというし、ウエン王子は本店でレイシャル様を襲ったというし、一体どうなっているんだよ」

「王子は相当つのらせていたからな。まさか襲うとは思ってなかったが。ところでリリアンはどうしている?」

「キースと婚約するなど許さないと散々言ったけど、みんなの前で宣言したことを反故にしろというのかと逆に怒られた」

ワイアット達が仕事に復帰すると、リリアンとキースの噂で持ちっきりだった。それに、ウエン王子を見ると顔にくっきりと紅葉のような手形が残っている。誰が見てもレイシャル様と何かがあったことは明らかだ。

アウアー卿に話をすると『青春だな』と笑っていたが、この数日ウエン王子やレイシャル様の側近はやりにくくてしょうがない。

「とりあえず、私は護衛に戻る」

「ああ、俺も本店に向かう」

「気を付けるんだぞ」

「ああ、分かっている」

そっとワイアットと口づけを交わすと、ふたりは急いで持ち場に戻る。

「「はあ~」」

ミカエルはこれからの結婚ラッシュを控え、オーロラ商会の事務所で寝泊まりしているレイシャル様の元で一緒に泊まり込むつもりだ。当面ワイアットに会えそうにないが、レイシャル様の身の安全を考えるとそんなことを言ってられないのは重々分かっている。

「いつ帰れるかな・・・」

レイシャル様にも早く自分たちの様に幸せになってもらいたいと心の底から願うが、ウエン王子のヘタレさにため息をつくのだった。

「まあ、ウエン王子はいいとして、キースは絶対阻止してやるからな!」
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