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「ツッティ様、馬車が参りました」
「・・・・・」
ヘキシオの指示で先に帰ることになったツッティは不満と不安で夜も眠れなかった。
(メアリーのせいで酷い目にあったらどうしてくれるのよ。それにしても、あれほど楽しそうなヘキシオの顔を初めて見たわ。あれだけ機嫌が良ければお咎めはないわよね)
それでもハウバウト陛下の評価は分からない、姉妹のメリットを活かすようにと言われて来たのに何の成果も得られなかったのだ。役立たずと烙印を押されてもしようがない結果だった。しかし、返ってこれで良かったのかもしれない。もし覚えていたとしてもメアリーの記憶の私は碌なものではないだろう。
ウェスト国王陛下に大切にされているメアリーに腹を立て、お母様に無理を言って国外に追い出したのだから。お母様と再婚した陛下はその頃すでに媚薬漬けでお母様に逆らえなくなっていた。陛下は自分の子供を捨てたのだ。
お母様はお兄様と私を溺愛してくれたが王宮での当たりは強かった。昔からいる侍女や文官は私達に逆らいもしないが目の奥では馬鹿にしているのが分かった。
そうすると、お兄様と一緒にいる時間が増えた。なぜあんなことになったか分からないけど気づいたら夜も一緒に眠るようになっていた。次期国王のお兄様に近寄る女性もいたが、打算的な者ばかりでお兄様既に女性不振になっていたのだ。
お兄様にとって信用できる女性はお母様と私だけになっていた。
(まさか子供ができるとは思わなかったけど、上手く騙せて良かったわ)
ウラーラは私専用の侍女のひとりだったが、幼いころはノル王国に住んでいたせいか私達の事情に疎く利用するにはちょうど良かった。彼女が産んだことにして嘘がバレないようにヘキシオ様の元に嫁いだのだ。
初夜の時も豚の血を垂らしてシーツを汚した。王族の女性は処女性が必要だったからだ。計画は順調だと思ったが日に日に息子のビーストがお兄様に似てくる。まさかウェスト王国に出国する前の晩にお兄様から最後の思い出が欲しいと言われ、抱かれた時に妊娠するとは思わなかった。
(まあ、お兄様とも血がつながっているから私似といえばそうなるけど。でも、王族特有の赤髪も赤い瞳も持っていないと立場が弱くなるのよね。戻ったら後ろ盾を作るしかないかもしれないわ)
馬車に乗りながら指にはめた指輪をいじっていた。ベル特性の指輪だ。この中に媚薬が隠せる。
「ツッティ様、何か不安でも?」
「ベルが頑張ってくれたのに媚薬を使う時がなかったわ」
「いいのです。いつでも作れるのでまたの機会を待ちましょう」
そう言いながらぼんやり窓の外を見れば、シェドの王都は活気があり目新しい建物も多い。売られている商品の種類はエスト王国を遥かに超えている。お店で売っている商品を馬車から見ながら、謁見がなければショッピングを楽みたかったと後ろ髪を引かれこの国から出国したのだ。
***
馬車の中で謁見を思い出せば思い出すほど、メアリーに腹が立つ。
(メアリーの満たされた幸せそうな顔。陛下から一心に愛情を注がれているのが傍目からも分かった。その上最新のファッションを扱うオーロラ商会のドレスを着て、今流行りのパールのネックレスまで付けていたわ。私ですら手に入れられないのにどうしてこうなったのよ)
メアリーがシェドに嫁ぐと決まったときは、野蛮な国で貧しい生活を送ればいいと笑いが止まらなかった。それなのに、今やシェドはエスト王国も凌ぐ大国になっている。
初めて見た褐色の肌のシェド国王は洗練されて動作も美しく、王族としての風格も素晴らしかった。若いころは相当モテたと思われる陛下の風貌は年をとっても格好良かったのだ。ウエン王子もヘキシオとはまた違った野性味のある凛々しい青年だった。
(最初は私に釣書が届いたのに失敗したわ)
ツッティはまだ知らないが、その頃エスト王国の宮殿では母親会いたさに忍び込んだザーブルが捕まっていた。
「これはどういうことだ?」
「ビースト王子にそっくりじゃないか・・・」
「貴様の父親は誰だ?」
「ウェスト王国の元国王陛下だ、私を雑に扱うと国際問題になるぞ。扱いに気をつけろよ」
「それで母親とは誰だ?」
「ツッティ妃に会わせてくれ、一目会えれば大人しく帰る」
「どうしてツッティ妃に会いたがる?」
「私の母親だと聞いている。ツッティ妃はウェスト王国から嫁いだのだろ。どこの貴族令嬢だったのかお前分かるか?」
「ッーーーツ!それは本当か・・・大変なことだぞ。ハウバウト陛下を今すぐお連れしろ、今すぐにだ!」
「え?ハウバウト陛下?・・・いくら俺が王子だからと言ってそこまで気を使う必要はないぞ。ツッティ妃に会えるだけでいいんだが・・・」
裁判の後牢屋に入れられる直前知らない男に助けられエスト王国まで来たが、スラム街の中にある隠れ家から王宮が遠くに見えていた。
毎日王宮を眺めているうちにザーブルは母親に一目会いたいと考えるようになっていた。
大事にする気はなかった、一目見るだけで帰るつもりだったのだ。
王宮を守る騎士のひとりから今から国王陛下が来ると告げられた時、騎士たちの迅速な対応に満足してザーブルはほほ笑んだ。
「・・・・・」
ヘキシオの指示で先に帰ることになったツッティは不満と不安で夜も眠れなかった。
(メアリーのせいで酷い目にあったらどうしてくれるのよ。それにしても、あれほど楽しそうなヘキシオの顔を初めて見たわ。あれだけ機嫌が良ければお咎めはないわよね)
それでもハウバウト陛下の評価は分からない、姉妹のメリットを活かすようにと言われて来たのに何の成果も得られなかったのだ。役立たずと烙印を押されてもしようがない結果だった。しかし、返ってこれで良かったのかもしれない。もし覚えていたとしてもメアリーの記憶の私は碌なものではないだろう。
ウェスト国王陛下に大切にされているメアリーに腹を立て、お母様に無理を言って国外に追い出したのだから。お母様と再婚した陛下はその頃すでに媚薬漬けでお母様に逆らえなくなっていた。陛下は自分の子供を捨てたのだ。
お母様はお兄様と私を溺愛してくれたが王宮での当たりは強かった。昔からいる侍女や文官は私達に逆らいもしないが目の奥では馬鹿にしているのが分かった。
そうすると、お兄様と一緒にいる時間が増えた。なぜあんなことになったか分からないけど気づいたら夜も一緒に眠るようになっていた。次期国王のお兄様に近寄る女性もいたが、打算的な者ばかりでお兄様既に女性不振になっていたのだ。
お兄様にとって信用できる女性はお母様と私だけになっていた。
(まさか子供ができるとは思わなかったけど、上手く騙せて良かったわ)
ウラーラは私専用の侍女のひとりだったが、幼いころはノル王国に住んでいたせいか私達の事情に疎く利用するにはちょうど良かった。彼女が産んだことにして嘘がバレないようにヘキシオ様の元に嫁いだのだ。
初夜の時も豚の血を垂らしてシーツを汚した。王族の女性は処女性が必要だったからだ。計画は順調だと思ったが日に日に息子のビーストがお兄様に似てくる。まさかウェスト王国に出国する前の晩にお兄様から最後の思い出が欲しいと言われ、抱かれた時に妊娠するとは思わなかった。
(まあ、お兄様とも血がつながっているから私似といえばそうなるけど。でも、王族特有の赤髪も赤い瞳も持っていないと立場が弱くなるのよね。戻ったら後ろ盾を作るしかないかもしれないわ)
馬車に乗りながら指にはめた指輪をいじっていた。ベル特性の指輪だ。この中に媚薬が隠せる。
「ツッティ様、何か不安でも?」
「ベルが頑張ってくれたのに媚薬を使う時がなかったわ」
「いいのです。いつでも作れるのでまたの機会を待ちましょう」
そう言いながらぼんやり窓の外を見れば、シェドの王都は活気があり目新しい建物も多い。売られている商品の種類はエスト王国を遥かに超えている。お店で売っている商品を馬車から見ながら、謁見がなければショッピングを楽みたかったと後ろ髪を引かれこの国から出国したのだ。
***
馬車の中で謁見を思い出せば思い出すほど、メアリーに腹が立つ。
(メアリーの満たされた幸せそうな顔。陛下から一心に愛情を注がれているのが傍目からも分かった。その上最新のファッションを扱うオーロラ商会のドレスを着て、今流行りのパールのネックレスまで付けていたわ。私ですら手に入れられないのにどうしてこうなったのよ)
メアリーがシェドに嫁ぐと決まったときは、野蛮な国で貧しい生活を送ればいいと笑いが止まらなかった。それなのに、今やシェドはエスト王国も凌ぐ大国になっている。
初めて見た褐色の肌のシェド国王は洗練されて動作も美しく、王族としての風格も素晴らしかった。若いころは相当モテたと思われる陛下の風貌は年をとっても格好良かったのだ。ウエン王子もヘキシオとはまた違った野性味のある凛々しい青年だった。
(最初は私に釣書が届いたのに失敗したわ)
ツッティはまだ知らないが、その頃エスト王国の宮殿では母親会いたさに忍び込んだザーブルが捕まっていた。
「これはどういうことだ?」
「ビースト王子にそっくりじゃないか・・・」
「貴様の父親は誰だ?」
「ウェスト王国の元国王陛下だ、私を雑に扱うと国際問題になるぞ。扱いに気をつけろよ」
「それで母親とは誰だ?」
「ツッティ妃に会わせてくれ、一目会えれば大人しく帰る」
「どうしてツッティ妃に会いたがる?」
「私の母親だと聞いている。ツッティ妃はウェスト王国から嫁いだのだろ。どこの貴族令嬢だったのかお前分かるか?」
「ッーーーツ!それは本当か・・・大変なことだぞ。ハウバウト陛下を今すぐお連れしろ、今すぐにだ!」
「え?ハウバウト陛下?・・・いくら俺が王子だからと言ってそこまで気を使う必要はないぞ。ツッティ妃に会えるだけでいいんだが・・・」
裁判の後牢屋に入れられる直前知らない男に助けられエスト王国まで来たが、スラム街の中にある隠れ家から王宮が遠くに見えていた。
毎日王宮を眺めているうちにザーブルは母親に一目会いたいと考えるようになっていた。
大事にする気はなかった、一目見るだけで帰るつもりだったのだ。
王宮を守る騎士のひとりから今から国王陛下が来ると告げられた時、騎士たちの迅速な対応に満足してザーブルはほほ笑んだ。
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