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【第十章】蠱毒のヒロイン編

10-21【ロードマップ】

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あれから二日が過ぎた。

俺の体から毒がだいぶ抜けたのか、今日は一人で立って歩けるほどに回復していた。

「うっし、うっし、うっし!」

俺はスクワットをしながら汗を流している。

毒ってのは風邪と一緒で、沢山汗を流せば体から抜けるのも早くなるはずだ。

まあ、持論だから本当かどうかは分からないけれどね。

とにかく、早く体調を万全に戻して冒険に戻りたいのだ。

そしてレベルアップするんだ。

今現在のレベルは29である。

あと1レベル上がればボーナスタイムが来る30レベルになる。

屈辱的だが、失った左腕を糞女神がくれるボーナスで元に戻してもらおうと思っているのだ。

少しソドムタウンに帰ってスカル姉さんに訊いて見たのだ。

ヒーラー魔法のゴッド・オブ・グレーターヒールで失った腕を元通りに戻せないかと。

だが、答えはYESでもNoでもなかった。

スカル姉さん曰く───。

「失った腕は治せるが、魔法のリチャージタイムに一ヶ月掛かるぞ。何せ使ったばかりだからな」

だ、そうな。

正直一ヶ月も待ってはいられない。

故に正直なところ糞女神に頼るのは本望ではないのだが、背に腹は代えられないのだ。

流石に片腕では冒険はキツイ。

それどころか一般生活すらままならない。

それはここ数日で実感した。

なので糞女神への復讐は後回しにして、腕を戻すことにしたのだ。

一ヶ月待つよりレベルアップのほうが早いだろう。

今回ばかりは、あの腹正しい糞女神に媚を売るつもりだ。

マジでムカつくんだが──。

本当にキィーーーって感じだぜ。

なので屈辱感を忘れるために俺はスクワットに励む。

「うっし、うっし、うっし!」

そして俺がスクワットに汗を流していると──。

「アスランさま、サンドイッチが出来ました。どうぞお召し上がりくださいませ」

「すまない、ヒルダ」

スクワットを中断した俺は、ヒルダからサンドイッチを受け取ると口に捩じ込んだ。

「ヤギのミルクです、アスランさま」

「はんふーう、ひふだ」

俺はサンドイッチを頬張ったままヒルダにお礼を述べると、ミルクでサンドイッチを胃の中に強引なままに流し込んだ。

俺が今居るのはバーバラが住んでいる洞窟である。

ヒルダに転送絨毯を使って食料の他にも生活必需品を持ち込んでもらっていた。

今では蛮族的な洞窟もベッドやテーブルが増えて人の営みが出来るほどに変わっている。

流石に病弱な体に藁のベッドはキツイのだ。

何故に自分で買い出しに戻らないかって言えば、毒であまり動けないのもあるが、こんな情けない姿をソドムタウンの皆に晒したくなかったのだ。

たぶんだけど、スバルちゃんやユキちゃんは心配してくれるだろうが、ゴリやバイマン、オワイドスには見られたくない。

だから今回ばかりはヒルダに頼ったのだ。

「げっぷぅ~」

俺は椅子に腰かけると少し休憩する。

「はぁ~~、疲れた」

「頑張り過ぎじゃあないの、アスラン?」

俺の向かえの席に腰かける蠍美少女バーバラが訊いて来たので俺は答えた。

「とっとと今回のラスボスをぶった押して、左腕を復活させたいんだよ」

「良く分からないけれど、魔法使いさまを倒せば腕が生えてくるんだね?」

「ああ、そうだよ」

「純血の人間って凄いわね」

まあ、バーバラには本当のことは話していない。

糞女神やらボーナスタイムの話をしても仕方有るまい。

何よりだ。

今回の仕事の最終目標がはっきりと分かったのだ。

この二日間で体は動かないが、いろいろと昆虫たちから話を訊いて情報を集めたのである。

まず結論からして、魔法使いの安否だが、おそらく助からんだろう。

魔法使いの名前はブライと言うらしい。

この森に七十年ほど前に壁と塔を築いて魔法の研究を始めたらしいのだ。

その魔法は昆虫から生命の神秘を引き出すことだった。

その仮定で知能の高い昆虫や、体の一部が人間の昆虫たちが産まれた。

ちなみにグレーテの夫でバーバラの父は魔法使いブライの弟子だった男らしい。

彼の遺伝子を利用してバーバラは産まれたとのことだ。

試験管ベイビーなのかな?

そして、その弟子は生前自分は男爵の家に産まれた貴族だったと名乗っていたから、グレーテは男爵婦人と名乗ったらしいのだ。

この弟子ってのが実は実在する人物だった。

もう亡くなっているが、どうやらブライに資金を援助していた人物らしいのだ。

弟子ではなく、スポンサーってやつだ。

何故にそんなことが分かったかと言えば、ヒルダに転送絨毯で生活必需品を買い出しに行かせたら、勝手に町で調べ上げて来たのだ。

ありがたい情報だが、余計なお世話である。

ヒルダがなんでもかんでもやったら、俺の冒険じゃあなくなるじゃあねえかよ。

世話を焼きたいのは分かるが、余計な世話なんだよね。

今後は冒険に口を挟むなって強く釘を指しとかんとな。

一般生活の奉仕だけで十分なんだよね。

さて、問題は魔法使いブライが、もう亡くなっていると思われることなんだが……。

ブライが姿を見せなくなる寸前に研究していた昆虫は、寄生虫の魔改造だったらしい。

その魔改造された寄生虫には知能があり、昆虫にも人間にも寄生して、脳を食らい、体を乗っ取る寄生虫に変化していたとか。

繁殖力は低いが危険で邪悪な人格の寄生虫とのことだ。

寄生虫の名前はベェノム。

うん、ヤバそうな名前だよね。

おそらくブライはベェノムに寄生されて事実状亡くなったと思われる。

だが、森の中的には魔法使いが死んだこと以外には問題がないのだ。

そもそもこの森の生態系は魔法使いの手を離れて、既に自立している。

もう新たな生態系が完成しているらしいのだ。

だから魔法使いの生存は関係ない。

森は結界の中で、脈々と生き続ける。

そして、何故に巨大昆虫たちが魔法使いの安否を塔に確認しに行かないのかと言えばだ。

この森が壁と虫除けの結界に包まれているように、魔法使いの塔も虫除けの結界に包まれているから、魔法使いの塔には昆虫は出入りが出来ないのだ

即ち、逆を言えばベェノムは魔法使いの塔から出れないのだ。

塔との出入り方法を知っていたのはブライのみ。

それをベェノムが知らずに閉じ込められているのなら、なんの問題もない。

まあ、マッドサイエンティスト見たいな魔法使いが死んで、この森は平和になってハッピーエンドってことだろう。

だが、俺の冒険の達成条件は、魔法使いの安否を確認して、亡くなっていたら、その遺体を埋葬することだ。

だからベェノムに体を乗っ取られているなら、ベェノムを退治して遺体を埋葬しなくてはならない。

その仮定でレベルアップをして俺は腕を取り戻そうと計画しているのだ。

最終的には、魔法使いの塔からマジックアイテムをウッハウハと回収して、今回の冒険を終わりにさせたい。

まさにハッピーエンドだ!

まあ、これが今回のロードマップである。

まずそのためには体力を回復以上に充電しなくてはならないのだ。

何せ片腕だからな……。

「アスランさま。チキンの手羽先が出来ました」

「サンキュー、ヒルダ」

俺はテーブルに置かれた山盛りの手羽先を次から次にと食らって行く。

「アスランは、本当に良く食べるな」

呆れながらバーバラが言った。

彼女はテーブルに頬杖を付きながら、爆食する俺を眺めている。

その背後でサソリの尻尾が揺れていた。

「はむはむはむ!!」

とにかく、今は体力だ。

片腕になった分は、体力でカバーするしかないだろう。

打倒は魔改造の寄生虫ベェノムだ。

ヤツを倒せば今回の冒険は終わる!!

──はず。


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