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【第十九章】メタルキャリア編

19-11【まったり】

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ソドムタウン冒険者ギルド本部、ギルドマスターの部屋。

俺は空いているソファーに腰を下ろすと、今回出向いた理由をギルガメッシュとサンジェルマンの二人に述べた。

「なあ、お二人さん。ちょっと訊きたいのだが、呪いを解ける奴を知らないか?」

「なに、呪いを解ける奴を捜しているのか」

ギルガメッシュは雌パンダに盛り付けられた刺身を箸で摘まみ上げると口に運んだ。

あれ、毛とか付いてないのかな。マジで、よく食えるよ……。

するとサンジェルマンが顎髭を撫でながら言う。

「呪いを解くと言えば、やはり神聖魔法だろうな」

ギルガメッシュが相槌を入れる。

「そうだな、神聖魔法の使い手ならば、呪いの一つや二つ簡単に解除できるんじゃあないか」

「神聖魔法か~。それは誰が使えるんだ?」

「高レベルのプリーストならば、キュアカースを使えるんじゃないか」

「それは、この町の神殿でも使える奴は居るのか?」

ギルガメッシュは刺身を頬張りながら言う。

「それは知らん。だが、神殿の偉いプリーストならば使えて当然じゃあないのか」

膝を叩いた俺はスチャリとソファーから立ち上がった。

「サンキュー、二人とも。それじゃあ俺は神殿に行って来るぜ!」

ギルガメッシュが刺身を箸で摘まみながら言った。

「なんだお前、呪われたのか。無用心だな」

「ああ、女の子にエロイことをすると死んでしまう呪いを掛けられてな」

「なんか微妙な呪いだな。何、それはギャグか?」

確かにギャグっぽいな。だが俺は声のボリュームを上げて抗議した。

「いやいや、そうでもないぞ。こんな生き地獄的な呪いは真面目な青少年には厳し過ぎる呪いだぞ!」

ギルガメッシュがさぞ当たり前の表情で言う。

「女の子がダメなら、男の子を愛したらいいじゃないか」

名案だな。いやいや、無いわ……。そんなジェンダーギャグなんて聞きとうないがな。

「それは絶対に無理だ!!」

「そうかな、慣れれば問題無いぞ」

「えっ……、まさか……」

ギルガメッシュがサスペンダーで乳首だけを隠した胸板を突き出しながら凛々しく言った。

「私は両刀使いだ!」

「マジ……」

すると今度はサンジェルマンもタプタプしたお腹を突き出しながら凛々しく言った。

「私はノーマルだがデブ専だ!!」

「マジ……」

ギルガメッシュがモヒカンヘアーを撫でながら言う。

「歳を取ると、趣味の幅も広がるんだよ」

「と、歳は取りたくねえなぁ~……」

「経験は豊富に体験したほうがお得だぞ」

「いや、結構だ……」

その後に俺は未来に絶望しながら冒険者ギルドを出ていった。

そして、神殿を目指す道中で色々と悩む。歳を取ると趣味の幅が本当に広がってしまうのだろうか。それが脳裏に引っ掛かっていた。今は若い女の子にばかりムラムラしているが、俺もいずれは男の子にまでムラムラしちゃうのかな……。

そんな馬鹿な話があるか……。いや、待てよ……。

歳を取ったらホモに走るとは限らない。サンジェルマンのようにデブ専に走る可能性だってあるぞ。

そうだ、まだデブ専なら女の子から性欲が外れていないだろう。それにスバルちゃんだって、いつまでもスレンダーな美貌を保ってられないかもしれない。歳を取れば近所のオバチャンのようにブクブクと太り出すかもしれないぞ。そうなれば、俺は太ったスバルちゃんとイチャイチャせんとならないのだ。それが夫婦だからな。

そうなれば俺もデブ専の仲間入りなのか!?

いや、スバルちゃんがデブくなるなら俺がデブ専に落ちても罪ではないだろう。

むしろ、それが愛だ!!

そうだよ、俺のデブ専は愛の形だ!!

そんなことを考えていたら俺はソドムタウンの神殿前に到着していた。いつ見ても神殿は立派な建前だ。どんだけ寄付金を集めているんだろう。信者も多いのが分かる。

そして、神殿の前にはまん丸と太った女神官が丈箒で清掃していた。それは覚えのある人物である。

「あれってクララじゃあないか?」

クララのデブバージョンだよ。どうやら今日は肥えているらしい。

「よう、クララ。朝から掃除か~。神官らしくて感心だな~」

「あら、変態冒険者のアスランじゃない。あんまり私に近付かないでね。同じ空気をすったら妊娠しちゃうから」

「なんだ、お前の子宮はユルユルか」

「あんたの精気が猛毒なのよ」

「そんなことより、俺、歳を取ったらデブ専になるかも……」

「なに……。この美少女神官クララさんを狙ってるの?」

「いや、そうじゃない。この神殿に呪いを解ける奴は居るか?」

「えっ、なに、変態が過ぎて、ついには呪われちゃったの?」

「いや、そうじゃない。どちらかと言えば呪われたから変態になったんだ」

「卵が先か、鶏が先かね」

「まあ、呪いと変態は関係無い」

「じゃあ、その呪いは解けないわね」

「なんで?」

「貴方の変態性が直るとは思えないからよ」

「なるほど……。ここでも俺の呪いは解けないか……」

「でも、神官長のマリア様なら呪いぐらい簡単に解除できるんじゃあないかしら」

「よし、それじゃあ今から会わせろや」

「無理よ」

「なんでだよ、モッチリガール?」

「誰がモッチリガールだ!」

クララが贅肉を揺らしながら丈箒を振るって来たので俺は身を引いて回避した。クララの巨乳が丈箒と一緒に空振る。

「マリア様は神殿の長なのよ。あなた風情が簡単に会えるはずがないでしょう!」

「そうなん。なんか御高くとまってね?」

すると神殿の扉が開いて一人のオバサンが出て来る。

オバサンは神官着ではなく、そこらを歩いている買い物帰りのオバチャンのような普通の地味な格好をしていた。そのオバチャンはキョロキョロと辺りを見回し、ソワソワしながら神殿を出て行った。その背中にクララが冷たい声を掛ける。

「マリア様、何をなされているのですか……?」

オバチャンはハッと背筋を伸ばして立ち止まった。そしてギゴギゴと錆び付いたブリキのロボットのように振り返る。

「あらら……。人違いでなくて……。私は偉大なる大神官長のマリア様じゃあなくってよ……」

うん、間違いない。この人が神官長のマリアだな。一度魔王城の会議で顔合わせしているから覚えているぞ。

そして、シラを切るマリアをクララが冷たく追い詰める。

「神官長様、どちらにお出掛けですか。寝惚けた回答を繰り返すようなら殴り飛ばしますよ」

遠慮無いな、このデブは……。かなり暴力性が過ぎてないか。

「いや、ちょっと正門前に新しい屋台がオープンしたらしいから、それを買い占めに……」

屋台の食料を買い占めるのか、この神官長様はよ。

なんでだ?

「駄目です。神官長様は現在断食の儀式に取り組み中じゃあないですか。伝統ある長の儀式なんですよ。それを神官長自らが破ってどうするんですか!!」

マリアがヒステリックに言う。

「貴方のようなおデブちゃんには分からないのよ。断食って辛いのよ!!」

マリアは泣きながらクララのお腹にすがり付く。

なんなんだ、この神官長は?

心、弱くね……。

「大体なんで神官長に就任したら、毎月第一周目は断食しないとならないの。誰よこんな馬鹿げた伝統決めたのは。私はバクバク御飯を食べながら暖かい部屋で権力に包まれながらヌクヌクと贅沢して暮らしたいから神官長を目指したのにさ!?」

うわっ、超俗物だな……。煩悩が口から駄々漏れだよ。こんなんで神官長が勤まるとは世も末である。


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