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【最終章】魔王城の決戦編

最終章-32【一本拳】

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前進を続ける巨大一物型ゴーレムの第九が魔王城を激しく体当たりで押していた。石橋を越えた第九は魔王城の正門前で見えない壁に阻まれて火花を散らしている。それ以上は進めない。マミーレイス婦人が張った魔法のバリアーで防がれているのだ。

マミーレイス婦人の魔法バリアーは鉄壁だ。かつての戦争では天空要塞ヴァルハラの急降下自爆攻撃から城を守った実績もある。第九の突進力が何トンあるかは分からないが、まず魔法バリアーを破ることは出来ないだろう。

その雷と火花を散らす第九に向かってアスランが歩み出した。右手にグラディウス、左手に黄金剣。双剣の名剣をぶら下げて歩み出したアスランにゾディアックが話し掛ける。

「アスラン君、あれとやるのかい?」

魔法使いに話し掛けられたアスランが上半身だけで振り返ると答えた。

「当然だろ。だって皆が苦労して復旧させた魔王城を壊されたら堪らないからな」

「だが、あれは厄介だぞ……」

ゾディアックは先に仕掛けたギルガメッシュの攻防を思い出していた。かつてのナンバーワン冒険者であるギルガメッシュを退けたのだ、あの第九の戦闘力は御墨付きだろう。確実に舐められない。

しかも、第九の戦闘力だけでも特級なのに、それを操っているアマデウスも一流だ。

上等なゴーレムと上級者の使い手。あの組み合わせを攻略して、第九を制止させるのは困難だろう。

その戦力的数値をアスランが知らない訳もなかろう話だ。なのにアスランは第九に挑む気満々である。

ゾディアックが言う。

「あれには魔法が効かないぞ。我々の援護は、情けない話だが目眩まし程度だ……」

「そうだね~。魔法使いの援護は期待できないか~」

「物理攻撃も重量の差が多すぎる……」

ゾディアックが言った直後だった。湖の中からタコの触手が飛び出した。クラーケン化しているガルガンチュワだ。水中から巨漢を飛び出し第九に襲いかかる。

「ふっ、クラーケンか」

第九の上でクールなアマデウスが鼻で笑った。すると第九のボディーから深紅のレーザービームが放たれる。そのレーザービームがガルガンチュワの巨漢を焼きながら押し戻す。

『なんだ、この火力は!?』

レーザービームに巨漢を押されたガルガンチュワが触手を水面に伸ばして踏ん張った。押し戻されるのを耐え忍ぶ。

だが──。

「第九のレーザービームを耐えるか。ならば、三本ならどうだ?」

アマデウスが言うなり第九のボディーから二本のレーザービームが追加発射された。計三本のレーザービームがガルガンチュワの巨漢を狙う。そして、三本のレーザービームでガルガンチュワの巨体が吹き飛ばされた。

眩しい閃光が煌めく。

『なにっ!?』

クラーケンの巨漢がレーザービームの出力に弾き飛ばされた。勢い良く飛ばされたガルガンチュワの巨漢が水面を三度跳ねてから陸地に激突して止まった。周囲の住宅を破壊する。

その攻撃でガルガンチュワは打ち上げられたタコの死体のように動かなくなる。

『クラーケンごときが第九の火力に勝てるわけがなかろう。これでも第九は先々代の魔王の一部だぞ。片腹痛いわ』

視線をガルガンチュワから魔王城に戻したアマデウスが指示を飛ばす。

「第九、怯むな。このまま城ごと押し潰せ。そして、正門を突破したら、今度は地中を目指すぞ。目標は、地下にある宝物庫だ!!」

火花を散らす魔王城を睨み付けるアマデウスの口元が釣り上がる。アマデウスは自信を漲らせて目標に突き進んでいた。

「もうすぐだ。もうすぐハーデスの錫杖が手に入る。そうすれば冥界の門が開いて、妻に会えるのだ!」

「そんなに、奥さんに会いたいのか?」

少年の声。

咄嗟にアマデウスが振り返った。その背後にはアスランが立っていた。

「貴様、いつの間に侵入した!?」

「こっそりと」

「どうやって!?」

「よじ登って」

「レーザービームをどうやって潜り抜けた。あれは自動追尾の防御システムだぞ!!」

「気合いと根性でどうにかしたに決まってるだろ」

「根性論でどうにかなるレベルの代物じゃあないぞ。それに、貴様は根性が無いだろ。チェリーボーイ」

「相変わらず失敬な野郎だな、この糞野郎は……」

サッとアマデウスが杖先をアスランに向けた。

「ファイアーボール!」

行きなりの先制攻撃。アマデウスの杖先から火球の魔法が放たれた。

だが、アスランは焦らない。焦るどころか腕を胸の前で組んだまま自然体で立っている。回避も防御もしない。

故に火球が直撃。

アスランを中心に火柱がキノコ雲のように上がった。その火柱の中でアスランは微動だにしない。灼熱の中で立ち尽くしている。しかも、涼しげな表情でだ。

「効かないよ。俺の耐火防御率はスペシャルだ」

「ならば、今度は電撃魔法だ!!」

アマデウスの杖先から電撃魔法が放たれた。

「ライトニングボルト!」

しかし、その電撃魔法もアスランは回避しなかった。だが、今度は身を丸めて電撃ダメージに耐えている。今度はダメージが入ったようだ。

「何故に躱さない。何故に防がない!?」

雷撃魔法が拡散して消え去ると、丸めていた背を伸ばしたアスランが不適に微笑んだ。

「耐火電撃抵抗スキルが欲しくってね」

「スキル獲得のために、甘んじて受けたのか、私の魔法を!?」

「そうだよ」

「舐めてるな!!」

「いやいや、舐めてないよ。あんたの魔法使いとしての腕前は知っての行動だ」

「なにっ!?」

「俺たち転生者がスキルを獲得する条件がレベルアップと実績だ。実績を経験した上でレベルアップをすると、その結果がスキルとして習得される。だからあんたのような一流の魔法を体験したいんだよ。俺は、まだまだ成長期なんでね。まだまだ強くなりたいんだよ」

「それを、舐めてると言うのだ。この転生者がっ!」

アスランの話を聞いていたアマデウスの表情が厳しく歪む。

「その向上心は褒めてやろう。だが、自惚れるなよ、小僧!」

アマデウスが一歩前に跳ねた。その踏み込みは低い跳躍である。僅か一歩の跳躍で5メートルの距離を瞬時に縮めた。軟弱であるはずの魔法使いが見せれる飛距離でない。

「接近戦だと!?」

「ふんッ!!」

「はやっ!!」

長い一踏みからの直突き。アマデウスの真っ直ぐに伸ばされた縦拳がアスランの顔面にヒットした。

しかも、その拳は普通の握りでなかった。中指の第二間接を立てた尖った拳で、空手道では一本拳などと呼ばれる危険な型である。

それは、まるで刃だ。

その尖った拳の先でアスランの顔面をアマデウスは真っ直ぐ突いたのだ。

更に言うなら一本拳を当てた箇所は人中である。鼻の下で、唇の上。そこは人間の弱点の一つだ。人中と呼ばれる急所。精密に打ち込めば、目突きや金的に並ぶ危険な攻撃である。一突きで絶命も誘える技である。

そこをアマデウスは正確に一本拳で打ち刺したのだ。

その効果は、人中から頭部に入った弾丸が、頭内を真っ直ぐ進み頭蓋骨の内側に衝突したあと、ビリヤードのブレイクショットのように激痛が脳内に拡散したかのようなダメージを対象に味会わせる。アスランも例外で有らず。

結果──。

最大限まで目蓋を見開いたアスランの膝から力が緩む。

膝が崩れた。力無く腰から落ちる。

「くそっ!!」

だが、アスランは耐えた。尻餅を付きそうになる瞬間に踏ん張り止まる。気合でダウンを免れた。

「良く堪えたな、アスラン」

アマデウスが屈んだ姿勢のアスランの髪の毛を片手で鷲掴む。そして、頭部を固定してからの膝蹴りを顔面に突き立てた。

「こなくそっ!!」

アスランが地面を滑るように後退した。アマデウスの膝蹴りを寸線で回避するが、その頭から髪の毛が全て無くなっていた。故にグラップルの固定から逃れられたのだ。

アスランはアマデウスの手の中にヅラだけを残して膝蹴りを回避したのである。

アマデウスはアスランのヅラを手に持ったまま少し驚いていた。

「お前、ヅラだったのか……」

アスランが手を差し出しながら言う。

「すまないけど、それ、返してくれないか……」


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