25 / 55
私は善人になりたい
女子に囲まれた
しおりを挟む
――なぁんて、感傷に浸っていた時もありました。
馬と別れてから数時間後、胡威風は数人の宮女に囲まれていた。その内の一人は手紙を、また一人は包丁を持っている。特に刃物宮女は即刻ここから退場してほしい。
「胡威風将軍、ご安心ください」
「貴方を責めに参ったわけでは御座いません」
「そそそそうです。決して私と一緒の所へ行ってほしいなんて、へへ、えへ」
――一人おかしいな!? 鈍く光る硬い物持ってる子一度病院へ行った方がいいのでは? 付き添わないけど。
「確認をさせて頂きたいだけで御座います」
「確認、とは?」
困ったら扇子。扇子で顔半分を隠してしまえば動揺はバレない。
――とりあえず、一名程気絶でもしてくんないかな。
胡威風の願い空しく、危ない女子を含む宮女たちが距離を詰めてきた。
「秘密の関係を切るというのは本当で御座いますか!」
秘密、秘密とは。宮女の顔を眺めて、胡威風はあることに気が付いた。宮女の中に、先日断った宮女がいた。つまりこれは、胡威風と男女の仲である宮女の訴えなのだ。
「あー……なるほど」
――あー、うん。分かった。分かったわ。完全に元俺の責任。ほんと節操ねぇなこいつ。俺だったら、どう間違っても薄ら笑い浮かべながら包丁ちらつかせる女とお近づきにはならない。
ぐるぐる考えている間も、宮女たちが迫ってくる。胡威風は扇子を下ろし、口元を結び、眉を八の字にさせた。
「……すまない」
「えっ」
「私が悪いのだ」
まさか胡威風が目下に謝ると思っていなかったのか、宮女の動きが止まる。胡威風は畳み掛けた。
「日々の生活の寂しさがあまりにも辛く、貴方たちに癒しを求めてしまっていた。しかし、気付いた。このままではいけないと。私は一人の男である前に、迅国の軍人であると。この国を守らねばならない。それが貴方たちを守ることにもなる。だから、これからは宮女として、私の手助けをしてほしい」
「胡威風将軍……」
「……だめか?」
もう一声。胡威風は首を傾け、瞳を潤ませて彼女たちを見つめた。本人としては実に気色の悪い行為だが、物理的に危険が迫っているのだから何でもしておくに限る。宮女たちは胡威風の「お願い」を気に入ってくれたようだった。包丁宮女はその場に倒れていた。
「ん、んんッそ、そうでしたか。胡威風将軍がそこまでお考えとは」
「浅はかな行動をお許しください」
「もし、寂しさが溢れた時はいつでも呼んでくださいね! お待ちしております故」
「あ、この子は連れて帰りますのでご安心ください」
「ありがとう」
どうにか刺されずに済み、包丁宮女をずるずる引っ張って退場する姿を笑顔で見送る。
全員の姿が見えなくなった瞬間、どっと汗が噴き出した。よろよろとした足取りで自室へ入る。寝台まで辿り着けず、地面に崩れた。
「こ……怖かった」
女を侮るなかれ。
一人でも怖いのに、集団で来られる恐ろしさよ。
「こいつ、あと何人お手つきがいるんだ……これで最後だといいなぁ」
ふと、軽快な音が鳴らないのに気が付いた。
鳴らないということは、先ほどのことで特に悪人レベルは下がらなかったということだ。一般的に考えて当然だろう。胡威風はため息を吐いた。
「胡威風の業を背負って生きるのツライ……」
視界の端でもぞもぞと動くのが見えた。一龍だ。寝台の上で転がりすよすよ昼寝をしている。胡威風は声にならない声を上げながら近づいた。
「はぁぁ、ぁあ……んん……癒しだぁ……俺だけの癒しだぁ……」
寝ているので、僅かに残っている理性でそっと抱き上げ優しく撫でる。それだけで力が湧いてくる気がした。
馬と別れてから数時間後、胡威風は数人の宮女に囲まれていた。その内の一人は手紙を、また一人は包丁を持っている。特に刃物宮女は即刻ここから退場してほしい。
「胡威風将軍、ご安心ください」
「貴方を責めに参ったわけでは御座いません」
「そそそそうです。決して私と一緒の所へ行ってほしいなんて、へへ、えへ」
――一人おかしいな!? 鈍く光る硬い物持ってる子一度病院へ行った方がいいのでは? 付き添わないけど。
「確認をさせて頂きたいだけで御座います」
「確認、とは?」
困ったら扇子。扇子で顔半分を隠してしまえば動揺はバレない。
――とりあえず、一名程気絶でもしてくんないかな。
胡威風の願い空しく、危ない女子を含む宮女たちが距離を詰めてきた。
「秘密の関係を切るというのは本当で御座いますか!」
秘密、秘密とは。宮女の顔を眺めて、胡威風はあることに気が付いた。宮女の中に、先日断った宮女がいた。つまりこれは、胡威風と男女の仲である宮女の訴えなのだ。
「あー……なるほど」
――あー、うん。分かった。分かったわ。完全に元俺の責任。ほんと節操ねぇなこいつ。俺だったら、どう間違っても薄ら笑い浮かべながら包丁ちらつかせる女とお近づきにはならない。
ぐるぐる考えている間も、宮女たちが迫ってくる。胡威風は扇子を下ろし、口元を結び、眉を八の字にさせた。
「……すまない」
「えっ」
「私が悪いのだ」
まさか胡威風が目下に謝ると思っていなかったのか、宮女の動きが止まる。胡威風は畳み掛けた。
「日々の生活の寂しさがあまりにも辛く、貴方たちに癒しを求めてしまっていた。しかし、気付いた。このままではいけないと。私は一人の男である前に、迅国の軍人であると。この国を守らねばならない。それが貴方たちを守ることにもなる。だから、これからは宮女として、私の手助けをしてほしい」
「胡威風将軍……」
「……だめか?」
もう一声。胡威風は首を傾け、瞳を潤ませて彼女たちを見つめた。本人としては実に気色の悪い行為だが、物理的に危険が迫っているのだから何でもしておくに限る。宮女たちは胡威風の「お願い」を気に入ってくれたようだった。包丁宮女はその場に倒れていた。
「ん、んんッそ、そうでしたか。胡威風将軍がそこまでお考えとは」
「浅はかな行動をお許しください」
「もし、寂しさが溢れた時はいつでも呼んでくださいね! お待ちしております故」
「あ、この子は連れて帰りますのでご安心ください」
「ありがとう」
どうにか刺されずに済み、包丁宮女をずるずる引っ張って退場する姿を笑顔で見送る。
全員の姿が見えなくなった瞬間、どっと汗が噴き出した。よろよろとした足取りで自室へ入る。寝台まで辿り着けず、地面に崩れた。
「こ……怖かった」
女を侮るなかれ。
一人でも怖いのに、集団で来られる恐ろしさよ。
「こいつ、あと何人お手つきがいるんだ……これで最後だといいなぁ」
ふと、軽快な音が鳴らないのに気が付いた。
鳴らないということは、先ほどのことで特に悪人レベルは下がらなかったということだ。一般的に考えて当然だろう。胡威風はため息を吐いた。
「胡威風の業を背負って生きるのツライ……」
視界の端でもぞもぞと動くのが見えた。一龍だ。寝台の上で転がりすよすよ昼寝をしている。胡威風は声にならない声を上げながら近づいた。
「はぁぁ、ぁあ……んん……癒しだぁ……俺だけの癒しだぁ……」
寝ているので、僅かに残っている理性でそっと抱き上げ優しく撫でる。それだけで力が湧いてくる気がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
18
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる