悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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王子妃の頭の中

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 騎士団詰所、いつものようにシリウスはワタルさんと剣の稽古中。スージーさんは団員を捕まえて手合わせをしていた。

 
「ふーん、家名をはっきりと言わない。勘違いした自己責任ってことにしたいんだろうね……了解したよ。獣人騎士団で調査するから安心しなよ」 
 タスクさんに獣人を旦那さまの名前をによわせて仕事に勧誘する不審者のことを報告した。彼は二つ返事で了解してくれた。 

「でも、獣人を集めて何を企んでいるんでしょうか?」底が知れない気持ち悪さを感じる。 

「わからないけど……まあ、ろくでもないことだろうけどさ……ん?シリウス坊どうした?」  

 息を切らせたシリウスが私とタスクさんのもとに駆け寄る。 

「マアマっ!みてー、キラキラ~」 
 小さな手のひらに氷の塊が乗っていた。 

「小さい氷、綺麗ですね。騎士団の人に貰ったんですかー?」

「ちがうよー。ぼくの~」 
 貰ったんじゃなくてシリウスのってどういう意味なんだろう? 

「……シリウス様が魔法で作られたのだ。たいした才能だ。俺が剣に込める魔法を披露したら自分もやると氷を作って見せた」 
 渋い声でワタルさんが疑問に答えてくれた。ちみにワタルさんが使う魔法は土魔法です。剣を硬い鉱石に変えることが出来るそうです。 

「シリウス、こんなに幼いのに凄いです。さすが旦那さまと私の子ですー」 
「えへへっ」 
 頭をいい子、いい子するとひまわりのような笑顔を見せてくれました。 

「…魔力は膨大にあるけど、剣に纏わすにはまだ熟練だね~。だけど、シオン団長も喜ぶんじゃない? 
 シリウス坊が強くなれば、その分安心して外出出来るしね~」  

「そうですね。家族三人でいろいろ場所に出掛けたいですから」 
 買い物もそうだけど、海にも行きたいな~。 

「……買い物デートするんでしょ?」  
 ニマニマ笑顔を張り付けタスクさん。
 
「え?なんで知ってるんですか?」 

「あはは、団長が領地回りに行く前に、我慢出来ずに自慢して行ったよ……うん。どうせなら家族で建国祭の衣装を作りなよ。お揃いの布でさぁ。シオン団長喜ぶと思うよ」
 
「お揃いっ!親子コーディ良いですね~。憧れていたんですよ」 
  
「それにさ、仲良し夫婦はお互いの瞳の色のアクセサリーをするそうだよ」 

「……旦那さまの瞳の色。アイスブルーのアクセサリーっ!はううっ、旦那さまを纏ってるみたいで素敵でしょうね」想像だけでうっとりしてしまう。 

「王族・貴族御用達の服飾店にツテが有るから、団長の休みの日に行けるよう頼んどくよ」 
 うっとりする私を目を細めて眺めていたタスクさんからのありがたい提案に、うんうんと大きく頷いた。 
  
 その後、持参した差し入れを団員さんたちとみんなで食べた。 
  

「ヴィヴィアンさん明日も同じ時間帯に来なよ~。きっと良いこと有るからさ」  
 帰り際に、機嫌よさそうに大きな狐のもふもふしっぽを揺らすタスクさんから言われた。 

 うーむ……良いことってなんだろう?気になったし、シリウスの鍛練とスージーさんのストレス発散になるので明日も来ることを約束したのだ。 


 


 
 旦那さまが領地回りに行って四日目。 

 寂しい。すでに旦那さま成分の枯渇により、旦那さまの使用していた枕を残り香を嗅いでいます。 
 はう、薄い匂い……足りないです。もふもふ耳と、しっぽに触りたい。厚い胸筋にスリスリしてぎゅうぎゅうしたい。割れた腹筋とか、硬いおちんぽとか、思い出すだけでお腹がきゅんと熱くて、体が疼いちゃいます。
 
 ムラムラを鎮めようと、いつもより念入りに顔を洗い、シリウスと食堂に向かいます。  

 玄関には、今朝もローベルハイム公爵家の痛む歯を抑えた痩せこけた男性の使用人が手紙を届けに来ていました。今日もシャーリングさんが対応してくれています。 
  
  
 痛む歯を押さえて、シャーリングさんの淹れた紅茶を啜る男性に良心がチクリと痛みます。 
 
「奥様よ。あれは同情を引く作戦なんだぜっ!騙されんなよ」スージーさんに言われ我に返りました。 

 手紙の文面は昨日と打って変わって丁寧でしたが言ってる内容は一緒でしたよ。 
『貴女を思って公妾を薦めます』ってさ、どこかー?って突っ込みをいれたいです。  

 シャーリングさんが名前を聞いた、使用人ことヤトさんは長くローベルハイム公爵家に勤めているそうだ。最近めっきり人が辞めて補充が大変だと愚痴を溢していた。 
 
 やっぱり歯痛の呪いってあったりするのかな~?………あはは、たまたまだよね。ないない! 

 ヤトさんに同情はするけど私の返事は変わらない。昨日と同じ文面のお断りのお返事を持たせて帰らせた。ごめんよヤトさん、せめて歯痛が治るように祈っておこう。 

 
 食後シャーリングさんと、書類仕事をこなしていると、今度はまたミリヤ妃から手紙が届いた。 
 内容は要約すると『この聖女で王子妃の私がせっかく侍女に任命してあげたのに断るなんて失礼よ!今すぐ三つ指つけて謝りに来なさい!そして、粛々と侍女を受け入れて、1日も早くジャスティス王子の公妾として多忙な私に代わり仕事をしなさい!』でした。 

 思考回路大丈夫ですかー? 
 私、侍女に任命してくれって頼んでないしーっ! 
 公妾なんてお断りです。 
 なんで?私が王子妃の仕事の肩代わりしないといけないんですかー? 
 突っ込みところ多すぎて、眩暈がするよ。 

「うへぇ、この女とち狂ってんな」 
 スージーさんが吐き捨てた。 

「ふぅ……ミリヤ妃にとっては自分以外は都合良く動く駒の1つなのでしょう」 
 シャーリングさんも嫌悪感を隠さない。 

「……簡単に奥様を公妾にと言いますが、ミリヤ妃は王子が違う女性に触れ、その……お子を作ることに抵抗はないのでしょうか?」リンスさんが不思議そうに呟いた。 

 そう、それも不思議だった。私なら旦那さまが他の女性に触れたら嫌だし、凄く嫉妬するもの。

「ホッホッ、風の噂ですが、王子夫婦はお互いの交際に寛容で、奔放に遊んでいるようです。抵抗はないのでしょう。まあ、火遊びの相手には避妊を徹底していたようですが」 
 羨ましそうに言う、シャーリングさんをスージーさんが睨んだ。 

 王族は無駄に種を撒き散らかさないように、避妊魔法のかかった指輪をつけている。自分の意思で解除出来るそう。王子もミリヤ妃もこの指輪をしている。 
 そう、中だしし放題と言うわけですが…。なんか嫌ですね。 

 結婚前から王子と子作りして未だに子が出来ないミリヤ妃。落ち込んだり焦ったりせず公妾に世継ぎを産んでもらおうとしている。自分の立場が危うくなると思わないのだろうか? 
 
 そんな疑問を口にすると、淡々とシャーリングさんが答えてくれた。
  
「公妾に子が出来れば、ジャスティス王子は王太子として時期国王に即位できます。 
 そうすれば必然的にミリヤ妃は正妃になる。国王は離婚出来ないので公妾はあくまで、公妾のまま。 
 ミリヤ妃は自分の立場は守れて、子を産む危険も苦痛もありませんし、めんどくさい仕事は全部公妾に丸投げして、贅沢三昧で遊んで暮らせます」 

「やっぱり…クソ女だなぁ!誰が都合よく動くかよ」 
 呆れたスージーさんに、心の底から賛同します。
 
 シャーリングさんからアドバイスを受けて、ミリヤ妃には昨夜と同じ文面を綴った。 
 ついでに『ミリヤ妃からこのような手紙が来て困っております』と、一言添えてトンデモ手紙を添付して王妃に送っておきました。是非とも怒られて下さいね~。


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