悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

文字の大きさ
44 / 74

王子妃との遭遇①

しおりを挟む
 
 昨日タスクさんに言われた同時刻、騎士団詰所を訪れた。出払っていた馬車も馬も定位置に戻っていて、閑散としていた詰所内が騒がしく人に溢れていた。 

 あれ?もしかして……っ! 
 シリウスを抱きしめたまま、馬車から駆け降りる。引き止めるスージーさんの声、門には見知ったカンタさんの驚く顔が見えた。その隣にすらりと立つ、逞しい背中。麗しい銀糸髪が、長いしっぽが風に揺れた。 
 その広い背中にシリウスを間に挟んだままひしとしがみついた。私の世界で一番いとおしい人。 

「うきゃぁ」
 シリウスが歓喜の声をあげた。

「旦那さまお帰りなさい!お怪我はないですか?」
 やっと旦那さまに会えた~!。 
 嬉しくてスリスリと頬を擦り付け、すうっと鼻腔いっぱいに旦那さまの匂いを吸い込んだ。ああ、草原の臭いみたい安心する。素晴らしい背筋の堅さを頬に感じる。
 
「ヴィヴィアンっ!シリウス。来ていたのですか?……うっ、くっ……ほ、頬を擦りつけすぎです」 
 首を後ろに向けた姿勢の旦那さまが私に訴えた。 
 
「だって!四日ぶりに会えたんですから嬉しいんです~っ。もっと旦那を堪能させて下さいな」 
 旦那さまは私の高速スリスリに呻き声をあげる
 
「おとうちゃま、ぼくも~」 
 シリウスも私の真似をして旦那さまに頬を擦り付けた。 

「はあっ……二人とも私に会えて嬉しいのはわかりますが、この体勢は苦しいので一度離れて下さい」 
   
「はーい!」  
「あーい!」 
 良い子の返事とともにパッと旦那さまから離れた。 
 旦那さまは私とシリウスに向き直ると「ただいま戻りました。良い子にしていましたか?」と、柔らかく口の端を上げて、シリウスを抱きしめ肩に乗せた。

 はう、シリウス良いな~っ。貴重な笑顔と肩乗り抱っこ。我が子に嫉妬しそうな私の頭に、旦那さまが手を置いてポンポン叩いた。 

「ふっ、そんなにシリウスが羨ましいですか?私に抱きしめてほしいですか?」 
 意地悪く、ニヤリと口角をあげる旦那さま。その横顔も見惚れるほどかっこよくて。 

「羨ましいです~!旦那さま抱きしめてっ」 
 両手を広げ抱っこをぜがむと、旦那さまは満足そうに微笑む。空いた片手で私を抱き止め、腰に手を回した。長いしっぽが足に巻き付く。
 旦那さまの広い胸にくっつき安心していると、呆れたようなタスクさんの声がした。 

「おーい!シオン隊長。ここは隊長のうちの応接間じゃないんだぜ。イチャつくなら仕事終わってからにしてくれよ」 

「イチャついてなどいませんよ」 

「どう見ても、イチャついてたワン!羨ましいワン」カンタさんにまで突っ込まれ、旦那さまは私を抱きしめるのを止めた。 
 こほんと咳払いすると、どうして騎士団詰所に来たのか私に質問した。 

 
「俺が昨日いいことあるから、この時間帯に来なよって誘ったんだ……ヴィヴィアンさん本当に良いことあったでしょう?団長も家族にいち早く会えて嬉しそうだね」得意気に耳を立てるタスクさんに感謝です。旦那さまに会えたから。  
  
 でも、旦那さまがモモサラ地方に出立してまだ四日目。どうして早く帰って来たんだろう?

 旦那さま曰く。 
 『魔物の吹き溜まり』が形成される前で思ったより早くモモサラ地方の魔物を駆除出来たこと、同行した聖女アリアナが度重なる遠征により体調不良を起こし急ぎ王都に帰還したそうです。 
  
「アリアナ様、体が心配ですね」
 神々しい光を纏った素朴な少女を思い出した。ミリヤ妃が仕事しない負担が全面的に彼女にのし掛かっているみたいだし。 

「そうですね。彼女は仕事を抱えすぎですし……それに、多分……アリアナ様は……」
  
 下を向き言い淀む旦那さま。どうしたんだろう?言いにくいことかな? 

「それより、ヴィヴィアン。私はこれからまた王城に報告やら提出する書類がありますので、今夜は帰れません」旦那さまは淡々と残酷な事実を述べた。 

「ええ~っ!!そんなぁ今夜も一人寝ですか?そろそろ孤独死しますよ」 
 会えた喜びから一転して絶望に。乙女心を弄ぶ、旦那さまひどいです。 
 
「勝手に孤独死しないで下さい。あと1日だけの我慢です。それに貴方にはシリウスが居ます」
 ため息とともに肩に乗っていたシリウスを渡された。

「マアマ、さみしくない、ぼくとねんね~」 
「シリウス~!ありがとー」
 なんて、優しい子ですか? 
 シリウスをぎゅうぎゅうして頬にキスしちゃいますよー。

「……ヴィヴィアン」
「へっ」  
 低く、地を這うような声に振り替えると、不機嫌な顔で私を見下ろす旦那さまと目が合った。

 え?なんで?怒ってるの?さっきまで機嫌良さそうだったのに。 

「ど、どうしましたか?」
 声が乾いてのどに引っ付いた。 

「………私には、……その……しなくてよいのですか?」 
 周りに聞こえないよう、耳元でボソリと小さく囁かれた言葉。その意味を咀嚼する。 
 
 ええ~?  
 もしかして、旦那さまにキスしていいと言うことですか? 
 こんな周りに団員さん居る中で! 
 チラッと旦那さまを伺うと、心なしか頬が赤いような気もするし。 
 ああ、そっか。頬っぺにですね?それなら喜んでいくらでも致しましょう~。 

「……はい!したいです!」 
 旦那さまの首に手を回し、その柔らかい頬っぺたにチュッとキスを落とす。 

 
「ラブラブワン~」 
「よかったね~団員」
「ああ、俺も早く家に帰ろう」
「はあっ……独り身には辛いです」  
 どよめき口々に声をあげる団員たち。その後ろから一際ヒステリックな声が上がった。 


「ちょっと!ヴィヴィアンさん!どうして獣人嫌いの貴女かシオン様といちゃついてるのよー!
 貴女はジャスティス王子の公妾になるの!その代わりにシオン様は私が貰うんだからー!!」 
  
 ピンク色の髪を振り乱し、可愛らしい顔を醜く歪めたミリヤ妃が絶叫していた。
 

 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい

狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。 ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

処理中です...