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分からない問題
しおりを挟むフィーリアは一人黙々と問題を解く。一度全課程を修了している彼女は、ある程度の問題なら解くことができる。しかし、彼女が通っていた時から年月が経っているので、難しい問題も多く追加されているため、手が止まることもよくある。
今考えている問題も、その難しいものの一つだ。魔法に関する問題で、ヴィセリオからある程度の知識を教わっていても、応用のものはまだまだ分かっていない。
フィーリアはヴィセリオを見たが、彼はアレクシアに教えている最中である。彼らの邪魔をするわけにはいかないと、フィーリアはノートに目を落とした。
顎に人差し指を添えて考えるも、なかなか解法が思い浮かばない。適当にノートにペンを滑らせていると、問題集に手が乗せられた。
「……この問題が、分からないのですか?」
フィーリアはびくりと体を揺らして前を見る。深い蒼い瞳と目が合った。フィーリアはすぐに目を逸らしてしまい、彼の指がなぞった問題文を読んだ。
「は、はい。恥ずかしながら、魔法実技をこのような形で問われることが苦手で……」
「私もこういう問題は苦手です。魔法というものは感覚で使うものですから、このように言葉で問われると引っかかってしまいます」
ルーンオードの言葉に再び視線を上げると、彼は目を和らげて微笑みを浮かべていた。いつもの貼り付けたような笑みではない。フィーリアは思わずその微笑みに見惚れたが、彼の冷たい瞳と言葉を思い出してまた目を伏せた。
ルーンオードが身を乗り出し、フィーリアが書いていた解法を見ようとしたので、彼女は慌ててノートを彼に見せる。彼の顔がいつもよりも近い位置にあると落ち着かないので、できるだけ遠い位置に置いた。
字は汚くないだろうか、変なことは書いていないだろうか、と心配になりながら、フィーリアはルーンオードの横顔を眺めた。字を読むために下に向けられた目が、彼の色気を際立たせている気がする。
フィーリアは一人顔を赤らめ、そっと目を離した。
「……成程。フィーリア嬢は、この部分で間違えてしまっているようですね」
体に響く低い声に再び体を揺らし、フィーリアはルーンオードが指さす箇所に目を移す。彼からどのように間違えているか説明を受け、納得して声を出した。
「あっ、確かに間違えています!」
フィーリアはノートを引き寄せ、ペンで書きこんだ。間違えていた一部分を正すと、答えが見えてきた。フィーリアはそのまま解き終え、やりきった笑みを浮かべて彼を見た。
「ありがとうございます、ルーンオード様」
すると、ルーンオードの顔が固まった。深い蒼い瞳が、フィーリアだけを見ている。フィーリアはしばらくにこにこと微笑んで彼の瞳を見ていたが、段々と恥ずかしさを覚え、慌てて目を伏せる。
彼からの視線を感じたが、目を上げることはできなかった。
その後も、分からない問題を頼れる先輩達から教えてもらったり、友達同士で相談したりして、充実した時間を過ごした。
フィーリアは凝った首を回し、開きっぱなしだった問題集を閉じた。
「貴重な時間を過ごすことができました。皆様、ありがとうございます」
フィーリアが微笑んでそう言うと、皆は優しい顔で彼女を見た。それが何だか気恥ずかしく、フィーリアは落ち着くために右斜め前にある兄の顔を見た。彼はいつもの優しい微笑みを浮かべている。
「フィア、可愛い」
彼の言葉に、左斜め前にいるルーンオードの体が動いたのが目の端で見えた。こんなに他の人の目があるところで、そういうことを言うのは避けてほしい。恥ずかしいのだから。
フィーリアは抗議の念を込めてヴィセリオを見ると、彼は笑い、椅子を引いて立ち上がった。彼に続いてルディも立ち上がったので、フィーリア達も机の上を片付けながら立ち上がる。
ヴィセリオはフィーリアの後ろに回り、彼女の肩に手を乗せた。
「私からも感謝を、フィアの友人達。こういう勉強会も、良いものだね」
にこり、と大人の笑みを浮かべるヴィセリオは、普段よりも増して兄らしく見えた。
「私のフィアが、また一段と賢くなった」
こういう一言は、余計だけど。
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