20 / 29
第二十話 呼び出し
しおりを挟む
海翔はしばらく私の髪に触れていたが、呟くように言った。
「……とはいえ、君は聖女だから、絶対に殿下としないとだめなんだよねぇ」
どこか他人事のようなつぶやきだ。彼の言葉に、私は理解が追いつかない。
「え……どういう、こと?」
思わず問い返すと、海翔はベッドの縁に腰掛け、私の手を握りながら説明を始めた。
「聖女の神聖力は、この世界の『闇』を浄化するために存在する。でも、その力を完全に覚醒させるには、聖女自身の『器』が完全に開かれ、この世界の『光』と結びつく必要があるんだ」
彼は、淡々と続ける。
「この世界で、『光』を最も強く宿しているのは、王族だ。特に、最も神聖な血を引く王太子が、その象徴とされている。だから、聖女の器を開き、力を最大限に引き出すためには、殿下と『契り』を結ぶ必要があるんだ。この契りというのは……簡単にいうと、セックスだね」
彼の言葉に、私の頭は混乱する。つまり、レオンハルト殿下と『契り』を結ぶ必要があるということだろうか。昨夜、海翔と行った行為が、今度は彼と……。
「……海翔以外と、しないといけないの?」
思わず、そんな言葉が口から出た。初めて海翔にあんなことをされたばかりなのに、今度は会ったばかりの王子様と、同じことをしなければならないなんて。
私の言葉を聞いた途端、海翔の顔が輝いた。
「それは、僕相手ならしても大丈夫ってこと? そういうことだよね。僕相手なら、いいんだ!」
彼は私の手をぎゅっと握りしめ、まるでこの上ない褒め言葉をもらったかのように、心底嬉しそうに言った。その瞳には、子供のような純粋な喜びと、明確な愉悦が揺らめいている。
そういう意図はなかったけど、確かにそういう風に聞こえてしまうかもしれない。困ったように海翔を見ると、彼は満足げな表情を浮かべたまま、首筋に顔を埋めてきた。
「ひゃ……っ」
鼻先が触れたかと思うと、すぐに熱い吐息がかかる。そのまま、ねっとりとした舌が私の首筋を這いあがっていく感触に、全身が泡立った。ぞわり、と背筋に悪寒が走る。
「やめ……」
思わず声を上げそうになるが、寸前で飲み込んだ。羞恥と、彼から放たれる圧倒的な熱に、なんとか声を抑え込む。昨晩、やめてとか嫌だとか言うと、海翔は余計にひどくしてきた。あまりそういったことは言わないほうがいいのかもしれない。
それでも何もしなければ、このまま、彼の思うがままにされてしまう。どうにかして彼の気を逸らすことができないかと考えていたその時だった。
コンコンコン、と扉が叩かれる音が部屋に響き渡った。
海翔の動きがぴたりと止まる。
「*”カイト様。至急、お呼出しです!”*」
扉の向こうから、切羽詰まった男性の声が聞こえてきた。
「*”魔物の群れが、南門を突破したとの報が入りました! 大至急いらしてくださいと、隊長様からの言伝です!”*」
海翔は、私の首筋からゆっくりと顔を上げた。彼の表情には、心底面倒くさそうな色が浮かんでいる。まるで、大切な時間を邪魔された子供のように、不満げに眉をひそめた。
「*”……わかった。すぐに行く”*」
低い声の返事の後に舌打ちのような小さな音が聞こえ、驚いて彼を見上げた。彼は私を見下ろしながら、優しい笑みを浮かべる。
「ごめんね、葵。せっかくいいところだったのに」
彼はそう言って、私の唇に、深く、熱い口づけを落とした。その口づけには、まだ満たされない欲求と、私への強い執着が込められているように思えた。
「すぐに帰ってくるから。いい子で待っててね」
そう囁くと、彼は私の頬を優しく撫で、ベッドから立ち上がった。扉を開け、騎士服の乱れも気にせず、彼は足早に部屋を出て行く。
残された部屋には、海翔の匂いと彼の熱が、まだ残っているように感じた。
「……とはいえ、君は聖女だから、絶対に殿下としないとだめなんだよねぇ」
どこか他人事のようなつぶやきだ。彼の言葉に、私は理解が追いつかない。
「え……どういう、こと?」
思わず問い返すと、海翔はベッドの縁に腰掛け、私の手を握りながら説明を始めた。
「聖女の神聖力は、この世界の『闇』を浄化するために存在する。でも、その力を完全に覚醒させるには、聖女自身の『器』が完全に開かれ、この世界の『光』と結びつく必要があるんだ」
彼は、淡々と続ける。
「この世界で、『光』を最も強く宿しているのは、王族だ。特に、最も神聖な血を引く王太子が、その象徴とされている。だから、聖女の器を開き、力を最大限に引き出すためには、殿下と『契り』を結ぶ必要があるんだ。この契りというのは……簡単にいうと、セックスだね」
彼の言葉に、私の頭は混乱する。つまり、レオンハルト殿下と『契り』を結ぶ必要があるということだろうか。昨夜、海翔と行った行為が、今度は彼と……。
「……海翔以外と、しないといけないの?」
思わず、そんな言葉が口から出た。初めて海翔にあんなことをされたばかりなのに、今度は会ったばかりの王子様と、同じことをしなければならないなんて。
私の言葉を聞いた途端、海翔の顔が輝いた。
「それは、僕相手ならしても大丈夫ってこと? そういうことだよね。僕相手なら、いいんだ!」
彼は私の手をぎゅっと握りしめ、まるでこの上ない褒め言葉をもらったかのように、心底嬉しそうに言った。その瞳には、子供のような純粋な喜びと、明確な愉悦が揺らめいている。
そういう意図はなかったけど、確かにそういう風に聞こえてしまうかもしれない。困ったように海翔を見ると、彼は満足げな表情を浮かべたまま、首筋に顔を埋めてきた。
「ひゃ……っ」
鼻先が触れたかと思うと、すぐに熱い吐息がかかる。そのまま、ねっとりとした舌が私の首筋を這いあがっていく感触に、全身が泡立った。ぞわり、と背筋に悪寒が走る。
「やめ……」
思わず声を上げそうになるが、寸前で飲み込んだ。羞恥と、彼から放たれる圧倒的な熱に、なんとか声を抑え込む。昨晩、やめてとか嫌だとか言うと、海翔は余計にひどくしてきた。あまりそういったことは言わないほうがいいのかもしれない。
それでも何もしなければ、このまま、彼の思うがままにされてしまう。どうにかして彼の気を逸らすことができないかと考えていたその時だった。
コンコンコン、と扉が叩かれる音が部屋に響き渡った。
海翔の動きがぴたりと止まる。
「*”カイト様。至急、お呼出しです!”*」
扉の向こうから、切羽詰まった男性の声が聞こえてきた。
「*”魔物の群れが、南門を突破したとの報が入りました! 大至急いらしてくださいと、隊長様からの言伝です!”*」
海翔は、私の首筋からゆっくりと顔を上げた。彼の表情には、心底面倒くさそうな色が浮かんでいる。まるで、大切な時間を邪魔された子供のように、不満げに眉をひそめた。
「*”……わかった。すぐに行く”*」
低い声の返事の後に舌打ちのような小さな音が聞こえ、驚いて彼を見上げた。彼は私を見下ろしながら、優しい笑みを浮かべる。
「ごめんね、葵。せっかくいいところだったのに」
彼はそう言って、私の唇に、深く、熱い口づけを落とした。その口づけには、まだ満たされない欲求と、私への強い執着が込められているように思えた。
「すぐに帰ってくるから。いい子で待っててね」
そう囁くと、彼は私の頬を優しく撫で、ベッドから立ち上がった。扉を開け、騎士服の乱れも気にせず、彼は足早に部屋を出て行く。
残された部屋には、海翔の匂いと彼の熱が、まだ残っているように感じた。
4
あなたにおすすめの小説
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日
プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。
春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました
えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。
同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。
聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。
ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。
相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。
けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。
女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。
いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。
――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。
彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。
元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる