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第二十八話 パーティー
しおりを挟む私には、聖女としての務めがいくつか課されている。その一つが、王城で開かれる様々なパーティーや公式行事への参加だ。
私は侍女達の手で、豪華なドレスに着飾れていた。柔らかいシルクが肌を滑り、装飾の宝石が光を反射して輝く。鏡に映る自分の姿は、この異世界に来る前の私とは全く別人だ。これぞ聖女、というような出で立ちになっている。庶民だった私が着るには少々恥ずかしい。
華やかな場所は得意ではない。見知らぬ人々の視線が常に私に注がれることには、未だ慣れることができなかった。
扉が開かれて、海翔が部屋に入ってくる。彼の姿もまた、騎士団の制服ではなく、格式ある正装に身を包んでいる。漆黒の髪は丁寧にまとめられており、いつにも増してかっこいい。
「とても綺麗だ、葵」
彼は私の手を取り、甲にそっと口づけた。そして、彼の指が私の手のひらを撫でる。
「他の者に見せたくないな……」
海翔はしばらく私の姿をじっと見ていたが、やがて大きく息を吐いた。
「でも、参加しないと殿下に怒られる。……行こうか、葵」
そっと手を差し伸べられ、私はその手に自らの手を重ねた。
パーティー会場に到着して、お偉いお貴族様達への簡単な挨拶などを行う。海翔が常に私の傍にいて、何を言っているのか通訳してくれる。
「聖女様にお会いできて光栄です、だって」
返ってくるのは大抵同じ言葉なので、この言葉は覚えることができた。私が言う機会はないだろうけど。
大体の挨拶を終えて、私はそっと息を吐いた。肩に手が置かれて、顔を上げると海翔と目が合う。
「お疲れ様」
彼はにこりと笑って頭を撫でる。他の人の目があるところで恥ずかしかったので、私は顔を伏せて視線を逸らした。
「*”カイト。ちょっといいか?”*」
すると、誰かが私達に話しかけてきた。再び顔を上げて声の主を見る。騎士服を着ており、パーティー会場の護衛をしている騎士だと分かる。
「*”何の用だ?”*」
「*”さあ。ただ、隊長がお前を呼んでる”*」
海翔の知り合いなのだろうか。彼らは何やら話をしている。その様子を見ていると、海翔が私に視線を下ろした。
「ごめん、葵。用事ができたから、ちょっと離れるね」
私が頷いたのを確認して、海翔は青年と共に移動した。私は会場の隅に移動して、小さく息を吐く。
壁際に置かれたテーブルには、色とりどりの飲み物が並べられている。私はグラスを手に取って、甘いジュースをちびちびと口に含んだ。
ジュースを飲みながら、ぼんやりと会場を見渡す。すると、視線の先に、海翔がたくさんの令嬢達に囲まれているのが見えた。
彼の周りには、色とりどりのドレスをまとった令嬢達が、まるで花のように集まっている。皆、彼の言葉に楽しそうに笑い、彼の顔をうっとりと見上げている。彼は、そんな令嬢たちの視線に慣れているかのように、涼しい顔で、優雅に振る舞っていた。
海翔は一見すると社交的に振舞っているが、よく見ると、その表情にはどこか面倒くさそうな色が浮かんでいる。令嬢達と話している時も、上の空といった様子だ。
……海翔は、昔からよくモテたっけ。
あの見た目の彼を、女子達が放っておくわけがない。そう思うのに、何故かチクリとした痛みを胸に感じた。
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