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葛藤 ???side
しおりを挟む懐かしき日々。
今は亡き奥様と周様が楽しそうに庭を散歩している。2人の笑い声が屋敷中にこだまする。そんな日々。
私は奥様が嫁がれてすぐにこの屋敷に来た。周様がお生まれになった時も、成長される過程も、奥様が弱っていく姿も、奥様が亡くなるときもこの屋敷にいた。
そして、新しい奥様が来られた時も、誰も知らぬ間に生まれていた御子息が来られた時も、周様が暴力を振るわれている時も、周様が初めて道具にされた時もこの屋敷にいた。
周様、申し訳ありません。あなたを守ることができず、奥様の大切なお子であるあなたを守ることができず申し訳ありません。
ただの執事である私に対し優しくしてくださり、私の家族まで気にかけてくださった亡き奥様のことを私は本当に大切に思っていました。息子の周様も。これは本当の事実なのです。
ですから今の奥様が来られてすぐは他の使用人に頼み周様の元に食事を運んでいましたが、今の奥様や旦那様にそれがばれ、その使用人たちはクビに。
周様の扱いの酷さを訴えたこともありましたが、その直後、私の母が入院していた病院から無理やり退院させられその後どこにも通院すらさせてもらえず亡くなりました。増田財閥の圧がかかったと担当医だった先生から密かに教えてもらいました。
周様、申し訳ありません。
私は私の家族のことが大切で、そのためにあなたを見捨ててしまった。
許してくれなんて言いません。
後悔しかしていません。
特にあの日。周様が初めてΩとして、道具として旦那様に連れて行かれた日。
あの日のあなたの顔を見た時にどれだけ絶望したことか。私がしていることは、犯罪です。
あの日、屋根裏部屋から聞こえてきた声を押し殺したような泣き声を私は一生忘れることができないでしょう。
少しだけ勇気を振り絞り旦那様に意見を申してみましたがやはりダメですね。
私は、あなたのために何一つできていない。私は、あなたからすれば旦那様と同じなのでしょうね。
「・・・っっ、、周様、どうかご無事で。周様が、見つかりませんように。」
昔奥様と話されていた、周様の初恋の相手が南れおんであることは旦那様には話していません。
その南れおんが周様がいなくなったと同時に学校を辞めたことも。
勝俣様の面会に行っていたことも。
私しか知りません。
せめてもの抵抗です。私しか知らない事実をあの旦那様では調べようがない。
あの人は私を完全に恐怖で縛っていると思っていますから。
ですからどうか、見つかりませんよう。
「周様、、どこかで、幸せになってください。」
あなたがいた物置部屋には何箇所も血がついていましたが、無事であると、信じていますから。私にはこれぐらいしかできないのです。弱いのです。
「橋本晶様ですね?」
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