僕は僕じゃないけど、君をきっと迎えに行きます。

亜久里遊馬

文字の大きさ
2 / 5

2:聞いておきたいこと

しおりを挟む
 いつになく饒舌に喋る彼女。それで不安が紛れるのなら、いくらでも話し続けたらいい。

 今の僕には、ただ聞いてあげる事しかできないから。

「そういえば、さ。走馬灯ってあるじゃない? 死ぬ前に印象深い思い出がバアッて頭の中を駆け巡る奴。今の私はそういう状態なのかもしれない。まだ死ぬのには時間があるけれど、そのぶんゆっくりと浮かんでくる。貴方と出会った日、一睡もできなかったこととか、すごい無理して食費までつぎ込んで指輪買ってくれたこととか、まるで昨日のように思い出せるよ」

 無理をして楽しい事だけを思い出している。あまりに酷く、悲しい光景だった。

「私が死んだら、貴方は泣いて……あ、ごめんね。すごい無理なこと言っちゃって。でも、今の貴方を見ていたら、どうしても聞いてみたくなったの」

「泣くよ。当たり前じゃないか、夫婦なんだから」

「ありがとう。嘘でも嬉しい、かな。私に明日が無くても、悲しんで泣いて、明日も眠れないような人がいるんだったら、ちょっとはマシだよね」

 それは少し皮肉が混じった言葉のように思えた。僕が明日を悲しんでいない事を見透かしているような、そんな雰囲気さえ感じ取れた。 

 

「そろそろ面会時間は終わりです。何か言い残したことがあれば、今のうちに伝えておいてください」

 さっきまでずっとドアにへばりついてぴくりとも動かなかった看守が言った。

「ええ、わかりました」

「じゃあ、そろそろ帰るね」

 そう言うと、彼女は少しあわてたように見えた。

「あ、ちょっと待って。私、最後に……最後に一つだけ聞いておきたい事があるんだけど、いい?」

「うん、でもその前に僕も聞いていいかな?」

彼女の動きが止まった。もしかしたら、僕が何を聞こうとしているのか察したのかもしれない。視線がピタリと定まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...