僕は僕じゃないけど、君をきっと迎えに行きます。

亜久里遊馬

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3:僕の幽霊

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 少し迷った。このまま帰れば、死を前にした彼女の心を悪戯にかき立てなくてすむ。

「うん……いいよ」

 小さく息を吸い込む。これは、明日のために避けられない問いだ。自分にそう言い聞か

せて。 

「……今でも、僕を恨んでいるかい?」

 彼女は不思議そうに僕を見つめる。予想していたのとは、少し違っていたようだ。

「それは、貴方が言うべき質問じゃないでしょ。でも……いいよ。答える」

「……うん……恨んでる、と思う。ごめんね、曖昧で。でも、それが正直な気持ちだから。さっきは、貴方との出会ったのが素晴らしい事のように言ったけれど、その後の生活もそうだったとは、口が裂けても言えない。ご飯が遅いと言っては殴られて、食べた後も不味いと蹴られて、毎日がそんな感じで幸せだったって言う人間なんかいないと思う」

 『僕』が彼女にした酷い行いは、今でも僕の記憶に生々しく残っている。

「本当に辛かった。何よりも、好きな相手にそういう仕打ちを受けるのが辛かったよ。そうじゃなかったら……、そうじゃなかったら私は……貴方を……」

 語尾は聞き取れなかった。

 彼女はしばらく下を向いていたが、面会時間の終了が迫っているのを思い出したのか、すっと顔を上げてガラスに近づいた。瞬間、息でガラスが白く曇る。

 しばらく彼女はそのままの格好で止まっていた。

「いいよ。何か聞きたいことがあったんだろ?」

 話しやすくするためにかけた言葉だったのに、彼女の顔はくしゃりと歪んだ。

「どうして……どうしてそうな風にしていられるの? そう、私の質問は貴方と全く同じ。貴方は、私の事を恨んでいるの? 恨んでいないといけないはずじゃないの?」

 

「だって、私は……私は貴方を殺したのよ!」

 

 悲痛な叫びが辺りに響いた。詳しい事情を知らない看守が目を丸くしている。今までの流れを聞いていたのなら、当然の反応だろう。彼女の言葉が正しければ、今ここに座っているのは幽霊ということになってしまう。

でも、その考えもあながち間違いとは言えない。

 

 ここにいるのは、僕と『僕』の幽霊だから。
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