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4:面会の終わり

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「……ごめんね。ちょっと興奮しすぎたみたい。そう言えば、貴方は私に殺された記憶までは持っていなかったんだもんね」 

「うん、クローンに記憶がバックアップされるのは1日の終わりだからね。夕方には殺されていたから、その日何があったかは見ていないんだ」

 嘘だった。記憶のバックアップの周期には種類があって、『僕』はリアルタイムの更新を選んでいた。もし、何かの不注意で死んでしまったときには、同じ失敗を繰り返さないようにと。

 だから、殺される瞬間に『僕』が感じた恐怖や、彼女が血まみれで仁王立ちしている情景まで鮮明に覚えている。ただ、彼女に知られるわけにはいかなかった、明日のためにも。

「たぶん、貴方は何事もなかったかのように別のレールを進んでいくんでしょうね。それこそ、別の人間のように」 

「ああ、そうかもしれないね。そうだったら……いいね」

 答えた僕に彼女は寂しそうに笑いかけ、そしてすぅっと元の生気のない顔に戻った。

 

 

「では、これで面会時間終了となりますね」

キリのいいところと判断した看守が、そう言った。腕時計を見ると、もう少しで終了です、と言われてからかなりの時間が経過していた。死刑を宣告された囚人に対する同情もあるのだろうが、それ以上にその看守自身の人の良さを感じさせた。

「すみません、長々と話をしてしまって」

「いえいえ、いいんですよ。これから死にゆく人たちに対して、私が出来ることはこれぐらいですから」

「ありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」

「……明日は、2番目の執行となりますので午後3時には準備が始まります。もし……」

「ええ。聞いています。しかし、2人ですか……」

「いいえ、3人です。たぶん、全部が終わる頃には夜になるでしょうね。……最後は、13歳の子供なんですよ。本当に、やりきれません」

 看守は疲れたようにため息をついた。死刑の拡大適用が始まったのはいつの頃だったか記憶にないが、正直そこまで酷いことになっているとは思わなかった。単純計算で、1年で1000人近くが法の名の下で殺されている事になる。人口が爆発的に増えたとは言え、とても想像できない数字だった。 
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