僕は僕じゃないけど、君をきっと迎えに行きます。

亜久里遊馬

文字の大きさ
4 / 5

4:面会の終わり

しおりを挟む
「……ごめんね。ちょっと興奮しすぎたみたい。そう言えば、貴方は私に殺された記憶までは持っていなかったんだもんね」 

「うん、クローンに記憶がバックアップされるのは1日の終わりだからね。夕方には殺されていたから、その日何があったかは見ていないんだ」

 嘘だった。記憶のバックアップの周期には種類があって、『僕』はリアルタイムの更新を選んでいた。もし、何かの不注意で死んでしまったときには、同じ失敗を繰り返さないようにと。

 だから、殺される瞬間に『僕』が感じた恐怖や、彼女が血まみれで仁王立ちしている情景まで鮮明に覚えている。ただ、彼女に知られるわけにはいかなかった、明日のためにも。

「たぶん、貴方は何事もなかったかのように別のレールを進んでいくんでしょうね。それこそ、別の人間のように」 

「ああ、そうかもしれないね。そうだったら……いいね」

 答えた僕に彼女は寂しそうに笑いかけ、そしてすぅっと元の生気のない顔に戻った。

 

 

「では、これで面会時間終了となりますね」

キリのいいところと判断した看守が、そう言った。腕時計を見ると、もう少しで終了です、と言われてからかなりの時間が経過していた。死刑を宣告された囚人に対する同情もあるのだろうが、それ以上にその看守自身の人の良さを感じさせた。

「すみません、長々と話をしてしまって」

「いえいえ、いいんですよ。これから死にゆく人たちに対して、私が出来ることはこれぐらいですから」

「ありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」

「……明日は、2番目の執行となりますので午後3時には準備が始まります。もし……」

「ええ。聞いています。しかし、2人ですか……」

「いいえ、3人です。たぶん、全部が終わる頃には夜になるでしょうね。……最後は、13歳の子供なんですよ。本当に、やりきれません」

 看守は疲れたようにため息をついた。死刑の拡大適用が始まったのはいつの頃だったか記憶にないが、正直そこまで酷いことになっているとは思わなかった。単純計算で、1年で1000人近くが法の名の下で殺されている事になる。人口が爆発的に増えたとは言え、とても想像できない数字だった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...