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8 我が家
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ザイラスが用意してくれた 湯船に浸かりながら オリビアは吐息を吐く。
( 気持ちいい・・)
髪も体も 泥と血で汚れていて 気になっていた。
両腕と両足に 切られた時の傷が薄く残っている。 縫われた痕は無いが、 代わりに金色の文字が つなぐように描かれている。
ザイラスの治療魔法らしいが、 これで大丈夫なのだろうか? 指で傷跡をなぞってみる。
痛みは無い。 触れられている感触もある。
3日前に切断されたとは 思えない回復力だ。
( ・・・)
ここに来てからは 信じられない事ばかり起きる。
バンパイアハンターのザイラス。 大地の神ポポ。
女鹿のビジュ。そして、この魔法。
助けてくれたことには感謝しているが、 今はマリアに会いたい気持ちの方が強い。 唯一、私に愛情を注いでくれたマリアと 離れ離れになることだけは 死んでも嫌だった。
( もう、二度と会えないのだろうか? )
王女として生きていく事も出来ない。 だからと言って 庶民としても生きていく事が出来ない。
中途半端な人生。
けれど、平凡だけど穏やかな日々。 それで十分だった。 贅沢な物など一つも要らなかった。
ポタリと落ちた涙が 波紋を広げる。
城に戻っても 騎士団長に見つかれば 今度は確実に殺される。 マリアは 私が嫁いだと喜んでいるはず。 私が会いに行けば離縁されたのかと心配させるだけだ。
今一番会い人に 会えない 。会ってはいけない。 自分で自分を抱きしめて慰める。
それでも、寂しさが私を 離してくれない。
**
お母様は、私が生まれる前 お腹にいるのは王子だと 他の妃たちに吹聴していた。 占いでも男と出て お母さんは信じて疑わなかった。
だから、生まれたのが女の子と知った時は 死ぬほど絶望したらしい。追い打ちをかけるように 国王の足も遠のき。 プライドの高いお母様は 全ての責任は女として生まれた 私にあると言い続けた。
私が大きくなるにつれ お母様の怒りも増して 、私の姿を見るたび 自分が受けた屈辱を思い出すと言って怒った。
それは完全な八つ当たり。
でも、幼かった私は 自分が悪いんだと信じて どんなことをされても耐えた。
涙が頬を伝い 湯船に雨を降らせる。
「うっ・・うっ・・うっ」
涙を隠すように顔を 何度も洗う。
泣いたら 皆に 心配かけると 分かってる。
それでも涙が止まらない。
どうして、私は 女に生まれたんだろう?
どうして、男に 生まれてこなかったんだろう?
どうして、神様は 私に冷たいんだろう?
どんなに考えても 答えは出ないのに 何度も考えてしまう。
「はぁ~」
ため息をつくと涙を止めようと、バンバンと両頬を叩いて 気合を入れる。
泣いても何も解決しない事は、 身にしみて分かっている。
昔のことを考えるのは、ここまで 。
それより、これからの事だ。
今の私には 頼れるモノも無いし 行くあてもない。
そもそも お金も無い。 体のことを考えれば、 しばらく厄介になるしかない。
その為には 自分を押し殺して 相手が望む人間になる。どんなに理不尽なことでも 飲み込んできた。今度も そうしよう。
だから、二人の話を信じる。 それに命の恩人だ 。
それだけで十分な理由になる。何より 二人の瞳には 私を憐れむ色が浮かんでいない。
**
「はぁ・・はぁ・・」
体が鉛のように重い。 わずか数歩なのに ベッドまでが遠い。 これほど体が弱ったのは初めてだ。 それでも、久しぶりに体に合った服を着て 気持ちが落ち着く。
ザイラスのシャツは よく着こまれて手触りの良いコットンシャツだが 、いかんせん サイズが大きすぎた。
手首を出すために 何重も捲らないといけなかったし。 少し屈んだだけで 胸元が見えて気が気でなかった。
「えっ」
一歩、一歩足を運んでいると 途中で、ふわりと抱き上げられる。 驚いて相手を見るとザイラスだ。 いつのまにか、部屋に入ってきていたようだ。気づかなかった。
「 まったく 目を離すと これだ。一人で何でもしようとするな」
「 これくらい大丈夫です 」
時間はかかっても一人で出来た。
私を ベッドに座らせると ザイラスが私のまだ濡れている髪を拭く。
「 駄目だ 。独立心が強いことは良いことだが 人に甘えることも覚えろ」
「・・・」
( そんなこと言われても・・)
働かなければ食べることも 寝床も手に入らなかった。 常に自分は役に立つ人間だと 証明しなければ イケない人生だった。 人を頼ることは 自分が無能だと証明するようなものだ。
「わぉ!見違えたね。 とっても可愛いよ」
ポポが入ってくるなり、褒める。
「ぞっ、そんなことありません」
オリビアは、気恥ずかしさに スカートを握る。 すると、サイラスな 首を縦に振る。
「 いいや、本当に可愛いよ 」
「 あっ・・ありがとうございます」
そんな風に褒められた事など1度もかったから頬が緩みそうになるのを 誤魔化す。
きっと綺麗なドレスを着ているから よく見えるんだ。そうだ、 馬子にも衣装だ。
「 これなら 毎日新しいドレスを買っても 惜しくないな」
「そんなの 駄目です。 これだけで十分です」
上機嫌のザイラスに手を突き出しておし止める。
これ以上借金を増やしたくない。
「 どうして?新しいドレスは 要らないのか?」
「 もちろんです。 一着あれば十分です」
「 つまらないな・・」
ザイラスが、がっかりして肩を落とす。
期待を裏切って申し訳ない気持ちと、甘えてしまいたいと思う気持ちで 揺れる。
ザイラスの関係を 悪くしたくない。
何と返事をすれば 丸く収まるんだろうと悩む。
「 お前は、だから、ダメなんだ。 そんなふうに聞いたら 断るに決まってるだろう。それが淑女の嗜みだ」
「じゃあ 嘘をついているのか?」
素直に聞いてくるザイラスに オリビア苦笑いする。
嘘では無いけど・・。
ポポが呆れて天井を見る。
「 全く!嘘じゃない。 遠慮してるんだよ。 遠慮!」
「 どうして?」
ザイラスが怪訝な顔をするとポポが前足を突きつけながら 詰め寄る。
「 買ってもらう理由が無いからだ。お前はオリビアの親か? 夫か? 恋人か? どれも違うだろう」
食ポポが呆れて天井を見る。
ポポは見た目は動物だが 人間の心の機微が分かっている。 それに引き換え サイラスは 人の言葉を額面通りに受け取る。 良い事なのか 悪い事なのか 周りの者の苦労が目に見える。
「 理由はある」
「 何だ?」
ポポが驚いたように聞く。 私も その理由が知りたい。 どんなことを言うのだろう と、期待する。
「 僕が着せたいからだ」
「「・・・」」
しかし、ザイラスから出た言葉に ポポが首を振りながら部屋を出て行く。
「 話にならない・・」
それをザイラスが眉間にしわを寄せて ポポを見送る 。 私も小さく首を振る。 もっと深い理由があるのかと思ったのに。
**
オリビアは手を止めると 額の汗を拭う。
少しでも恩返ししようと ザイラスの部屋の掃除をしている。 この部屋に入った時は あまりの散乱ぶりに 気持ちが萎えそうになったが、 私に出来ることは これくらいしかないと 覚悟を決めて取り掛かった。
少しでも快適に暮らして欲しい。
「 これは ・・」
声に振り返るとザイラス 驚いた顔で部屋を見回している 。
「もう少しで終わりますので お待ちください 」
ザイラスの表情を見て やった 甲斐があったと満足していたが、ザイラスがつかつかと近づいてくると 私を抱き上げる 。
まただ。ザイラスは、これが好きなの?
「なっ、何ですか? まだ途中です」
「 今日は終わりた。続きをしたかったら明日にしろ」
「でも・・」
「 私が終わりと言ったら、終わりだ。 まだ完全に治ったわけじゃない。 痛みはないから治ったと勘違いして無理をしたら 前より悪化することもある」
有無を言わさぬ態度に 素直に従う。 そうなのかもしれないが、 自分的には城にいた時より元気だと思うの。ザイラスは 言い出したら聞かないタイプだと 初めから気づいていたし、 きちんとした理由が無い限り 私の言うことを認めないだろう。
オリビアは内心ため息をつきながらも頷く。
しかし、掃除はやめると約束したのに いつまでも抱っこしたままだ。
「あの・・ わかりましたから 下してください」
「 どうして ?」
「どうしてって・・ 重いでしょ?」
「 軽いぞ 」
「・・気が引けます」
「 気にしなくて」
「・・・」
そういう問題じゃないのに・・。
自分のことは自分でしてきた。誰にも迷惑かけないように生きてきた。 病気や怪我をしても一人で耐えた。 今回は 瀕死の重傷だったから 仕方なく世話をしてもらっていたが 、 健康になった今は ズルをしているようで気が引ける 。
「でも・・」
「なんだ。抱っこは嫌いか?」
真剣に聞いてくるザイラスの表情に 心がざわつく。ここで、嫌いだと言ったら。 きっと二度と抱っこしてくれない 。そう思ったら嫌いとは言えない。だって、まるで子供のように軽がると抱っこされると ウキウキする。
「・・嫌い・・じゃ・・ありません・・」
その反面 その逞しい胸板や 立ち込める男らしさに 胸が高鳴ってしまう。
「なら、遠慮しなくていい」
「はい・・」
笑顔でザイラスが念を押すと 歩き出す。
でも、どうして良いのかよく分からない。
子供の様にキャッキャする歳ても無いし、 恋人同士のように うっとりとお互いを見つめ合うことも出来た無い 。戸惑う自分の気持ちを持て余しながら ザイラスの腕の中に収まる。
部屋に戻るとザイラスが 私はベッドに降ろして 跪いて 私の手を優しく握る。その ゴツゴツした男らしい 騎士のような大きな手だ。
この手が私は守ってくれる。 何故か心にその言葉が浮かんで 胸がキュンとする。
「 今は、ここが我が家なんだから、 掃除がしたかったら元気になってからいくらでもしろ。 止めはしない。 だから、治療に専念しろ」
「・・はい」
我が家・・。
ザイラスは何気なく言っているが、 その言葉は私にとって憧れ。 今まで誰も そんなことを言ってくれた人はいなかった。 お世辞なのかもしれないと疑いながら ザイラスの瞳が見ると 曇りのない目が見つめ返す。
不器用なザイラスが 嘘をつくはずがない。
本当に心からそう思ってくれている。
( やっと、私にも 帰る家が出来たんだ・・)
( 気持ちいい・・)
髪も体も 泥と血で汚れていて 気になっていた。
両腕と両足に 切られた時の傷が薄く残っている。 縫われた痕は無いが、 代わりに金色の文字が つなぐように描かれている。
ザイラスの治療魔法らしいが、 これで大丈夫なのだろうか? 指で傷跡をなぞってみる。
痛みは無い。 触れられている感触もある。
3日前に切断されたとは 思えない回復力だ。
( ・・・)
ここに来てからは 信じられない事ばかり起きる。
バンパイアハンターのザイラス。 大地の神ポポ。
女鹿のビジュ。そして、この魔法。
助けてくれたことには感謝しているが、 今はマリアに会いたい気持ちの方が強い。 唯一、私に愛情を注いでくれたマリアと 離れ離れになることだけは 死んでも嫌だった。
( もう、二度と会えないのだろうか? )
王女として生きていく事も出来ない。 だからと言って 庶民としても生きていく事が出来ない。
中途半端な人生。
けれど、平凡だけど穏やかな日々。 それで十分だった。 贅沢な物など一つも要らなかった。
ポタリと落ちた涙が 波紋を広げる。
城に戻っても 騎士団長に見つかれば 今度は確実に殺される。 マリアは 私が嫁いだと喜んでいるはず。 私が会いに行けば離縁されたのかと心配させるだけだ。
今一番会い人に 会えない 。会ってはいけない。 自分で自分を抱きしめて慰める。
それでも、寂しさが私を 離してくれない。
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お母様は、私が生まれる前 お腹にいるのは王子だと 他の妃たちに吹聴していた。 占いでも男と出て お母さんは信じて疑わなかった。
だから、生まれたのが女の子と知った時は 死ぬほど絶望したらしい。追い打ちをかけるように 国王の足も遠のき。 プライドの高いお母様は 全ての責任は女として生まれた 私にあると言い続けた。
私が大きくなるにつれ お母様の怒りも増して 、私の姿を見るたび 自分が受けた屈辱を思い出すと言って怒った。
それは完全な八つ当たり。
でも、幼かった私は 自分が悪いんだと信じて どんなことをされても耐えた。
涙が頬を伝い 湯船に雨を降らせる。
「うっ・・うっ・・うっ」
涙を隠すように顔を 何度も洗う。
泣いたら 皆に 心配かけると 分かってる。
それでも涙が止まらない。
どうして、私は 女に生まれたんだろう?
どうして、男に 生まれてこなかったんだろう?
どうして、神様は 私に冷たいんだろう?
どんなに考えても 答えは出ないのに 何度も考えてしまう。
「はぁ~」
ため息をつくと涙を止めようと、バンバンと両頬を叩いて 気合を入れる。
泣いても何も解決しない事は、 身にしみて分かっている。
昔のことを考えるのは、ここまで 。
それより、これからの事だ。
今の私には 頼れるモノも無いし 行くあてもない。
そもそも お金も無い。 体のことを考えれば、 しばらく厄介になるしかない。
その為には 自分を押し殺して 相手が望む人間になる。どんなに理不尽なことでも 飲み込んできた。今度も そうしよう。
だから、二人の話を信じる。 それに命の恩人だ 。
それだけで十分な理由になる。何より 二人の瞳には 私を憐れむ色が浮かんでいない。
**
「はぁ・・はぁ・・」
体が鉛のように重い。 わずか数歩なのに ベッドまでが遠い。 これほど体が弱ったのは初めてだ。 それでも、久しぶりに体に合った服を着て 気持ちが落ち着く。
ザイラスのシャツは よく着こまれて手触りの良いコットンシャツだが 、いかんせん サイズが大きすぎた。
手首を出すために 何重も捲らないといけなかったし。 少し屈んだだけで 胸元が見えて気が気でなかった。
「えっ」
一歩、一歩足を運んでいると 途中で、ふわりと抱き上げられる。 驚いて相手を見るとザイラスだ。 いつのまにか、部屋に入ってきていたようだ。気づかなかった。
「 まったく 目を離すと これだ。一人で何でもしようとするな」
「 これくらい大丈夫です 」
時間はかかっても一人で出来た。
私を ベッドに座らせると ザイラスが私のまだ濡れている髪を拭く。
「 駄目だ 。独立心が強いことは良いことだが 人に甘えることも覚えろ」
「・・・」
( そんなこと言われても・・)
働かなければ食べることも 寝床も手に入らなかった。 常に自分は役に立つ人間だと 証明しなければ イケない人生だった。 人を頼ることは 自分が無能だと証明するようなものだ。
「わぉ!見違えたね。 とっても可愛いよ」
ポポが入ってくるなり、褒める。
「ぞっ、そんなことありません」
オリビアは、気恥ずかしさに スカートを握る。 すると、サイラスな 首を縦に振る。
「 いいや、本当に可愛いよ 」
「 あっ・・ありがとうございます」
そんな風に褒められた事など1度もかったから頬が緩みそうになるのを 誤魔化す。
きっと綺麗なドレスを着ているから よく見えるんだ。そうだ、 馬子にも衣装だ。
「 これなら 毎日新しいドレスを買っても 惜しくないな」
「そんなの 駄目です。 これだけで十分です」
上機嫌のザイラスに手を突き出しておし止める。
これ以上借金を増やしたくない。
「 どうして?新しいドレスは 要らないのか?」
「 もちろんです。 一着あれば十分です」
「 つまらないな・・」
ザイラスが、がっかりして肩を落とす。
期待を裏切って申し訳ない気持ちと、甘えてしまいたいと思う気持ちで 揺れる。
ザイラスの関係を 悪くしたくない。
何と返事をすれば 丸く収まるんだろうと悩む。
「 お前は、だから、ダメなんだ。 そんなふうに聞いたら 断るに決まってるだろう。それが淑女の嗜みだ」
「じゃあ 嘘をついているのか?」
素直に聞いてくるザイラスに オリビア苦笑いする。
嘘では無いけど・・。
ポポが呆れて天井を見る。
「 全く!嘘じゃない。 遠慮してるんだよ。 遠慮!」
「 どうして?」
ザイラスが怪訝な顔をするとポポが前足を突きつけながら 詰め寄る。
「 買ってもらう理由が無いからだ。お前はオリビアの親か? 夫か? 恋人か? どれも違うだろう」
食ポポが呆れて天井を見る。
ポポは見た目は動物だが 人間の心の機微が分かっている。 それに引き換え サイラスは 人の言葉を額面通りに受け取る。 良い事なのか 悪い事なのか 周りの者の苦労が目に見える。
「 理由はある」
「 何だ?」
ポポが驚いたように聞く。 私も その理由が知りたい。 どんなことを言うのだろう と、期待する。
「 僕が着せたいからだ」
「「・・・」」
しかし、ザイラスから出た言葉に ポポが首を振りながら部屋を出て行く。
「 話にならない・・」
それをザイラスが眉間にしわを寄せて ポポを見送る 。 私も小さく首を振る。 もっと深い理由があるのかと思ったのに。
**
オリビアは手を止めると 額の汗を拭う。
少しでも恩返ししようと ザイラスの部屋の掃除をしている。 この部屋に入った時は あまりの散乱ぶりに 気持ちが萎えそうになったが、 私に出来ることは これくらいしかないと 覚悟を決めて取り掛かった。
少しでも快適に暮らして欲しい。
「 これは ・・」
声に振り返るとザイラス 驚いた顔で部屋を見回している 。
「もう少しで終わりますので お待ちください 」
ザイラスの表情を見て やった 甲斐があったと満足していたが、ザイラスがつかつかと近づいてくると 私を抱き上げる 。
まただ。ザイラスは、これが好きなの?
「なっ、何ですか? まだ途中です」
「 今日は終わりた。続きをしたかったら明日にしろ」
「でも・・」
「 私が終わりと言ったら、終わりだ。 まだ完全に治ったわけじゃない。 痛みはないから治ったと勘違いして無理をしたら 前より悪化することもある」
有無を言わさぬ態度に 素直に従う。 そうなのかもしれないが、 自分的には城にいた時より元気だと思うの。ザイラスは 言い出したら聞かないタイプだと 初めから気づいていたし、 きちんとした理由が無い限り 私の言うことを認めないだろう。
オリビアは内心ため息をつきながらも頷く。
しかし、掃除はやめると約束したのに いつまでも抱っこしたままだ。
「あの・・ わかりましたから 下してください」
「 どうして ?」
「どうしてって・・ 重いでしょ?」
「 軽いぞ 」
「・・気が引けます」
「 気にしなくて」
「・・・」
そういう問題じゃないのに・・。
自分のことは自分でしてきた。誰にも迷惑かけないように生きてきた。 病気や怪我をしても一人で耐えた。 今回は 瀕死の重傷だったから 仕方なく世話をしてもらっていたが 、 健康になった今は ズルをしているようで気が引ける 。
「でも・・」
「なんだ。抱っこは嫌いか?」
真剣に聞いてくるザイラスの表情に 心がざわつく。ここで、嫌いだと言ったら。 きっと二度と抱っこしてくれない 。そう思ったら嫌いとは言えない。だって、まるで子供のように軽がると抱っこされると ウキウキする。
「・・嫌い・・じゃ・・ありません・・」
その反面 その逞しい胸板や 立ち込める男らしさに 胸が高鳴ってしまう。
「なら、遠慮しなくていい」
「はい・・」
笑顔でザイラスが念を押すと 歩き出す。
でも、どうして良いのかよく分からない。
子供の様にキャッキャする歳ても無いし、 恋人同士のように うっとりとお互いを見つめ合うことも出来た無い 。戸惑う自分の気持ちを持て余しながら ザイラスの腕の中に収まる。
部屋に戻るとザイラスが 私はベッドに降ろして 跪いて 私の手を優しく握る。その ゴツゴツした男らしい 騎士のような大きな手だ。
この手が私は守ってくれる。 何故か心にその言葉が浮かんで 胸がキュンとする。
「 今は、ここが我が家なんだから、 掃除がしたかったら元気になってからいくらでもしろ。 止めはしない。 だから、治療に専念しろ」
「・・はい」
我が家・・。
ザイラスは何気なく言っているが、 その言葉は私にとって憧れ。 今まで誰も そんなことを言ってくれた人はいなかった。 お世辞なのかもしれないと疑いながら ザイラスの瞳が見ると 曇りのない目が見つめ返す。
不器用なザイラスが 嘘をつくはずがない。
本当に心からそう思ってくれている。
( やっと、私にも 帰る家が出来たんだ・・)
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