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木苺
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ガルシアは玉座に座るメローネ様の前に跪き 調査報告する。
手がかりを探し回ったが 他は見つからなかった。 それでも、 運ばれていった 方向が分かっただけでも 十分な成果だ。
「 見つかったのは、コレです」
証拠である布の切れ端を差し出す。すると、メローネ様が 目を爛々と輝かせ 布切れを取り上げると むしゃぶりつく勢いで 布に鼻を押し当てる。
「 あぁ、この匂い。間違いない!」
目を閉じて うっとりと 匂いを嗅いでいる その恍惚とした表情を見て ガルシアは満足する。
( メローネ様のお役に立てた)
そう思っていたが 次のメローネ様の言葉に 緊張する。
「 それっで 花嫁は、どこだ」
「 残念ながら他の手がかりが無く・・」
花嫁の死体を見つけるには時間が かかる。
せっかく目に留まったというのに・・。 無理だとは言えずに 言葉を濁す。
布切れから顔を離したメローネ様は真顔になっている。 その無表情さに 背中を冷たいものが流れる。
ノーと言えば死だ。
「 見つけられないのか?」
静かな声音たが、 そんな事実は受け入れられないと 言う プレッシャーを感じて 息が出来ない。だが、 返事をしなくても死だ。
目を合わせられなくて顔を伏せたまま返事をする。
「 いいえ、見つけられます。 ですが・・私一人では 時間かかりますので メローネ様の配下を貸していただけると 嬉しいのですが・・」
「そうか。だったら、いくらでも貸そう」
プレッシャーが無くなり息が楽になる。
メローネ様が 布の切れはしをポケットチーフ代わりに落ち込むと 玉座に座る。
本当に機嫌が直ったのかと 上目遣いで 顔色をうかがうと メローネ様が微笑む 。
「ガルシア。期待しているぞ」
「はっ、 はい!期待に添えるよう邁進してまいります」
( 名前を呼んで頂いた!)
嬉しさに直立する。
***
ザイラスに『 我が家だと思って ゆっくり休め 』と言われてオリビアは 初めて自分にも帰る家ができたと 嬉しい気持ちになる。しかし、素直に 感情を表に出せない。
せっかくの幸せが壊れそうで・・。
だから、ただ こくりと頷く。
(我が家か・・)
そこへ、ドアが開いて ポポが現れた。
でも、中に入ろうとはせずに 入り口で立ち止まって 私たちを胡乱な目で見る。
「おっと・・お邪魔だったかな? 」
ポポの視線が、つないだ手にそそがれる。
ハッとしてオリビアは誤解を解こうと 慌てて手を離す。
「 ちっ、違います。 ザイアスが私の体を気遣って」
恥ずかしいところを見られたバツの悪さを隠すように言い訳する。 しかし、 二人は私のことを無視して話し始める。
なんだ。からかっただけなのね。 ホッとする。
誤解を招いて 気まずくなりたくない。
「 何か分かったか?」
「 さっき鹿が来て教えてくれた」
( 鹿? )
「昨日の夜、 国王の所にバンパイア達が もう一人よこせって直談判したらしい」
もう一人? なんて自分勝手なことを。 でも、私のような目に遭う王女が いなくてよかった。
「 それで? 」
「もちろん。断ったよ。でも、また 行くんじゃないかな」
ポポが、うんざりしたように言う。
「 それは、大丈夫です。 私の他に未婚の 王女は いません。 私が最後の王女ですから」
「「・・・」」
安心させるようにと言ったのに 二人とも厳しい顔で黙りこむ。 オリビアはゴクリと唾を飲み込む。 何か良くない事が起こっているらしい 。
恐る恐る聞いてみる。
「 何か・・問題でもあるんですか?」
「「・・・」」
しかし、直ぐに返事をせず、どっちらが話すのか お互いに顔を見合わせていたが ポポが話し始める。
「バンパイアが自分の血を受け継いだ子供をもうけるには 王族の血が必要なんだ。 普通の人間との間には、子供が出来ないから」
「 子供 ?」
意外な理由にオリビアは困惑する。
人間を餌としか思っていないバンパイアが 、その人間が産んだ 子供が欲しいと思うのだろうか? 私たちで言えば 牛とか豚に自分の子供を 産ませるようなものだ。
「 どうしてバンパイア達は 王女に固執するんですか? 穢れなき血を持つ娘は 他にも沢山います」
公爵令嬢だけじゃ無い。 血は薄いが 伯爵令嬢もいる。 私じゃならない必要性が感じられない。
「 バンパイアとの約束で 王女以外は花嫁になれないんだ」
「 そうなんですか・・」
なんと律儀な。
バンパイアでも人間との約束は守るのね。
でも、そうなると バンパイアは どうするのかしら?
「 だから、何がなんでも オリビアのことを奪還しようと 躍起になるな」
「 そうだな。次の花嫁は 50年後になるんだから」
ザイラスが腕組みする。ポポも同意する。
助かったと思ったのに・・。
どうしたらいいの? 一難去ってまた一難。
50年も 狙われ続けなくては イケないの?
「・・ 逃れることは出来ないんですか?」
バンパイアは夜しか動けない。たったら 馬車で移動すれば 遠くまで行ける。
「あれ? 言ってなかったか 。バンパイアは空も飛べるんだ」
「 そんな・・」
どんなに逃げても 追いつかれる。
目の前が真っ暗になる。私に逃げ場はない。
空まで 飛べるなんてバンパイアっていったい何者?
(あっ!)
その瞬間 鳥人間を思い出す。 あれが、バンパイアだったんだ。 一気に現実味が増す。
あの気味の悪い鳥人間が 私を探しに来るの?
想像しただけでゾッとする。 思わず自分を守るように 自分を抱きしめる。
「 心配しないで」
ポポが 私の肩に乗ると 私の頭に前足を乗せる。
「 レディーを守るのが 僕ら紳士な役目だからね」
「ありがとう」
オリビアは一応 頷く 。ザイラスは、バンパイアハンター。 きっと大丈夫。 しかし、不安は拭い去れない。
**
食事が出来たと抱っこされて やって来たが 出されたのはスープという名のお湯。
色も味も具もほとんど無い。
お世辞にも美味しいとは言えない。
今日の料理当番はザイラス。
頑張ったことは認める。 流し台には焦がした鍋と 炭となった肉の塊が捨ててある。
そのことが原因か どうか分からないが 二人とも お互いに背中合わせで食事をとっている。
どうやら喧嘩中らしい。
スープをつつきまわしながら、なんとか口に運んでいたポポが、もう食べないと皿を押しやると 未練がましく丸焦げの肉を見る。
確かに、これが晩御飯だと言われた 誰だってがっかりする。
「 どうして、焦がしたんだよ。 あれが最後の肉だったのにー」
「 だったら、火を見ても逃げないメイドを雇え」
ザイラスが 自分には非がないと言い返す。
「そんなの無理に決まってるだろ。 元女鹿なんだから、 本能的に火も刃物も怖がるんだよ」
それはそうだ。動物なんだから。
「 だったら俺だって獣だ」
ザイラスがスプーンを皿に乱暴に投げると 歯の隙間から吐き捨てるように言う。
「俺だって獣だ!」
「 お前は神だろうが!」
ポポが負けじと言い返すと ザイラスが胸倉らしきところを掴む。飢えは人を乱暴にさせる。
喧嘩してもお腹が満腹になるわけではないのに・・。 険悪なムードの二人を心配げに 見守っていたが オリビアは恐る恐る手を上げる。
「あの・・ なんなら私が食事の用意をしましょうか?」
「 本当か?」
「 駄目だ!」
二人同時に返事をする。しかし 賛成派のポポと 反対派のザイラス。 お互いに睨み合う。
「 大丈夫です。 それに助けてもらったお礼がしたいです」
「 本当に?ありがとう」
「いいんだ。そんな事 」
二人同時に返事をすると、また睨み合う。
このままでは平行線。ザイラスを説得しようと試みる。 許してもらはないと、 まともな食事にありつけそうもない。
「 ザイラス。 私も家族の一員なんですよね?客人 扱いしないで下さい」
「・・・」
我が家と言って しまった手前、表立って反対できないザイラスが 憮然とした顔をする。
「 決まりだな 」
「何言ってる。オリビアは、お姫様なんだぞ 。そんな事出来るはずないだろう」
ザイラスがポポに向かって許さないと指を振る。
自分達と同じくらいのレベルだと思っているようだ 。 普通のお姫様は、そうだ。
でも、私は忘却の姫だから・・。
「 私は他の王女とは違いますから。 家事一般できます」
「 ほら、本人もそう言ってる」
「まだ、体調が万全じゃない」
任せてくれと オリビアはザイラスに向かって頷く。
それでも、ザイラスは 首を縦に振らない。
しかし、ポポも 簡単には引き下がらない。
「体を動かしたほうが、治りも早くなるだろう」
「・・・」
「 現実を見ろ。 こんな食事じゃ、治るものも治らない 」
ポポが これみよがしに テーブルと流し台を見ると ザイラスもつられてその視線を辿る。
「・・・」
ザイラスが渋い顔をするだけで 反対する様子がない。 ポポが目配せしてくる。 どうなるかと思っていたが、どうやら妥協してくれたようだ。
オリビアは、わかったと同じく。
**
はやばやと食べ終わったザイラスが 一人で出て行く。 ずっと移動は抱っこだったのに・・。
まだ、怒っているの。 それとも、もう卒業?
そう思うと、とても寂しい。
「・・・」
ポポと取り残されたオリビアは スプーンを弄ぶ。
嫌われてしまったのかもしれない。 人は気分次第で態度を変える。何度も経験しているのに 慣れる事が出来ない。 見捨てられた気分になっていると 私の様子の異変に気付いた ポポが心配して 声をかける。
「 どうしたんだい?」
「えっ、あっ・・もし私のお嫁に行ってなかったら、 どうなってたのかなと思って」
オリビアは 自分の気持ちをごまかすと 前から気になっていたこと 質問する。
「そりゃ、皆殺しだろう」
「皆殺し?・・ そんなに残忍なんですか?」
「 勿論。その上しつこい。 だから、ここもいずれ見つかると思う」
「・・・」
ザイラスたちにとっては 現実的な話なのだろうか、どうも いまいちピンとこない。 二人の様子から嘘をついているとは思えないが ・・。
そんなに残忍なんだろうか?
「 でも、私は死んだことになっているので 来ないのでは?」
「 いいや、あいつらは 死体が見つからない限り簡単には諦めない」
考えが甘いとポポが 首を横に振る。
「 その事なんですけど。 探しに来るのは騎士団長じゃないんですか? だって、私を殺そうとしたのは 騎士団長なんですから」
隣国に嫁ぐと 嘘をついて私を城から連れ出して 私を殺そうとしたのは 騎士団長だ。
それは紛れもない真実 。
「それは無い。 あいつらが代わりをよこせと言った時点で、 国王たちは オリビアが死んだと確信してるはずだ」
「 そう・・ですね・・」
安心しなくては、イケないのかもしれないが・・。
これで、本当に私の存在が消えちゃったのかと思うと、やりきれない 。
私は誰にも知られずに 死んでいく運命なんだ 。
(・・・)
ガチャ!
ドアの開く音にハッとして 入り口を見ると ザイラスが果物を抱えて立っている。
戻ってきた !
ザイラスが、パラパラとテーブルの上に 木苺 、ブラックベリー、 エルダーフラワー を広げる。
食べ物を探しに行っていただけなんだ 。
私を嫌いになった訳じゃないんだ 。
「色々と摘んできた。 多少酸っぱいモノもあるかもしれないが 食べて 早く元気になれ」
私なんかの為に 。わざわざそんな事 しなくて良いのに。 でも、その気遣いが心を温めてくれる 。
「えー!果実だけ? もっと腹の足しになるの 獲って来てくれないと 死んじゃうよ~」
ポポが果物をつつくと ザイラスが、その前足を叩く。
「 甘えるな、 お前は自分で獲ってこい」
「ちえっ」
ポポが軽く舌打ちする。それを見て 小さく笑っているとザイラスが 木苺を摘んで食べろと勧めてくる。
「 ほら、食べろ」
手を差し出すとザイラスが首を横に振る。
「?」
「あ~ん」
ザイラスが、そう言って口を開ける。 言われるがまま口を開くと ポイッと木苺が投げ込まれる。 甘酸っぱさが口中に広がる。 飲み込むとザイラスが また 木苺をつまむ。
もう 一個と 口を開けるとまた投げ込まれる。
「 餌付けだな 」
ポポが呆れて部屋を出て行く。
その通り。
ひな鳥よろしく食べさせ貰っていたせいか 抵抗感が薄くなっている。 口をもごもごと動かしながら 一番熟れている 木苺を摘むと、 お返しにとザイラスの口元に持っていく 。
ザイラスが口を開ける。だから、 ポイッと投げ込むとすぐに酸っぱそうな顔をする。
その顔が面白くて笑うとザイラスが 1番酸っぱそうなものを選んで 口を開けろと顎でしゃくる。
嫌だと首を振ると、ずいっと木苺を顔に 近づけて来る。
どうしても?と目で問うとザイラスが頷く。
覚悟を決めて口を開ける。
木苺を噛んだ途端に口中に唾液が溢れる。
「酸っぱい!」
「はっはっはっ」
思わず漏れた本音にザイラスが 笑いながら手を叩く。
***
「きゃー!!」
その日の夜、ザイラスは オリビアの悲鳴に部屋へと急ぐ。
手がかりを探し回ったが 他は見つからなかった。 それでも、 運ばれていった 方向が分かっただけでも 十分な成果だ。
「 見つかったのは、コレです」
証拠である布の切れ端を差し出す。すると、メローネ様が 目を爛々と輝かせ 布切れを取り上げると むしゃぶりつく勢いで 布に鼻を押し当てる。
「 あぁ、この匂い。間違いない!」
目を閉じて うっとりと 匂いを嗅いでいる その恍惚とした表情を見て ガルシアは満足する。
( メローネ様のお役に立てた)
そう思っていたが 次のメローネ様の言葉に 緊張する。
「 それっで 花嫁は、どこだ」
「 残念ながら他の手がかりが無く・・」
花嫁の死体を見つけるには時間が かかる。
せっかく目に留まったというのに・・。 無理だとは言えずに 言葉を濁す。
布切れから顔を離したメローネ様は真顔になっている。 その無表情さに 背中を冷たいものが流れる。
ノーと言えば死だ。
「 見つけられないのか?」
静かな声音たが、 そんな事実は受け入れられないと 言う プレッシャーを感じて 息が出来ない。だが、 返事をしなくても死だ。
目を合わせられなくて顔を伏せたまま返事をする。
「 いいえ、見つけられます。 ですが・・私一人では 時間かかりますので メローネ様の配下を貸していただけると 嬉しいのですが・・」
「そうか。だったら、いくらでも貸そう」
プレッシャーが無くなり息が楽になる。
メローネ様が 布の切れはしをポケットチーフ代わりに落ち込むと 玉座に座る。
本当に機嫌が直ったのかと 上目遣いで 顔色をうかがうと メローネ様が微笑む 。
「ガルシア。期待しているぞ」
「はっ、 はい!期待に添えるよう邁進してまいります」
( 名前を呼んで頂いた!)
嬉しさに直立する。
***
ザイラスに『 我が家だと思って ゆっくり休め 』と言われてオリビアは 初めて自分にも帰る家ができたと 嬉しい気持ちになる。しかし、素直に 感情を表に出せない。
せっかくの幸せが壊れそうで・・。
だから、ただ こくりと頷く。
(我が家か・・)
そこへ、ドアが開いて ポポが現れた。
でも、中に入ろうとはせずに 入り口で立ち止まって 私たちを胡乱な目で見る。
「おっと・・お邪魔だったかな? 」
ポポの視線が、つないだ手にそそがれる。
ハッとしてオリビアは誤解を解こうと 慌てて手を離す。
「 ちっ、違います。 ザイアスが私の体を気遣って」
恥ずかしいところを見られたバツの悪さを隠すように言い訳する。 しかし、 二人は私のことを無視して話し始める。
なんだ。からかっただけなのね。 ホッとする。
誤解を招いて 気まずくなりたくない。
「 何か分かったか?」
「 さっき鹿が来て教えてくれた」
( 鹿? )
「昨日の夜、 国王の所にバンパイア達が もう一人よこせって直談判したらしい」
もう一人? なんて自分勝手なことを。 でも、私のような目に遭う王女が いなくてよかった。
「 それで? 」
「もちろん。断ったよ。でも、また 行くんじゃないかな」
ポポが、うんざりしたように言う。
「 それは、大丈夫です。 私の他に未婚の 王女は いません。 私が最後の王女ですから」
「「・・・」」
安心させるようにと言ったのに 二人とも厳しい顔で黙りこむ。 オリビアはゴクリと唾を飲み込む。 何か良くない事が起こっているらしい 。
恐る恐る聞いてみる。
「 何か・・問題でもあるんですか?」
「「・・・」」
しかし、直ぐに返事をせず、どっちらが話すのか お互いに顔を見合わせていたが ポポが話し始める。
「バンパイアが自分の血を受け継いだ子供をもうけるには 王族の血が必要なんだ。 普通の人間との間には、子供が出来ないから」
「 子供 ?」
意外な理由にオリビアは困惑する。
人間を餌としか思っていないバンパイアが 、その人間が産んだ 子供が欲しいと思うのだろうか? 私たちで言えば 牛とか豚に自分の子供を 産ませるようなものだ。
「 どうしてバンパイア達は 王女に固執するんですか? 穢れなき血を持つ娘は 他にも沢山います」
公爵令嬢だけじゃ無い。 血は薄いが 伯爵令嬢もいる。 私じゃならない必要性が感じられない。
「 バンパイアとの約束で 王女以外は花嫁になれないんだ」
「 そうなんですか・・」
なんと律儀な。
バンパイアでも人間との約束は守るのね。
でも、そうなると バンパイアは どうするのかしら?
「 だから、何がなんでも オリビアのことを奪還しようと 躍起になるな」
「 そうだな。次の花嫁は 50年後になるんだから」
ザイラスが腕組みする。ポポも同意する。
助かったと思ったのに・・。
どうしたらいいの? 一難去ってまた一難。
50年も 狙われ続けなくては イケないの?
「・・ 逃れることは出来ないんですか?」
バンパイアは夜しか動けない。たったら 馬車で移動すれば 遠くまで行ける。
「あれ? 言ってなかったか 。バンパイアは空も飛べるんだ」
「 そんな・・」
どんなに逃げても 追いつかれる。
目の前が真っ暗になる。私に逃げ場はない。
空まで 飛べるなんてバンパイアっていったい何者?
(あっ!)
その瞬間 鳥人間を思い出す。 あれが、バンパイアだったんだ。 一気に現実味が増す。
あの気味の悪い鳥人間が 私を探しに来るの?
想像しただけでゾッとする。 思わず自分を守るように 自分を抱きしめる。
「 心配しないで」
ポポが 私の肩に乗ると 私の頭に前足を乗せる。
「 レディーを守るのが 僕ら紳士な役目だからね」
「ありがとう」
オリビアは一応 頷く 。ザイラスは、バンパイアハンター。 きっと大丈夫。 しかし、不安は拭い去れない。
**
食事が出来たと抱っこされて やって来たが 出されたのはスープという名のお湯。
色も味も具もほとんど無い。
お世辞にも美味しいとは言えない。
今日の料理当番はザイラス。
頑張ったことは認める。 流し台には焦がした鍋と 炭となった肉の塊が捨ててある。
そのことが原因か どうか分からないが 二人とも お互いに背中合わせで食事をとっている。
どうやら喧嘩中らしい。
スープをつつきまわしながら、なんとか口に運んでいたポポが、もう食べないと皿を押しやると 未練がましく丸焦げの肉を見る。
確かに、これが晩御飯だと言われた 誰だってがっかりする。
「 どうして、焦がしたんだよ。 あれが最後の肉だったのにー」
「 だったら、火を見ても逃げないメイドを雇え」
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「そんなの無理に決まってるだろ。 元女鹿なんだから、 本能的に火も刃物も怖がるんだよ」
それはそうだ。動物なんだから。
「 だったら俺だって獣だ」
ザイラスがスプーンを皿に乱暴に投げると 歯の隙間から吐き捨てるように言う。
「俺だって獣だ!」
「 お前は神だろうが!」
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喧嘩してもお腹が満腹になるわけではないのに・・。 険悪なムードの二人を心配げに 見守っていたが オリビアは恐る恐る手を上げる。
「あの・・ なんなら私が食事の用意をしましょうか?」
「 本当か?」
「 駄目だ!」
二人同時に返事をする。しかし 賛成派のポポと 反対派のザイラス。 お互いに睨み合う。
「 大丈夫です。 それに助けてもらったお礼がしたいです」
「 本当に?ありがとう」
「いいんだ。そんな事 」
二人同時に返事をすると、また睨み合う。
このままでは平行線。ザイラスを説得しようと試みる。 許してもらはないと、 まともな食事にありつけそうもない。
「 ザイラス。 私も家族の一員なんですよね?客人 扱いしないで下さい」
「・・・」
我が家と言って しまった手前、表立って反対できないザイラスが 憮然とした顔をする。
「 決まりだな 」
「何言ってる。オリビアは、お姫様なんだぞ 。そんな事出来るはずないだろう」
ザイラスがポポに向かって許さないと指を振る。
自分達と同じくらいのレベルだと思っているようだ 。 普通のお姫様は、そうだ。
でも、私は忘却の姫だから・・。
「 私は他の王女とは違いますから。 家事一般できます」
「 ほら、本人もそう言ってる」
「まだ、体調が万全じゃない」
任せてくれと オリビアはザイラスに向かって頷く。
それでも、ザイラスは 首を縦に振らない。
しかし、ポポも 簡単には引き下がらない。
「体を動かしたほうが、治りも早くなるだろう」
「・・・」
「 現実を見ろ。 こんな食事じゃ、治るものも治らない 」
ポポが これみよがしに テーブルと流し台を見ると ザイラスもつられてその視線を辿る。
「・・・」
ザイラスが渋い顔をするだけで 反対する様子がない。 ポポが目配せしてくる。 どうなるかと思っていたが、どうやら妥協してくれたようだ。
オリビアは、わかったと同じく。
**
はやばやと食べ終わったザイラスが 一人で出て行く。 ずっと移動は抱っこだったのに・・。
まだ、怒っているの。 それとも、もう卒業?
そう思うと、とても寂しい。
「・・・」
ポポと取り残されたオリビアは スプーンを弄ぶ。
嫌われてしまったのかもしれない。 人は気分次第で態度を変える。何度も経験しているのに 慣れる事が出来ない。 見捨てられた気分になっていると 私の様子の異変に気付いた ポポが心配して 声をかける。
「 どうしたんだい?」
「えっ、あっ・・もし私のお嫁に行ってなかったら、 どうなってたのかなと思って」
オリビアは 自分の気持ちをごまかすと 前から気になっていたこと 質問する。
「そりゃ、皆殺しだろう」
「皆殺し?・・ そんなに残忍なんですか?」
「 勿論。その上しつこい。 だから、ここもいずれ見つかると思う」
「・・・」
ザイラスたちにとっては 現実的な話なのだろうか、どうも いまいちピンとこない。 二人の様子から嘘をついているとは思えないが ・・。
そんなに残忍なんだろうか?
「 でも、私は死んだことになっているので 来ないのでは?」
「 いいや、あいつらは 死体が見つからない限り簡単には諦めない」
考えが甘いとポポが 首を横に振る。
「 その事なんですけど。 探しに来るのは騎士団長じゃないんですか? だって、私を殺そうとしたのは 騎士団長なんですから」
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「それは無い。 あいつらが代わりをよこせと言った時点で、 国王たちは オリビアが死んだと確信してるはずだ」
「 そう・・ですね・・」
安心しなくては、イケないのかもしれないが・・。
これで、本当に私の存在が消えちゃったのかと思うと、やりきれない 。
私は誰にも知られずに 死んでいく運命なんだ 。
(・・・)
ガチャ!
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戻ってきた !
ザイラスが、パラパラとテーブルの上に 木苺 、ブラックベリー、 エルダーフラワー を広げる。
食べ物を探しに行っていただけなんだ 。
私を嫌いになった訳じゃないんだ 。
「色々と摘んできた。 多少酸っぱいモノもあるかもしれないが 食べて 早く元気になれ」
私なんかの為に 。わざわざそんな事 しなくて良いのに。 でも、その気遣いが心を温めてくれる 。
「えー!果実だけ? もっと腹の足しになるの 獲って来てくれないと 死んじゃうよ~」
ポポが果物をつつくと ザイラスが、その前足を叩く。
「 甘えるな、 お前は自分で獲ってこい」
「ちえっ」
ポポが軽く舌打ちする。それを見て 小さく笑っているとザイラスが 木苺を摘んで食べろと勧めてくる。
「 ほら、食べろ」
手を差し出すとザイラスが首を横に振る。
「?」
「あ~ん」
ザイラスが、そう言って口を開ける。 言われるがまま口を開くと ポイッと木苺が投げ込まれる。 甘酸っぱさが口中に広がる。 飲み込むとザイラスが また 木苺をつまむ。
もう 一個と 口を開けるとまた投げ込まれる。
「 餌付けだな 」
ポポが呆れて部屋を出て行く。
その通り。
ひな鳥よろしく食べさせ貰っていたせいか 抵抗感が薄くなっている。 口をもごもごと動かしながら 一番熟れている 木苺を摘むと、 お返しにとザイラスの口元に持っていく 。
ザイラスが口を開ける。だから、 ポイッと投げ込むとすぐに酸っぱそうな顔をする。
その顔が面白くて笑うとザイラスが 1番酸っぱそうなものを選んで 口を開けろと顎でしゃくる。
嫌だと首を振ると、ずいっと木苺を顔に 近づけて来る。
どうしても?と目で問うとザイラスが頷く。
覚悟を決めて口を開ける。
木苺を噛んだ途端に口中に唾液が溢れる。
「酸っぱい!」
「はっはっはっ」
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そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜面倒な侯爵子息に絡まれたので、どうにかしようと思います〜
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「反省の色が全く無いどころか睨みつけてくるなどと……。そういう態度ならば仕方がありません、それなりの対処をしましょう」
やっと持たれた和解の場で、セシリアはそう独り言ちた。
***
社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇した。
その内の一つである、とある侯爵家子息からのちょっかい。
それを引き金にして、噂が噂を呼び社交界には今一つの嵐が吹き荒れようとしている。
王族から今にも処分対象にされかねない侯爵家。
悪評が立った侯爵子息。
そしてそれらを全て裏で動かしていたのは――今年10歳になったばかりの伯爵令嬢・セシリアだった。
これはそんな令嬢の、面倒を嫌うが故に巡らせた策謀の数々と、それにまんまと踊らされる周囲の貴族たちの物語。
◇ ◆ ◇
最低限の『貴族の義務』は果たしたい。
でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。
これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第3部作品です。
※本作からお読みの方は、先に第2部からお読みください。
(第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)
第1部・第2部へのリンクは画面下部に貼ってあります。
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