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10 穏やか日々
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ザイラスは、オリビアの 絹を裂くような叫び声に 何事かと 部屋へと急ぐ 。
まさか、アイツらが?
いや、そんな事は有り得ない。 頭に浮かんだ考えを否定する。
「オリビア!」
ドア開けたが 誰もいないし 侵入された形跡も無い。
どういう事だ?
ただ、オリビアがベッドの上に座っている。 しかし 様子がいつもと違う。
「オリビア?」
そっと声をかける。
しかし、何かに気を取られて返事をしない。
何をしている?寝ぼけているようでもない 。何かブツブツ言っている。
「どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?」
「オリビア?」
肩に手をかけて名前を呼ぶと焦点の合わない目が私を見る。
その姿に ゾクリとする。
「私の右腕を知らない?」
「何を・・」
オリビアの無機質な声音が、ザイラスの体を 貫く。
体の傷が癒えたから と言って 心の傷が癒えたわけではない。
分かっていた事なのに。 昼間のオリビアの姿に騙されていた。いったい どれだけの痛みに耐えていたのか・・。
無理やり起こすことも出来る。 でもそれだと自分が 悪夢を見ていたことを自覚してしまう。 オリビアの性格からして、 そのことを指摘すれば 症状が悪化する。
「ほら、あったよ。着けてあげよう」
「・・・」
そう言ってオリビアの右肩を撫でる。 それでもオリビアは 小首を傾げている。
「動かしてごらん」
優しく促すと、素直に オリビアが 腕を動かす 。
「 本当だ。 見つけてくれてありがとう」
子供のように礼を言われると切なくなる。
もっと、私を詰ってくれていいのに。
『何故 もっと早く駆けつけてくれなかった』『 こうなったのは全部 お前のせいだ』と。
「他に無くなったモノは、ないかい?」
平静を装い平坦な声を出す。
「 んー、あっ、左足が無い」
「じゃあ、一緒に探してあげるよう」
そう言って微笑むとオリビアが嬉しそうに頷く。
ザイラスは、牙王などと、煽てられているが 女 一人助けることさえ出来ない。そんな自分に 腹をたてる。
そして、改めて必ず 護ると誓う。
**
「 ゆっくり、お休み。 朝まで そばにいてあげるから」
「うん・・」
オリビアが 眠そうに返事をすると 目を開ける。
サイラスは、すっかり寝入ってしまったオリビアの あどけない寝顔を見ながら その頬に指を滑らせる。
(可哀想に・・)
昼間は何でもないように振る舞っているが、 夜は恐怖に支配されている。
オリビアが、いつまでも 我々に気を使っているの事が気に入らない。 心を開いて弱音を言って欲しいのに・・。
病人扱いせず 自由にさせた方がいいな?
その方が 気が紛れる。
ドアが開いて ポポが入ってくる気配がする。
しかし、ザイラスは、確かめようともせず オリビアの顔を見続ける。
「 まだ、寝ないのか?」
「 ああ、もう少し傍にいる」
理由を知られたくないザイラスは、聞かれる前に 別の話に誘導する。
「 それより、アイツらの動きは どうだ?」
「やっぱり、諦めてなかったよ。 しらみつぶしに森を探している。 あと2、3日もしたら ここにも偵察隊が来るね」
ベッドに登ってきたポポと話しながらも サイラスは、いっときもオリビアから目を離さない。 今はオリビアの寝顔を見ていたい。
「 なら、そろそろ準備をしないとな」
バンパイアに会ってもオリビアは平気だろうか?
直接の原因ではないから問題ないと思うが ・・。なるべく見せないようにしよう。 これ以上、オリビアに辛い思いをさせたくない。
「お前にも恋の季節が来たか。 めでたい。めでたい」
何を言っていると、ポポ の言葉に冷めた視線を送る。 しかし、ポポがニヤニヤしている。
すぐに人をくっつけたがる。
私は、オリビアを護っているだけだ 。
***穏やかな日々***
パカン!パカン!パカン!パカン!
(この音は?)
リズミカルに何かが割れる音に 目を覚ましてオリビアは なんだろうと カーテンを開ける。
庭でデザイラスが 上半身裸で薪を割っている。
滴る汗が 太い首から逞しい胸板を通って おへそと流れて消えていく。
「まぁ!」
驚いてカーテンに くるまる。
男性の裸を見るのは初めてで 頬が熱くなる。 全く女の人と体の作りが違う。
息苦しさにオリビアが 窓辺から離れる。
(どうしよう、ドキドキが止まらない)
自分の顔を手で、あおいでみたが これでは足りないと顔を洗う。
身支度を整えて、さらに髪を撫で付ける。そして 鏡に向かって深呼吸すると平静を取り戻す。
二度と見なければ大丈夫。 そう、大丈夫。
**
食事を作ると約束したからには 美味しいものをと 意気込んで厨房に入ったが 何もなかった。
それでも、台所を探しまわって食材をかき集める。
オリビアはテーブルに並べられた勝利品を見る。小麦粉が少々と ジャガイモ数個と 玉ねぎが一個。 しなびた人参 。それと葉っぱが、むしり取られた謎の木の枝。
しげしげと見てみるが 何の変哲もないただの枝だ。
何に使うんだろう?
バンパイアハンターのアイテムとか?
でも、どして台所にあるの?
(・・わからない)
オリビアは肩を竦めると木の枝を放り投げて、料理に取り掛かる。
どうなるかと 思ったが 何とかなりそうだ。
スープの材料を煮込んでいるとドアの開く音に顔を上げる。
「んー、いい匂いだ 」
ポポが流し台に飛び乗るてと、鼻をヒクヒクさせる。
「有り合わせで、作ったので、 あんまり期待しないでくださいね」
火加減を見ながら、予防線をはる。
昨日より、マシと言う程度だ。
視線に気付いてポポを見ると 首を傾げている。
「何ですか?」
「 バンパイアに狙われているのに、落ち着いてと思って」
「 ああ、とうに自分の運命を受け入れましたから」
たいした事では無いと肩を竦める。
ポポが、そう聞くのは当然だ。
誰だってパニックになって騒ぎ立てる。
でも、オリビアにしてみれば また来たかと。
その程度だ。
私の人生 不幸の連続だった。 親に捨てられ マリアと離れ離れになり 役立たずだと いろんな場所をたらい回しにされて来た。 だから、もう慣れ子だ。 私は ただ それに従うだけ。
そんな事分かり切っている。
「・・ オリビア。確かに、今回の事は酷い出来事だけど」
なげやりになっていると勘違いしたポポが 慰めてくる。 気持ちは、ありがたいが平気だ。
ポポは私の生い立ちを知らない。
だから私の言葉を疑っているのだろう。
「 別に自分を卑下して言ってるわけじゃないんです。 事実を言ってるだけです」
「・・・」
それでも、私の心を探るように じっと見てくる。王女の私が そんなことを言うことが信じられないのも 分かる。 でも、話せば同情されるに決まっている。 そしたら私は元の忘却の日に姫君に逆戻り。
話題を変えよう。このまま色々と聞かれたく無い。
「二人でずっと、バンパイア狩りを 行ってきたんですか?」
「 いや、俺は途中から参加している。 ザイラスはバンパイアハンターとして 世界中 あちこち旅している」
「世界中・・」
城の外に出たこともなかった私にしてみれば 想像もできない。 確か・・海と 言うものがあると本に書いてあった。 本当に青色をしているのだろうか? 許されるなら私も一緒に旅してみたい。
「訓練を受ければ誰でも バンパイアハンターになれるんですか?」
「人間には無理だ。 集団で襲われたら、ひとたまりもない」
確かに バンパイアは人間の何倍も丈夫で、強いと聞く。 一対一なら力量次第。でも、戦争みたいな戦いだったら、ひとたまりもないと言う事だろう。
でも・・それならザイラスは?
「ザイラスは、どうやってバンパイアハンターに なれたんですか?」
「 あれ?言ってなかったっけ。ザイラスは牙王(ガオウ)なんだ。 だから 使命としてバンパイア狩りをしている」
「ガオウ?」
「狼の王様のことだ」
オリビアはポンと手を打つ。
窮地に陥ったお姫様を助けたという話をよく聞く。
あの狼か。 なるほど、それでお姫様を救いに来たわけね。
「 物語に出てくる あの銀狼のことですか?」
「 違う!違う!牙王は、 全ての生き物の頂点に君臨する存在だ。 銀狼と一緒にするな! 格が違いすぎる」
「・・・」
まるで犬と猫を勘違いしたかのように ポポが 不機嫌になる。
(狼に変わりはないと思うが・・)
よほど同じと思われるのが嫌なのだろう。 これ以上聞くのはやめよう。
でも、そうなると 王様と神様、その二人と同居してる事になる。 ここは小さいけれどお城なのだ。こんな居心地のいいお城は初めてだ。
「 間に合ったか?」
声に 振り返るとザイラスが、うさぎを掲げている。
「 やった!肉だ」
ぴょん ぴょんと ポポがザイラスの周りを飛び跳ねる。よほど肉が食べたかったらしい。
これで、まともな料理ができる。
しかし、昨日といい、今日といい まるで私の心が読めるように願いを叶えてくれる 。
(・・顔に出てる?)
***
肉が少なかったのでシチューポッドにしてみた。 自分の分を皿によそって、席に着く。
オリビアは目の前で すでに食べ始めている二人の様子を伺う。
「 うん。うん。美味しい。久しぶりにまともな料理を口にしたよ。ザイラスの料理には飽き飽きしてたんだ。 ありがとうオリビア」
「 それは何よりです」
ポポが皿を舐めながら言う。 ザイラスは、どうかと視線を移す。 しかし、サイラスは黙々とスプーンを口に運んでいる。
不味そうでは無いようだが、 何の感想も言わないと、不安になる。
それとも、さして 食に興味がないのだろうか? 我慢できずに自分から聞く。
「ザイラスは どうですか? 口に合いましたか」
「 おかわり」
返事の代わりに皿が突き出される。
一瞬驚いたが、すぐに 本心が分かったオリビアは安堵する。 こういう時は この性格が幸いする。
皿を受け取る。
「 分かりました。少々お待ちください」
「 ザイラス。自分だけずるいぞ。 俺も、おかわり」
競うように ポポが 口の周りをスープだらけにしている。
「 はい。はい。分かりました」
皿に おかわりをよそいながら ちらりと後ろを見る 。
二人で、そわそわしながら待っている姿に 静かに笑う。 小さな子供みたい。
おかわりを出すと、すごい勢いで食べる 。
そんな二人を見て微笑む。
王女らしくない王女だけど 人の役に立っていると思えて自分を勇気づけてくれる。
こんなに楽しい食事は久しぶりだ。
城で生活していた頃は 仕事の合間に簡単に済ませていた。 でも、これからダレカと 食卓を囲む。 そう思うと、いつも一緒に美味しく感じられる。
**
ザイラスに食事のお礼にと言われて 抱きかかえられながら散歩に出発する。
「 自分で歩きます」
一応聞いてみる。本当は その気は無い。
ザイラスは絶対、 歩かせてくれない。 このままだと、これが当たり前になってしまいそう。
いつか終わりが来るだろう。 でも、それまでは甘えたい。
裏口から出て少し山に入ると 野生の花畑が広がっていた。
「 すごい綺麗ー! こんな所があるのですね」
感嘆の声をあげると ザイラスが その場におろしたくれる。
愛らしいピンク色の花に手を滑らせて 顔を近づける。
(んー、良い香り)
昔は、よくマリアと花摘みをした。
『 マリア。このお花を持って行ったら お母様の病気 が良くなる?』
『 そうね・・いい考えだわ』
幼い私を気遣ってマリアが 、嘘をついていた。
何も知らない私は お見舞いにと花を摘んでお母様を何度も訪ねた。
結局、受け取ってもらえなかった。 他の親子は喧嘩していても愛情があるのに。 花の一つも 受け取ってくれない。 実の娘に、そこまで冷酷になれるなんて信じられない。
「・・・」
「どうした急に黙り込んで?」
ザイラスの心配そうな声音に振り返ると首を振る。
「 別に何でもないです」
ただの感傷だ。 ザイラスに言う必要もない。
オリビアは摘んだ花に目を向けると ザイラスが私の持っている花に触れる。
「 野生の花は見た目は地味だが、 温室育ちの花より 風雨に負けない強さがある」
まるで私のようだ。 地味な花は誰の目にも止まらない。 そして、自然からのも、人からも 酷い扱い受ける。 それでも生きていくためには耐えるしかない。
「 そして、香りが強く 通り過ぎるモノを惹きつける」
「えっ」
「 女も花も いろんな方法で男を誘う。 派手な色や香り」
「・・・」
ザイラスが徐に口を閉じると 私を見つめる。
オリビアは息を詰める。 突然訪れたザイラスの沈黙に 身を震わせる。 オリビアは、ただ野に咲く花のように 逃げることもできず その場に留まるしかない。
( 何を言っているの? 何が言いたいの?)
「・・・」
「お前は、どんな花なんだ? 」
ザイラスが私の顎を掴んで瞳を覗き込んで来る。
まさか、アイツらが?
いや、そんな事は有り得ない。 頭に浮かんだ考えを否定する。
「オリビア!」
ドア開けたが 誰もいないし 侵入された形跡も無い。
どういう事だ?
ただ、オリビアがベッドの上に座っている。 しかし 様子がいつもと違う。
「オリビア?」
そっと声をかける。
しかし、何かに気を取られて返事をしない。
何をしている?寝ぼけているようでもない 。何かブツブツ言っている。
「どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?」
「オリビア?」
肩に手をかけて名前を呼ぶと焦点の合わない目が私を見る。
その姿に ゾクリとする。
「私の右腕を知らない?」
「何を・・」
オリビアの無機質な声音が、ザイラスの体を 貫く。
体の傷が癒えたから と言って 心の傷が癒えたわけではない。
分かっていた事なのに。 昼間のオリビアの姿に騙されていた。いったい どれだけの痛みに耐えていたのか・・。
無理やり起こすことも出来る。 でもそれだと自分が 悪夢を見ていたことを自覚してしまう。 オリビアの性格からして、 そのことを指摘すれば 症状が悪化する。
「ほら、あったよ。着けてあげよう」
「・・・」
そう言ってオリビアの右肩を撫でる。 それでもオリビアは 小首を傾げている。
「動かしてごらん」
優しく促すと、素直に オリビアが 腕を動かす 。
「 本当だ。 見つけてくれてありがとう」
子供のように礼を言われると切なくなる。
もっと、私を詰ってくれていいのに。
『何故 もっと早く駆けつけてくれなかった』『 こうなったのは全部 お前のせいだ』と。
「他に無くなったモノは、ないかい?」
平静を装い平坦な声を出す。
「 んー、あっ、左足が無い」
「じゃあ、一緒に探してあげるよう」
そう言って微笑むとオリビアが嬉しそうに頷く。
ザイラスは、牙王などと、煽てられているが 女 一人助けることさえ出来ない。そんな自分に 腹をたてる。
そして、改めて必ず 護ると誓う。
**
「 ゆっくり、お休み。 朝まで そばにいてあげるから」
「うん・・」
オリビアが 眠そうに返事をすると 目を開ける。
サイラスは、すっかり寝入ってしまったオリビアの あどけない寝顔を見ながら その頬に指を滑らせる。
(可哀想に・・)
昼間は何でもないように振る舞っているが、 夜は恐怖に支配されている。
オリビアが、いつまでも 我々に気を使っているの事が気に入らない。 心を開いて弱音を言って欲しいのに・・。
病人扱いせず 自由にさせた方がいいな?
その方が 気が紛れる。
ドアが開いて ポポが入ってくる気配がする。
しかし、ザイラスは、確かめようともせず オリビアの顔を見続ける。
「 まだ、寝ないのか?」
「 ああ、もう少し傍にいる」
理由を知られたくないザイラスは、聞かれる前に 別の話に誘導する。
「 それより、アイツらの動きは どうだ?」
「やっぱり、諦めてなかったよ。 しらみつぶしに森を探している。 あと2、3日もしたら ここにも偵察隊が来るね」
ベッドに登ってきたポポと話しながらも サイラスは、いっときもオリビアから目を離さない。 今はオリビアの寝顔を見ていたい。
「 なら、そろそろ準備をしないとな」
バンパイアに会ってもオリビアは平気だろうか?
直接の原因ではないから問題ないと思うが ・・。なるべく見せないようにしよう。 これ以上、オリビアに辛い思いをさせたくない。
「お前にも恋の季節が来たか。 めでたい。めでたい」
何を言っていると、ポポ の言葉に冷めた視線を送る。 しかし、ポポがニヤニヤしている。
すぐに人をくっつけたがる。
私は、オリビアを護っているだけだ 。
***穏やかな日々***
パカン!パカン!パカン!パカン!
(この音は?)
リズミカルに何かが割れる音に 目を覚ましてオリビアは なんだろうと カーテンを開ける。
庭でデザイラスが 上半身裸で薪を割っている。
滴る汗が 太い首から逞しい胸板を通って おへそと流れて消えていく。
「まぁ!」
驚いてカーテンに くるまる。
男性の裸を見るのは初めてで 頬が熱くなる。 全く女の人と体の作りが違う。
息苦しさにオリビアが 窓辺から離れる。
(どうしよう、ドキドキが止まらない)
自分の顔を手で、あおいでみたが これでは足りないと顔を洗う。
身支度を整えて、さらに髪を撫で付ける。そして 鏡に向かって深呼吸すると平静を取り戻す。
二度と見なければ大丈夫。 そう、大丈夫。
**
食事を作ると約束したからには 美味しいものをと 意気込んで厨房に入ったが 何もなかった。
それでも、台所を探しまわって食材をかき集める。
オリビアはテーブルに並べられた勝利品を見る。小麦粉が少々と ジャガイモ数個と 玉ねぎが一個。 しなびた人参 。それと葉っぱが、むしり取られた謎の木の枝。
しげしげと見てみるが 何の変哲もないただの枝だ。
何に使うんだろう?
バンパイアハンターのアイテムとか?
でも、どして台所にあるの?
(・・わからない)
オリビアは肩を竦めると木の枝を放り投げて、料理に取り掛かる。
どうなるかと 思ったが 何とかなりそうだ。
スープの材料を煮込んでいるとドアの開く音に顔を上げる。
「んー、いい匂いだ 」
ポポが流し台に飛び乗るてと、鼻をヒクヒクさせる。
「有り合わせで、作ったので、 あんまり期待しないでくださいね」
火加減を見ながら、予防線をはる。
昨日より、マシと言う程度だ。
視線に気付いてポポを見ると 首を傾げている。
「何ですか?」
「 バンパイアに狙われているのに、落ち着いてと思って」
「 ああ、とうに自分の運命を受け入れましたから」
たいした事では無いと肩を竦める。
ポポが、そう聞くのは当然だ。
誰だってパニックになって騒ぎ立てる。
でも、オリビアにしてみれば また来たかと。
その程度だ。
私の人生 不幸の連続だった。 親に捨てられ マリアと離れ離れになり 役立たずだと いろんな場所をたらい回しにされて来た。 だから、もう慣れ子だ。 私は ただ それに従うだけ。
そんな事分かり切っている。
「・・ オリビア。確かに、今回の事は酷い出来事だけど」
なげやりになっていると勘違いしたポポが 慰めてくる。 気持ちは、ありがたいが平気だ。
ポポは私の生い立ちを知らない。
だから私の言葉を疑っているのだろう。
「 別に自分を卑下して言ってるわけじゃないんです。 事実を言ってるだけです」
「・・・」
それでも、私の心を探るように じっと見てくる。王女の私が そんなことを言うことが信じられないのも 分かる。 でも、話せば同情されるに決まっている。 そしたら私は元の忘却の日に姫君に逆戻り。
話題を変えよう。このまま色々と聞かれたく無い。
「二人でずっと、バンパイア狩りを 行ってきたんですか?」
「 いや、俺は途中から参加している。 ザイラスはバンパイアハンターとして 世界中 あちこち旅している」
「世界中・・」
城の外に出たこともなかった私にしてみれば 想像もできない。 確か・・海と 言うものがあると本に書いてあった。 本当に青色をしているのだろうか? 許されるなら私も一緒に旅してみたい。
「訓練を受ければ誰でも バンパイアハンターになれるんですか?」
「人間には無理だ。 集団で襲われたら、ひとたまりもない」
確かに バンパイアは人間の何倍も丈夫で、強いと聞く。 一対一なら力量次第。でも、戦争みたいな戦いだったら、ひとたまりもないと言う事だろう。
でも・・それならザイラスは?
「ザイラスは、どうやってバンパイアハンターに なれたんですか?」
「 あれ?言ってなかったっけ。ザイラスは牙王(ガオウ)なんだ。 だから 使命としてバンパイア狩りをしている」
「ガオウ?」
「狼の王様のことだ」
オリビアはポンと手を打つ。
窮地に陥ったお姫様を助けたという話をよく聞く。
あの狼か。 なるほど、それでお姫様を救いに来たわけね。
「 物語に出てくる あの銀狼のことですか?」
「 違う!違う!牙王は、 全ての生き物の頂点に君臨する存在だ。 銀狼と一緒にするな! 格が違いすぎる」
「・・・」
まるで犬と猫を勘違いしたかのように ポポが 不機嫌になる。
(狼に変わりはないと思うが・・)
よほど同じと思われるのが嫌なのだろう。 これ以上聞くのはやめよう。
でも、そうなると 王様と神様、その二人と同居してる事になる。 ここは小さいけれどお城なのだ。こんな居心地のいいお城は初めてだ。
「 間に合ったか?」
声に 振り返るとザイラスが、うさぎを掲げている。
「 やった!肉だ」
ぴょん ぴょんと ポポがザイラスの周りを飛び跳ねる。よほど肉が食べたかったらしい。
これで、まともな料理ができる。
しかし、昨日といい、今日といい まるで私の心が読めるように願いを叶えてくれる 。
(・・顔に出てる?)
***
肉が少なかったのでシチューポッドにしてみた。 自分の分を皿によそって、席に着く。
オリビアは目の前で すでに食べ始めている二人の様子を伺う。
「 うん。うん。美味しい。久しぶりにまともな料理を口にしたよ。ザイラスの料理には飽き飽きしてたんだ。 ありがとうオリビア」
「 それは何よりです」
ポポが皿を舐めながら言う。 ザイラスは、どうかと視線を移す。 しかし、サイラスは黙々とスプーンを口に運んでいる。
不味そうでは無いようだが、 何の感想も言わないと、不安になる。
それとも、さして 食に興味がないのだろうか? 我慢できずに自分から聞く。
「ザイラスは どうですか? 口に合いましたか」
「 おかわり」
返事の代わりに皿が突き出される。
一瞬驚いたが、すぐに 本心が分かったオリビアは安堵する。 こういう時は この性格が幸いする。
皿を受け取る。
「 分かりました。少々お待ちください」
「 ザイラス。自分だけずるいぞ。 俺も、おかわり」
競うように ポポが 口の周りをスープだらけにしている。
「 はい。はい。分かりました」
皿に おかわりをよそいながら ちらりと後ろを見る 。
二人で、そわそわしながら待っている姿に 静かに笑う。 小さな子供みたい。
おかわりを出すと、すごい勢いで食べる 。
そんな二人を見て微笑む。
王女らしくない王女だけど 人の役に立っていると思えて自分を勇気づけてくれる。
こんなに楽しい食事は久しぶりだ。
城で生活していた頃は 仕事の合間に簡単に済ませていた。 でも、これからダレカと 食卓を囲む。 そう思うと、いつも一緒に美味しく感じられる。
**
ザイラスに食事のお礼にと言われて 抱きかかえられながら散歩に出発する。
「 自分で歩きます」
一応聞いてみる。本当は その気は無い。
ザイラスは絶対、 歩かせてくれない。 このままだと、これが当たり前になってしまいそう。
いつか終わりが来るだろう。 でも、それまでは甘えたい。
裏口から出て少し山に入ると 野生の花畑が広がっていた。
「 すごい綺麗ー! こんな所があるのですね」
感嘆の声をあげると ザイラスが その場におろしたくれる。
愛らしいピンク色の花に手を滑らせて 顔を近づける。
(んー、良い香り)
昔は、よくマリアと花摘みをした。
『 マリア。このお花を持って行ったら お母様の病気 が良くなる?』
『 そうね・・いい考えだわ』
幼い私を気遣ってマリアが 、嘘をついていた。
何も知らない私は お見舞いにと花を摘んでお母様を何度も訪ねた。
結局、受け取ってもらえなかった。 他の親子は喧嘩していても愛情があるのに。 花の一つも 受け取ってくれない。 実の娘に、そこまで冷酷になれるなんて信じられない。
「・・・」
「どうした急に黙り込んで?」
ザイラスの心配そうな声音に振り返ると首を振る。
「 別に何でもないです」
ただの感傷だ。 ザイラスに言う必要もない。
オリビアは摘んだ花に目を向けると ザイラスが私の持っている花に触れる。
「 野生の花は見た目は地味だが、 温室育ちの花より 風雨に負けない強さがある」
まるで私のようだ。 地味な花は誰の目にも止まらない。 そして、自然からのも、人からも 酷い扱い受ける。 それでも生きていくためには耐えるしかない。
「 そして、香りが強く 通り過ぎるモノを惹きつける」
「えっ」
「 女も花も いろんな方法で男を誘う。 派手な色や香り」
「・・・」
ザイラスが徐に口を閉じると 私を見つめる。
オリビアは息を詰める。 突然訪れたザイラスの沈黙に 身を震わせる。 オリビアは、ただ野に咲く花のように 逃げることもできず その場に留まるしかない。
( 何を言っているの? 何が言いたいの?)
「・・・」
「お前は、どんな花なんだ? 」
ザイラスが私の顎を掴んで瞳を覗き込んで来る。
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そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
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