月下美人 始まりは何時も不幸から(生け贄編)

あべ鈴峰

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11 破られる日常

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花畑に連れてこられたオリビアは 
「お前は、どんな花なんだ?」
 ザイラスに そう聞かれて 頭が真っ白になって何も考えられない。

初めて感じる異性の魅力に なすすべがない 。
心臓が 早鐘のように打ちつけて 囚われた獲物のように 小さく震えるしかない。
 ただ、その瞳に映る自分を見つめるだけ 。
「・・・・」
「・・・・」
 ザイラスの瞳孔が 円から縦長へと なっていく。 人の目から獣の目へ。 食べられる。 このままでは危険だ。 
それなのに食べて下さいと 自ら身を捧げたいと思う。
(ああ、 このまま・・このまま私を・・)
 チッチッチッと言う小鳥の鳴き声に我に返る。
「ごっ、 ごめんなさい 」

自分の気持ちを悟られないように ザイラスに背を向ける 。ザイラスに食べて欲しいなどと 考えていた自分が信じられない。 私は花など ではない。
草だ。 踏みつけられるだけの雑草だ。

「オリビア?」
ザイラスに 肩を掴まれてビクリとする。
「なっ、何でしょう」
なんとか笑みを浮かべて振り返る。しかし、 ザイラスの瞳孔が元に戻るのを見て 愚かなことを考えた自分を恥じて顔を伏せる。
私の馬鹿。 何を期待しているのよ。 泣き出しそうになるのを必死に堪える。

*****

すっかり暗い表情になってしまったオリビアの気持ちを 探るように見つめる。
 確かにオリビアからはサインが出ていた。 あの恍惚とした表情は間違いない。
私に魅了されていた。
(う~ん)
ザイラスは心の中で唸る。
 それなのに、なぜか 急に心変わりした。 何が まずかったんだ? 分かるのは、タイミングを逃したということだけ。 女心を理解するのは難しいと 改めて感じる。 
少しでも距離を縮めたいと思うのに・・。
今日は失敗だな。 次のチャンスを まとう。

「 帰ろう」
ザイラスは そう言って オリビアを抱き上げる 。オリビアは嫌がることもせず貝のように口を閉ざしたまま頷く。

*****

ガルシアは机に広げた地図に 調査済みと今夜の分を黒く塗りつぶす。
メローナ様の配下と共に 毎晩王女の死体の捜索をしている。
分かってるのは布が見つかった時点から 東の方向ということだけ だったから不安だったが 、 すでに半分 終わってる。
 着実に王女の死体に近づいている。 そう確信している。 見つかるのは時間の問題だ。 

しかし、 メローネ様の花嫁だと知ってて 誰が持ち逃げしたんだ?
人間にとっては 見るだけでも恐ろしいモノ。
獣なら服を食べない。この森のバンパイアは全て メローネ様の眷属。 だから歯向かうはずがない。
(・・メローネ様の 異母兄弟?)
それが 一番考えられる。 だが、 もしそうならメローネ様が 気づかないはずがない。
 
 ならば、はぐれバンパイヤ?
 そう言えば街に一人住んでいると噂を聞いた。調べた方が良いのだろうか?
しばらく考えたが 止める事にした。 
どうせ、王女の死体が見つかれば 自ずと犯人も見つかるんだから 捜索に集中しよう。

**破られる日常**

ビジュと 二人でベッドメイクをしていると 突然ビジュが固まる。 その言葉通り、微動だにしない。
「ビジュ?」
 私の声が聞こえないのか 緊張した様子で窓に向かって耳をピクピク動かしている。
何か聞こえるの? 自分も聞き耳を立ててみるが 何も聞こえない。 首をかしげて見ているとビジュが、 カーテンを少しだけ開けて外の様子を伺う。
「何か見えるの?」
声を掛けたときには ビジュがカーテンを閉めて部屋を飛びだして行く。

「あっ・・」
引き止めようとした手が 空で止まる。 完全に置いてきぼり。
一人取り残されたオリビアは  本当に大変なことなら 私にも教えてくれるはずと肩をすくめる。枕を叩いて膨らませていると バサバサという何かの羽音がする。
「何?鳥?」
(もしかして、これが聞こえたの?)
  好奇心に駆られて窓辺に歩み寄ると カーテンをそっと開ける。

夕闇の中を大きな鳥が飛んでいる。 
すごく大きい。 本当に鳥? 
羽が あるのに 飛んでいる姿は不気味な生き物にしか見え無い。
 違和感を感じて よく見ようと 目を細める。
(嘘・・)
 服も靴も身につけている。
鳥じゃ無い。あれは・・羽人間?

一見すると人間が 空を飛んでいるようにしか見えないが、 決定的に違うのは 背中にコウモリのような羽が 服を突き破って生えていることだ 。
全員が青白い顔で 目の周りには黒いクマができていて、瞳も 血走り 真っ赤な唇に牙が生えている。
城の皆が見ていたモノに違いない。
 じゃあ、バンパイア・・。

「ひっ」
オリビアはカーテンを戻すと 震える手を組む。
でないと悲鳴をあげてしまう。
 ザイラスの言うとおり 私は生け贄だったんだ。本物を目の当たりにして オリビアは 改めて先祖の安易な約束が 恨めしくて 仕方ない。
(昔の約束をいつまでも守りつづけなくてはいけないの?)
 でなければ今頃は 不幸だけれど穏やかな日々を過ごしていたのに。
 壁にもたれると 固く目を閉じる。
( 死にたくない。 誰か助けて)

ガチャ!
 ドアが開く音に目を開けたときには ザイラスが私を抱きかかえていた。
「ザッ」
 ザイラスの表情が厳しいのを見て 口をつぐむ。 
でも、ザイラスが約束通り迎えに来てくれた事嬉しい。
私を守ってくれる。 そう信じられる。  オリビアは甘えるように ザイラスの肩口に 顔を埋める。

**

ザイラスに連れてこられた部屋には初めて入る。
( こんな部屋が、あったんだ ・・)
どの部屋より 重厚な作りになっている。
 調度品は何も無く。空っぽの部屋だ。
ザイラスが 私は中央に立たせると 自分の手を切る。
「なっ」
ぎょっとしている私を尻目に ザイラスが 床に掌を押しつける。すると、途端に 私を中心に大きな光のサークルができる。 何も知らない私でも、 これが魔法陣だということは察しがつく。
ここは秘密の部屋なんだ。

「バンパイアが、襲ってきたんですか?」
「違う。ここへは念のため避難しただけだ 」
ザイラスが 首を横に振る。 本当に? もしかして私を不安にさせまいと 嘘を言っているんじゃないの?
「では、襲ってこないんですか?」
「今夜は偵察だけだろ」
「・・・」
 そんなこと言われても とても安心できない。
 もうすぐ、そこまで来ているんだから。
ザイラスが困ったように笑うと 私の頬を撫でる。
そんな事されると 猫のように喉を鳴らしたくなる。 
それほど気持ち良い。

「 心配しなくて良い」
しかし、ザイラスの 口調が一変して 真剣になる。
「だが、何か不測の事態が起きたら この場所で私達の来るのを待っていてくれ。 サークルがお前を守ってくれる。 だから、それだけは約束してくれ」
「 約束します」
 このサークルに、どんな力があるか知らないが ザイラスが そう言うなら それに従うまで。
コクリと頷く。

 ドアの開く音にオリビアはザイラスの後ろに隠れる。しかし、やって来たの ポポだった。そして、直ぐにザイラスと 話し始める。
「ザイラス。数えてみたが 5匹しかいないから、襲ってこないだろう」
(五匹!)
 十分多い。バンパイアが うろうろしていると 思うと 生きた心地が しない。
 二人を平気なようだが 私は無理。
 不安な気持ちを 宥めるように両腕をさする。
「 どうする?今からやるか? 俺は いつでもバッチリだぜ」
 ポポがステップを踏んでパンチを繰り出す。
やる気は買うが、 このサイズで 戦えるの?

「 明日からにしよう」
 二人が戦う相談の見ていて ふと、他に人を見かけないことに気づく。まさか、二人だけ?
いやいや。あり得ない。 どう考えても一人で 2、3人を相手にしないといけない。 そんなの無理に決まってる。
 「応援の人は、いつ来るんですか?」
「 当面はザイラス一人で退治する」
「ひっ、 一人」
驚いて声が裏返る。 確かに牙王だと言っていたが、 数の上ではバンパイアの方が断然有利だ。 しかし、二人とも平然としている。 この魔法陣のように 必殺技があるのだろうか?
「 言っただろう。 私はバンパイアハンターだ 」
「ポポは 一緒に戦わないんですか?」
「うん」
 あっさり否定されてオリビアは絶句する。
もしかして・・私・・死ぬの?

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