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クレートン博士
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叔母との接触を断ると フローラが、がっかりしたように握っていた手を離して マグに手を伸ばす。
「そうですか・・仕方ないですね。 でも、噂は本当だったんですね」
「噂?」
アンデッドの悪い噂など 耳にタコができるほど聞いた。 今度は、どんな噂だ。
「はい、 アンデッドは元人間だって事です。ジャックはアンデッドになって、どれぐらいですか?」
(あぁ、それか)
唯一 正しい噂だ。
「 あー、多分500年かな」
「500年!凄い長生きですね」
長生き・・。おかしな表現だ。俺たちは、すでに死んでいる。それをまるで 我々が 生きている言う。
しかし、気づかぬうちにそんなに経ったのか・・。 そう言えば この村にはカレンダーや時計の類は置いていない。あっても人間がいるところだけ。無情に時間が過ぎる事を無意識に避けているのかも知れない。
「 人間だったのに、どうしたんアンデッドになったんですか?」
「俺たちの村は、博士の実験所にされてたんだ」
「 博士って・・クレートン博士のことですか?」
そうだと頷く。博士はマッドサイエンティストとして知られている。人間にとっては既に歴史なのに。俺たちにとっては現在進行形。
到底過去になど出来ない。
当時を思い出して 大臼歯を擦り合わせる。
それでも平坦な声を出すと 自嘲気味に言う。
「博士が作りたかったのは丈夫なゾンビで、俺達は失敗作。 こんなガイコツ姿には したくなかったらしい」
「酷いです!勝手に実験しておいて」
フローラが目を三角にして怒るが、そんな生易しい言葉では言い尽くせない。
阿鼻叫喚。 その言葉が全てを言い当てている。すべては、一夜で変わってしまった。
目が覚めると村の半分以上の者が死んで、残りの半分がアンデッドの姿になっていた。
誰一人、人間の原型をとどめている者は いなかった。 自分の姿に 普通に死を迎えられた友達を羨ましいとさえ思った。 未練や恨みが残っていても死ねば 来世がある。
でも、俺たちは・・この姿で半永久的に 彷徨う事になる。
鏡に映る自分を見るのが辛くて 家中の鏡を壊したこともある。アンデッド であることを受け入れられなくて 人間の生活を繰り返すことで正気を保っていた。しかし、嘆き悲しむ時間が過ぎると 現実を受け入れるようになっていた。
それと同時に博士が他の村でも実験していると噂で 知った。そのことが俺たちを救ってくれた。『ああ、他にもいるんだ。俺たちだけじゃないんだ』と・・。
一つだけ残念なのは、ゾンビ犬を生み出してしまったことだ。 少しでも自分たちに余裕があれば死肉をあさるのを止められたのに・・。
「ジャック。飲みますか?」
フローラの声に物思いから覚める。
見ると お代わりは必要かと コーヒーポットを掲げている。
ジャックは頷くとマグを置く。 昔を振り返っても何も変わりはしない。時間の無駄だ。
コーヒーを飲みながら、予定通りデートに誘う。昔だったら、たとえカモフラージュでも一大事だった。 何を着るとか、 どんな話をするとか 、親友達と 相談していただろう。しかし アンデッドの姿になった今では平気で誘える。
アンデッドは 対象外。
逆に怖がらせないように注意しないと。
「 デートですか?」
「 そうだ 。一応 婚約中だから一緒に出かけても問題ない。また皆が 押し掛けられても困るし・・」
叔父や叔母たちの相手をするのは正直良心が痛む。
それに フローラが 他の村人と接触するのは極力避けたい。特に この村にいる人間の女たち。
フローラに助けを求めてこられたりされたら・・。考えてただけで頭が痛くなる。
姉のことで手一杯らしく聞いてこないが 釘を刺しておかないと。
「 私 デート初めてです。 どこへ連れて行ってくれるんですか?」
「 村を案内するよ。 それに、逃げるルートを確認しておいた方がいい」
デリケートの話だけに、村の外の方が都合がいい。
*****
ジャックと二人で 手をつないで 歩いていると、行き交う村人たちは声をかけてくる。
「 ジャック。フローラ。元気?」
「お陰様で」
「二人揃ってお出かけかい?」
「ええ、ちょっと」
「結婚式には呼んでくれよ」
「はははっ」
こうして挨拶を返すと何だか本当に、 婚約した気分になる。
フローラは繋いだ手を見る。 大きい手だ 。
最初の時も思ったが 骨なのに不思議と痛くない。 ただ 手を繋いでいる だけだから?
フローラはジャックを 見た後 手をパーにしてから 恋人繋ぎをしてみる。
(おお!)
痛くない上に ぴったりとくっついて 離れにくい。だから、皆するんだ・・。
一人感心していたが、ジャックの声に我に返る。
「大抵、この広場に馬車を横付けして、競りが行われる」
「広場で、ですか」
広い場所がないという理由も一つだろうが、要は見世物だ。 田舎では誰かの親戚が来ただけでも人だかりができる。 常に娯楽に飢えている。
「 奴隷の数が少なかったり、売り手が決まっている時は、競りがない。だが、泊まる宿は決まっている。あそこだ」
ジャックが 指差した先に民家と変わらない建物が建っている。言われなければ、気付かない。
「競りが行われ無い時は宿屋を探せば、姉さんがいるかどうか調べられる」
頭の中で村の地図を書きながらコクリと頷く。
競りの最中に、こっそり連れ去ろうと思っていたけれど、 逃走経路を二通り考えるといけなくなった。 ジャックを引っ張って宿屋の方へ向かう。 途中 ジャックの目が繋いだ手を見たような気がしたが 何も言わない。 安心したような、がっかりしたような変な気持ちになる。
*****
ジャックはフローラと一緒に村の外れにある野生のベリーが茂っている場所に到着した。
昔は 遊びによく来たものだ。
しかし、今は誰も採りに来ない。
それでも ベリーは花を咲かせ、実をつけて 子孫を残す。まるで垣根のように森の入り口を塞いでいる。
「凄い数ですね」
「そうだ。この辺はベリーが群生している」
フローラが、いそいそと 木に近づくと熟れ具合を見ている。
「美味しそう。今が食べ頃ですね。でも、勝手に採っていいんですか?」
躊躇うフローラに向かって 頷く。
「問題ない。だから、好きなだけ採ればいい」
アンデッドに、なりたての頃は食べてたけど・・。
食事をしなくなって久しい 。
ジャックは懐かしむように ベリーを一つ摘むと、 それを光にかざす。 昔のまま 宝石のように輝いている。
気づけばフローラの姿が無い。
あれ?どこ行ったんだ?迷子か?
あたりを見回しているとガサゴソと森の奥の方から物音がする。
いつのまに 森の中に?何故?わざわざ採りづらいところへ行く理由がわからない。
「 フローラ?」
「はい。何ですか?」
名前を呼ぶと木々の間から頭に葉っぱをつけたフローラが姿を現す。
ジャックは怪訝に思って聞く。
「なにしてるんだ?森の奥に入って」
「これです。蔦で作ってたんです」
見事な出来栄えの籠を俺に見せるフローラに器用なものだと感心する。 その一方 何で籠?
デートのはずが 収穫に様変わりしている。
「 上手なものだ。ここまで作れるなるなら売り物になるな」
「お父さんに教えてもらいました」
「フローラは、お父さん子だったんだ」
「 はい。山ではキノコ採り、川では魚釣りをしてました」
「そうなんだ」
(見た目は女の子でも、 中身は男の子か)
行動的なのは そこから来ているのかもしれない。 フローラの新しい一面を知ってジャックは嬉しくなる。
しかし、葉で擦れたらしく頬に擦り傷がいくつもできている。
「 言ってくれれば、俺がやったのに」
「これくらい平気です」
「 でも、傷ができている」
末節骨で顎を掴むと傷の具合を確かめる。
せっかくの可愛い顔が台無しだ。
フローラが くすぐったそうに目を細める。
いつまでも この時間が続けばいいのに・・。
しかし、フローラが途中で 末節骨を手で外す。
「大したことありませんから、気にしないでください。それより一緒に摘むのを手伝ってください」
そう言ってベリーを摘み始める。
かすり傷は怪我のうちに入らないと言う事らしい。 それでも楽しそうに 摘んでいる姿に 頬骨を上げる。
色気より食い気かと、ジャックもベリー摘みを手伝う。
籠 いっぱいに取れたベリーを前に、フローラがニコニコとつまみ食いする。
「 甘ーい。たくさん取れましたから、皆さんにお裾分けできますね」
「 俺たちは食べないから、フローラが全部食べればいい」
「 美味しいのに・・・。本当に食べないんですか?」
フローラが、さも残念そうに言う。
食べれないことはないが、唾液のでない俺達にとっては・・。
「ああ、食べなくても何の支障もないからな」
「これだけあるならパイとかジャムとか出来るけど・・」
フローラが一人では食べきれないと 悲しそうな顔をする。
調子に乗って採り過ぎたな。前もって言っておけばよかった。
「 大丈夫だ。店屋で小麦も砂糖も売っている」「本当ですか。でも、それって・・」
先を言っていいのかと迷っている。
やはりその話になったか。避けては通れないから、いいチャンスた。ここで話しておこう。
「そうだ。 奴隷商人から 買った女たちの為の店だ」
「その・・何人いるんですか?」
フローラが知りたいのも当然だし、隠す必要もない。正直に話そう。
「3人だ。一番の古株は10年前かな?その後は5年前。最後は3年前」
しかし、いざ話そうとして、うろ覚えだと気づく。
それも仕方ない。何より接点がない。
買われたばかりの頃は毎日家から娘の泣き声と主の怒鳴り声が聞こえた。
そんな声を聞かされる我々ば娘の心情を思って同情する。
可哀想だから解放してやれと言ったが、皆が高かったと言って手放さなかった。理解出来ない。
馬が無いのに馬車を買うようなものだ。
***アンデッドの妻***
ジャックの話では3人は花嫁として買われたが、その実は夫達の見栄の象徴。人間の奥さんを持つのは金持ちの証。だから、 妻のようなことは求めない。生きていれば、それだけでいいらしい。
愛情の欠片も無い生活をしているが、大事にはされている。
ジャックは、そう言うけれど・・ 。
何を持って大事と言うかは甚だ疑問だ。
夫人たちは村人たちを恐れ、夫以外の村人とは顔も合わせないから 顔も知らないと言う。
既に諦めてるのか、人間同士の交流も無い。それとも 集団で逃げるのを警戒して禁じてるのかも。
そんな生活に私たったら、1秒もたない。
「 その・・彼女たちは幸せなんでしょうか?」
「そうですか・・仕方ないですね。 でも、噂は本当だったんですね」
「噂?」
アンデッドの悪い噂など 耳にタコができるほど聞いた。 今度は、どんな噂だ。
「はい、 アンデッドは元人間だって事です。ジャックはアンデッドになって、どれぐらいですか?」
(あぁ、それか)
唯一 正しい噂だ。
「 あー、多分500年かな」
「500年!凄い長生きですね」
長生き・・。おかしな表現だ。俺たちは、すでに死んでいる。それをまるで 我々が 生きている言う。
しかし、気づかぬうちにそんなに経ったのか・・。 そう言えば この村にはカレンダーや時計の類は置いていない。あっても人間がいるところだけ。無情に時間が過ぎる事を無意識に避けているのかも知れない。
「 人間だったのに、どうしたんアンデッドになったんですか?」
「俺たちの村は、博士の実験所にされてたんだ」
「 博士って・・クレートン博士のことですか?」
そうだと頷く。博士はマッドサイエンティストとして知られている。人間にとっては既に歴史なのに。俺たちにとっては現在進行形。
到底過去になど出来ない。
当時を思い出して 大臼歯を擦り合わせる。
それでも平坦な声を出すと 自嘲気味に言う。
「博士が作りたかったのは丈夫なゾンビで、俺達は失敗作。 こんなガイコツ姿には したくなかったらしい」
「酷いです!勝手に実験しておいて」
フローラが目を三角にして怒るが、そんな生易しい言葉では言い尽くせない。
阿鼻叫喚。 その言葉が全てを言い当てている。すべては、一夜で変わってしまった。
目が覚めると村の半分以上の者が死んで、残りの半分がアンデッドの姿になっていた。
誰一人、人間の原型をとどめている者は いなかった。 自分の姿に 普通に死を迎えられた友達を羨ましいとさえ思った。 未練や恨みが残っていても死ねば 来世がある。
でも、俺たちは・・この姿で半永久的に 彷徨う事になる。
鏡に映る自分を見るのが辛くて 家中の鏡を壊したこともある。アンデッド であることを受け入れられなくて 人間の生活を繰り返すことで正気を保っていた。しかし、嘆き悲しむ時間が過ぎると 現実を受け入れるようになっていた。
それと同時に博士が他の村でも実験していると噂で 知った。そのことが俺たちを救ってくれた。『ああ、他にもいるんだ。俺たちだけじゃないんだ』と・・。
一つだけ残念なのは、ゾンビ犬を生み出してしまったことだ。 少しでも自分たちに余裕があれば死肉をあさるのを止められたのに・・。
「ジャック。飲みますか?」
フローラの声に物思いから覚める。
見ると お代わりは必要かと コーヒーポットを掲げている。
ジャックは頷くとマグを置く。 昔を振り返っても何も変わりはしない。時間の無駄だ。
コーヒーを飲みながら、予定通りデートに誘う。昔だったら、たとえカモフラージュでも一大事だった。 何を着るとか、 どんな話をするとか 、親友達と 相談していただろう。しかし アンデッドの姿になった今では平気で誘える。
アンデッドは 対象外。
逆に怖がらせないように注意しないと。
「 デートですか?」
「 そうだ 。一応 婚約中だから一緒に出かけても問題ない。また皆が 押し掛けられても困るし・・」
叔父や叔母たちの相手をするのは正直良心が痛む。
それに フローラが 他の村人と接触するのは極力避けたい。特に この村にいる人間の女たち。
フローラに助けを求めてこられたりされたら・・。考えてただけで頭が痛くなる。
姉のことで手一杯らしく聞いてこないが 釘を刺しておかないと。
「 私 デート初めてです。 どこへ連れて行ってくれるんですか?」
「 村を案内するよ。 それに、逃げるルートを確認しておいた方がいい」
デリケートの話だけに、村の外の方が都合がいい。
*****
ジャックと二人で 手をつないで 歩いていると、行き交う村人たちは声をかけてくる。
「 ジャック。フローラ。元気?」
「お陰様で」
「二人揃ってお出かけかい?」
「ええ、ちょっと」
「結婚式には呼んでくれよ」
「はははっ」
こうして挨拶を返すと何だか本当に、 婚約した気分になる。
フローラは繋いだ手を見る。 大きい手だ 。
最初の時も思ったが 骨なのに不思議と痛くない。 ただ 手を繋いでいる だけだから?
フローラはジャックを 見た後 手をパーにしてから 恋人繋ぎをしてみる。
(おお!)
痛くない上に ぴったりとくっついて 離れにくい。だから、皆するんだ・・。
一人感心していたが、ジャックの声に我に返る。
「大抵、この広場に馬車を横付けして、競りが行われる」
「広場で、ですか」
広い場所がないという理由も一つだろうが、要は見世物だ。 田舎では誰かの親戚が来ただけでも人だかりができる。 常に娯楽に飢えている。
「 奴隷の数が少なかったり、売り手が決まっている時は、競りがない。だが、泊まる宿は決まっている。あそこだ」
ジャックが 指差した先に民家と変わらない建物が建っている。言われなければ、気付かない。
「競りが行われ無い時は宿屋を探せば、姉さんがいるかどうか調べられる」
頭の中で村の地図を書きながらコクリと頷く。
競りの最中に、こっそり連れ去ろうと思っていたけれど、 逃走経路を二通り考えるといけなくなった。 ジャックを引っ張って宿屋の方へ向かう。 途中 ジャックの目が繋いだ手を見たような気がしたが 何も言わない。 安心したような、がっかりしたような変な気持ちになる。
*****
ジャックはフローラと一緒に村の外れにある野生のベリーが茂っている場所に到着した。
昔は 遊びによく来たものだ。
しかし、今は誰も採りに来ない。
それでも ベリーは花を咲かせ、実をつけて 子孫を残す。まるで垣根のように森の入り口を塞いでいる。
「凄い数ですね」
「そうだ。この辺はベリーが群生している」
フローラが、いそいそと 木に近づくと熟れ具合を見ている。
「美味しそう。今が食べ頃ですね。でも、勝手に採っていいんですか?」
躊躇うフローラに向かって 頷く。
「問題ない。だから、好きなだけ採ればいい」
アンデッドに、なりたての頃は食べてたけど・・。
食事をしなくなって久しい 。
ジャックは懐かしむように ベリーを一つ摘むと、 それを光にかざす。 昔のまま 宝石のように輝いている。
気づけばフローラの姿が無い。
あれ?どこ行ったんだ?迷子か?
あたりを見回しているとガサゴソと森の奥の方から物音がする。
いつのまに 森の中に?何故?わざわざ採りづらいところへ行く理由がわからない。
「 フローラ?」
「はい。何ですか?」
名前を呼ぶと木々の間から頭に葉っぱをつけたフローラが姿を現す。
ジャックは怪訝に思って聞く。
「なにしてるんだ?森の奥に入って」
「これです。蔦で作ってたんです」
見事な出来栄えの籠を俺に見せるフローラに器用なものだと感心する。 その一方 何で籠?
デートのはずが 収穫に様変わりしている。
「 上手なものだ。ここまで作れるなるなら売り物になるな」
「お父さんに教えてもらいました」
「フローラは、お父さん子だったんだ」
「 はい。山ではキノコ採り、川では魚釣りをしてました」
「そうなんだ」
(見た目は女の子でも、 中身は男の子か)
行動的なのは そこから来ているのかもしれない。 フローラの新しい一面を知ってジャックは嬉しくなる。
しかし、葉で擦れたらしく頬に擦り傷がいくつもできている。
「 言ってくれれば、俺がやったのに」
「これくらい平気です」
「 でも、傷ができている」
末節骨で顎を掴むと傷の具合を確かめる。
せっかくの可愛い顔が台無しだ。
フローラが くすぐったそうに目を細める。
いつまでも この時間が続けばいいのに・・。
しかし、フローラが途中で 末節骨を手で外す。
「大したことありませんから、気にしないでください。それより一緒に摘むのを手伝ってください」
そう言ってベリーを摘み始める。
かすり傷は怪我のうちに入らないと言う事らしい。 それでも楽しそうに 摘んでいる姿に 頬骨を上げる。
色気より食い気かと、ジャックもベリー摘みを手伝う。
籠 いっぱいに取れたベリーを前に、フローラがニコニコとつまみ食いする。
「 甘ーい。たくさん取れましたから、皆さんにお裾分けできますね」
「 俺たちは食べないから、フローラが全部食べればいい」
「 美味しいのに・・・。本当に食べないんですか?」
フローラが、さも残念そうに言う。
食べれないことはないが、唾液のでない俺達にとっては・・。
「ああ、食べなくても何の支障もないからな」
「これだけあるならパイとかジャムとか出来るけど・・」
フローラが一人では食べきれないと 悲しそうな顔をする。
調子に乗って採り過ぎたな。前もって言っておけばよかった。
「 大丈夫だ。店屋で小麦も砂糖も売っている」「本当ですか。でも、それって・・」
先を言っていいのかと迷っている。
やはりその話になったか。避けては通れないから、いいチャンスた。ここで話しておこう。
「そうだ。 奴隷商人から 買った女たちの為の店だ」
「その・・何人いるんですか?」
フローラが知りたいのも当然だし、隠す必要もない。正直に話そう。
「3人だ。一番の古株は10年前かな?その後は5年前。最後は3年前」
しかし、いざ話そうとして、うろ覚えだと気づく。
それも仕方ない。何より接点がない。
買われたばかりの頃は毎日家から娘の泣き声と主の怒鳴り声が聞こえた。
そんな声を聞かされる我々ば娘の心情を思って同情する。
可哀想だから解放してやれと言ったが、皆が高かったと言って手放さなかった。理解出来ない。
馬が無いのに馬車を買うようなものだ。
***アンデッドの妻***
ジャックの話では3人は花嫁として買われたが、その実は夫達の見栄の象徴。人間の奥さんを持つのは金持ちの証。だから、 妻のようなことは求めない。生きていれば、それだけでいいらしい。
愛情の欠片も無い生活をしているが、大事にはされている。
ジャックは、そう言うけれど・・ 。
何を持って大事と言うかは甚だ疑問だ。
夫人たちは村人たちを恐れ、夫以外の村人とは顔も合わせないから 顔も知らないと言う。
既に諦めてるのか、人間同士の交流も無い。それとも 集団で逃げるのを警戒して禁じてるのかも。
そんな生活に私たったら、1秒もたない。
「 その・・彼女たちは幸せなんでしょうか?」
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