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姉の行方
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ジャックの話では 三人は花嫁として買われていて、愛情の欠片も無い生活をしているが、大事にされているという。
何も持って大事というのかは甚だ疑問だ。
だから、フローラは、頭に浮かんだことをそのまま口に出してしまった。
「 その・・彼女たちは、幸せなんでしょうか?」
「 それは、人によるだろう。 俺たちと暮らすこと自体 嫌だという者もいれば、 3食 食べられると喜ぶ者もいる」
ジャックの言葉にフローラは 気づかされる 。
そうだった・・。驕っていた。 不幸だと決めつけること自体、間違いだ。
生まれ育った環境で、幸せの基準は違う。 それが当たり前。
貧しい家の多いこの国では、家族のために身売りするのは、よくある話だ。
「 お前の言うところの、幸福では無いが、殺されはしない。ただ、自慢したいだけで、別に 甚振ろうとか 食べようとかする訳じゃないから安心しろ 」
「・・・」
私に 分かって欲しくてジャックが、話を続ける。 別にジャックを責めるつもりもないし 己が無力だということも知っている。
助けを求められたとしても、私には身請けするお金も 彼女達を逃がす 手立てもない。
たとえ 逃げられたとしても、 すぐに 追手に捕まる。 それじゃあ、元も子もない。
彼女たちに 希望を持たせた分だけ、罪深い事になる。
「 気になるなら、会ってみるか?」
ジャックの申し出に首を振って断る。
「あっ、いえ・・いいです」
会ってしまったら、後には引けなくなる。
今は、お姉ちゃんだけで 手いっぱいだ。
冷たいと思われるかもしれないけれど。 そうなったら 、にっちもさっちも いかなくなってしまう。
「 私は すぐに この村を出て行くので、親しくならない方が いいと思います」
「そうだな。どちらにしろ、 時間が無い」
それに、ジャックに、これ以上迷惑は かけられないと心の中で付け加え る。
彼は 私が去った後も この村で生活するんだから、余計なことをしない方がいい。
*****
ジャックは、うっすらと赤く染まった末節骨を見て下顎骨を上げると 隣でうたた寝しているフローラを見る。
あの後も フローラに 振り回されて、ベリー狩りを手伝わされた。
後先考えずフローラが森の奥に入っていくから途中で 荊木に服を引っ掻けて破けてしまった。
おば達から貰った服が なければ 今頃どうなっていたことか。
(とんだ おてんば娘だ)
ひと騒動あったが 、フローラの満足げな笑顔で落着した。 家に着くと彼女がパイを 作った残りで ジュースを作ってくれた。
久しぶりに飲むベリージュースの甘酸っぱさが歯牙にしみる。 それでも、懐かしさに浸りながらジュースを飲み干すとフローラを 起こそうと揺り動かす。
「フローラ起きろ! ここで寝ると風邪をひくぞ」
「 ジャック・・」
目を擦りながら起きたフローラは まだぼんやりしている その姿に頸椎とその頭蓋骨を動かす。
「ほら、ほら。後片付けは俺がやるから、先に寝ろ」
ジャックはフローラを立たせると、背中を押して階段のところまで連れて行く。 階段の手すりをつかんで登り始めたフローラが振り返る。
「 ありがとうございます。それでは、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
彼女が欠伸を噛み殺しながら階段を上っていく。
その後ろ姿に遠い昔の記憶が蘇る。まだ人間だった頃の話だ。 一人暮らしを始めた頃は、友達が 遊びに来て こうやって世話したものだ。
この家に他人が居る事が楽しいような、不安なような・・変な気分だ。
** 姉の行方 **
朝からフローラは 落ち着きなく居間を行ったり、来たりしながら、ジャックの帰りを待っている。
予定では今日 奴隷商人が、この村に来ることになっている。
本当は自分の目で確かめに行きたい。
でも、 あいつらが私のことを覚えていたら 逃げられてしまうかもしれない。
それに ジャックが、私は村人たちの注目の的だから 不審な行動は避けた方が良いとも言われた。 それで、私の代わりに 確かめに行ってもらっている。
(ああ、ジャック早く)
ドアの開く音に 弾かれたように 振り返るとジャックが指を口に当てて入ってくる。
大きな声を出すなということだろう。フローラは持ちきれずに出迎えると答えを求める。
「どうでした?」
「来た」
ジャックが頷く。
「良かった・・」
やっとだ。やっと、ここまで来た。 やっと会える。 これで姉を助けだせれる。 苦労して、ここまで来た甲斐があった 。
「今、親父と話している」
「それで」
もっと情報は ないのかと催促する。
「もうすぐ、競りが始まる。 その時に、姉さんが居るか、どうか確かめられる」
「分かりました」
フローラは、はやる気持ちを抑えきれずに聞く。
「その・・女たちの姿を見ましたか? 私と同じで金髪で二十歳ぐらいで、 こう大きなポケットが付いている青いスカートで」
「 待て、待て」
捲し立てる私をジャックが両手を突き出して 止める。
「馬車に、 幕が かかっていて 中の様子は 見えなかった」
「 そうですか・・」
もし、居なかったら?
そしたら、どうしたらいいの?いざその時が来ると思うと急に怖くなった。
嫌な予感に唇を噛む。 すると、ジャックが私の両肩に手を置く。フローラは、その重さに はっとしてジャックを見る。
「フローラ。 先の心配をしても仕方がない。それより、姉さんを どうやって救出するか、そのことだけ考えろ 」
「はい」
ジャックのアドバイスに頷く。
そうだ。居るか、居ないか より、今は どうやったら 姉を奪い返せるか。そのことの方が重要だ。
「逃げられるように準備は出来ているのか?」
フローラは頷くとテーブルを指差す。
テーブルの上には自分の鞄と 昨日作ったパイの入ったカゴが置いてある。
追っ手から逃れるため暫くは、森の中を通って 村へ帰ろうと思う。幸いなことに 沢山パイが あるから しばらくは食べるものには困らない。
ジャックがテーブルの上を見て頷くと壁に掛かっている自分の外套を私に着せる。
「 フードを被って、髪の毛を隠せ。目立たないよくにしないと」
言われた通り髪の毛を後ろで束ねて、その上からフードをかぶる。すると、 ジャックが後れ毛を耳にかける。
「まずは、この村に来た奴隷商人が、お前の姉さんをさらった奴と同一人物か確認しよう。顔を覚えているか?」
「もちろんです。 絶対忘れません! 」
フローラは自分の目を指差す。
忘れる事なんか出来無い。
夢の中で、何度も、何度も あの時の事を繰り返し見ている。
姉を抱えて馬車に乗り込もうとしているのを止めさせようと、声をかけた時 アイツが振り返った。ほんの一瞬だったけど、顔も声も体も全部。
昨日のことのように覚えている。
「 お前は、面が割れているんだから、計画を実行するまで 慎重に行動しろよ。分かったな」
念押ししてくるジャックに 頷く。
ここで失敗したら、今以上に探し出すのが困難になる。 そのことは自分が一番知っている。
「 無事、救出したとして。その後どうやって追っ手を撒くんだ。 相手は馬も持ってるし、人数も多い」
「 それは考えてあります」
まず馬が使えないように森に入る。そして。
フローラは、鞄を開けると薄紙に包まれた こぶし大の大きさのものを一つ取り出して ジャックに見せる。
「煙幕の粉を作って持ってきました」
煙幕といっても 灰が入っているだけだ。
お金の無い私が作れるのは、これくらいだ。
でも、 目くらましには十分になる。
「 なるほど考えたな 」
感心したように ジャックに言われて フローラは嬉しくて 胸を張る。
「森を抜けるまでは俺が、ついて行ってやろう。そうすればゾンビ犬たちからも身を護ってやれる」
「 本当ですか?ありがとうございます」
フローラはジャックの両手を取って頭を下げる。 ジャックが、いてくれたら逃げ切れる確率が格段に上がる。
「 フローラ、行こうか」
「はい」
I返事をしてジャックの後に続いたフローラはドアを閉める前に部屋の中を見ます。 忘れ物の確認もあるが、どこか名残惜しい。
旅の途中に泊まった宿のような、 通り過ぎるだけの場所ではなくて。 もう一度訪ねたいと思わせる場所だ。
でもどうして、そう思うんだろう?
「フローラ?」
「はい。
自分に芽生えた感情を理解できないまま競りの行われる広場に向かう。
****
広場に着くと祭りのような賑やかさに驚く。
しかし、自分の村の人たちも 商人やよその村の人が来ると物珍しさに集まったものだ。
それほど田舎では娯楽が少ない。
フローラは人目を引かないように、遠くから荷馬車を見る。 普通の荷馬車ではなくて、檻が取り付けてある特別なものだ。 布が、かぶさっているが それでもオリだとわかる。
あの中にお姉ちゃんが・・。
馬車の方へ向かっているとジャックに腕を引っ張られて、 どこかへ連れて行かれる。
「ちょっ、ジャック?」
ジャックが私を路地裏に連れ込むと肩を引き寄せて、他の人に聞こえないように ひそひそ声で喋りだす。
「良いか、姉さんを見つけても大声で騒ぐな。 姉さん知られるのもダメだ」
何故だとジャックを見る。姉に自分が助けに来たことを知らせたい。 私と同じように辛い思いをしているはずだ。
ジャックが真剣な目で私を見ながら、首を振る。
「 助けるのは、姉さん一人だけだろう」
「あっ!」
その一言で、言わんとしてることが分かった。
他の人のことは助けない。つまり、見捨てるということだ。もし自分が、そっち側の人間で そのことに気づいたなら ずるいと思うだろう。
そしたら邪魔される。
「わかりました。気をつけます」
「それと 親父たちに、お前と姉妹だとバレるのも駄目だ。後々面倒なことになる」
分かったと頷く。きっと、姉がいなくなったと奴隷商人が大騒ぎする。
私も一緒に居なくなったと知られたら・・。
ここに来てフローラは ジャックに、すごく迷惑をかけることに改めて気づかされた。 私達を逃した後、村に戻っても 大丈夫なのだろうか?
「私が 居なくなった後、平気なんですか?」
「平気、平気。 失恋したとか、なんとか言えばいいだけのことだ」
ジャックが軽く肩を竦めて 受け流す 。
本当に大丈夫なの?
一人で戻ったら、村の人たちに何と言われるか?ジャックに同情してくれたならいいけど・・。
私への熱烈歓迎ぶりを考えると恐ろしい。
何一つ 利が無いのに、ここまでしてくれることに 感謝しても、しきれない。 何かしら、お礼をしたいが 何も持っていない。 フローラは、せめてものお礼にと ジャックの頬にキスをする。
「なっ」
カランと下顎を外して、すごく驚いている。
あまりの驚きように やりすぎたかと思ったが、 ほっぺだし これぐらいなら普通だ 。
それでもジャックの反応が気になって、顔を見た。 しかし、残念ながら骨の顔では、何一つ読み取れない。唯一 感情が分かる瞳を覗き込む落とした時、村人の騒ぎに気付いて視線を移す。
見ると馬車の隣に大柄な男がだっている。
間違いない。あの男だ!
フローラはジャックの袖を引っ張って知らせる 。
「あの男です。あの男が姉さんを さらったんです」
とうとう見つけた。必ず姉さんを取り戻してみせる。 自分の決意を表すように固く拳を作る。
何も持って大事というのかは甚だ疑問だ。
だから、フローラは、頭に浮かんだことをそのまま口に出してしまった。
「 その・・彼女たちは、幸せなんでしょうか?」
「 それは、人によるだろう。 俺たちと暮らすこと自体 嫌だという者もいれば、 3食 食べられると喜ぶ者もいる」
ジャックの言葉にフローラは 気づかされる 。
そうだった・・。驕っていた。 不幸だと決めつけること自体、間違いだ。
生まれ育った環境で、幸せの基準は違う。 それが当たり前。
貧しい家の多いこの国では、家族のために身売りするのは、よくある話だ。
「 お前の言うところの、幸福では無いが、殺されはしない。ただ、自慢したいだけで、別に 甚振ろうとか 食べようとかする訳じゃないから安心しろ 」
「・・・」
私に 分かって欲しくてジャックが、話を続ける。 別にジャックを責めるつもりもないし 己が無力だということも知っている。
助けを求められたとしても、私には身請けするお金も 彼女達を逃がす 手立てもない。
たとえ 逃げられたとしても、 すぐに 追手に捕まる。 それじゃあ、元も子もない。
彼女たちに 希望を持たせた分だけ、罪深い事になる。
「 気になるなら、会ってみるか?」
ジャックの申し出に首を振って断る。
「あっ、いえ・・いいです」
会ってしまったら、後には引けなくなる。
今は、お姉ちゃんだけで 手いっぱいだ。
冷たいと思われるかもしれないけれど。 そうなったら 、にっちもさっちも いかなくなってしまう。
「 私は すぐに この村を出て行くので、親しくならない方が いいと思います」
「そうだな。どちらにしろ、 時間が無い」
それに、ジャックに、これ以上迷惑は かけられないと心の中で付け加え る。
彼は 私が去った後も この村で生活するんだから、余計なことをしない方がいい。
*****
ジャックは、うっすらと赤く染まった末節骨を見て下顎骨を上げると 隣でうたた寝しているフローラを見る。
あの後も フローラに 振り回されて、ベリー狩りを手伝わされた。
後先考えずフローラが森の奥に入っていくから途中で 荊木に服を引っ掻けて破けてしまった。
おば達から貰った服が なければ 今頃どうなっていたことか。
(とんだ おてんば娘だ)
ひと騒動あったが 、フローラの満足げな笑顔で落着した。 家に着くと彼女がパイを 作った残りで ジュースを作ってくれた。
久しぶりに飲むベリージュースの甘酸っぱさが歯牙にしみる。 それでも、懐かしさに浸りながらジュースを飲み干すとフローラを 起こそうと揺り動かす。
「フローラ起きろ! ここで寝ると風邪をひくぞ」
「 ジャック・・」
目を擦りながら起きたフローラは まだぼんやりしている その姿に頸椎とその頭蓋骨を動かす。
「ほら、ほら。後片付けは俺がやるから、先に寝ろ」
ジャックはフローラを立たせると、背中を押して階段のところまで連れて行く。 階段の手すりをつかんで登り始めたフローラが振り返る。
「 ありがとうございます。それでは、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
彼女が欠伸を噛み殺しながら階段を上っていく。
その後ろ姿に遠い昔の記憶が蘇る。まだ人間だった頃の話だ。 一人暮らしを始めた頃は、友達が 遊びに来て こうやって世話したものだ。
この家に他人が居る事が楽しいような、不安なような・・変な気分だ。
** 姉の行方 **
朝からフローラは 落ち着きなく居間を行ったり、来たりしながら、ジャックの帰りを待っている。
予定では今日 奴隷商人が、この村に来ることになっている。
本当は自分の目で確かめに行きたい。
でも、 あいつらが私のことを覚えていたら 逃げられてしまうかもしれない。
それに ジャックが、私は村人たちの注目の的だから 不審な行動は避けた方が良いとも言われた。 それで、私の代わりに 確かめに行ってもらっている。
(ああ、ジャック早く)
ドアの開く音に 弾かれたように 振り返るとジャックが指を口に当てて入ってくる。
大きな声を出すなということだろう。フローラは持ちきれずに出迎えると答えを求める。
「どうでした?」
「来た」
ジャックが頷く。
「良かった・・」
やっとだ。やっと、ここまで来た。 やっと会える。 これで姉を助けだせれる。 苦労して、ここまで来た甲斐があった 。
「今、親父と話している」
「それで」
もっと情報は ないのかと催促する。
「もうすぐ、競りが始まる。 その時に、姉さんが居るか、どうか確かめられる」
「分かりました」
フローラは、はやる気持ちを抑えきれずに聞く。
「その・・女たちの姿を見ましたか? 私と同じで金髪で二十歳ぐらいで、 こう大きなポケットが付いている青いスカートで」
「 待て、待て」
捲し立てる私をジャックが両手を突き出して 止める。
「馬車に、 幕が かかっていて 中の様子は 見えなかった」
「 そうですか・・」
もし、居なかったら?
そしたら、どうしたらいいの?いざその時が来ると思うと急に怖くなった。
嫌な予感に唇を噛む。 すると、ジャックが私の両肩に手を置く。フローラは、その重さに はっとしてジャックを見る。
「フローラ。 先の心配をしても仕方がない。それより、姉さんを どうやって救出するか、そのことだけ考えろ 」
「はい」
ジャックのアドバイスに頷く。
そうだ。居るか、居ないか より、今は どうやったら 姉を奪い返せるか。そのことの方が重要だ。
「逃げられるように準備は出来ているのか?」
フローラは頷くとテーブルを指差す。
テーブルの上には自分の鞄と 昨日作ったパイの入ったカゴが置いてある。
追っ手から逃れるため暫くは、森の中を通って 村へ帰ろうと思う。幸いなことに 沢山パイが あるから しばらくは食べるものには困らない。
ジャックがテーブルの上を見て頷くと壁に掛かっている自分の外套を私に着せる。
「 フードを被って、髪の毛を隠せ。目立たないよくにしないと」
言われた通り髪の毛を後ろで束ねて、その上からフードをかぶる。すると、 ジャックが後れ毛を耳にかける。
「まずは、この村に来た奴隷商人が、お前の姉さんをさらった奴と同一人物か確認しよう。顔を覚えているか?」
「もちろんです。 絶対忘れません! 」
フローラは自分の目を指差す。
忘れる事なんか出来無い。
夢の中で、何度も、何度も あの時の事を繰り返し見ている。
姉を抱えて馬車に乗り込もうとしているのを止めさせようと、声をかけた時 アイツが振り返った。ほんの一瞬だったけど、顔も声も体も全部。
昨日のことのように覚えている。
「 お前は、面が割れているんだから、計画を実行するまで 慎重に行動しろよ。分かったな」
念押ししてくるジャックに 頷く。
ここで失敗したら、今以上に探し出すのが困難になる。 そのことは自分が一番知っている。
「 無事、救出したとして。その後どうやって追っ手を撒くんだ。 相手は馬も持ってるし、人数も多い」
「 それは考えてあります」
まず馬が使えないように森に入る。そして。
フローラは、鞄を開けると薄紙に包まれた こぶし大の大きさのものを一つ取り出して ジャックに見せる。
「煙幕の粉を作って持ってきました」
煙幕といっても 灰が入っているだけだ。
お金の無い私が作れるのは、これくらいだ。
でも、 目くらましには十分になる。
「 なるほど考えたな 」
感心したように ジャックに言われて フローラは嬉しくて 胸を張る。
「森を抜けるまでは俺が、ついて行ってやろう。そうすればゾンビ犬たちからも身を護ってやれる」
「 本当ですか?ありがとうございます」
フローラはジャックの両手を取って頭を下げる。 ジャックが、いてくれたら逃げ切れる確率が格段に上がる。
「 フローラ、行こうか」
「はい」
I返事をしてジャックの後に続いたフローラはドアを閉める前に部屋の中を見ます。 忘れ物の確認もあるが、どこか名残惜しい。
旅の途中に泊まった宿のような、 通り過ぎるだけの場所ではなくて。 もう一度訪ねたいと思わせる場所だ。
でもどうして、そう思うんだろう?
「フローラ?」
「はい。
自分に芽生えた感情を理解できないまま競りの行われる広場に向かう。
****
広場に着くと祭りのような賑やかさに驚く。
しかし、自分の村の人たちも 商人やよその村の人が来ると物珍しさに集まったものだ。
それほど田舎では娯楽が少ない。
フローラは人目を引かないように、遠くから荷馬車を見る。 普通の荷馬車ではなくて、檻が取り付けてある特別なものだ。 布が、かぶさっているが それでもオリだとわかる。
あの中にお姉ちゃんが・・。
馬車の方へ向かっているとジャックに腕を引っ張られて、 どこかへ連れて行かれる。
「ちょっ、ジャック?」
ジャックが私を路地裏に連れ込むと肩を引き寄せて、他の人に聞こえないように ひそひそ声で喋りだす。
「良いか、姉さんを見つけても大声で騒ぐな。 姉さん知られるのもダメだ」
何故だとジャックを見る。姉に自分が助けに来たことを知らせたい。 私と同じように辛い思いをしているはずだ。
ジャックが真剣な目で私を見ながら、首を振る。
「 助けるのは、姉さん一人だけだろう」
「あっ!」
その一言で、言わんとしてることが分かった。
他の人のことは助けない。つまり、見捨てるということだ。もし自分が、そっち側の人間で そのことに気づいたなら ずるいと思うだろう。
そしたら邪魔される。
「わかりました。気をつけます」
「それと 親父たちに、お前と姉妹だとバレるのも駄目だ。後々面倒なことになる」
分かったと頷く。きっと、姉がいなくなったと奴隷商人が大騒ぎする。
私も一緒に居なくなったと知られたら・・。
ここに来てフローラは ジャックに、すごく迷惑をかけることに改めて気づかされた。 私達を逃した後、村に戻っても 大丈夫なのだろうか?
「私が 居なくなった後、平気なんですか?」
「平気、平気。 失恋したとか、なんとか言えばいいだけのことだ」
ジャックが軽く肩を竦めて 受け流す 。
本当に大丈夫なの?
一人で戻ったら、村の人たちに何と言われるか?ジャックに同情してくれたならいいけど・・。
私への熱烈歓迎ぶりを考えると恐ろしい。
何一つ 利が無いのに、ここまでしてくれることに 感謝しても、しきれない。 何かしら、お礼をしたいが 何も持っていない。 フローラは、せめてものお礼にと ジャックの頬にキスをする。
「なっ」
カランと下顎を外して、すごく驚いている。
あまりの驚きように やりすぎたかと思ったが、 ほっぺだし これぐらいなら普通だ 。
それでもジャックの反応が気になって、顔を見た。 しかし、残念ながら骨の顔では、何一つ読み取れない。唯一 感情が分かる瞳を覗き込む落とした時、村人の騒ぎに気付いて視線を移す。
見ると馬車の隣に大柄な男がだっている。
間違いない。あの男だ!
フローラはジャックの袖を引っ張って知らせる 。
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