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山賊?盗賊?
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人間に買われた姉を探しに行くと言う フローラの力に なりたいと 一緒に旅に出ることにしたジャックは、隣に連れがいることに 居心地の悪さと同時に喜びを感じる。
誰かと出かけるのは500年ぶりだ。
村長代理ということで 出かけることは多いが、いつも一人だ。 小鳥のように、さえずり続けるフローラを見て よく話題が尽きないものだと感心する。
村を出て大きな街道に出るために 分岐点を右に曲がろうとすると フローラが止める。
「 次の村へは 左じゃないんですか?」
フローラの言うとおり。 確かに左に曲がれば 時間も かからず早く着く。 しかし、フローラと一緒なんだから、安全を第一に考えたい。時間は かかっても 遠回りをした方がいい。
「 左に行くと 途中で 両側が壁の場所がある。 あそこは 山賊が出るから 避けた方が良い」
「 山賊?」
そうだと頷く。 崖の上から降りてくるから、馬にでも乗ってでもない限り必ず捕る。 昔は この辺にいなかったのに 年々悪化していて 山賊は増える一方だ。それほど、無秩序に なってきている。残念なことだ 。
「一山超えれば 野宿するのに最適な場所があるから、 今夜は そこで野宿しよう」
「ジャックは 旅慣れてるんですね。わかりました。 こっちの道を行きましょう」
そう言うとフローラが右を指差して先に歩き出す。ジャックは、その後ろに続きながらフローラの勘違いに 第七頚椎の隆椎と 頭蓋骨を同時に左右に動かす。 旅慣れてるも何も アンデッドの村自体少ないから 基本 野宿だ。
「 悪いな。ベッドで寝たいだろう」
フローラは人間だし、女の子なんだから 男である自分が気遣ってあげないと いけないのに・・。 苦労をかけることに 罪悪感を感じる。着いて行くと言い出したのは俺なのに 申し訳ない。
「 全然 平気です。ジャックと一緒なら苦になりません。 毎晩でも平気ですよ」
「そっ、 そうか・・」
フローラが当たり前のように言って、にっこりと笑みを返してくる。そんな顔をされたら 次の言葉が出ない。 絶対的な信頼。 前科が あるだけにプレッシャーを感じる。 何事も無く朝を迎えたい。
と言うか・・寝なければ いいのでは?人間じゃないんだから、別に眠らなくても平気だし。
そうだ。そうしよう。そうすればお互いに安心できる。
***
ジャックは寝ないと決めて、寝転んで星を眺めていた。 しかし、そんな事は すぐ飽きて時間を持て余していた。
( あと どれぐらいで日は昇るんだ?)
寝なくても寝不足という事は無いが、寝ないと時間の進みが遅い。
ジャックは、 音を立てないように寝返りを打とうとしたとき、たっ、たっ、たっと言う複数の足音を地面を伝って直接 骨に感じた。
(1、2、・・5人組だ)
そのまま 聞き耳を立てていると 足音がやんで 男たちの ひそひそ声が聞こえる。
( 作戦を練っているな)
足音がバラバラになる。 逃げられないように取り囲む気だ。 音の聞こえ方からして まだ遠い。
ジャックは、素早く面と手袋を身に付けるとフローラの肩をそっと揺らす。
『起きろ。フローラ。起きろ』
「んっ、どうしたんですか?」
目をこすりながら 起き上がったフローラの頬を押さえて 自分を向かせる。
驚いたフローラが目を見張る。 その瞳を真っ直ぐ見て、緊急事態だと自覚させる。せっかく山賊を避けたのに結局トラブルに 巻き込まれた。
旅の初日から、こんな目にあうとは前途多難だ。しかし、旅をしていれば、いつかは経験することだ。それが、たまたま初日と言うことだ。
俺の緊張感じ取ったのか、フローラが大人しく俺を見る。
『 盗賊に狙われている。フローラは、近くの木の下で隠れていろ』
『ジャックは、どうするんですか?』
『戦う』
『そんなの危険です。一緒に逃げましょう』
フローラが俺の袖を掴む。しかし、ジャックは心配無いと その手をそっと外す。
フローラにしてみたら骸骨姿の俺が強いとは思わないだろう。そして、フローラの見立て通り 俺に 『武』の才能は無かった。
人で無いと言うことは不便なことが色々ある。
どんな嫌な事をされても死なないから終わりがない。 だから それを止めさせるために戦うようになった。そして、強くなった。
俺の強さはアンデッドとしての無限の時間の中で 培ったものだ 。
経験だけは人の倍は ある。だから、自分たちが置かれている状況判断が正確にできる。
『 無理だ 。この森は下草が茂っているから誰が来ても気づける。 逆に それは俺たちが逃げる方向を敵に教えることにもなる』
『・・・』
俺の言っていることは分かるが、それでも心配なのかフローラが 俺を見つめる。 そんなフローラの気持ちに目を細める。
『心配するな。だから、何があっても声出すな。いいな』
安心させるように頭を撫でるとフローラがコクコクと頷く。
フローラを安全なところまで非難させると 脱がせた フローラの上着に草を押し込んで、毛布をかけて二人で眠っているように見せかけて 剣を隠し持って盗賊が来るのを待つ。
暫くして忍び足で盗賊の一人が近づいてくる音を感じる。剣を振り上げて下ろそうとした空を切る音のタイミングで 体の下に隠していた剣をつかむと反転して盗賊の足を薙ぎ払う。
盗賊がバランスを崩して地面に突っ伏す。
不測の事態にガサガサと隠れていた仲間が次々と全員姿を現す。
ジャックは、態勢を立て直すと 残りの4人の顔をみる。どんな生き物もリーダーをやっつければ、
それで逃げていく。 ジャックは次々と盗賊たちの顔を見る。
(違う。違う。コイツだ)
3人目の男だ。
意外なことに 一番力に弱そうな奴だが 間違いない。地面を蹴って迷わず その男のとへ向かう。
「兄貴!」
「危ない!」
手下たちがリーダーを守ろうと行くいくてを遮る。気づけば全員集合している。
「 大丈夫だ。来るな」
狙いが自分一人だと察したリーダーが 手下たちを止めようとする。しかし、 リーダーを守りたい 手下たちが、隙あらばと ジリジリと間合いを詰めてくる。 ジャックは、剣を向けながら、リーダー の男を 注意深く見る。
肩に力が入り、剣を何度も 握り直している。
戦い慣れてないことは一目瞭然だ 。
ジャックは相手の剣を自分の剣で上から押さえると そのまま剣を回して下から降り上げる。
すると、あっけなく相手の剣が、くるくると回転して 地面に突き刺さる。
「 兄貴!」
リーダーのピンチに焦って手下たちが、駆け寄る。面目を失ったリーダーの男が手首を押さえてしゃがみこむと恨みがましい目で俺を見る。
慣れぬ動きで 手首を痛めたんだろう。
「これ以上 怪我したくなかったら、去れ」
「何を!」
「 やっちまえ」
敵討ちと ばかりに 手下たちが剣を向けてくる。 殺しはしないが、手加減ができるかどうかわからないから 無傷とはいかない。
アンデッド俺と違って人間は 命に限りがあるから、大事にして欲しいのだが・。
「 待て!」
リーダーの男が 手下たちを止める。
俺の力量を見極めたようで 引き際を分かっている。
「退くぞ 」
リーダーの男がそう言い残して帰って行く。
「でも、兄貴・・」
「覚えてろよ」
手下たちが 後に続くが、不満らしく何度も振り返って威嚇する。 手下の一人が兄貴の剣を回収すると急いで追いかける。
諦めた振りをして俺たちを油断させて、もう一度、襲ってくるかもしれない。
ジャックは盗賊の姿が消えて、完全に足音が聞こえなくなるのを確認してから、 剣をしまうとフローラを手招きする。
木の影で小さくなっていたフローラが飛び出してくると、両手を胸の前で組んで尊敬の眼差しで見る。
「ジャックって、すごく強いんですね。びっくりしました」
「 たま、たまだよ。アイツらが引き下がらなかったら危なかった」
運が良かっただけだと 第七頚椎の隆椎と頭蓋骨を小さく左右に動かす。
相手だって 昨日今日 盗賊になったわけじゃない。 その辺のところは わきまえている。
「 またまた。謙遜しないでください」
「・・・」
「だって、こうやって、こうやって」
フローラが、その辺に落ちている 棒を拾い上げて 俺の真似事をする。
どうやって強くなったかとか 色々聞かれても困る。フローラは知らなくていいことだ。
「ほらほら。まだ、起きるのは 早い。もう少し寝よう」
この件は、ここまで、というようにフローラの背中を押して荷物の場所まで戻る。
***
また、盗賊が来るかもしれないから 不安だと言うフローラの願いを聞き入れて 隣で寝ることに。 ジャックは フローラが寝たのを確かめると 傍を離れようと起き上がる。 無防備なフローラの寝顔に あの日の事が思い出される。
顔に かかった髪を耳にかけてあげると 自然と視線がその下へと下がる。
(・・・いかん。いかん)
ジャックは誘惑に負けないようにとフローラから距離を取って横たわる。
そう思ったが、念の為にと 樫の木のところまで離れる。これくらい離れれば 大丈夫だ。
フローラの寝息を聞きながら意識を閉じると、ゆっくりと闇が染めていく。
手根骨に 感じる暖かさに 意識が戻る。
(んっ、 何かを掴んでいる)
手根骨を動かすと 丸くて柔らかい物だと分かる。 もっと 調べようと手根骨に力を入れると 末節骨が埋もれていく。
どくどくと脈打つ暖かさに 全身が溶けるようだ。
(嗚呼、 この感覚・・!)
酔いしれいたが 慌てて指骨を引き抜いて起き上がる。まさか、また やったのか?
隣を見るとフローラが寝ている。
(・・・)
ジャックは、舌骨をゴクリと鳴らしながら 恐る恐るフローラの ドレスの襟を仕上げると 小さな赤い点が。
「はうっ!」
この大バカ野郎!自分で頭蓋骨を叩く。
俺は いつからこんなに、いやらしいヤツになったんだ。簡単に欲望に負けた自分に、がっかりして上肢帯を 落とす。
何も知らずにスヤスヤ寝ているフローラの顔を見つめる。 この事がフローラに知られたら軽蔑されて 一生 口を聞いてくれない。
尊敬の眼差しで見られていたことを思い出す。
「はぁ~」
俺は何してるんだ・・。
しかし、フローラの寝相の悪さには 困ったものだ。俺の努力が 水の泡だ。
でも、 あんな事が あった後だ。人恋しくなるのも当たり前か。
悪いのはフローラのせいだ。そう思っていたが 何かが違うことに気づく。何が気になったのかと辺りを見回すと 自分が寝ていた場所に生えてい樫の木が遠い。
「・・・?」
フローラの寝ている場所を見た後、もう1度 樫の木を見る。違う!
フローラの寝相じゃない。俺が寝返りをうって近づいたんだ。それも1回や2回じゃない。
ジャックは自分のとった無意識の行動に頭蓋骨を抱える。自分から近付いて行ったら意味が、ないじゃないか!
ここまで来ると自分で自分が信じられない。
おかしいだろ。 確かに俺は男だが オスとしての能力は既に消失している。それなのに、どうして?自分でも分からない 。
***
フローラが 目を覚ました瞬間からジャックは ドキドキしながら、その一挙手一投足を目で追う。こういう時は人間でなくて良かった。もし人間だったら一発で何かあったと見破られる。
何も言われないまま 二人で朝食を食べ初めてやっとジャックは、上肢骨の力を抜く。
(大丈夫だ。バレ無かった・・)
焚き火を挟んでフローラが朝食を 食べ終わるのをコーヒーを飲みながら待っていた。
後ろめたくて目が合わせられない。だから、マグ ばかり覗き込んでいる。 今度寝る時は、体をぐるぐる巻きにして動けないようにしよう。でないと また同じ事が 起こるかもしれない。そうでないと安心できない。
コーヒーを飲もうと 顎骨を 開けるとフローラの視線を感じる。
「なんだ?」
言いたい事が あるのかと警戒して聞くと フローラが俺のマグを覗き込んで目を丸くする。
「 前から気になってたんですけど、飲んだコーヒーは どこに行くんですか?」
疑問に思ったことを何でも口にするフローラを子供みたいだと思う。
「さあ、知らない」
それは俺たちの七不思議の一つだ。
すげなく答えるとフローラが指を一本立てる。
「 もう1回。もう1回 飲んで見せてください」
「・・・」
諦めそうにないと、コーヒーを飲み込んでマグの中身を見せる。
「すごーい」
もう十分だろうと、そっぽを向くと回り込んできて また指を立てる。
「もう1回だけ。ねっ、ねっ」
「・・ 本当に、これが最後だぞ」
そういうと分かったと 何度も頷く。
どうも怪しいが コーヒーを飲んだ後 マグの中を見せる。
中身を確認したフローラが不思議だと腕を組んで首をひねる。
「 もう、いいだろう」
「本当に、どこいくんでしょうね 」
するとフローラが身を乗り出して、じろじろと見ていたかと思うと 俺の下顎骨や 頸椎を触ってくる。どうやら、とても好奇心が旺盛らしい。
「 ちょっと、こら!やめろ」
くすぐったさに我慢できずに逃げるとフローラが 目をキラキラさせて追いかけてくる。
完全に5歳児の目だ。
絶対 飽きるまで 付き合わされる。
「 いいじゃないですかー」
「 よくない」
その上しつこい。
誰かと出かけるのは500年ぶりだ。
村長代理ということで 出かけることは多いが、いつも一人だ。 小鳥のように、さえずり続けるフローラを見て よく話題が尽きないものだと感心する。
村を出て大きな街道に出るために 分岐点を右に曲がろうとすると フローラが止める。
「 次の村へは 左じゃないんですか?」
フローラの言うとおり。 確かに左に曲がれば 時間も かからず早く着く。 しかし、フローラと一緒なんだから、安全を第一に考えたい。時間は かかっても 遠回りをした方がいい。
「 左に行くと 途中で 両側が壁の場所がある。 あそこは 山賊が出るから 避けた方が良い」
「 山賊?」
そうだと頷く。 崖の上から降りてくるから、馬にでも乗ってでもない限り必ず捕る。 昔は この辺にいなかったのに 年々悪化していて 山賊は増える一方だ。それほど、無秩序に なってきている。残念なことだ 。
「一山超えれば 野宿するのに最適な場所があるから、 今夜は そこで野宿しよう」
「ジャックは 旅慣れてるんですね。わかりました。 こっちの道を行きましょう」
そう言うとフローラが右を指差して先に歩き出す。ジャックは、その後ろに続きながらフローラの勘違いに 第七頚椎の隆椎と 頭蓋骨を同時に左右に動かす。 旅慣れてるも何も アンデッドの村自体少ないから 基本 野宿だ。
「 悪いな。ベッドで寝たいだろう」
フローラは人間だし、女の子なんだから 男である自分が気遣ってあげないと いけないのに・・。 苦労をかけることに 罪悪感を感じる。着いて行くと言い出したのは俺なのに 申し訳ない。
「 全然 平気です。ジャックと一緒なら苦になりません。 毎晩でも平気ですよ」
「そっ、 そうか・・」
フローラが当たり前のように言って、にっこりと笑みを返してくる。そんな顔をされたら 次の言葉が出ない。 絶対的な信頼。 前科が あるだけにプレッシャーを感じる。 何事も無く朝を迎えたい。
と言うか・・寝なければ いいのでは?人間じゃないんだから、別に眠らなくても平気だし。
そうだ。そうしよう。そうすればお互いに安心できる。
***
ジャックは寝ないと決めて、寝転んで星を眺めていた。 しかし、そんな事は すぐ飽きて時間を持て余していた。
( あと どれぐらいで日は昇るんだ?)
寝なくても寝不足という事は無いが、寝ないと時間の進みが遅い。
ジャックは、 音を立てないように寝返りを打とうとしたとき、たっ、たっ、たっと言う複数の足音を地面を伝って直接 骨に感じた。
(1、2、・・5人組だ)
そのまま 聞き耳を立てていると 足音がやんで 男たちの ひそひそ声が聞こえる。
( 作戦を練っているな)
足音がバラバラになる。 逃げられないように取り囲む気だ。 音の聞こえ方からして まだ遠い。
ジャックは、素早く面と手袋を身に付けるとフローラの肩をそっと揺らす。
『起きろ。フローラ。起きろ』
「んっ、どうしたんですか?」
目をこすりながら 起き上がったフローラの頬を押さえて 自分を向かせる。
驚いたフローラが目を見張る。 その瞳を真っ直ぐ見て、緊急事態だと自覚させる。せっかく山賊を避けたのに結局トラブルに 巻き込まれた。
旅の初日から、こんな目にあうとは前途多難だ。しかし、旅をしていれば、いつかは経験することだ。それが、たまたま初日と言うことだ。
俺の緊張感じ取ったのか、フローラが大人しく俺を見る。
『 盗賊に狙われている。フローラは、近くの木の下で隠れていろ』
『ジャックは、どうするんですか?』
『戦う』
『そんなの危険です。一緒に逃げましょう』
フローラが俺の袖を掴む。しかし、ジャックは心配無いと その手をそっと外す。
フローラにしてみたら骸骨姿の俺が強いとは思わないだろう。そして、フローラの見立て通り 俺に 『武』の才能は無かった。
人で無いと言うことは不便なことが色々ある。
どんな嫌な事をされても死なないから終わりがない。 だから それを止めさせるために戦うようになった。そして、強くなった。
俺の強さはアンデッドとしての無限の時間の中で 培ったものだ 。
経験だけは人の倍は ある。だから、自分たちが置かれている状況判断が正確にできる。
『 無理だ 。この森は下草が茂っているから誰が来ても気づける。 逆に それは俺たちが逃げる方向を敵に教えることにもなる』
『・・・』
俺の言っていることは分かるが、それでも心配なのかフローラが 俺を見つめる。 そんなフローラの気持ちに目を細める。
『心配するな。だから、何があっても声出すな。いいな』
安心させるように頭を撫でるとフローラがコクコクと頷く。
フローラを安全なところまで非難させると 脱がせた フローラの上着に草を押し込んで、毛布をかけて二人で眠っているように見せかけて 剣を隠し持って盗賊が来るのを待つ。
暫くして忍び足で盗賊の一人が近づいてくる音を感じる。剣を振り上げて下ろそうとした空を切る音のタイミングで 体の下に隠していた剣をつかむと反転して盗賊の足を薙ぎ払う。
盗賊がバランスを崩して地面に突っ伏す。
不測の事態にガサガサと隠れていた仲間が次々と全員姿を現す。
ジャックは、態勢を立て直すと 残りの4人の顔をみる。どんな生き物もリーダーをやっつければ、
それで逃げていく。 ジャックは次々と盗賊たちの顔を見る。
(違う。違う。コイツだ)
3人目の男だ。
意外なことに 一番力に弱そうな奴だが 間違いない。地面を蹴って迷わず その男のとへ向かう。
「兄貴!」
「危ない!」
手下たちがリーダーを守ろうと行くいくてを遮る。気づけば全員集合している。
「 大丈夫だ。来るな」
狙いが自分一人だと察したリーダーが 手下たちを止めようとする。しかし、 リーダーを守りたい 手下たちが、隙あらばと ジリジリと間合いを詰めてくる。 ジャックは、剣を向けながら、リーダー の男を 注意深く見る。
肩に力が入り、剣を何度も 握り直している。
戦い慣れてないことは一目瞭然だ 。
ジャックは相手の剣を自分の剣で上から押さえると そのまま剣を回して下から降り上げる。
すると、あっけなく相手の剣が、くるくると回転して 地面に突き刺さる。
「 兄貴!」
リーダーのピンチに焦って手下たちが、駆け寄る。面目を失ったリーダーの男が手首を押さえてしゃがみこむと恨みがましい目で俺を見る。
慣れぬ動きで 手首を痛めたんだろう。
「これ以上 怪我したくなかったら、去れ」
「何を!」
「 やっちまえ」
敵討ちと ばかりに 手下たちが剣を向けてくる。 殺しはしないが、手加減ができるかどうかわからないから 無傷とはいかない。
アンデッド俺と違って人間は 命に限りがあるから、大事にして欲しいのだが・。
「 待て!」
リーダーの男が 手下たちを止める。
俺の力量を見極めたようで 引き際を分かっている。
「退くぞ 」
リーダーの男がそう言い残して帰って行く。
「でも、兄貴・・」
「覚えてろよ」
手下たちが 後に続くが、不満らしく何度も振り返って威嚇する。 手下の一人が兄貴の剣を回収すると急いで追いかける。
諦めた振りをして俺たちを油断させて、もう一度、襲ってくるかもしれない。
ジャックは盗賊の姿が消えて、完全に足音が聞こえなくなるのを確認してから、 剣をしまうとフローラを手招きする。
木の影で小さくなっていたフローラが飛び出してくると、両手を胸の前で組んで尊敬の眼差しで見る。
「ジャックって、すごく強いんですね。びっくりしました」
「 たま、たまだよ。アイツらが引き下がらなかったら危なかった」
運が良かっただけだと 第七頚椎の隆椎と頭蓋骨を小さく左右に動かす。
相手だって 昨日今日 盗賊になったわけじゃない。 その辺のところは わきまえている。
「 またまた。謙遜しないでください」
「・・・」
「だって、こうやって、こうやって」
フローラが、その辺に落ちている 棒を拾い上げて 俺の真似事をする。
どうやって強くなったかとか 色々聞かれても困る。フローラは知らなくていいことだ。
「ほらほら。まだ、起きるのは 早い。もう少し寝よう」
この件は、ここまで、というようにフローラの背中を押して荷物の場所まで戻る。
***
また、盗賊が来るかもしれないから 不安だと言うフローラの願いを聞き入れて 隣で寝ることに。 ジャックは フローラが寝たのを確かめると 傍を離れようと起き上がる。 無防備なフローラの寝顔に あの日の事が思い出される。
顔に かかった髪を耳にかけてあげると 自然と視線がその下へと下がる。
(・・・いかん。いかん)
ジャックは誘惑に負けないようにとフローラから距離を取って横たわる。
そう思ったが、念の為にと 樫の木のところまで離れる。これくらい離れれば 大丈夫だ。
フローラの寝息を聞きながら意識を閉じると、ゆっくりと闇が染めていく。
手根骨に 感じる暖かさに 意識が戻る。
(んっ、 何かを掴んでいる)
手根骨を動かすと 丸くて柔らかい物だと分かる。 もっと 調べようと手根骨に力を入れると 末節骨が埋もれていく。
どくどくと脈打つ暖かさに 全身が溶けるようだ。
(嗚呼、 この感覚・・!)
酔いしれいたが 慌てて指骨を引き抜いて起き上がる。まさか、また やったのか?
隣を見るとフローラが寝ている。
(・・・)
ジャックは、舌骨をゴクリと鳴らしながら 恐る恐るフローラの ドレスの襟を仕上げると 小さな赤い点が。
「はうっ!」
この大バカ野郎!自分で頭蓋骨を叩く。
俺は いつからこんなに、いやらしいヤツになったんだ。簡単に欲望に負けた自分に、がっかりして上肢帯を 落とす。
何も知らずにスヤスヤ寝ているフローラの顔を見つめる。 この事がフローラに知られたら軽蔑されて 一生 口を聞いてくれない。
尊敬の眼差しで見られていたことを思い出す。
「はぁ~」
俺は何してるんだ・・。
しかし、フローラの寝相の悪さには 困ったものだ。俺の努力が 水の泡だ。
でも、 あんな事が あった後だ。人恋しくなるのも当たり前か。
悪いのはフローラのせいだ。そう思っていたが 何かが違うことに気づく。何が気になったのかと辺りを見回すと 自分が寝ていた場所に生えてい樫の木が遠い。
「・・・?」
フローラの寝ている場所を見た後、もう1度 樫の木を見る。違う!
フローラの寝相じゃない。俺が寝返りをうって近づいたんだ。それも1回や2回じゃない。
ジャックは自分のとった無意識の行動に頭蓋骨を抱える。自分から近付いて行ったら意味が、ないじゃないか!
ここまで来ると自分で自分が信じられない。
おかしいだろ。 確かに俺は男だが オスとしての能力は既に消失している。それなのに、どうして?自分でも分からない 。
***
フローラが 目を覚ました瞬間からジャックは ドキドキしながら、その一挙手一投足を目で追う。こういう時は人間でなくて良かった。もし人間だったら一発で何かあったと見破られる。
何も言われないまま 二人で朝食を食べ初めてやっとジャックは、上肢骨の力を抜く。
(大丈夫だ。バレ無かった・・)
焚き火を挟んでフローラが朝食を 食べ終わるのをコーヒーを飲みながら待っていた。
後ろめたくて目が合わせられない。だから、マグ ばかり覗き込んでいる。 今度寝る時は、体をぐるぐる巻きにして動けないようにしよう。でないと また同じ事が 起こるかもしれない。そうでないと安心できない。
コーヒーを飲もうと 顎骨を 開けるとフローラの視線を感じる。
「なんだ?」
言いたい事が あるのかと警戒して聞くと フローラが俺のマグを覗き込んで目を丸くする。
「 前から気になってたんですけど、飲んだコーヒーは どこに行くんですか?」
疑問に思ったことを何でも口にするフローラを子供みたいだと思う。
「さあ、知らない」
それは俺たちの七不思議の一つだ。
すげなく答えるとフローラが指を一本立てる。
「 もう1回。もう1回 飲んで見せてください」
「・・・」
諦めそうにないと、コーヒーを飲み込んでマグの中身を見せる。
「すごーい」
もう十分だろうと、そっぽを向くと回り込んできて また指を立てる。
「もう1回だけ。ねっ、ねっ」
「・・ 本当に、これが最後だぞ」
そういうと分かったと 何度も頷く。
どうも怪しいが コーヒーを飲んだ後 マグの中を見せる。
中身を確認したフローラが不思議だと腕を組んで首をひねる。
「 もう、いいだろう」
「本当に、どこいくんでしょうね 」
するとフローラが身を乗り出して、じろじろと見ていたかと思うと 俺の下顎骨や 頸椎を触ってくる。どうやら、とても好奇心が旺盛らしい。
「 ちょっと、こら!やめろ」
くすぐったさに我慢できずに逃げるとフローラが 目をキラキラさせて追いかけてくる。
完全に5歳児の目だ。
絶対 飽きるまで 付き合わされる。
「 いいじゃないですかー」
「 よくない」
その上しつこい。
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(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
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※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
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