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【完結】九蓮宝灯【S/鬼畜】
1
「じゃあまた!次は勝って下さいよ!」
「ゆかり」。スナック上がりのママが出す唐揚げ丼がやけに美味い路地裏の雀荘。
元気なメンバーの声を聞きながら、「はいはーい」なんて答えながらパタンとドアを閉めた。
今日も負けた!清々しいくらい負けた!
今月調子悪いんだよなぁ。後で収支つけとかないと。
「+400の-900くらいかなぁ」
収支を思い浮かべてげんなりする。
そこに今日の負け分を加算して…。うん、後で考えよう。
でも辞められないのが男のサガなのよね。って、朝日の気配を感じる路地裏を歩く。
桐生 蒼士郎、流れの雀士…なんて訳もなく、名前だけ立派な32歳独身の冴えないサラリーマン。それが俺。彼女もいないからこんな朝帰りを咎められることも無い。
「あの、すみません…」
まぁ、他に趣味らしい趣味もないし、給料も歳相応には貰ってる。いいよね。貯金もなくはないし。
「すみません、あの、すみません」
聞き間違いかと思って聞き流していた声が再びかけられて声の方を向く。
そこにはどう見ても普通ではない状態の女性が膝をついて座っていた。
乱れた髪、辛うじて身に纏われた服は薄汚れていてとても表を歩けるようなものでは無い。
まずいぞ。これは犯罪の匂いがするぞ。
でも見つけてしまったからには放置する訳にも行かない。
やだなぁ、今月の負け方といい、変なのに取り憑かれてるのかしら。
仕方なしに薄汚い、失礼、お困りの様子の女性に歩み寄る。
とりあえず某量販店で2980円のジャケットを、もう返ってこなくていいやって肩にかけてあげて俯いた顔を覗き込む。
あら、結構若そう。それに美人。
「大丈夫です?水買ってきましょうか?」
男なんて単純なもんで、途端に親身になりたい気持ちが湧き上がってくる。
こくん、と小さく頷く女性を見て、近くにあった自販機でペットボトルの水を買う。
それを1度開けてから女性に手渡すと、彼女は震える手でそれを掲げてこくり、こくりと水を飲んだ。
「帰れる?タクシー、呼びましょうか?その、お金がないなら差し上げますけど…」
いよいよ色々心配になってきて女性の身の回りを目で探る。身元を証明するようなものがないかとか。いや、この場合はまず警察か?
「あなた、親切なのね」
急に女性の声色が変わった。
女性に視線を戻すと、薄汚れてるのは相変わらずだけど妙に存在感を増しているように見えた。
「え、あの」
「あのね、私魔女なの」
はぁ?
やばい、頭のおかしいタイプのお方だったか。どうしよう。
女性のあまりの変わりように固まっていると、彼女は手近にあったビールケースを手繰り寄せて腰を下ろした。
「昔話でよくあるでしょ?しょぼくれたジジィかババァに親切にしたら見返りが貰えるってやつ。私、そのタイプ」
なんなのこの人、言ってる意味が分からない。怖いんだけど。
いかにしてこの場を穏便に立ち去るかを脳みそフル回転で考えてたら、自称魔女の女が俺の手を取った。
「あら、可愛い。しょうもない運命ね」
もうヤダ怖い。離して。なんで初対面の頭のおかしい人に運命をとやかく言われないといけないの。
「今どきあなたみたいな人いないのよ。だからサービスしてあげる」
間に合ってます。その、性的なやつは専門のお店がありますし。
やんわりと、相手を刺激しないように手を引こうとすると、予想外の力強さで手を引き戻された。
「ひぃ!」
情けない声が出て、ちょっと涙も出た。ホントに怖い。どうしてこうなった。善意で女性を助けようとした俺に神の慈悲はないのか。
「さ、願いを言って。一つだけ叶えてあげる」
散々負けたけど飲み込んで、情けないなぁって強がりながらの帰り道、頭のおかしい女に手をぎゅうぎゅう握られてる今願うこととは…。
「は、はは、もう麻雀で負けたくないなって事ですかね…」
愛想笑いを返すと自称魔女の目が一瞬虹色に光って、手の平がカッと熱くなった。
「あっ、つ…!!」
思わず手を引っ込めて慌てて確認する。
火傷とかそういうのはなさそうだけど…。
「しょうもない願いね。言っとくけど万能じゃないわよ?」
指先の埃を払うようにふっ、と息を吹きかけながら自称魔女が言う。
「私の魔法より強い運命を持ってる相手には効果ない…というか逆効果だから、ちゃんと見極めなさいよ?」
もう、ついていけない。運命とかなんなの。ホント、お家に帰らせて。
涙目で俯いて、改めて顔を上げた先には誰も居なかった。
「ゆかり」。スナック上がりのママが出す唐揚げ丼がやけに美味い路地裏の雀荘。
元気なメンバーの声を聞きながら、「はいはーい」なんて答えながらパタンとドアを閉めた。
今日も負けた!清々しいくらい負けた!
今月調子悪いんだよなぁ。後で収支つけとかないと。
「+400の-900くらいかなぁ」
収支を思い浮かべてげんなりする。
そこに今日の負け分を加算して…。うん、後で考えよう。
でも辞められないのが男のサガなのよね。って、朝日の気配を感じる路地裏を歩く。
桐生 蒼士郎、流れの雀士…なんて訳もなく、名前だけ立派な32歳独身の冴えないサラリーマン。それが俺。彼女もいないからこんな朝帰りを咎められることも無い。
「あの、すみません…」
まぁ、他に趣味らしい趣味もないし、給料も歳相応には貰ってる。いいよね。貯金もなくはないし。
「すみません、あの、すみません」
聞き間違いかと思って聞き流していた声が再びかけられて声の方を向く。
そこにはどう見ても普通ではない状態の女性が膝をついて座っていた。
乱れた髪、辛うじて身に纏われた服は薄汚れていてとても表を歩けるようなものでは無い。
まずいぞ。これは犯罪の匂いがするぞ。
でも見つけてしまったからには放置する訳にも行かない。
やだなぁ、今月の負け方といい、変なのに取り憑かれてるのかしら。
仕方なしに薄汚い、失礼、お困りの様子の女性に歩み寄る。
とりあえず某量販店で2980円のジャケットを、もう返ってこなくていいやって肩にかけてあげて俯いた顔を覗き込む。
あら、結構若そう。それに美人。
「大丈夫です?水買ってきましょうか?」
男なんて単純なもんで、途端に親身になりたい気持ちが湧き上がってくる。
こくん、と小さく頷く女性を見て、近くにあった自販機でペットボトルの水を買う。
それを1度開けてから女性に手渡すと、彼女は震える手でそれを掲げてこくり、こくりと水を飲んだ。
「帰れる?タクシー、呼びましょうか?その、お金がないなら差し上げますけど…」
いよいよ色々心配になってきて女性の身の回りを目で探る。身元を証明するようなものがないかとか。いや、この場合はまず警察か?
「あなた、親切なのね」
急に女性の声色が変わった。
女性に視線を戻すと、薄汚れてるのは相変わらずだけど妙に存在感を増しているように見えた。
「え、あの」
「あのね、私魔女なの」
はぁ?
やばい、頭のおかしいタイプのお方だったか。どうしよう。
女性のあまりの変わりように固まっていると、彼女は手近にあったビールケースを手繰り寄せて腰を下ろした。
「昔話でよくあるでしょ?しょぼくれたジジィかババァに親切にしたら見返りが貰えるってやつ。私、そのタイプ」
なんなのこの人、言ってる意味が分からない。怖いんだけど。
いかにしてこの場を穏便に立ち去るかを脳みそフル回転で考えてたら、自称魔女の女が俺の手を取った。
「あら、可愛い。しょうもない運命ね」
もうヤダ怖い。離して。なんで初対面の頭のおかしい人に運命をとやかく言われないといけないの。
「今どきあなたみたいな人いないのよ。だからサービスしてあげる」
間に合ってます。その、性的なやつは専門のお店がありますし。
やんわりと、相手を刺激しないように手を引こうとすると、予想外の力強さで手を引き戻された。
「ひぃ!」
情けない声が出て、ちょっと涙も出た。ホントに怖い。どうしてこうなった。善意で女性を助けようとした俺に神の慈悲はないのか。
「さ、願いを言って。一つだけ叶えてあげる」
散々負けたけど飲み込んで、情けないなぁって強がりながらの帰り道、頭のおかしい女に手をぎゅうぎゅう握られてる今願うこととは…。
「は、はは、もう麻雀で負けたくないなって事ですかね…」
愛想笑いを返すと自称魔女の目が一瞬虹色に光って、手の平がカッと熱くなった。
「あっ、つ…!!」
思わず手を引っ込めて慌てて確認する。
火傷とかそういうのはなさそうだけど…。
「しょうもない願いね。言っとくけど万能じゃないわよ?」
指先の埃を払うようにふっ、と息を吹きかけながら自称魔女が言う。
「私の魔法より強い運命を持ってる相手には効果ない…というか逆効果だから、ちゃんと見極めなさいよ?」
もう、ついていけない。運命とかなんなの。ホント、お家に帰らせて。
涙目で俯いて、改めて顔を上げた先には誰も居なかった。
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