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【完結】頭が痛いと言ってくれ!【閲覧注意/催眠】
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真っ暗なところから意識が浮上して、「目が覚める」と自覚した。
いつもの習慣通り頭痛の具合をそっと探って、違和感に気付く。
…いたくない…?
いや、いつも左側に居ることが多いだけで、たまに右側に居ることもある。期待しちゃだめだ。
しかし、慎重に慎重に、頭の隅から隅にまで意識を向けてみても、いつもの迷惑な相棒の影すら見つけることはできなかった。
「…いたくない…」
信じられない気持ちで思わず零すと、右側で急に気配が動いた。
「高坂?起きたか?」
涼し気な、でもそこに心配を過分に含んでいることがはっきりとわかる江國課長の声に、どうやら頭痛は解消したらしいというのにいつもの癖でゆっくりと光の強さを探りながら目を開ける。
飛び込んできた江國課長の顔を見て、どきっ、と心臓が跳ねた。
え、あれ。なんだどきって。
俺の動揺を他所に、江國課長は相変わらずの心配顔で俺を覗き込んでいる。
「気分はどうだ?その、涼介から大体は聞いたんだが…」
「…っ」
気まずげに逸らされた視線で佐倉さんの所で起こったアレコレを思い出して、顔に一気に熱が集まるのが分かった。「大体」とは。
俺が治療で気持ち良くなって勃起して指一本触れられずイキまくった挙句出しちゃ駄目なものまで出してしまった事の、どの大体だろうか。まさか、はしたなく「出したい」なんて強請ってしまった事まで大体に含まれてしまっているだろうか。
「あ、あ…かちょ…、あれは…その…」
どっ、どっ、と心臓が強く脈打つ。
どうしよう、そんな、こんな変態だなんてバラされて、課長に嫌われたら。こんなことになるくらいなら頭が痛かった方が…。
そこまで考えて、あ、と気付いてしまった。
だって、ありえないだろ。ただの上司に嫌われるのと、死にたくなるくらいの頭痛と、普通ならどっち取るんだって。
頭痛と引き換えにしても嫌われたくないくらい。
…俺、課長のこと好きなんだ。
気付いてしまうと、目の前の課長の姿がもうキラキラして見えて、心臓が跳ねまくる。見つめ合っているのが嬉しいのと恥ずかしいのとで息苦しくなってきて、はぁっ、と吐いた息がやけに熱っぽい。顔が熱い。頬が火照っていくのがはっきりと分かった。
「か、ちょう…あの、おれ…」
上擦った声で呼べば、俺の変化の一部始終を眺めていただろう課長は、一つ溜息をついて俺の言葉の続きを手のひらで遮った。
悲しそうな、切なそうな、申し訳なさそうな、凡そ期待もできないような悲壮な表情に「あ、フラれる」と察して、せめて告白させて欲しかったなぁなんてぼんやりと考える。
だから、課長が俺の目をジッと見て
「ずっと好きだった」
と言った言葉の意味が、上手く理解できなかった。
「え?」
え、好きって、どういう意味だっけ?お前の気持ちには応えられないよ、ごめんなってこと?ん?違うよな?
頭の中が疑問符で一杯になっている俺の視線をどう取ったのか、課長は俺の額に掛かった髪をかき上げるように頭を撫でて、辛そうに目を細めた。
「お前のことが可愛くて、大事だと思っている。辛いなら仕事なんて辞めさせてずっと手元に置いて囲ってやりたいと思っていた。…愛してるんだ」
突然の告白に、頭痛がなくなってクリアになったはずの思考が全く追い付かない。
可愛い?大事?
ただ、思考が追い付くより早く全身が震えるような喜びに包まれて、どちらにせよ、言葉を失ってしまった。
「え、な、なに。なんですか、きゅうに…」
え、好き?課長が俺を?え、囲う?シレっと凄い事言われてないか?
大体、課長が死にそうな顔してるのもいけない。告白するときの顔じゃない。
「え…ッ、すき…ッ」
ようやく言葉がじんわりと思考に浸透してきて、また一気に顔が熱くなった。
そうやって困惑する俺の様子を訝し気に眺めて、一拍、江國課長の顔がぶわっと真っ赤に染まる。
「…あいつ…」
憎々し気に吐き捨てて、赤い目元を思いっきり顰める。
何かに気付いたらしい課長と違って俺は全く状況が掴めない。
ただただ困惑して、呻きながら両手で顔を覆う課長を縋るように見上げていると、顔を隠してしまったその手の平の向こうで課長がもごもごと喋り始めた。
「お前が…その、男狂いの色情狂になる暗示をかけたと…」
「おと…っ」
そんなのできるわけないでしょう!と言いかけて、いや、と思い直す。指一本触れずにイキ狂わされたんだ、出来うる。
押し黙ってしまった俺の視線から逃げるように課長は小さくなって、ぽすん、と俺の腹の上に頭を押し付けた。
「俺が気持ちを伝えたら解けるけど、解けたら蛇蝎のごとく嫌われるから、どちらか選べと…」
ようやく課長の死にそうな顔の意味が分かって、それから佐倉さんの意図も理解して、彼の言葉を思い出した。
『素直にならないと、ずっとこのままだよ』
あれは、この事だったんだろうか。まさか。
本人ですら気付いていなかったこの気持ちは、どうやら佐倉さんには筒抜けだったらしい。
「楽しくなりそうだ」と言った声を思い出して、あの時感じた釈然としないものがまた少しチラついたけど、治療の一環として受け入れることにした。
「あの、俺も課長のこと、好き、みたいです…」
後日、根本治療のために通院することを決めた俺に向かって、佐倉さんはゆったりと椅子に腰かけたまま
「事前知識があったにきまってるでしょ?まぁ多少表情とかを読んだりはしたけど。以前から、「部下が頭痛で悩んでるらしい」「部下の調子が最近悪そうだ」「部下が倒れた、なんとかしろ」って毎度毎度バカの一つ覚えみたいにブカブカ言ってくる男がいたからね。「囲い込んで養いたい。俺無しじゃいられなくしてしまいたい」、とも言っていたかな。倒れる程の頭痛を長期間抱えてて、医者の顔見て申し訳なさそうな顔する子が何してきてどんなこと考えてるかなんて大体わかるよ。これでも『一応』医者だからね」
と、早口で捲し立てた。
付き添ってくれていただけなのに色々と暴露されて悶える羽目になった江國課長は、憮然とした表情で「…お前は凄い医者だよ」と吐き捨てるように言った。佐倉さんが満足気にうんうんと頷く。
それから俺に向き直って、優し気に目を細めた。
「あんなことをしたのは、君に私のことを「何だか凄い奴だ」と認識してもらう必要があったからだよ。何しろ初対面なんだから。こいつなら何とかしてくれるかもしれないって思ってもらえるように私なりに必死だったわけだ。
それよりそこの男は私に「頼むよ大事なんだ」なんて泣きついて来たわけだけど、大事にしてもらえそうかい?嫌になったらいつでも私の所へおいで」
最後にちょっと目尻に色を乗せて「とろとろにしてあげる」と言われたのは、聞かなかったことにする。
いつもの習慣通り頭痛の具合をそっと探って、違和感に気付く。
…いたくない…?
いや、いつも左側に居ることが多いだけで、たまに右側に居ることもある。期待しちゃだめだ。
しかし、慎重に慎重に、頭の隅から隅にまで意識を向けてみても、いつもの迷惑な相棒の影すら見つけることはできなかった。
「…いたくない…」
信じられない気持ちで思わず零すと、右側で急に気配が動いた。
「高坂?起きたか?」
涼し気な、でもそこに心配を過分に含んでいることがはっきりとわかる江國課長の声に、どうやら頭痛は解消したらしいというのにいつもの癖でゆっくりと光の強さを探りながら目を開ける。
飛び込んできた江國課長の顔を見て、どきっ、と心臓が跳ねた。
え、あれ。なんだどきって。
俺の動揺を他所に、江國課長は相変わらずの心配顔で俺を覗き込んでいる。
「気分はどうだ?その、涼介から大体は聞いたんだが…」
「…っ」
気まずげに逸らされた視線で佐倉さんの所で起こったアレコレを思い出して、顔に一気に熱が集まるのが分かった。「大体」とは。
俺が治療で気持ち良くなって勃起して指一本触れられずイキまくった挙句出しちゃ駄目なものまで出してしまった事の、どの大体だろうか。まさか、はしたなく「出したい」なんて強請ってしまった事まで大体に含まれてしまっているだろうか。
「あ、あ…かちょ…、あれは…その…」
どっ、どっ、と心臓が強く脈打つ。
どうしよう、そんな、こんな変態だなんてバラされて、課長に嫌われたら。こんなことになるくらいなら頭が痛かった方が…。
そこまで考えて、あ、と気付いてしまった。
だって、ありえないだろ。ただの上司に嫌われるのと、死にたくなるくらいの頭痛と、普通ならどっち取るんだって。
頭痛と引き換えにしても嫌われたくないくらい。
…俺、課長のこと好きなんだ。
気付いてしまうと、目の前の課長の姿がもうキラキラして見えて、心臓が跳ねまくる。見つめ合っているのが嬉しいのと恥ずかしいのとで息苦しくなってきて、はぁっ、と吐いた息がやけに熱っぽい。顔が熱い。頬が火照っていくのがはっきりと分かった。
「か、ちょう…あの、おれ…」
上擦った声で呼べば、俺の変化の一部始終を眺めていただろう課長は、一つ溜息をついて俺の言葉の続きを手のひらで遮った。
悲しそうな、切なそうな、申し訳なさそうな、凡そ期待もできないような悲壮な表情に「あ、フラれる」と察して、せめて告白させて欲しかったなぁなんてぼんやりと考える。
だから、課長が俺の目をジッと見て
「ずっと好きだった」
と言った言葉の意味が、上手く理解できなかった。
「え?」
え、好きって、どういう意味だっけ?お前の気持ちには応えられないよ、ごめんなってこと?ん?違うよな?
頭の中が疑問符で一杯になっている俺の視線をどう取ったのか、課長は俺の額に掛かった髪をかき上げるように頭を撫でて、辛そうに目を細めた。
「お前のことが可愛くて、大事だと思っている。辛いなら仕事なんて辞めさせてずっと手元に置いて囲ってやりたいと思っていた。…愛してるんだ」
突然の告白に、頭痛がなくなってクリアになったはずの思考が全く追い付かない。
可愛い?大事?
ただ、思考が追い付くより早く全身が震えるような喜びに包まれて、どちらにせよ、言葉を失ってしまった。
「え、な、なに。なんですか、きゅうに…」
え、好き?課長が俺を?え、囲う?シレっと凄い事言われてないか?
大体、課長が死にそうな顔してるのもいけない。告白するときの顔じゃない。
「え…ッ、すき…ッ」
ようやく言葉がじんわりと思考に浸透してきて、また一気に顔が熱くなった。
そうやって困惑する俺の様子を訝し気に眺めて、一拍、江國課長の顔がぶわっと真っ赤に染まる。
「…あいつ…」
憎々し気に吐き捨てて、赤い目元を思いっきり顰める。
何かに気付いたらしい課長と違って俺は全く状況が掴めない。
ただただ困惑して、呻きながら両手で顔を覆う課長を縋るように見上げていると、顔を隠してしまったその手の平の向こうで課長がもごもごと喋り始めた。
「お前が…その、男狂いの色情狂になる暗示をかけたと…」
「おと…っ」
そんなのできるわけないでしょう!と言いかけて、いや、と思い直す。指一本触れずにイキ狂わされたんだ、出来うる。
押し黙ってしまった俺の視線から逃げるように課長は小さくなって、ぽすん、と俺の腹の上に頭を押し付けた。
「俺が気持ちを伝えたら解けるけど、解けたら蛇蝎のごとく嫌われるから、どちらか選べと…」
ようやく課長の死にそうな顔の意味が分かって、それから佐倉さんの意図も理解して、彼の言葉を思い出した。
『素直にならないと、ずっとこのままだよ』
あれは、この事だったんだろうか。まさか。
本人ですら気付いていなかったこの気持ちは、どうやら佐倉さんには筒抜けだったらしい。
「楽しくなりそうだ」と言った声を思い出して、あの時感じた釈然としないものがまた少しチラついたけど、治療の一環として受け入れることにした。
「あの、俺も課長のこと、好き、みたいです…」
後日、根本治療のために通院することを決めた俺に向かって、佐倉さんはゆったりと椅子に腰かけたまま
「事前知識があったにきまってるでしょ?まぁ多少表情とかを読んだりはしたけど。以前から、「部下が頭痛で悩んでるらしい」「部下の調子が最近悪そうだ」「部下が倒れた、なんとかしろ」って毎度毎度バカの一つ覚えみたいにブカブカ言ってくる男がいたからね。「囲い込んで養いたい。俺無しじゃいられなくしてしまいたい」、とも言っていたかな。倒れる程の頭痛を長期間抱えてて、医者の顔見て申し訳なさそうな顔する子が何してきてどんなこと考えてるかなんて大体わかるよ。これでも『一応』医者だからね」
と、早口で捲し立てた。
付き添ってくれていただけなのに色々と暴露されて悶える羽目になった江國課長は、憮然とした表情で「…お前は凄い医者だよ」と吐き捨てるように言った。佐倉さんが満足気にうんうんと頷く。
それから俺に向き直って、優し気に目を細めた。
「あんなことをしたのは、君に私のことを「何だか凄い奴だ」と認識してもらう必要があったからだよ。何しろ初対面なんだから。こいつなら何とかしてくれるかもしれないって思ってもらえるように私なりに必死だったわけだ。
それよりそこの男は私に「頼むよ大事なんだ」なんて泣きついて来たわけだけど、大事にしてもらえそうかい?嫌になったらいつでも私の所へおいで」
最後にちょっと目尻に色を乗せて「とろとろにしてあげる」と言われたのは、聞かなかったことにする。
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