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白いツバキの花
9.ツクシ
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11:00AM
駅前。
妙に煽情的なポーズを取った裸婦像の前で待ち合わせをすることになった。見えそうで見えない。どうしてこんな不埒な像が駅前なんて目立つところに置かれているのか、俺は常々不思議に思っている。まぁ、待ち合わせにはちょうどいいんだけど。
待ち合わせにはまだ少し時間があるけど、営業やってる癖というか、10分前行動が基本だ。時間に余裕がある時なんて、10分前の10分前とかに目的地についてしまうこともある。そういう時は電話営業して時間をつぶす。
今日はきっちり10分前。
休日の雑踏を掻き分けて目的地へと目を向けると、見覚えのある長い前髪の男が居た。
まぁ、予想はしてた。あいつの方が早いだろうなって。
黒いスニーカーにストレートのデニム。それから白い無地のTシャツに薄手のグレーのカーディガン。王道コーデだ。案外様になっている。
ダサい眼鏡は相変わらずだったけど、長すぎる前髪は少しサイドに分けて、耳も出してセットしてあった。初めて会った時よりはずっとすっきりして見える。セットするという意識があったことに驚きだ。
最初に思った通り、顔はキツめだけど結構男前?いや、よく見えないけど不細工ではない。やっぱり、素材はいいんだよな。
「主税、ごめん、待たせた?」
声を掛けるとスマホに落としていた視線をバッと上げて主税が俺の顔を見た。見て、一瞬驚いた顔を浮かべたかと思うと、頬を染めてうっとりと目を細めて破顔する。
その顔があまりにも純粋で、思わず胸がときめいた。
やだ、可愛い。そんなに俺に会いたかったの?あんなそっけない振りしといてコイツ。
「い、や、そんなに。僕が早く来すぎちゃって」
相変わらずしどろもどろな受け答えに「あーそうそう、コイツこういう喋り方だった」と思い出しながら隣に立つ。
やっぱり、身長は俺より少し高いくらい。と言っても、数センチの差だろうけど。意外にもこのオタクは背が高い。
「誘ってくれてありがとう。暇だったんだ。飯、どこ行く?」
促すように問いかけると、主税は相変わらずおどおどした態度で目を逸らした。目を合わせようとするとふいっと顔を背けられてしまう。
これは、この態度を軟化させるのが第一目標かな。
いきなり距離を縮めたら多分日和って引くだろうし、何もしなかったらそのまま距離は縮まらない。
案外攻略難度高いかもしれないぞ。
楽しくなってニッコリと笑みが零れた。
「その、何が好きかわからなくて。色々調べてはみたんだけど」
俺のその笑顔をどう勘違いしたのか、主税ははにかみながらそう言った。
好みに合わせれるように色々店を考えてくれていたらしい。いじらしいね。
自信満々にエスコートされるよりよっぽど好印象だし、なによりその慣れてない感じが凄く可愛い。これは新しい世界開けたわ。
「なんでもいいよ。今日は主税の好きなものが食べたい」
そう言うと、主税ははにかんだままちょっと困ったように眉尻を下げた。
キツめの顔立ちに反してその顔は、なんというか、そんな顔をさせているという優越感を俺に齎した。
「困ったな、僕も薫くんの好きなものが食べたかったから」
「と言うか…」と続いて、主税が珍しく俺の目を見た。
「その、薫くんのこと、沢山知りたいんだ」
それからまた照れたように頬を赤らめて目を逸らしてしまう。
不意打ちに、不覚にもドキッと心臓が跳ねてしまった。
や、やるじゃん。
トクトクと高鳴った鼓動を落ち着けるようにちょっとだけ深呼吸をする。
これは天然なのか?今のはちょっと、可愛いのとカッコいいのとが共存しているようで、新しい感覚だった。未知との遭遇だ。初めての感覚にちょっとだけ胸が震えた。
とは言え、ここで押し問答をしていても埒があかない。
「じゃあ、てきとうに探してさ、そこが好きか嫌いか、二人で一緒に話そう」
そう提案すると、主税は嬉しそうに微笑んで小さく頷いた。その可愛い素振りに、今度は支配欲が満たされる。
これがリードする喜びか。なるほど、悪くない。
駅前。
妙に煽情的なポーズを取った裸婦像の前で待ち合わせをすることになった。見えそうで見えない。どうしてこんな不埒な像が駅前なんて目立つところに置かれているのか、俺は常々不思議に思っている。まぁ、待ち合わせにはちょうどいいんだけど。
待ち合わせにはまだ少し時間があるけど、営業やってる癖というか、10分前行動が基本だ。時間に余裕がある時なんて、10分前の10分前とかに目的地についてしまうこともある。そういう時は電話営業して時間をつぶす。
今日はきっちり10分前。
休日の雑踏を掻き分けて目的地へと目を向けると、見覚えのある長い前髪の男が居た。
まぁ、予想はしてた。あいつの方が早いだろうなって。
黒いスニーカーにストレートのデニム。それから白い無地のTシャツに薄手のグレーのカーディガン。王道コーデだ。案外様になっている。
ダサい眼鏡は相変わらずだったけど、長すぎる前髪は少しサイドに分けて、耳も出してセットしてあった。初めて会った時よりはずっとすっきりして見える。セットするという意識があったことに驚きだ。
最初に思った通り、顔はキツめだけど結構男前?いや、よく見えないけど不細工ではない。やっぱり、素材はいいんだよな。
「主税、ごめん、待たせた?」
声を掛けるとスマホに落としていた視線をバッと上げて主税が俺の顔を見た。見て、一瞬驚いた顔を浮かべたかと思うと、頬を染めてうっとりと目を細めて破顔する。
その顔があまりにも純粋で、思わず胸がときめいた。
やだ、可愛い。そんなに俺に会いたかったの?あんなそっけない振りしといてコイツ。
「い、や、そんなに。僕が早く来すぎちゃって」
相変わらずしどろもどろな受け答えに「あーそうそう、コイツこういう喋り方だった」と思い出しながら隣に立つ。
やっぱり、身長は俺より少し高いくらい。と言っても、数センチの差だろうけど。意外にもこのオタクは背が高い。
「誘ってくれてありがとう。暇だったんだ。飯、どこ行く?」
促すように問いかけると、主税は相変わらずおどおどした態度で目を逸らした。目を合わせようとするとふいっと顔を背けられてしまう。
これは、この態度を軟化させるのが第一目標かな。
いきなり距離を縮めたら多分日和って引くだろうし、何もしなかったらそのまま距離は縮まらない。
案外攻略難度高いかもしれないぞ。
楽しくなってニッコリと笑みが零れた。
「その、何が好きかわからなくて。色々調べてはみたんだけど」
俺のその笑顔をどう勘違いしたのか、主税ははにかみながらそう言った。
好みに合わせれるように色々店を考えてくれていたらしい。いじらしいね。
自信満々にエスコートされるよりよっぽど好印象だし、なによりその慣れてない感じが凄く可愛い。これは新しい世界開けたわ。
「なんでもいいよ。今日は主税の好きなものが食べたい」
そう言うと、主税ははにかんだままちょっと困ったように眉尻を下げた。
キツめの顔立ちに反してその顔は、なんというか、そんな顔をさせているという優越感を俺に齎した。
「困ったな、僕も薫くんの好きなものが食べたかったから」
「と言うか…」と続いて、主税が珍しく俺の目を見た。
「その、薫くんのこと、沢山知りたいんだ」
それからまた照れたように頬を赤らめて目を逸らしてしまう。
不意打ちに、不覚にもドキッと心臓が跳ねてしまった。
や、やるじゃん。
トクトクと高鳴った鼓動を落ち着けるようにちょっとだけ深呼吸をする。
これは天然なのか?今のはちょっと、可愛いのとカッコいいのとが共存しているようで、新しい感覚だった。未知との遭遇だ。初めての感覚にちょっとだけ胸が震えた。
とは言え、ここで押し問答をしていても埒があかない。
「じゃあ、てきとうに探してさ、そこが好きか嫌いか、二人で一緒に話そう」
そう提案すると、主税は嬉しそうに微笑んで小さく頷いた。その可愛い素振りに、今度は支配欲が満たされる。
これがリードする喜びか。なるほど、悪くない。
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