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モモの花
34.幸福な日々
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ヘッドセットの向こうから聞こえる薫くんの声。
まるで耳元で囁かれているような気分になって僕は何度も変な声が出そうになった。
そんな状況で、ちょっと上擦った声で『あっ』とか、『ムリ!』とか言われると、僕はまた変なことを考えてしまいそうになって、一層ゲームに没頭した。
薫くんにいいところを見せたい。でもそうやって逸ると多分逆にかっこ悪いところを見せてしまうから、普段通りのプレイを心掛けた。
初戦は優勝。とりあえず、面目躍如かな。
それから野良の人もマイクをオンにしてくれて、3人で諤々言いながら何戦かプレイした。
2人ともSS帯上位だけあって、状況判断も狙いも完璧。求めているところに求めている反応が返ってくるのが心地いい。
どうにもならなくて僕がダウンした時、薫くんが真っ先に起こしに来てくれて、それが戦況的に一番的確な判断だったんだとしても嬉しくて心が弾んでしまった。僕は、ゲームでそんなことを感じるくらい馬鹿になってるらしい。
気付けば結構な時間プレイしていて、いい時間になっていた。疲れたけど、しんどくはない。
薫くんと野良の人はお互いを賞賛しあっていて、僕はフレンドの申請を受けた。
こういうお誘いはよくある。基本断らないけど、その後一緒にプレイすることは少ない。そもそも多すぎて覚えていられない。
でも、彼の名前と立ち回りは覚えた。だって、薫くんと僕と3人でプレイした人だから。
また今度やる時にタイミングが合えば招待するのも悪くない。2人は気が合うみたいだし、やればやるだけ連携もとれる。
でも、和やかに雑談してそれじゃあそろそろお開きにしましょうか、という時に野良の人から声がかかった。
『Lに上がるの、コツとかありますか?』
僕は黙ってしまった。
コツ。散々聞かれるこの言葉が僕はあまり好きじゃない。
僕が積み重ねてきたものを、聞くだけで簡単に習得できると思っているのがそもそも間違っている。と、僕は思う。
僕が返答に困っていると、薫くんが『はぁ』とため息をついた。
『やるしかないでしょ。この人だって、散々やって、やる度に振り返って悪かったところ見つけて、工夫して、それで今の立ち回りがあるんだから』
息が詰まった。
彼が僕の気持ちを代弁してくれてるみたいで。僕のことを理解してくれてるみたいで。薫くんだってLに上がりたい気持ちはあるだろうに。
それだけで暗くなりかけていた気持ちが浮上した。
やっぱり、彼は素敵な人だ。
上機嫌になった僕は、『え、』と困惑している野良の人に1つアドバイスをしてあげることにした。これは、薫くんに向けた言葉でもある。
「臆病になるといいよ」
僕は、とても臆病だから。
『今日は楽しかった。いま最高に幸せな気分』
僕も幸せだよ。会えなくても君とこんな風に繋がれて。
「ごめんね、あんまりいい所見せられなかったけど」
彼の声を心地よく思いながら椅子に大きく凭れると、花屋さんで買った赤い花が目に入った。これは窓際にあった花だ。小さな花びらがクローバーのように集まって咲いている。
奥さんが「うふっ」と笑っていた辺り、きっと僕を揶揄うような花言葉なんだろう。調べずにいる。
『いや、凄く勉強になった。俺自分が上手いと思ってたけど、鼻っ柱折られた気分』
クスクスと笑いながら彼が言う。
そんなことない。実際、彼の方が上手い所は沢山あると思う。SS3とLの差なんて、ほんのちょっとなんだ。
あんなふうに感じて、あんなふうに考えている彼なら、多分すぐに追い付いてくれる。
その時に立ち会えるといいな。
『今度、やってるとこ見せながら立ち回り解説してよ』
悪戯っぽい声で言う彼に、「むりだよ」と笑いながら返した。
まるで耳元で囁かれているような気分になって僕は何度も変な声が出そうになった。
そんな状況で、ちょっと上擦った声で『あっ』とか、『ムリ!』とか言われると、僕はまた変なことを考えてしまいそうになって、一層ゲームに没頭した。
薫くんにいいところを見せたい。でもそうやって逸ると多分逆にかっこ悪いところを見せてしまうから、普段通りのプレイを心掛けた。
初戦は優勝。とりあえず、面目躍如かな。
それから野良の人もマイクをオンにしてくれて、3人で諤々言いながら何戦かプレイした。
2人ともSS帯上位だけあって、状況判断も狙いも完璧。求めているところに求めている反応が返ってくるのが心地いい。
どうにもならなくて僕がダウンした時、薫くんが真っ先に起こしに来てくれて、それが戦況的に一番的確な判断だったんだとしても嬉しくて心が弾んでしまった。僕は、ゲームでそんなことを感じるくらい馬鹿になってるらしい。
気付けば結構な時間プレイしていて、いい時間になっていた。疲れたけど、しんどくはない。
薫くんと野良の人はお互いを賞賛しあっていて、僕はフレンドの申請を受けた。
こういうお誘いはよくある。基本断らないけど、その後一緒にプレイすることは少ない。そもそも多すぎて覚えていられない。
でも、彼の名前と立ち回りは覚えた。だって、薫くんと僕と3人でプレイした人だから。
また今度やる時にタイミングが合えば招待するのも悪くない。2人は気が合うみたいだし、やればやるだけ連携もとれる。
でも、和やかに雑談してそれじゃあそろそろお開きにしましょうか、という時に野良の人から声がかかった。
『Lに上がるの、コツとかありますか?』
僕は黙ってしまった。
コツ。散々聞かれるこの言葉が僕はあまり好きじゃない。
僕が積み重ねてきたものを、聞くだけで簡単に習得できると思っているのがそもそも間違っている。と、僕は思う。
僕が返答に困っていると、薫くんが『はぁ』とため息をついた。
『やるしかないでしょ。この人だって、散々やって、やる度に振り返って悪かったところ見つけて、工夫して、それで今の立ち回りがあるんだから』
息が詰まった。
彼が僕の気持ちを代弁してくれてるみたいで。僕のことを理解してくれてるみたいで。薫くんだってLに上がりたい気持ちはあるだろうに。
それだけで暗くなりかけていた気持ちが浮上した。
やっぱり、彼は素敵な人だ。
上機嫌になった僕は、『え、』と困惑している野良の人に1つアドバイスをしてあげることにした。これは、薫くんに向けた言葉でもある。
「臆病になるといいよ」
僕は、とても臆病だから。
『今日は楽しかった。いま最高に幸せな気分』
僕も幸せだよ。会えなくても君とこんな風に繋がれて。
「ごめんね、あんまりいい所見せられなかったけど」
彼の声を心地よく思いながら椅子に大きく凭れると、花屋さんで買った赤い花が目に入った。これは窓際にあった花だ。小さな花びらがクローバーのように集まって咲いている。
奥さんが「うふっ」と笑っていた辺り、きっと僕を揶揄うような花言葉なんだろう。調べずにいる。
『いや、凄く勉強になった。俺自分が上手いと思ってたけど、鼻っ柱折られた気分』
クスクスと笑いながら彼が言う。
そんなことない。実際、彼の方が上手い所は沢山あると思う。SS3とLの差なんて、ほんのちょっとなんだ。
あんなふうに感じて、あんなふうに考えている彼なら、多分すぐに追い付いてくれる。
その時に立ち会えるといいな。
『今度、やってるとこ見せながら立ち回り解説してよ』
悪戯っぽい声で言う彼に、「むりだよ」と笑いながら返した。
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