あなたの想い、お預かりします。

ハルノ シオリ

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1.ヒーローになりたい

1.ヒーローになりたい③

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僕が一番最後に自分の意志で行動できていたのはいつだっただろう。


そうだ、中学生の時だ。



僕は高校受験のために平日も休日もずっと塾へ通っていた。

スマホも持たせてくれなかったから、みんなのゲームの話にもついていけず、
どうせあいつ誘っても来ないからと遊びにすら誘われることもなくなり、
友達もほとんどいなくなった。


そんな自分の生活に嫌になり、
ある日、学校帰りに塾の目の前まで行き、
僕は初めて『サボる』という経験をした。
僕は初めて親にそむいた。


もう暗くなっているため、
近くの公園に行けば補導をされてしまうし、
家に遊びに行けるほどの友達もいない。


僕は何を考えたのか、海へ行くことにした。

結局そのあと何もすることがなく、砂浜でぼーっとしてから家に戻った。


案の定、塾からお休みしていますと連絡があったようで、
親にはサボっていることがすぐにばれ、父親から生まれて初めて頬をぶたれるという経験をした。


僕が最初で最後の親に反発した瞬間だった。




僕はその記憶を急に思い出し、
あの時の海へ行くことにした。



昔バス停に書いてあったような気がする海の名前を思い出し、
とりあえず携帯で検索してみると奇跡的に出てきた。

すると目的地までの道のりと時間が表示された。
なかなかの時間だったが特にすることもないし行くことに決めた。



車を持っていないため、バスで行くことにした。
電車とバスで行った方が早いが、時間も有り余っているため最初からバスに乗った。


バスに乗った瞬間、ふと初めて親に反発した中学の頃を思いだした。
僕はあの頃と何も変わっていなかった。



大人になれば親から離れられる。
早く大人になって自分の好きなことをしたい。



そんな希望を抱いていた中学生だったが、
残念ながら今の僕は中学生の時の自分から何一つ変わっていない。



僕が中学以来、親に背くことがなかったのは、
喧嘩するのがめんどくさかったからだ。



喧嘩をしたって結局親の言う通りになるだろうし、
俺よりも何年も多く生きている親の言うことを聞いている方が正解なんだろうと思っていた。


それが俺の中では『大人』であると思っていた。



同級生たちが親の意見を聞かずに『俺は自分のしたいことをする!』と言い切る姿を見て、
「どうせ失敗するんだから」「ほんと幼稚な考えだな」と思っていた。


だけど、僕はそうやって生きていくうちに、
自分で物事を決めることができなくなっていた。



僕は、みんなよりも『大人』だと思っていたはずが、
大人がいないと何も考えられない、
誰よりも「子ども」のままだったのかもしれない。




何なら自分の意思をもって行動した14歳の自分の方が大人になろうとしていたのかもしれない。




これから僕はどうしたらいいのだろう。




「…浜~」



目的地につき、バスを降りると、
中学の頃みたバスの乗り場を見て懐かしさを覚えた。


日は落ち、月が見えていたがあたりはまだ明るかった。


海のにおいと海の音が昔を思い出させる。


僕は砂浜へ行き、砂浜に寝転がってみた。

いつも上司やら同僚やらいろんな人の目を気にしていたが、
今はどうでもよくなった。

まあ人もいないから何を思う人もいないだろうけど。





「…あの、あの~」



声が近くで聞こえ、薄目を開けてみると、
まぶしいながらも光の奥に女性が見えた



「うわっ!」

僕は急いで飛び起きた。
どうやら寝てしまっていたらしい。


「ああ、ごめんなさい。
直接光を当ててしまって…死んでいるかと思って心配になってしまって…」


「あ、え、すみません…」


そういって女性はライトを下の方へ向けた。
久しぶりに仕事以外で若い女性と話しているためなのか、
寝起きだからなのか上手に喋ることができない。



さっきまで薄暗かった景色がもう真っ暗で周りはなにも見えなくなっていた。
こんな真夜中で寝ている人がいたら死んでいると思われていても無理はないだろう。


『グ――ッ』


気まずい沈黙が流れているときに、沈黙に耐えられなくなった僕のお腹が鳴った。
そういえば夜ご飯食べていなかったな。



死んでいると勘違いされ、
お腹の音まで聞こえていたら恥ずかしすぎてほんとに死んでしまいたいところではあり、
海の音にかき消されていないかと淡い希望を抱いていたが、
こちらを向いている彼女と目が合い、クスっと笑う姿を見ると、
あの音は聞こえてしまっていたらしい。


「あの、ここの近くでカフェやっていて、良かったら来ませんか?」
「…はい。」



僕はお姉さんの笑顔にやられ、無意識に返事をしてしまっていた。
お姉さんはじゃあ行きましょうと言い、僕の前を歩きだした。
僕は体中の砂を払い、急ぎ足でお姉さんの後を追った。


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