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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.16 不穏な誕生日
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「た、ただいまぁ……」
「おかえりなさいお姉様、ガイアお兄様。どうされたんですの?お買い物袋が破けていますわ」
「あ、あはは、ちょっと転んじゃって……」
「ーー……ふっ」
帰宅後、スピカの指摘を苦笑いでかわした私をちらっと見てガイアが『言わんこっちゃない』とはがりに鼻を鳴らした。
「はっ、鼻で笑うことないじゃない。ガイアの意地悪!」
「意地悪とは失礼な、ちゃんと抱き止めてやっただろー。さて、荷物片すか」
「うっ、それは感謝してるけど……ってこら、逃げるな!!」
ははっと声を上げて笑いながらガイアが扉を開く。小さな影が廊下から二つ飛び出てきて彼に飛び付いた。
「おっと!来たなちび共」
「「ねーしゃま、ガイア!おみゃーげは!?」」
って、帰ってくるなりそれかいうちの末っ子たちは!
キラキラした期待の眼差しでガイアに抱きついた二人を、後ろから抱き上げるようにして引き離す。
「こーら!ルカ、ルナも、家族が帰ってきたらまずは『おかえりなさい』でしょ?」
「「あい!ガイア、おかえりなしゃい!!」
「あぁ、ただいま」
元気に揃ったおかえりの声に、ガイアが柔らかく目元を細めて答える。
その表情が嬉しくて、ここがガイアが安心して帰ってこれる場所になってるならいいなとこっそり思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「ごちそーしゃまでした!!」」
「はい、お粗末様でした」
「ねーしゃま、きょうはケーキはないの?」
夜、綺麗に平らげられたグラタンのお皿を片付ける私の袖をくいくいと引っ張ってルナがそう聞いた。突然の質問に首を傾げる私。
「ケーキ?ごめんね、今日は用意して無いわ。クッキーならあるけど……。いきなりケーキなんて、どうしたの?」
「「だって、もうすぐねーしゃまのおたんじょーびでしょ!!!」」
元気なルカとルナのその言葉にそういえばそうだったわねと笑う。ガイアがカレンダーを見ながら私の方を見た。
「セレン“も”秋生まれなのか?」
「えぇ、明後日が誕生日なの。って言っても、あまり派手なのは好きじゃないから他所の人を呼んでのお祝いはしないけどね」
世のご令嬢達は自分の誕生日ともなると華やかに着飾ってパーティーを開くものだそうだけど、うちではそんなことはやりません。だってお金かかるもん。
食後のコーヒーに口をつけながら、ガイアが眉尻を下げた。
「お前、せっかくの誕生日に伯爵令嬢がそれでいいのか……?」
「良いの良いの!その変わりに当日は毎年家族でちょっとしたパーティーにするから。ちゃんとケーキも焼くし」
「ねーさまの作るケーキはおいしいんだぞ!!」
「でしゅ!!」
「あぁ、それならまぁ……ってちょっと待て。お前自分の誕生日に自分でケーキを焼く気なのか?」
「あら、我が家に他にケーキを焼ける人が居ると思うの?」
「……だよな」
私が差し出したお茶請けのクッキー(夕方焼いた奴)のお皿を受け取ったガイアが困り顔のまま笑う。
「「でもおうちではパーティーしゅるの!ガイアもいっしょにねーしゃまのお祝いしよ!!」」
「あぁ、そうだな。約束だ」
双子の催促に笑いながら、ガイアがルカと小指を絡める姿に頬が緩んだ。お祝いしてくれるんだ、嬉しいな。
「自分で焼くと好きな味に出来るし、何より家族が美味しいって喜んでくれるからこれでいいのよ。ねー?」
「「うん!!ねーしゃまもねーしゃまのケーキも大好き!!!」」
「ありがとう、私も皆が大好きよーっ!」
抱きついてくる二人を受け止めてぎゅーっと抱き締めると、腕の中の二人が楽しそうにきゃっきゃと声をあげた。
少し離れてそれを見ているガイアがやれやれと肩をすくめた。
「ははっ、微笑ましい光景だな」
「お恥ずかしながら、その日の主役に一人一言ずつ愛を伝えるのが我が家の誕生日の習わしなんですよ。元々は父が母の誕生日に毎回熱烈な告白をしていたのが始まりなんですけどね」
そうガイアに答えたのは長男のソレイユだ。なるほどなと納得しているガイアから私に視線を移したしっかりものの弟も、『僕も姉上にはいつも感謝しています、大好きです』とはにかみながら言ってくれた。ソレイユはそろそろ思春期だし今年は言ってくれないかなと思ってたから、お姉ちゃん嬉しい!
「ルカもルナもソレイユ兄様もずるいです!私も!私もセレン姉様が大好きですよ!!」
「ふふ、ありがとうスピカ」
「はは、大人気だなセレンは。ん?」
「「ガイアは?」」
くいくいと服を引っ張ってきたルカとルナに、ガイアが不思議そうに目を向ける。きょとんとしている彼に、もう一度双子が声を揃えて言い直した。
「「ガイアもねーしゃまに『すき』っていわないの?」」
「はぁ!?俺も!!?」
「ちょっ!ルカ、ルナ!?」
爆・弾・発・言!!!
ガタンと立ち上がったガイアが声を荒げた。
「言える訳ないだろそんな台詞!!」
「「なんで?」」
「な、何でって……」
言い淀んだガイアをしばらく見つめた後、ルナがハッとしたように口元を押さえる。
「ましゃかガイア、セレンねーしゃまのこときらいなの……?」
「……?嫌いな訳ないだろ」
ルナの直球の問いに、私を一瞬見てからガイアはため息交じりに即答した。
それを聞いた双子が改めてキラキラした眼差しで彼に追い討ちをかける
「「じゃあ好き??」」
「ーー……っ!いや、俺、は……」
わくわくと期待満点の眼差しを裏切るのは心が痛むのか左胸を手で押さえつけながら困り顔になったガイアを見て、慌てて止めに入る。
「もうっ二人ともいい加減にしなさい!ガイアが困ってるでしょ?スピカ、この子達お風呂入れてあげて」
「はーい。ほら二人とも、いきますよー」
「「えーっ、ガイアのへんじはー!?」」
「はいはい、それはまたお姉様のお誕生日当日にね!」
いや、それは是非勘弁してください。いくら望みのない片思いでもハッキリ本人の口から『好きじゃない』何て言われたら泣きます。だからって気を使って無理やり『好き』って言われてもしんどいけど!!
どちらにしてもこんな心臓に悪いやり取りは止めてほしいと、遠ざかっていく妹達の声を聞きながら思った。
ほらもーっ、今だってこんなに気まずくなっちゃって!ガイアがどんな表情してるか怖くて見れないよーっ!何か、何か会話を!
「こ、コーヒーカップ片付けるね!」
「あぁ、ありがとう」
「ううん、そういえばさっき『セレン”も“秋生まれ』とか言ってたけど、他にも秋生まれの知り合いが居……きゃっ!」
「ーっ!おいおい、大丈夫か?」
私が動揺して手を滑らせちゃった拍子に、テーブルに詰まれていた郵便物がバラバラと床に落ちてしまった。やっちゃった……!
「うぅ、ごめんなさい。すぐ拾うから……あいたっ!」
「ちょっと落ち着けって、ったく手がかかる奴だな」
慌てて拾おうとしたら、テーブルの角に頭をぶつけた。痛い……と地味に痛みに耐えていた私の隣でガイアはせっせと手紙を拾ってくれている。本当に申し訳ない。
「ほら、これで最後……ん?あぁ、やはり来たか……」
「え?」
ガイアが最後の一枚の封筒を拾ってそのまま封を開く。
金の縁取りがされた豪華な便箋に記されたそれは、明後日に王都で開かれるナターリエ様の誕生日祝いの舞踏会へのガイア宛の招待状なのだった。
~Ep.16 不穏な誕生日~
『悪役令嬢とモブの誕生日が一緒って、これ何の嫌がらせですか!!?』
「おかえりなさいお姉様、ガイアお兄様。どうされたんですの?お買い物袋が破けていますわ」
「あ、あはは、ちょっと転んじゃって……」
「ーー……ふっ」
帰宅後、スピカの指摘を苦笑いでかわした私をちらっと見てガイアが『言わんこっちゃない』とはがりに鼻を鳴らした。
「はっ、鼻で笑うことないじゃない。ガイアの意地悪!」
「意地悪とは失礼な、ちゃんと抱き止めてやっただろー。さて、荷物片すか」
「うっ、それは感謝してるけど……ってこら、逃げるな!!」
ははっと声を上げて笑いながらガイアが扉を開く。小さな影が廊下から二つ飛び出てきて彼に飛び付いた。
「おっと!来たなちび共」
「「ねーしゃま、ガイア!おみゃーげは!?」」
って、帰ってくるなりそれかいうちの末っ子たちは!
キラキラした期待の眼差しでガイアに抱きついた二人を、後ろから抱き上げるようにして引き離す。
「こーら!ルカ、ルナも、家族が帰ってきたらまずは『おかえりなさい』でしょ?」
「「あい!ガイア、おかえりなしゃい!!」
「あぁ、ただいま」
元気に揃ったおかえりの声に、ガイアが柔らかく目元を細めて答える。
その表情が嬉しくて、ここがガイアが安心して帰ってこれる場所になってるならいいなとこっそり思った。
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「「ごちそーしゃまでした!!」」
「はい、お粗末様でした」
「ねーしゃま、きょうはケーキはないの?」
夜、綺麗に平らげられたグラタンのお皿を片付ける私の袖をくいくいと引っ張ってルナがそう聞いた。突然の質問に首を傾げる私。
「ケーキ?ごめんね、今日は用意して無いわ。クッキーならあるけど……。いきなりケーキなんて、どうしたの?」
「「だって、もうすぐねーしゃまのおたんじょーびでしょ!!!」」
元気なルカとルナのその言葉にそういえばそうだったわねと笑う。ガイアがカレンダーを見ながら私の方を見た。
「セレン“も”秋生まれなのか?」
「えぇ、明後日が誕生日なの。って言っても、あまり派手なのは好きじゃないから他所の人を呼んでのお祝いはしないけどね」
世のご令嬢達は自分の誕生日ともなると華やかに着飾ってパーティーを開くものだそうだけど、うちではそんなことはやりません。だってお金かかるもん。
食後のコーヒーに口をつけながら、ガイアが眉尻を下げた。
「お前、せっかくの誕生日に伯爵令嬢がそれでいいのか……?」
「良いの良いの!その変わりに当日は毎年家族でちょっとしたパーティーにするから。ちゃんとケーキも焼くし」
「ねーさまの作るケーキはおいしいんだぞ!!」
「でしゅ!!」
「あぁ、それならまぁ……ってちょっと待て。お前自分の誕生日に自分でケーキを焼く気なのか?」
「あら、我が家に他にケーキを焼ける人が居ると思うの?」
「……だよな」
私が差し出したお茶請けのクッキー(夕方焼いた奴)のお皿を受け取ったガイアが困り顔のまま笑う。
「「でもおうちではパーティーしゅるの!ガイアもいっしょにねーしゃまのお祝いしよ!!」」
「あぁ、そうだな。約束だ」
双子の催促に笑いながら、ガイアがルカと小指を絡める姿に頬が緩んだ。お祝いしてくれるんだ、嬉しいな。
「自分で焼くと好きな味に出来るし、何より家族が美味しいって喜んでくれるからこれでいいのよ。ねー?」
「「うん!!ねーしゃまもねーしゃまのケーキも大好き!!!」」
「ありがとう、私も皆が大好きよーっ!」
抱きついてくる二人を受け止めてぎゅーっと抱き締めると、腕の中の二人が楽しそうにきゃっきゃと声をあげた。
少し離れてそれを見ているガイアがやれやれと肩をすくめた。
「ははっ、微笑ましい光景だな」
「お恥ずかしながら、その日の主役に一人一言ずつ愛を伝えるのが我が家の誕生日の習わしなんですよ。元々は父が母の誕生日に毎回熱烈な告白をしていたのが始まりなんですけどね」
そうガイアに答えたのは長男のソレイユだ。なるほどなと納得しているガイアから私に視線を移したしっかりものの弟も、『僕も姉上にはいつも感謝しています、大好きです』とはにかみながら言ってくれた。ソレイユはそろそろ思春期だし今年は言ってくれないかなと思ってたから、お姉ちゃん嬉しい!
「ルカもルナもソレイユ兄様もずるいです!私も!私もセレン姉様が大好きですよ!!」
「ふふ、ありがとうスピカ」
「はは、大人気だなセレンは。ん?」
「「ガイアは?」」
くいくいと服を引っ張ってきたルカとルナに、ガイアが不思議そうに目を向ける。きょとんとしている彼に、もう一度双子が声を揃えて言い直した。
「「ガイアもねーしゃまに『すき』っていわないの?」」
「はぁ!?俺も!!?」
「ちょっ!ルカ、ルナ!?」
爆・弾・発・言!!!
ガタンと立ち上がったガイアが声を荒げた。
「言える訳ないだろそんな台詞!!」
「「なんで?」」
「な、何でって……」
言い淀んだガイアをしばらく見つめた後、ルナがハッとしたように口元を押さえる。
「ましゃかガイア、セレンねーしゃまのこときらいなの……?」
「……?嫌いな訳ないだろ」
ルナの直球の問いに、私を一瞬見てからガイアはため息交じりに即答した。
それを聞いた双子が改めてキラキラした眼差しで彼に追い討ちをかける
「「じゃあ好き??」」
「ーー……っ!いや、俺、は……」
わくわくと期待満点の眼差しを裏切るのは心が痛むのか左胸を手で押さえつけながら困り顔になったガイアを見て、慌てて止めに入る。
「もうっ二人ともいい加減にしなさい!ガイアが困ってるでしょ?スピカ、この子達お風呂入れてあげて」
「はーい。ほら二人とも、いきますよー」
「「えーっ、ガイアのへんじはー!?」」
「はいはい、それはまたお姉様のお誕生日当日にね!」
いや、それは是非勘弁してください。いくら望みのない片思いでもハッキリ本人の口から『好きじゃない』何て言われたら泣きます。だからって気を使って無理やり『好き』って言われてもしんどいけど!!
どちらにしてもこんな心臓に悪いやり取りは止めてほしいと、遠ざかっていく妹達の声を聞きながら思った。
ほらもーっ、今だってこんなに気まずくなっちゃって!ガイアがどんな表情してるか怖くて見れないよーっ!何か、何か会話を!
「こ、コーヒーカップ片付けるね!」
「あぁ、ありがとう」
「ううん、そういえばさっき『セレン”も“秋生まれ』とか言ってたけど、他にも秋生まれの知り合いが居……きゃっ!」
「ーっ!おいおい、大丈夫か?」
私が動揺して手を滑らせちゃった拍子に、テーブルに詰まれていた郵便物がバラバラと床に落ちてしまった。やっちゃった……!
「うぅ、ごめんなさい。すぐ拾うから……あいたっ!」
「ちょっと落ち着けって、ったく手がかかる奴だな」
慌てて拾おうとしたら、テーブルの角に頭をぶつけた。痛い……と地味に痛みに耐えていた私の隣でガイアはせっせと手紙を拾ってくれている。本当に申し訳ない。
「ほら、これで最後……ん?あぁ、やはり来たか……」
「え?」
ガイアが最後の一枚の封筒を拾ってそのまま封を開く。
金の縁取りがされた豪華な便箋に記されたそれは、明後日に王都で開かれるナターリエ様の誕生日祝いの舞踏会へのガイア宛の招待状なのだった。
~Ep.16 不穏な誕生日~
『悪役令嬢とモブの誕生日が一緒って、これ何の嫌がらせですか!!?』
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