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第一章 異世界アニマルーンの目覚め
第五話 ファースト・アドベンチャー! ―北の森での冒険―
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村の外へ飛び出した私とジェイドは、とにかく道なりに街道を駆けていく。
「ハア、ハア……アミ! もっと早く!
じいちゃんに捕まっちゃうよ!!」
「あの! 私、無関係だと思うんですけど!?」
ビタッ。
「へっ!? なんで急に止まるの、ジェイド?」
「……そういえば……そうだった!
僕、早とちりしちゃってた!
それならそうと、アミ言ってよ~」
くるりと振り向き、ケタケタと笑うジェイド。
「……あの状況で、私が口を挟む隙はなかったと思いますが」
思わず半眼になる。
「まあまあ、硬いこと言わずにさ。
あ! そうだ!!」
ぱっと顔を輝かせる。
「せっかく村の外に出たんだから、北の森を探検しようよ!
僕が外を冒険しようとすると、いつもじいちゃんが怒って邪魔するんだ」
そこでジェイドは、アリババじいさんの声色を真似た。
「よいか、ジェイド。
お前はまだ幼い。
外の世界は危険すぎる。
絶対に一人で村の外に出てはいかんぞ!
冒険なんて、もってのほかじゃぞ!!」
咳払いをひとつして、私を見る。
「でも今回は、半分はじいちゃんの責任だし……アミだっている!!
ということは……これは、つまり……」
「……つまり?」
嫌な予感しかしない。
「神様が、僕に冒険してこいって言ってるんだよ!!
きっとそうだよ!!
僕、いい子だもん!!」
…………アリババじいさんが大切にとっておいたウォルの実を盗み食いした、ジェイドが?
「よーし!! アミ、一緒に冒険しよう!!
今いるのは北の街道だから……。
ほら、ついてるよ!!
ここからなら北の森が近い!」
身振り手振りで説明しながら、さらに声を弾ませる。
「北の森には、すごいお宝があるって噂だよ!
しかも凶暴なマニアも棲みついてるんだって!!
すっごく、すっごく、ワクワクするね!!!」
わあー(棒)。
ワクワクしますね~……って、そんなわけない!!
北の森は、見るからに危険の匂いがプンプンする。
これは……カクトさんにギルドから離れたことを悟られる前に、戻った方がいい。
「わあ、それは良かったですね、ジェイド。
けど、私……」
きらきら、きらら~ん。
瞳を輝かせ、顔をぐいっと近づけてくる。
「一緒にいくよね?」
ズイッ。
「行くよね?」
ズイッ、ズイッ。
近い。
ジェイドの顔が近すぎる。
やめて。そんな瞳で見ないで。
「…………アミ、いかないの?」
今度はうるうるだ。
…………あー、もう。
「……行きます」
「やったあー!!
そう来なくっちゃ!!
持つべきものは、親友だね、アミ!!!」
いやいやいや。
私たちはさっき知り合ったばかりだし、友達の過程すっ飛ばしてるし。
「さあ、行こう、アミ!!
北の森での冒険が僕らを待ってる!!!」
ジェイドははしゃいで翼をぱたぱたと動かす。
……うう、なんだか憎めない。
またしてもジェイドに流され、私は彼に連れられて北の森へと向かった。
ジェイドの案内でたどり着いた北の森は、こんな快晴の青空の日でも薄く霧がかかり、鬱蒼とした木々が空を覆っている。
森の入口に立った瞬間、空気がひやりと変わった気がした。
見るからに……。
そう、見るからに……。
絶対、冒険なんかするんじゃねえぞ。
そんな圧を、森そのものが放っている。
だというのに、ジェイドはご機嫌そのものだ。
この森の危険なんて、何それ、美味しいの? と言わんばかりの顔をしている。
「先頭は僕が行くからね!」
張り切って、ずんずんと森の奥へ進んでいく。
……絶対。
絶対、ロクなことにならない。
そう確信しながらも、私はその背中を追った。
森の中は思った以上に暗く、湿り気を帯びた匂いが鼻をつく。
足元の枯葉を踏むたび、ぱり、と乾いた音が響く。その一つ一つがやけに大きく感じられた。
「わああ!! アミ!!
見て、あそこ!!
綺麗な花が咲いているよ!!」
弾んだ声に視線を向けると、大木の根元に小さな桃色の花が群れて咲いていた。
……場違いだ。
あまりにも、場違いすぎる。
森の空気が重たいのに、その花だけが不自然に鮮やかだ。
周囲には虫の羽音すらない。
「ジェイド、気をつけ――」
ボコッ。
地面が不自然に盛り上がる。
考えるより先に身体が動いた。
私はジェイドへ体当たりする。
直後、さっきまで彼が立っていた場所に、鋭く尖った緑色の根が突き出した。
土を割り、ぬらりとした音を立てて。
「ジェイド! 逃げるよ!」
森の入口へ駆け出す。
「待って!」
振り向くと、ジェイドは転倒していた。
小さな身体がうまく体勢を立て直せない。
その背後で、地面がうねる。
跳躍。
狐火を放つ。
ジュッ、と焦げる匂いが立ちのぼる。
しかし次の瞬間、地面が再び裂け、今度は私を狙って根が飛び出す。
横へ転がるように回避。
その拍子に、全体像が視界に入った。
花が咲き誇っていた場所――
そこには、蜂の頭を持ち、蜘蛛の胴体を備え、七本の緑色の根を脚のように生やしたマニアがいた。
落ち着け。落ち着け、私。
胸の奥で鼓動が早まる。
私は九尾の子狐。
狐火だけじゃない。
……九尾と言えば、神通力。
念の波動を集中し、蜂の頭部へ撃ち込む。
しかし、緑色の根が絡み合い、それを防いだ。
ならば――接近戦。
地を蹴り、一本を爪で断ち切る。
硬い。だが、切れる。
けれど、まだ六本。
六本の根が蛇のようにうねり、私を取り囲む。
隙間を縫うように動き、狐火で牽制する。
土煙が舞い、焦げた匂いが漂う。
やがて三方向から同時に根が迫った。
回転しながら跳躍。
地面に着地した瞬間、反動を利用して一気に加速する。
マニアの本体へ。
爪で目を裂き、至近距離から神通力を叩き込む。
ギイィィ――。
耳障りな悲鳴。
マニアが暴れ、根を振り回す。
そのうちの一本が、背中を打った。
衝撃。
視界が揺れ、地面に叩きつけられる。
息が詰まる。
身体が、うまく動かない。
振り下ろされる根。
ゴオォ。ジュワア。
私の顔のすぐ横で、根の先端が燃え落ちる。
振り向けば、ジェイドが青い炎を吐いていた。
小さな身体で、必死に。
ナイス、ジェイド……!
その数秒で呼吸を整える。
作戦変更。
大木を駆け登る。
根が追いすがるが、枝へ跳び移り、さらに上へ。
枝の先端から跳躍。
真上から、特大の狐火を放つ。
ボオォォ。
蜂の頭部が焼け崩れる。
根は頑丈だが、頭部は脆い。
隙が生まれる。
神通力を連続で浴びせ、着地する。
頭部はもはや原型をとどめていない。
……悪く思わないでほしい。
胴体との境目へ爪を滑り込ませ、断ち切る。
それが、とどめとなった。
静寂。
「大丈夫!? アミ!?」
振り返ると、ジェイドが駆け寄ってくる。
「平気ですよ、このくらい。
ジェイドは?」
私を見上げるジェイドは、泣きそうな顔をしていた。
「僕は大丈夫。
でも、さっきアミが……」
ああ。私が喰らった攻撃のことを心配しているのか。
「だから、大丈夫ですよ。
ほら、そんな顔をしない」
ジェイドはすっかり気落ちしているようだった。
「……あの、アニマね。ビースパイドラって言うんだ。
Dランクのマニアでね。本来なら、こんなところにはいないはずなんだ。
あいつらの生息地域って、山岳地帯が主だから」
ジェイドはそこで言葉を切った。
「……アミはさ。今日の僕を見て……僕に失望した?」
うん?
「ビースパイドラとの戦闘で、僕……何もできなかった。
この森を冒険するって言い出したのは僕なのに……。
何にも、この冒険に伴う危険に歯が立たなかった。
アミを危険な目に合わせた。
……僕はいつも、周りが見えていない」
……あー。これはどう慰めよう?
そもそもDランク――まだランクの価値は知らないんだけど、強いマニアがこの森にいたのはジェイドの想定外だったはずだし……。それに――。
「ジェイドは、私を守ってくれましたよ。
あのマニアから」
「……えっ?」
「よく思い出して下さい。
私が、あのアニマの緑色の根にやられそうになった時――ジェイド、貴方の炎で助けてくれたでしょ?
あれがきっかけで、私は体勢を立て直せて、マニアを倒せたんですから。
……周りをよく見た、ナイス判断でしたよ」
この北の森に入った判断はナンセンスだけどね――それは、今は黙っておく。
ビタンッ。
突然、乾いた音が響いた。
ぎょっとしてジェイドを見ると――彼の頬が少し赤くなっていた。
「ごめん。アミ。大丈夫。
僕は冒険者になるんだ――絶対に。
だから、あの程度で怖気付いていたらダメだ。
この失敗を、失敗のままで終わらせたらダメだ」
ジェイドはまっすぐに、私と目を合わせた。
「あのね、アミ。
改めて、危険な冒険に付き合わせて、ごめんね。
だけど……もう少しだけ、僕の我儘に付き合って、この森を一緒に冒険してほしい」
言葉に力がこもる。
「今は理由を言えないんだけど、僕はどうしても冒険者になりたい。
みんなが子どもだから無理って言っても、僕はもう冒険できるんだって実力を示したい。
……じゃないと、僕はじいちゃんに、大人になるまで村の外に行かせてもらえない」
ジェイドが握り拳を作って、きつく握る。
「このチャンスは――本当に、またとない機会なんだ。
この森のお宝を持ち帰って、じいちゃんに、僕はもう守られてばかりの子どもじゃないって示したい」
ジェイドはそこで、ふっと息を小さく吐いた。
「……それに、アミだって。初めての冒険の終わりが、こんな終わり方なんて嫌でしょ?
もう油断しない。もっと気をつけて進むって約束する。だから――」
ジェイドの目は、絶対に折れない目をしていた。
……本当に、前向きと言うか、なんと言うか……。
けど――確かに、初めての冒険がこんな終わり方なのは嫌だ。
どうせ戻ったら怒られることは確定している。
……それに、ジェイドと私。案外、上手くいくかもしれない。
「……わかりました。もう少しだけ、付き合いますよ。
ただし、少しでも無理だと感じたら即、村に帰りますからね」
「!!
……ありがとう! ありがとう、アミ!!
うん、約束するよ!!」
……うん。やっぱり、ジェイドには笑顔が似合う。
気を取り直して、私たちは再び森の奥へと進んでいく。
「ハア、ハア……アミ! もっと早く!
じいちゃんに捕まっちゃうよ!!」
「あの! 私、無関係だと思うんですけど!?」
ビタッ。
「へっ!? なんで急に止まるの、ジェイド?」
「……そういえば……そうだった!
僕、早とちりしちゃってた!
それならそうと、アミ言ってよ~」
くるりと振り向き、ケタケタと笑うジェイド。
「……あの状況で、私が口を挟む隙はなかったと思いますが」
思わず半眼になる。
「まあまあ、硬いこと言わずにさ。
あ! そうだ!!」
ぱっと顔を輝かせる。
「せっかく村の外に出たんだから、北の森を探検しようよ!
僕が外を冒険しようとすると、いつもじいちゃんが怒って邪魔するんだ」
そこでジェイドは、アリババじいさんの声色を真似た。
「よいか、ジェイド。
お前はまだ幼い。
外の世界は危険すぎる。
絶対に一人で村の外に出てはいかんぞ!
冒険なんて、もってのほかじゃぞ!!」
咳払いをひとつして、私を見る。
「でも今回は、半分はじいちゃんの責任だし……アミだっている!!
ということは……これは、つまり……」
「……つまり?」
嫌な予感しかしない。
「神様が、僕に冒険してこいって言ってるんだよ!!
きっとそうだよ!!
僕、いい子だもん!!」
…………アリババじいさんが大切にとっておいたウォルの実を盗み食いした、ジェイドが?
「よーし!! アミ、一緒に冒険しよう!!
今いるのは北の街道だから……。
ほら、ついてるよ!!
ここからなら北の森が近い!」
身振り手振りで説明しながら、さらに声を弾ませる。
「北の森には、すごいお宝があるって噂だよ!
しかも凶暴なマニアも棲みついてるんだって!!
すっごく、すっごく、ワクワクするね!!!」
わあー(棒)。
ワクワクしますね~……って、そんなわけない!!
北の森は、見るからに危険の匂いがプンプンする。
これは……カクトさんにギルドから離れたことを悟られる前に、戻った方がいい。
「わあ、それは良かったですね、ジェイド。
けど、私……」
きらきら、きらら~ん。
瞳を輝かせ、顔をぐいっと近づけてくる。
「一緒にいくよね?」
ズイッ。
「行くよね?」
ズイッ、ズイッ。
近い。
ジェイドの顔が近すぎる。
やめて。そんな瞳で見ないで。
「…………アミ、いかないの?」
今度はうるうるだ。
…………あー、もう。
「……行きます」
「やったあー!!
そう来なくっちゃ!!
持つべきものは、親友だね、アミ!!!」
いやいやいや。
私たちはさっき知り合ったばかりだし、友達の過程すっ飛ばしてるし。
「さあ、行こう、アミ!!
北の森での冒険が僕らを待ってる!!!」
ジェイドははしゃいで翼をぱたぱたと動かす。
……うう、なんだか憎めない。
またしてもジェイドに流され、私は彼に連れられて北の森へと向かった。
ジェイドの案内でたどり着いた北の森は、こんな快晴の青空の日でも薄く霧がかかり、鬱蒼とした木々が空を覆っている。
森の入口に立った瞬間、空気がひやりと変わった気がした。
見るからに……。
そう、見るからに……。
絶対、冒険なんかするんじゃねえぞ。
そんな圧を、森そのものが放っている。
だというのに、ジェイドはご機嫌そのものだ。
この森の危険なんて、何それ、美味しいの? と言わんばかりの顔をしている。
「先頭は僕が行くからね!」
張り切って、ずんずんと森の奥へ進んでいく。
……絶対。
絶対、ロクなことにならない。
そう確信しながらも、私はその背中を追った。
森の中は思った以上に暗く、湿り気を帯びた匂いが鼻をつく。
足元の枯葉を踏むたび、ぱり、と乾いた音が響く。その一つ一つがやけに大きく感じられた。
「わああ!! アミ!!
見て、あそこ!!
綺麗な花が咲いているよ!!」
弾んだ声に視線を向けると、大木の根元に小さな桃色の花が群れて咲いていた。
……場違いだ。
あまりにも、場違いすぎる。
森の空気が重たいのに、その花だけが不自然に鮮やかだ。
周囲には虫の羽音すらない。
「ジェイド、気をつけ――」
ボコッ。
地面が不自然に盛り上がる。
考えるより先に身体が動いた。
私はジェイドへ体当たりする。
直後、さっきまで彼が立っていた場所に、鋭く尖った緑色の根が突き出した。
土を割り、ぬらりとした音を立てて。
「ジェイド! 逃げるよ!」
森の入口へ駆け出す。
「待って!」
振り向くと、ジェイドは転倒していた。
小さな身体がうまく体勢を立て直せない。
その背後で、地面がうねる。
跳躍。
狐火を放つ。
ジュッ、と焦げる匂いが立ちのぼる。
しかし次の瞬間、地面が再び裂け、今度は私を狙って根が飛び出す。
横へ転がるように回避。
その拍子に、全体像が視界に入った。
花が咲き誇っていた場所――
そこには、蜂の頭を持ち、蜘蛛の胴体を備え、七本の緑色の根を脚のように生やしたマニアがいた。
落ち着け。落ち着け、私。
胸の奥で鼓動が早まる。
私は九尾の子狐。
狐火だけじゃない。
……九尾と言えば、神通力。
念の波動を集中し、蜂の頭部へ撃ち込む。
しかし、緑色の根が絡み合い、それを防いだ。
ならば――接近戦。
地を蹴り、一本を爪で断ち切る。
硬い。だが、切れる。
けれど、まだ六本。
六本の根が蛇のようにうねり、私を取り囲む。
隙間を縫うように動き、狐火で牽制する。
土煙が舞い、焦げた匂いが漂う。
やがて三方向から同時に根が迫った。
回転しながら跳躍。
地面に着地した瞬間、反動を利用して一気に加速する。
マニアの本体へ。
爪で目を裂き、至近距離から神通力を叩き込む。
ギイィィ――。
耳障りな悲鳴。
マニアが暴れ、根を振り回す。
そのうちの一本が、背中を打った。
衝撃。
視界が揺れ、地面に叩きつけられる。
息が詰まる。
身体が、うまく動かない。
振り下ろされる根。
ゴオォ。ジュワア。
私の顔のすぐ横で、根の先端が燃え落ちる。
振り向けば、ジェイドが青い炎を吐いていた。
小さな身体で、必死に。
ナイス、ジェイド……!
その数秒で呼吸を整える。
作戦変更。
大木を駆け登る。
根が追いすがるが、枝へ跳び移り、さらに上へ。
枝の先端から跳躍。
真上から、特大の狐火を放つ。
ボオォォ。
蜂の頭部が焼け崩れる。
根は頑丈だが、頭部は脆い。
隙が生まれる。
神通力を連続で浴びせ、着地する。
頭部はもはや原型をとどめていない。
……悪く思わないでほしい。
胴体との境目へ爪を滑り込ませ、断ち切る。
それが、とどめとなった。
静寂。
「大丈夫!? アミ!?」
振り返ると、ジェイドが駆け寄ってくる。
「平気ですよ、このくらい。
ジェイドは?」
私を見上げるジェイドは、泣きそうな顔をしていた。
「僕は大丈夫。
でも、さっきアミが……」
ああ。私が喰らった攻撃のことを心配しているのか。
「だから、大丈夫ですよ。
ほら、そんな顔をしない」
ジェイドはすっかり気落ちしているようだった。
「……あの、アニマね。ビースパイドラって言うんだ。
Dランクのマニアでね。本来なら、こんなところにはいないはずなんだ。
あいつらの生息地域って、山岳地帯が主だから」
ジェイドはそこで言葉を切った。
「……アミはさ。今日の僕を見て……僕に失望した?」
うん?
「ビースパイドラとの戦闘で、僕……何もできなかった。
この森を冒険するって言い出したのは僕なのに……。
何にも、この冒険に伴う危険に歯が立たなかった。
アミを危険な目に合わせた。
……僕はいつも、周りが見えていない」
……あー。これはどう慰めよう?
そもそもDランク――まだランクの価値は知らないんだけど、強いマニアがこの森にいたのはジェイドの想定外だったはずだし……。それに――。
「ジェイドは、私を守ってくれましたよ。
あのマニアから」
「……えっ?」
「よく思い出して下さい。
私が、あのアニマの緑色の根にやられそうになった時――ジェイド、貴方の炎で助けてくれたでしょ?
あれがきっかけで、私は体勢を立て直せて、マニアを倒せたんですから。
……周りをよく見た、ナイス判断でしたよ」
この北の森に入った判断はナンセンスだけどね――それは、今は黙っておく。
ビタンッ。
突然、乾いた音が響いた。
ぎょっとしてジェイドを見ると――彼の頬が少し赤くなっていた。
「ごめん。アミ。大丈夫。
僕は冒険者になるんだ――絶対に。
だから、あの程度で怖気付いていたらダメだ。
この失敗を、失敗のままで終わらせたらダメだ」
ジェイドはまっすぐに、私と目を合わせた。
「あのね、アミ。
改めて、危険な冒険に付き合わせて、ごめんね。
だけど……もう少しだけ、僕の我儘に付き合って、この森を一緒に冒険してほしい」
言葉に力がこもる。
「今は理由を言えないんだけど、僕はどうしても冒険者になりたい。
みんなが子どもだから無理って言っても、僕はもう冒険できるんだって実力を示したい。
……じゃないと、僕はじいちゃんに、大人になるまで村の外に行かせてもらえない」
ジェイドが握り拳を作って、きつく握る。
「このチャンスは――本当に、またとない機会なんだ。
この森のお宝を持ち帰って、じいちゃんに、僕はもう守られてばかりの子どもじゃないって示したい」
ジェイドはそこで、ふっと息を小さく吐いた。
「……それに、アミだって。初めての冒険の終わりが、こんな終わり方なんて嫌でしょ?
もう油断しない。もっと気をつけて進むって約束する。だから――」
ジェイドの目は、絶対に折れない目をしていた。
……本当に、前向きと言うか、なんと言うか……。
けど――確かに、初めての冒険がこんな終わり方なのは嫌だ。
どうせ戻ったら怒られることは確定している。
……それに、ジェイドと私。案外、上手くいくかもしれない。
「……わかりました。もう少しだけ、付き合いますよ。
ただし、少しでも無理だと感じたら即、村に帰りますからね」
「!!
……ありがとう! ありがとう、アミ!!
うん、約束するよ!!」
……うん。やっぱり、ジェイドには笑顔が似合う。
気を取り直して、私たちは再び森の奥へと進んでいく。
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