記憶喪失の九尾狐の少女は、冒険者を目指します ~失われた記憶の先で~

いぬぬっこ

文字の大きさ
6 / 7
第一章 異世界アニマルーンの目覚め

第六話 フォレスト・ディスカバリー!

しおりを挟む
北の森は、奥に進むにつれ、木々の枝葉と生い茂る草の色が黒いものへと変わっていく。
また、その合間を縫うように、薄紫に明滅する虫型マニアが、ふわふわと漂うように飛んでいる。

そして、同時にーー、

「アミ! また、来たよ!」

ジェイドが叫ぶ。

黒い草の茂みがざわりと揺れ、奥から兎の足と耳が生えた切り株のマニアーーバニーカブの群れが飛び出してきた。

「全部で五体いる!」

私は、狐火をバニーカブの左端の一体に向けて放つ。
が、するりとかわされてしまう。

ジェイドは地面を蹴り、尻尾を振り上げて、中央の一体を弾き飛ばした。

「アミ! 右は任せた!」

「はい! 任されました!」

足を踏み込み、狐火を細く伸ばしていく。

直線じゃない。
波状に放ち、逃げ道を塞ぐ。
バニーカブは小さく素早い。
真正面から一体ずつ仕留めるよりも、多方向からまとめて仕留めた方が楽だ。

狐火に掬われ、右側二体のバニーカブが燃え上がる。
辺りに、木の焦げた匂いが広がる。

「こっちは終わりました!」

「僕の方も終わったよ!」

ジェイドの方を振り向けば、左側二体のバニーカブの引き裂かれた残骸が転がっていた。

あれから、バニーカブの群れとの戦闘が何回かあった。
最初こそ、慌てたものの、数を重ねるにつれて、ジェイドとの連携がスムーズになってきた。

「もうちょっとで、森の一番奥にたどり着くと思うよ!
どんなすごいお宝が、僕たちを待っているのか……すごく、すごーく楽しみだね、アミ!!
あ!
後々、僕たちってめちゃくちゃいいコンビだと思わない?
青龍も真っ青になるようなさあ!」

……うん。最後のギャグは無視しよう。
まあ、いいコンビかもしれないということは、ほんのちょーっとだけ認めなくもないけど。
……それにしても、先ほどの地面につくかと思われた、落ち込みがなかったように立ち直ってる。
本当、調子いいんだから。

「ジェイド、はしゃぎ過ぎですよ。
まだ、この先に何が待ち受けてるのか、わからないんです。
油断していると、ビースパイドラの時のようになりますよ」

「うっ……。
そうだね、ごめん。
アミ、慎重に行こう」

「はい、もちろんです」

薄紫の明滅する光たちが、私とジェイドの間を漂う。

通り抜けていく風は、身体を凍らせるかのように冷たい。

幻想的で不気味な森。

だけどーー楽しい。
怖い思いをいっぱいしたはずなのにーー楽しい。
怖いのと同じくらい、ワクワクする気持ちがある。
ジェイドじゃないけど……この森のお宝ってどんなのなんだろう。

周囲に注意を払いながら、先へ進んでいく。
森の霧も、少しずつ濃いものへと変わっていく。
足元が白く霞み、二歩先の草の輪郭がぼやける。

「うーん……。
もうちょっとだと思ったんだけど……。
僕の予想外れたのかなあ?」

ジェイドが訝しげに呟いたーーその時。

「ジェイド! あそこがそうじゃないですか!?」

この鬱蒼とする森の中に、大きく開けた場所を見つけた。

そこには――



「……わあ」
思わず、私とジェイドの声が重なる。

紫色の実と、白く半透明の実の茂みが群生していた。
少しだけ差している日差しに照らされたーーそこは絵から切り抜かれたように美しかった。

「……すごい。
すごいよ! アミ!
こんなにたくさん、ウォルの実とルジェの実があるなんて!
じいちゃんが知ったら、腰を抜かして喜ぶだろうな~。
じいちゃん、ジャム作りが好きだから」

「あの、ジェイド、どっちがウォルの実で、どっちがルジェの実ですか?
私、どちらも実際に見るのは初めてで……」

確か、二つとも、今朝飲んだカクトさん特製の木の実ジュースの材料だった気がする。

「えっとね、あっちの、宝石のように艶やかな紫の実がウォルの実で。
こっちの、たっぷり水を含んだ白く半透明の実がルジェの実だよ。
どちらも、王都が原産の高級木の実だから、見かけることまずないよね~」

なるほど。
……ん?
ということは、その木の実を当たり前のように使っている、アリババじいさんとカクトさんって……実はすごいお金持ち?
アリババじいさんは村長だから、まだわかるけど……。
自警団団長のカクトさんも、村長と同じくらいの地位なのかな?
それとも、冒険者時代の貯金??

「あ! そうだ!
このウォルの実とルジェの実を持ち帰ったら、じいちゃんに、ウォルの実をつまみ食いした件、許してもらえるかも!」

ジェイドの瞳がキラキラと輝く。

「それなら、私のハンカチを使って、包んで持って行ってはどうでしょう?」

「えっ! アミのハンカチ、貸してもらってもいいの?」

「はい。
私には、タラマーナボックスである、このポーチがありますから。
カクトさんの分は、このポーチに入れて持っていきます」

空色のウエストポーチから、桜色のハンカチを取り出して、ジェイドに渡す。

「アミ、ありがとう!
僕、何も持ってきていなかったから……本当に助かったよ!
あっ……このハンカチーーアミの色と似ていて、可愛い色をしているね!
もちろん、アミの色の方がもっと可愛いけど!」

……ふん。褒めてもこれ以上、何も出ませんよ。

「じゃあ、早速、実を摘もう!」
「はい!」

ジェイドは、左側のウォルの実の茂みに。
私は右側のルジェの実の茂みに向かう。

……ルジェの実って、タプタプしていて面白いかも。少しだけ、つついてみたい。

傷つけないよう丁寧に摘んで、そっとポーチに入れながら、そんなことを思う。

だけど。

……なんか、誰かに見られているような感じがする。

先ほどまで吹いていた風が、いつのまにか止んでいた。
濃くなっていた霧も、薄くなってきている。

嵐の前触れの静けさのようだ。
虫の羽音まで、遠のいた気がした。

少し不安になって、ジェイドの方を確認する。
ジェイドは、夢中になってウォルの実を摘んでいて、周りの変化に気づいてないようだった。

……私の考え過ぎなのかな?

頭を軽く横に振る。
気を取り直し、茂みの奥の方にある、ルジェの実に右の前足を伸ばす。

その時だ。

指先に、冷たい感触が触れた。
金属のような手触りだ。

「……え?」

思わず、葉をかき分けてそれを探す。
と、茂みの根元に腕輪が転がっていた。

土埃で汚れた、金属質の機械でできている、細くて小さい腕輪。

……これはいったい?

無意識にそれを拾う。

触れた瞬間、胸の奥がドクンと音を立てる。

冷たいはずなのに、指先がじわりと疼く。
まるで、腕輪の中で何かが目を覚ましたみたいに。

頭の奥に、ノイズみたいな感覚が走る。

コンクリートでできた高層建築物がひしめく街。
その街を行き交う、アニマでもマニアでもない——二足歩行の生き物の、朧げな影。

それは、明らかに――

この世界にはないはずのーー人間とその人間の文明の残滓。

「アミー! すごいの見つけた!
こっちに来てー!
本当にすごいよ!
びっくりするよ!
びっくりしすぎて、ギックリ腰になるよ!」

ジェイドの声で我に返る。

「なに?」

反射的に腕輪をーー外せるよう浅く左の前足に嵌めて、ジェイドの元へ向かった。

「ねえ!
見てこれ!
こんなの見たことないよね!?」

興奮するジェイドの視線の先にはーー

古びた人型のロボットが、ウォルの実の茂みにもたれるように、倒れかかっていた。

ロボットの外装はところどころ錆び、苔までまとわりついている。
胸部が割れており、中の装置は丸見えだ。
片腕ももげていて、地面に落ちている。

……このロボット、何かと戦闘した後みたい。

「これ、見たことない素材でできてるよ!
それに、このヘンテコな形!
こんな変な形のもの、見たことない」

おっかなびっくりと言った様子で、ジェイドはロボットに顔を近づける。

「……もしかしてーー北の森のすごいお宝って、このヘンテコなものがそうなのかな!?
……うん、うん!
きっと、そうだよ!
そうに間違いない!!
だって、なんかこれ、古代のすごい貴重な宝ものの感じがする!!」

ジェイドがとても嬉しそうな顔をして、私の方を返り見る。

ジェイドの言葉に、喉が少し乾く。

……古代ーーね

『昔は、ニンゲンって生き物がいたらしいが……
今じゃ、お伽話だ』

初めてカクトさんと出会った夜の、彼の言葉が脳裏に蘇る。

もしかしたら、ここはーー異世界なんかじゃなくて、人間が滅んだ後、アニマが文明を築いた世界なんじゃ。

だとしたら、どうしてーー人間だったはずの私は、今こうして、桃色の九尾の子狐になって生きているのだろう。

……落ち着け。落ち着け、私。

息を小さく吐いて、改めてロボットを観察する。

形状も、構造も、私が知識で知っている人間と極めて近い。
違うのは顔の部分に、何かの識別番号が書かれていることだろうか。

私は嵌めた腕輪に、そっと触れる。

凶暴なマニアが棲みつく森。

森の奥にあるーー本来なら王都にしかない、ウォルの実とルジェの実の群生地。

そこで見つけた、この腕輪とロボット。

そして、蘇った知識の断片。

……ここはただの不気味なだけの森じゃない。
……何かが隠されている。

その瞬間。

ガシャ。

無機質な機械音が響いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ファンタジー成り上がり譚。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

【完結】王都一番の魔導修理屋

あめとおと
ファンタジー
魔法と魔導具が当たり前の世界。 だが、それらを扱えるのはほとんどが貴族だけだった。 王都の片隅で暮らす平民の青年 リクト は、魔力量が少なく魔法もろくに使えない。 そのせいで魔導学院を落第し、いまは貧乏な魔導具店の雑用係。 だがリクトには、誰も気づいていない才能があった。 それは―― 「魔導具の構造が、なぜか全部わかる」 壊れた魔導具を直し、 効率を上げ、 誰も作れなかった道具を作る。 やがてその技術は、王都の貴族社会や魔導師団を巻き込み、 世界の魔導理論さえ揺るがしていく。 これは―― 魔法が使えない平民が、魔導の常識を塗り替える物語。

異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~

楠富 つかさ
ファンタジー
 都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。

処理中です...