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裏祭
渇欲
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裏祭は本祭の七日後に開かれる。
それをもって儀式は完遂だという
予想外だったのは、裏祭までの七日間、浪月も他の信徒達も、真霧に一切触れてこなかったことだ。
四夜に及ぶ淫らな祭で淫蕩に花開いた真霧の体にとっては、それは解放ではなく責め苦だった。
夜毎疼く体を持て余し、まんじりともせず朝を迎える。
己の手で慰めたいという欲にも駆られたが、昼夜を問わず近くに信徒が控えていてそれもできない。
眠れぬ夜を過ごしているにもかかわらず、鏡に映る己の肌は艶めいているのが不思議だった。
むしろ体が疼けば疼くほど、一層匂い立つような────
悶々としたまま、ついに裏祭の日を迎えた。
此度の祭場は社の裏手にあり、案内役に続いて真霧も徒歩で向かった。
すぐ裏とは言え起伏が全くないわけではない。
なだらかな坂道を下るだけでも、腹の奥がぐずぐずと疼いてしまい、祭場に着く頃には息は乱れ、全身が汗ばんでいた。
そこは、今までで一番広い祭場だった。
森を切り開いた十間四方ほどの平坦な地が幔幕で囲まれ、中央には、菅で編まれた見上げるほどに大きな輪が立てられている。
その広い祭場で、百人を超える信徒たちが儀式の始まりを待っていた。
祭の締めくくりに合わせて、遠方から大勢の信徒たちが駆けつけたのだ。
初めて真霧を目にした男たちからの、好奇と欲望に満ちた視線を痛いほど感じる。
熱い眼差しを浴びるだけで甘く達しそうになりながら菅の輪に向かって歩いていると、足元がふらついてしまった。
「あ……っ」
よろめいた真霧を抱きとめたのは、浪月の力強い腕だった。
七日ぶりに感じた浪月の匂いと体温にくらりと目眩を覚えていると、不意に、浪月の掌が薄い衣越しに下腹に触れた。
刹那、雷に打たれたように体がびりびりと跳ねた。
「あ、あ……っ」
「中が熱くうねっているのが、衣の上からでもわかるな」
指で紋様をなぞられ、そんな些細な刺激にもびくびくと震えてしまう。
「は、ん、ん……──」
「飢えれば飢えるほど、満たされたときの悦楽は大きくなる。さあ、まずは、妖どもにたっぷりと満たしてもらうがよい」
腹の底から湧き上がる疼きに耐えていた真霧は、気づかなかった。
浪月が「妖ども」と口にしたことに。
「これより、裏祭の儀を始める」
菅の輪の前に設けられた壇に真霧が腰を下ろすと、浪月が呪を唱え始めた。
と、同時に信徒が輪に火をつける。
火はあっという間に燃え広がり、菅の輪は炎の円環と化した。
長い呪だった。
奇妙なことに、呪の抑揚に合わせるようにゆらめいていた炎が、だんだんと黒く変わり始めた。
驚き、目を瞠る真霧の眼前で、黒い炎がめらめらと燃え上がる。
やがて、輪の中の景色が黒く染まり出した。
そして、ぬばだまの闇のような漆黒に染まったそこから────鬼が現れた。
本祭の三夜目に現れた、赤と青の大鬼と緑の小鬼たちが、闇の中からぞろぞろとやって来たのである。
それだけではない。
鬼の後ろには、巨体をぶよぶよと揺らす大なめくじもどきや、うねうねと蠢く様々な太さの蔓が続いているではないか。
「これは……」
慄然として声を震わせた真霧に、大鬼たちが牙を剥き出して笑いかける。
「また会えたのう」
「なんじゃ、今宵は随分とむらむらした顔をしとるわい」
「よほど焦らされたのではないか」
「人の子らはわしら鬼より意地が悪いのう」
「早速わしらでかわいがってやろうぞ」
真霧は弱々しく首を振った。
「そんな……」
それぞれの淫妖だけでも耐え難いほどの悦楽だったのに。
同時に嬲られたりしたら、自分がどうなってしまうかわからない。
震える真霧に妖たちが近づいてくる。
「……ひっ」
ほっそりとした手首を鬼のむくつけき手ががっしりと掴んだ。
抗う術などあるはずもない。
それをもって儀式は完遂だという
予想外だったのは、裏祭までの七日間、浪月も他の信徒達も、真霧に一切触れてこなかったことだ。
四夜に及ぶ淫らな祭で淫蕩に花開いた真霧の体にとっては、それは解放ではなく責め苦だった。
夜毎疼く体を持て余し、まんじりともせず朝を迎える。
己の手で慰めたいという欲にも駆られたが、昼夜を問わず近くに信徒が控えていてそれもできない。
眠れぬ夜を過ごしているにもかかわらず、鏡に映る己の肌は艶めいているのが不思議だった。
むしろ体が疼けば疼くほど、一層匂い立つような────
悶々としたまま、ついに裏祭の日を迎えた。
此度の祭場は社の裏手にあり、案内役に続いて真霧も徒歩で向かった。
すぐ裏とは言え起伏が全くないわけではない。
なだらかな坂道を下るだけでも、腹の奥がぐずぐずと疼いてしまい、祭場に着く頃には息は乱れ、全身が汗ばんでいた。
そこは、今までで一番広い祭場だった。
森を切り開いた十間四方ほどの平坦な地が幔幕で囲まれ、中央には、菅で編まれた見上げるほどに大きな輪が立てられている。
その広い祭場で、百人を超える信徒たちが儀式の始まりを待っていた。
祭の締めくくりに合わせて、遠方から大勢の信徒たちが駆けつけたのだ。
初めて真霧を目にした男たちからの、好奇と欲望に満ちた視線を痛いほど感じる。
熱い眼差しを浴びるだけで甘く達しそうになりながら菅の輪に向かって歩いていると、足元がふらついてしまった。
「あ……っ」
よろめいた真霧を抱きとめたのは、浪月の力強い腕だった。
七日ぶりに感じた浪月の匂いと体温にくらりと目眩を覚えていると、不意に、浪月の掌が薄い衣越しに下腹に触れた。
刹那、雷に打たれたように体がびりびりと跳ねた。
「あ、あ……っ」
「中が熱くうねっているのが、衣の上からでもわかるな」
指で紋様をなぞられ、そんな些細な刺激にもびくびくと震えてしまう。
「は、ん、ん……──」
「飢えれば飢えるほど、満たされたときの悦楽は大きくなる。さあ、まずは、妖どもにたっぷりと満たしてもらうがよい」
腹の底から湧き上がる疼きに耐えていた真霧は、気づかなかった。
浪月が「妖ども」と口にしたことに。
「これより、裏祭の儀を始める」
菅の輪の前に設けられた壇に真霧が腰を下ろすと、浪月が呪を唱え始めた。
と、同時に信徒が輪に火をつける。
火はあっという間に燃え広がり、菅の輪は炎の円環と化した。
長い呪だった。
奇妙なことに、呪の抑揚に合わせるようにゆらめいていた炎が、だんだんと黒く変わり始めた。
驚き、目を瞠る真霧の眼前で、黒い炎がめらめらと燃え上がる。
やがて、輪の中の景色が黒く染まり出した。
そして、ぬばだまの闇のような漆黒に染まったそこから────鬼が現れた。
本祭の三夜目に現れた、赤と青の大鬼と緑の小鬼たちが、闇の中からぞろぞろとやって来たのである。
それだけではない。
鬼の後ろには、巨体をぶよぶよと揺らす大なめくじもどきや、うねうねと蠢く様々な太さの蔓が続いているではないか。
「これは……」
慄然として声を震わせた真霧に、大鬼たちが牙を剥き出して笑いかける。
「また会えたのう」
「なんじゃ、今宵は随分とむらむらした顔をしとるわい」
「よほど焦らされたのではないか」
「人の子らはわしら鬼より意地が悪いのう」
「早速わしらでかわいがってやろうぞ」
真霧は弱々しく首を振った。
「そんな……」
それぞれの淫妖だけでも耐え難いほどの悦楽だったのに。
同時に嬲られたりしたら、自分がどうなってしまうかわからない。
震える真霧に妖たちが近づいてくる。
「……ひっ」
ほっそりとした手首を鬼のむくつけき手ががっしりと掴んだ。
抗う術などあるはずもない。
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