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第十話「裏ギルドの黒騎士ハルギ・ディーセスト」
005
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「ちょっと、何してるの⁉ 早く逃げようよ!」
「シュ、シュヴァルツさん……?」
前を通り過ぎた二人も立ち止まり、こちらを振り返っていた。
「すまない、ちょっとだけ待ってくれ。なぁ、お前ら自分で走れるか?」
「私は、大丈夫です」
冷静な目つきでジャックが答える。
「む、むりです……もうこんなの……むりです……うぅっ……うぐっ……」
寝込みを襲われたんだろう。二人はロクな装備をしていない。
だが、武器がなくても魔法は使える。
「ジャック、バレッタを抱えて走れ。前の二人はギルドの人間だ、ある程度は戦える。お前に第六階層は少し厳しいかもしれないが……、まぁ、あの二人が居れば大丈夫だ」
「はい」
「ちょっとシュヴァルツ君、早く行かないと!」
「ああ、分かってる」
この洞窟を抜ける手前で、周囲の安全が確認できればあの野郎を足止めだ。
「お前ら走れ!」
「言われなくても!」
「「はい!」」
アイシャ、シズクに先頭を任せ、バレッタを抱えたジャックが真ん中を、一番後ろを俺が走る。
「あとちょっとだよ!」
アイシャのかけ声に全員の嫌な空気が払拭されていく。
「くそっ……走ってきやがったか……」
俺の背後からの足音……。
バレッタを抱えたジャックじゃ追いつかれるのも時間の問題……。
岩の裂け目から、外の光が視界に映る。
「――――やっと外に着いたぁ!」
アイシャがうんと伸びをする。
「おい、立ち止まるな!」
「えっ?」
「アイシャにシズク、ジャックとバレッタを守ってやれ! とにかく急げ!」
「――――敵を斬れ、氷帝……」
「くっ……!」
すぐさま後ろを振り返り剣を構える。
「くっそ……!」
――――ガギンッ! ガギッ! ガガンッ!
鈍重な音が岩壁に響く。
二本、三本と飛んでくる氷剣を打ち落とし、なんとか四人への攻撃を阻止。
砕け散った氷剣の結晶が、キラキラと舞い落ちていく。
「シュヴァルツ君!」
「お前らはとにかく走れ! 居たら邪魔だ!」
「ちょっと! 邪魔って――――」
「アイシャちゃん、行こう!」
「うぅぅ……! 応援が来るまで死なないでよね!」
「まぁ、早めに頼むわ……」
弾いた手が痺れてやがる……。
四人がこの場から走り去っていく。
「はぁ、面倒くせぇ……」
縮んだ体で裏ギルドの上級冒険者であるハルギを相手にしろって、ほんと無茶言うぜ……。
「防いだか、若者よ……」
氷の結晶が舞う中を、黒い鎧の騎士が立ち止まる。
洞窟、手に握られた青い剣は、いかにもボス戦のような雰囲気だ。
「お前は何者だ……」
「そんなことよりも、背後から魔法なんて、騎士として卑怯じゃねえのか?」
「逃げるような卑怯者に言われる筋合いはない……」
さてさて……、どうしようか……。
「ん……、お前のその黒い剣は……、何故、お前がその剣を持っているのだ……」
「ただの貰いもんだ、あんまり気にするな」
「…………そうか」
ハルギが剣を構える。
「できれば戦いたくないんだがな……少しだけ時間稼ぎさせてもらうぞ」
相対するように、俺もハルギへと剣を向ける。
「仲間を守り、犠牲になる姿勢は認めよう……だが、死に逝け、若者よ……」
「ならよ、死ぬ前に質問させてくれよ」
「……」
構えたまま、ハルギの動きが止まる。
「あんたくらいの冒険者なら、俺の時間稼ぎであいつらに追いつけないなんてことないだろ? ちょっとくらい話をしようじゃないか」
「……いや、お前はあいつに似ている……危険だ……。早々に死ね……」
ハルギが勢いよく突っ込んでくる。
「ちっ……! 勘の良い奴は嫌いだよっと……!」
黒い剣と青い剣が甲高い音を響かせあう。
くっ……!
やっぱり腕力の差がきついか……!。
踏ん張っても足が後ろに……、地面を滑っちまう……。
「死に逝け、若者よ……」
「ぐっ……やられてたまるかよ……うらぁぁあ!」
ハルギの剣をなんとか弾いて後退。
手の痺れに、腕まで疲労が溜まって……――――――
「――――貫け、氷帝……」
「なっ……!」
少し離れれば氷の魔法がまっすぐにこちらへと飛んでくる。
「くそっ……!」
腕の太さほどの氷の刺を、剣の刃を使って軌道を逸らす。
「はぁっ……はぁっ……!」
こりゃ、きついな……。
「いい動きだ……」
「そりゃどうも……」
ハルギは両手に剣を握り天へと切っ先を向ける。
多分、氷剣の魔法……盗賊たちを切り刻んだやつだ……。
くそっ……、できればこいつ以外に裏ギルドの連中が居ないか知りたいんだがな……。
俺の水魔法は、なるべく誰にも知られたくない……。
「我が剣よ、敵を斬り裂く刃とな――――くっ……!」
ハルギの構えた剣が、俺の剣の軌道を遮る。
「邪魔をするな……」
「あいつらと同じように詠唱させると思ってるのか?」
追い込まれているのはこっちだが、空元気の笑みをハルギに向けてみせる。
「やはり、貴様はあいつに似ている……」
「ふっ……、よく言われるよ」
剣を交えながら言葉をかわす。
だが、力の差に汗がにじむ。押していたはずの剣撃が、気付けば押し返され始めてる。
じりじりと剣同士が音を立て、次第に手が震えだす。
「辛そうだな、若者よ……」
「さぁ、どうだろうな……」
このままじゃ、もたねぇ……。
「な、なぁ、最後に聞かせてくれないか?」
「……」
「ここに、他の連中は居るのか?」
「ここでお前と戦っているのは私のみ……集中しろ……」
「それは、あんたが独りだけって解釈でいいのかねぇ」
「知らぬ……」
ちっ……、面倒くさい奴だな……。
「よっ! ……っとな!」
ハルギの剣を受け流し、バックステップと共にポーションを取り出す。
はぁ……、クレスかキングのどっちか、無理にでも引っ張ってくりゃ良かったぜ……。
背後で瓶のフタを取り、中身を地面に零していく。
「はぁ……ほんと面倒くせぇ……」
こいつだけなら水で溺れさせることは出来る。だが、他に仲間が居た場合が厄介だ……。
相手の人数が把握できない以上、むやみに俺の魔法は使えない。
俺の魔法は対人戦に対して強い……。だが、それゆえに、知られれば対策をとられてしまう……。
「お遊びはここまでだ……若者よ……」
「んじゃ、帰らせてほしいもんだ……」
にじり寄るハルギに対して、俺のとる行動は――――――――
「ほらよっ」
空になったポーションの瓶を、ハルギの顔、目元へと投げつける。
「っ……!」
叩き落とす勢いで剣を振ったハルギ。だが、瓶はそのせいで粉々に砕け散り、鎧の隙間から目の奥へと入り込む。
「くっ……卑怯者が……!」
「後ろから魔法を撃っただろ。お互い様さ」
「くっ……!」
よし、今のうちに俺も逃げよう。
もし仮に、このままこいつを仕留めたとしても、援軍が来れば詰んでしまう。ここは撤退するのが最適解だ。
「さてと……」
念のために煙玉を転がし、アイシャたちの後を追う。
「あばよ……次に会う時は必ず殺してやるからな」
「許さん……許さんぞ……! 冒険者として恥を知れ……!」
「……」
冷徹な怒りの声が、走り去るシュヴァルツへと向けられる。
しかし、ハルギのその言葉に対して、シュヴァルツは苛立ちを見せていた。
「そりゃ、こっちのセリフだ……裏切り者め……」
呟いた声はハルギには届かず、シュヴァルツはそのまま退却した。
「シュ、シュヴァルツさん……?」
前を通り過ぎた二人も立ち止まり、こちらを振り返っていた。
「すまない、ちょっとだけ待ってくれ。なぁ、お前ら自分で走れるか?」
「私は、大丈夫です」
冷静な目つきでジャックが答える。
「む、むりです……もうこんなの……むりです……うぅっ……うぐっ……」
寝込みを襲われたんだろう。二人はロクな装備をしていない。
だが、武器がなくても魔法は使える。
「ジャック、バレッタを抱えて走れ。前の二人はギルドの人間だ、ある程度は戦える。お前に第六階層は少し厳しいかもしれないが……、まぁ、あの二人が居れば大丈夫だ」
「はい」
「ちょっとシュヴァルツ君、早く行かないと!」
「ああ、分かってる」
この洞窟を抜ける手前で、周囲の安全が確認できればあの野郎を足止めだ。
「お前ら走れ!」
「言われなくても!」
「「はい!」」
アイシャ、シズクに先頭を任せ、バレッタを抱えたジャックが真ん中を、一番後ろを俺が走る。
「あとちょっとだよ!」
アイシャのかけ声に全員の嫌な空気が払拭されていく。
「くそっ……走ってきやがったか……」
俺の背後からの足音……。
バレッタを抱えたジャックじゃ追いつかれるのも時間の問題……。
岩の裂け目から、外の光が視界に映る。
「――――やっと外に着いたぁ!」
アイシャがうんと伸びをする。
「おい、立ち止まるな!」
「えっ?」
「アイシャにシズク、ジャックとバレッタを守ってやれ! とにかく急げ!」
「――――敵を斬れ、氷帝……」
「くっ……!」
すぐさま後ろを振り返り剣を構える。
「くっそ……!」
――――ガギンッ! ガギッ! ガガンッ!
鈍重な音が岩壁に響く。
二本、三本と飛んでくる氷剣を打ち落とし、なんとか四人への攻撃を阻止。
砕け散った氷剣の結晶が、キラキラと舞い落ちていく。
「シュヴァルツ君!」
「お前らはとにかく走れ! 居たら邪魔だ!」
「ちょっと! 邪魔って――――」
「アイシャちゃん、行こう!」
「うぅぅ……! 応援が来るまで死なないでよね!」
「まぁ、早めに頼むわ……」
弾いた手が痺れてやがる……。
四人がこの場から走り去っていく。
「はぁ、面倒くせぇ……」
縮んだ体で裏ギルドの上級冒険者であるハルギを相手にしろって、ほんと無茶言うぜ……。
「防いだか、若者よ……」
氷の結晶が舞う中を、黒い鎧の騎士が立ち止まる。
洞窟、手に握られた青い剣は、いかにもボス戦のような雰囲気だ。
「お前は何者だ……」
「そんなことよりも、背後から魔法なんて、騎士として卑怯じゃねえのか?」
「逃げるような卑怯者に言われる筋合いはない……」
さてさて……、どうしようか……。
「ん……、お前のその黒い剣は……、何故、お前がその剣を持っているのだ……」
「ただの貰いもんだ、あんまり気にするな」
「…………そうか」
ハルギが剣を構える。
「できれば戦いたくないんだがな……少しだけ時間稼ぎさせてもらうぞ」
相対するように、俺もハルギへと剣を向ける。
「仲間を守り、犠牲になる姿勢は認めよう……だが、死に逝け、若者よ……」
「ならよ、死ぬ前に質問させてくれよ」
「……」
構えたまま、ハルギの動きが止まる。
「あんたくらいの冒険者なら、俺の時間稼ぎであいつらに追いつけないなんてことないだろ? ちょっとくらい話をしようじゃないか」
「……いや、お前はあいつに似ている……危険だ……。早々に死ね……」
ハルギが勢いよく突っ込んでくる。
「ちっ……! 勘の良い奴は嫌いだよっと……!」
黒い剣と青い剣が甲高い音を響かせあう。
くっ……!
やっぱり腕力の差がきついか……!。
踏ん張っても足が後ろに……、地面を滑っちまう……。
「死に逝け、若者よ……」
「ぐっ……やられてたまるかよ……うらぁぁあ!」
ハルギの剣をなんとか弾いて後退。
手の痺れに、腕まで疲労が溜まって……――――――
「――――貫け、氷帝……」
「なっ……!」
少し離れれば氷の魔法がまっすぐにこちらへと飛んでくる。
「くそっ……!」
腕の太さほどの氷の刺を、剣の刃を使って軌道を逸らす。
「はぁっ……はぁっ……!」
こりゃ、きついな……。
「いい動きだ……」
「そりゃどうも……」
ハルギは両手に剣を握り天へと切っ先を向ける。
多分、氷剣の魔法……盗賊たちを切り刻んだやつだ……。
くそっ……、できればこいつ以外に裏ギルドの連中が居ないか知りたいんだがな……。
俺の水魔法は、なるべく誰にも知られたくない……。
「我が剣よ、敵を斬り裂く刃とな――――くっ……!」
ハルギの構えた剣が、俺の剣の軌道を遮る。
「邪魔をするな……」
「あいつらと同じように詠唱させると思ってるのか?」
追い込まれているのはこっちだが、空元気の笑みをハルギに向けてみせる。
「やはり、貴様はあいつに似ている……」
「ふっ……、よく言われるよ」
剣を交えながら言葉をかわす。
だが、力の差に汗がにじむ。押していたはずの剣撃が、気付けば押し返され始めてる。
じりじりと剣同士が音を立て、次第に手が震えだす。
「辛そうだな、若者よ……」
「さぁ、どうだろうな……」
このままじゃ、もたねぇ……。
「な、なぁ、最後に聞かせてくれないか?」
「……」
「ここに、他の連中は居るのか?」
「ここでお前と戦っているのは私のみ……集中しろ……」
「それは、あんたが独りだけって解釈でいいのかねぇ」
「知らぬ……」
ちっ……、面倒くさい奴だな……。
「よっ! ……っとな!」
ハルギの剣を受け流し、バックステップと共にポーションを取り出す。
はぁ……、クレスかキングのどっちか、無理にでも引っ張ってくりゃ良かったぜ……。
背後で瓶のフタを取り、中身を地面に零していく。
「はぁ……ほんと面倒くせぇ……」
こいつだけなら水で溺れさせることは出来る。だが、他に仲間が居た場合が厄介だ……。
相手の人数が把握できない以上、むやみに俺の魔法は使えない。
俺の魔法は対人戦に対して強い……。だが、それゆえに、知られれば対策をとられてしまう……。
「お遊びはここまでだ……若者よ……」
「んじゃ、帰らせてほしいもんだ……」
にじり寄るハルギに対して、俺のとる行動は――――――――
「ほらよっ」
空になったポーションの瓶を、ハルギの顔、目元へと投げつける。
「っ……!」
叩き落とす勢いで剣を振ったハルギ。だが、瓶はそのせいで粉々に砕け散り、鎧の隙間から目の奥へと入り込む。
「くっ……卑怯者が……!」
「後ろから魔法を撃っただろ。お互い様さ」
「くっ……!」
よし、今のうちに俺も逃げよう。
もし仮に、このままこいつを仕留めたとしても、援軍が来れば詰んでしまう。ここは撤退するのが最適解だ。
「さてと……」
念のために煙玉を転がし、アイシャたちの後を追う。
「あばよ……次に会う時は必ず殺してやるからな」
「許さん……許さんぞ……! 冒険者として恥を知れ……!」
「……」
冷徹な怒りの声が、走り去るシュヴァルツへと向けられる。
しかし、ハルギのその言葉に対して、シュヴァルツは苛立ちを見せていた。
「そりゃ、こっちのセリフだ……裏切り者め……」
呟いた声はハルギには届かず、シュヴァルツはそのまま退却した。
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