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先生
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しおりを挟む身体中に痣はできていたが幸い顔に痣は出なかった、唇が腫れてるぐらいでそれ以外はおかしい所はないように思える。
「昨日は…その、寝れたか?」
「はい。大丈夫でした」
神経が高ぶって眠れなくて当たり前だと思っていたのに、普段よりぐっすりと眠れた事に葉人自身が驚いていた。
「そうか…これから買い物に行こうと思うんだが…小田切はどうする?」
小さく首を左右に振る。
「先生が構わないのであれば、ここに…」
「そうか…そうだな」
どこかほっとしたような表情で、光彦は出掛けていった。
その背中を見送り、夏らしい色合いをした空を窓から見上げる。
「…そうだよな……」
集団暴行を受けた人間が傍にいたら、気が休まらないんだろうな…と呟いて、申し訳なさにうなだれた。
家に帰ろうか…とも考え、首を振る。
仕事柄、母親は怪我に敏感だった。
「……」
相談する相手もおらず、ただじっと握りしめた両手を見つめる。
白い筋が見えた。
左手首についた薄い切り傷を見ていると、切った時の痛みを思い出して体を震わせた。
殴られたり蹴られたりするのとは全く違う、異質な痛みだった。
「…っ」
寒くなった背筋をほぐすように首を振り、机の端に置いた携帯に目をやる。
昨夜と変わらず、着信を告げるランプが常に点滅していた。
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