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藍我 side
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しおりを挟むだけど、兎に角返してもらわなきゃいけない。
「わかった。オレが悪かった! だからそれ捨てといて」
桃路に真正面からぶつかっていいことなんて一つもない。根比べしたら絶対に桃路の方が勝つ! って言い切れるくらい、桃路は強情だ。
「これは、俺が預かるから!」
「……は?」
「これは、藍我が不正をした証拠なんだから、俺がこのまま持っておく!」
そう言うと桃路は三枚のクジをさっと服の中に入れてしまった。
他の人間なら無理やり押し倒して押さえつけて何とかして奪い取ることもできたんだけど、桃路にそんなことをしてまた具合が悪くなったら……オレには力ずくで取り返すってことはできない。
「だから、俺がまこちゃんに近づくのを邪魔しないで!」
「っ⁉︎」
桃路の邪魔をしてまことに卑怯者と思われることと、まことに桃路を近づけて仲が良くなることと……天秤にかけるには微妙すぎる問題だ。
どちらにしてもオレにいいことなんてないんだから。
どっちも嫌だって言ったって、桃路は聞いてはくれないだろう。
「……」
まことに嫌われるか。
それとも桃路と仲良くなるかもしれない可能性を潰すか。
ギリギリと奥歯を噛み締めながら考えて、まことに嫌われるのだけは無理だという結論が出た。
もしかしたら桃路とまことは仲良くはならないかもしれないから……ワンチャン! それに賭ける!
でも……桃路とまこと、仲が良かったんだよな。
桃路は心臓のことで激しい運動ができない。
まことはトロ……じゃない、どんくさ……じゃない、少し運動が苦手な質だ。
だから二人は幼馴染みの中ではおっとりとしたグループだった。だから、自分のペースに合わせてずっと付き添ってくれる桃路とまことは、オレ達が木登りや川遊びをしている間、二人きりで自分達のできる遊びをして遊んでいた。
小さな子供は、少しでも多く一緒に遊んだ人間の方に好意を持つから……
まことを置いていってしまうオレより、そばにいてくれる桃路の方がまことの好感を得ていたのは苦い思い出だったし、それがあるからオレの桃路への警戒は厳しくなってしまう。
もし、昔みたいに打ち解けたら、まことは桃路を好きになってしまうんじゃないかって……思ってしまう。
オレがまことを好きなのは昔から変わらないけれど、まことはどうだろうか?
まことしか好きになれないオレと違って、まことには可愛い女の子を選択することも、もっとかっこいい男を選択することもできる。
オレが選ばれない可能性の方が高いんだ。
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