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第一章 はじまり
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しおりを挟む「ところで、このこたちってなまえ、あるの?」
もふもふと順番に赤ちゃん神獣を撫でている少年、リッカは黄龍に尋ねた。名前と言っても神獣たちにとってはその種族名こそが与えられた名前であるのだ。それは他の魔獣たちにも言えることである。だからこそ、黄龍も黄龍としか呼ばれない。例外はいるが。
その質問に黄龍は困ったように笑い、頬をかいた。
『坊は私のことを黄龍、と呼ぶだろう?』
「ん、よびにくいから、こーちゃんってよんでるけど……」
『そうだろう?私たちにとってはそれが名前なのだ。種族名こそが与えられた名前。固有の名は持たないのだよ。』
だから、リッカにこーちゃん、と呼ばれることが嬉しい。と、黄龍は続ける。自分だけの呼び方で呼ばれることが嬉しい、と。それを聞いたリッカはふと、考え込むように白虎たちを見た。四匹はそんなリッカを不思議そうな目で見ている。
「すざくが、すーちゃん。せいりゅうが、アオくん。びゃっこが、シロくん。げんぶが、ゲンくん。」
『……坊?』
「なまえ……ぼくはそうよぶけど、いい?」
まるで有無を言わせないと言わんばかりのドヤ顔である。しかし、その呼び名が気に入ったのか、白虎たちは嬉しそうに鳴いた。キュウキュウ、ピイピイと鳴いてリッカに抱き着きに行っている。黄龍がこーちゃんと呼ばれるように白虎たちにも呼び名を付けたのだろうが、リッカにネーミングセンスなど存在しない。安直につけるのでつけられた当初は黄龍も苦笑いしか無かったのだ。けれど、そんな安直なものでもうれしいものである。黄龍には白虎たちの気持ちが痛いほど伝わっていた。
『こやつらも喜んでいるようだ。』
「そう?よかった。」
どこかほっとした様子のリッカに黄龍は頷く。今、白虎たちと意思の疎通が取れるのは黄龍だけだ。幼すぎて白虎たちはまだ他種族との会話までできないからである。しかし、それをカバーするかのように全身で好きをリッカに伝えているため、あんまり障害はないようだが、それでもリッカとしては不安だったのだろう。ドヤ顔で言っている割には可愛いやつである。
黄龍がそんなことを思っているのがバレたのか、リッカはぽすんと小さな手で黄龍を叩いた。大人がこの光景を見れば、途端に青褪めるだろう。何せ、黄龍はこの国の守り神なのだから。
そんな黄龍が何故リッカのそばにいつもいるのか。理由は簡単である。黄龍がリッカと言う存在に惹かれたからである。もっと言うならば、リッカのもつ魔力が始まりだろう。リッカは魔獣に好かれる魔力を有しているのだ。だからこそ、警戒されずにスケッチをすることができるし、常人ならまず不可能とされているだろう野良の魔獣とのふれあいも問題なくこなせるのだ。いくらリッカの家系が魔獣に好かれる魔力を有しているとは言え、特にリッカはそうなのだ。
いつのまにか撫でることをやめ、スケッチに取り掛かっていたリッカを見ながら、黄龍は当時のことを思い出していた。
『坊は本当に、不思議な存在だった。』
「……きゅうにどうしたの?」
『いやな、思い出していただけさ。何せ、生まれたときからお主を見ていたからなぁ……』
「まだ、四ねんしかたってないよ?」
『私は長く生きている。この四年はその長い年月の中でも特に退屈しないものだったのだよ。』
「ふうん……」
手と顔はスケッチブックに向きながらも耳は黄龍の話に傾けている。器用なことをするもので、白虎たち四匹は自分がモデルにされていることが分かっているのか、一生懸命動かないように努力していた。そんな四匹を見てリッカは面白そうに笑った。つん、と指で突いて動いてもいいよ、と声をかける。
戯れる四匹と一人を見て、黄龍は名案が浮かんだとばかりに声を上げた。
『そういえば、坊は八つになると契約の儀をするのだろう?』
「うん、そうみたい。」
『そのときにこやつらと契約するのはどうだ?』
「このこたちと……?」
『そうだ。それにこやつらなら私も安心できるからな。流石に私が国を離れることはできないが、こやつらならば可能だ。坊にとっても悪い話ではないだろう?』
今度は黄龍が、どうだと言わんばかりにドヤ顔を決める。リッカの家、トウドウの家系は有能なテイマーを輩出しているというだけあって、教育を受けるのも早い。現に四つのリッカもすでに読み書きの練習から入り、読書にはテイマーの心得やらなんやらと読まされている。それは、同じように他の名家も教育は始めているのだが、この年頃の子は遊びたい盛り。嫌がる子も多い中、リッカはそれが苦ではないため、大人しく学んでいるので、両親からもよく褒められていた。
そして、そのトウドウ家含め、名家の集まるフィラノという街の特徴の一つとして、子は八つで契約の儀を行うこと。というものがある。契約とはそのままの意味で、テイマーとしての能力の一つ、魔獣と主従関係を結ぶことだ。そこでそれなりの魔獣と契約できれば才能があると認められるし、そうでなければ家柄によっては無能の烙印を早々に押されることもある。全く、子供には生きづらい場所だ。
「ぼくは、あんまりきょうみないんだけど、しんじゅうとけいやくするって、すごいことじゃないの?」
『そうであるな。魔力保有量や、そいつがもつ素質で契約できる魔獣のランクも決まるんだが、その中でもまず神獣と契約できるものはいないだろう。そもそも、神獣は高貴な存在だ。人の下につくことをよしとしない。』
「じゃあ、そんななかでぼくがこのこたちとけいやくしたら、いろいろもんだいがあるんじゃないの……?」
『案ずるな。例え文句を言うような奴がいても、我に意見できるような輩はいない。それに、ちゃんと考えてあるからな。』
黄龍はまるでいたずらを仕掛けるかのようににやりと笑った。
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