3 / 91
第一章 はじまり
契約の儀
しおりを挟むあれから四年。リッカは八つになり、契約の儀を迎えることとなった。両親もこの日を心待ちにしてくれていたのか朝からおめでとうの言葉と共にそわそわとしている。落ち着きがないとはまさにこのことである。
リッカと言えば、白虎たちのことをいつ、どう伝えるかということで頭がいっぱいだった。
「父様、母様、ありがとうございます。」
「いーえ。リッカもこれで八歳、これからもっと大変になるだろうけど、頑張ってね。」
「リッカは我がトウドウ家の誇りだ。今日の儀も楽しみにしている。」
父と母にそう言われるが、曖昧な返事を返すことしかできない。なんといってもリッカは予め用意されている魔獣とではなく、神獣たちと契約を交わすのだから。
ちらりと部屋の外を窓から覗き見れば、不安そうにこちらを見つめている四匹が目に入る。それを視線で制すと、リッカは心を決めたように小さく息をついた。今、言わなければ……
「……契約の儀のことなんですが、」
「どうした?何か問題でもあるのか?」
「いえ、父様と母様、そして領主様に折り入ってお願いが。」
「願い、とは?ここでは話せぬのか?リッカよ。」
「はい。申し訳ありませんが、領主様も父様も母様も、僕にお付き合いお願いいたします。」
そう告げたリッカの眼は真剣そのもので、他人がどうこう言えるものでも無かった。わかった、と領主が頷きリッカの両親にも視線を送る。許可をしてくれ、と言っているのだ。リッカがこうやって突拍子もないことを言うのはいつものこと。両親もそれについては諦めているようで、苦笑いしながらリッカの提案に乗ってくれた。
「裏庭に。お見せしたいものがあるんです。」
「裏庭、と……そこには何があるんだ?」
「今は言えません。それに、見てもらった方が早いかと思います。」
「ふむ……リッカ、裏庭はお前のテリトリーである森があるだろう?何か儀と関係があるのか?」
「父様、今は言えません。」
「セイイチさん、今はリッカに任せましょう?」
母のフォローも受け、リッカ達四人は裏庭に到着した。合図をするまで出てきてはだめだと言っていたので、すでに白虎たちは隠れていてこちらからは見えない。
「ここが、リッカのテリトリー……」
「私たちもあまり足を踏み入れないんですけれど、まさかこうなっていたなんて……」
「好きにしていいとは言ったがここまでとは、」
裏庭、とは言えトウドウ家の裏庭はセイイチが言ったように森がありその森を裏庭としてトウドウ家が管理しているのだ。三年前、五歳の誕生日の時にリッカはこの森を強請った。両親もリッカのお願いが珍しく、すんなりと許可を出してくれたのだ。それ以来、神獣たちに手伝ってもらいながら小さな小屋を作り、道を整備し、草をむしったりしていたのだ。ちなみに、リッカが家の中にいる間、神獣たちは小さくなって小屋の中にいる。
「道を作ったのはつい最近です。必要だと思ったので。」
「にしてもこれはすごいな……一人でやったのか?」
「いいえ。僕のこの身体じゃ上手く作れないことは、父様が一番分かっているでしょう?」
「確かにな……」
何故か普通の子たちよりも成長が遅いリッカ。黄龍から髪を切らないように言われ余計に成長が遅くなったように思える。その理由を聞いたことはないが、言い伝えで神獣様の言うことは聞きなさいと言われているのだ。断る理由もない。八歳の平均身長は男児で約百三十センチ程。しかしリッカは百二十センチでも微妙なほどなのである。
そんなリッカに、小屋を建てることができるとは思えないのだろう。
「一人でないとしたら、いったい誰と……?リッカのお友達?でも私リッカがお友達といるところ、見たことがないのだけれど……」
「友達……ではありません。もっと近しい存在です。今から呼びますが、大きな声は出さないようにお願いしますね。」
「わ、分かった。」
「大きな声を出してしまうかもしれないようなものが出てくるのか……?」
ぼそり、と呟かれた領主の言葉をリッカは聞かなかったことにして、小屋の方を見た。おそらく小屋の中にいるはずである。リッカは指笛を吹くと、いつも通りの音量で四匹を呼んだ。予想通り、というべきなのか、ドアからぴょこんと顔を覗かせ、ころころとしたぬいぐるみサイズの白虎たちが姿を現した。
『まま、もういいの?』
「ん、いいよ。お待たせ。」
『かーさん遅い、待ちくたびれた……』
「ごめんね、アオくん。あとで構ってあげるから。」
『お母さん、この人たち?』
「そう、僕の両親と領主様。」
『びっくりしてるみたですね……まぁ、しょうがないと思いますけど……』
出てきた白虎たちはわらわらとリッカに集まり、次々に言葉を交わす。他種族との会話もきるようになった彼らは何故かリッカのことを母と呼ぶようになった。最初は嫌がっていたリッカだったが、口足らずにママと言われてしまっては否定する気も起きなくなってしまった。
黄龍からは笑われてしまったが、リッカとしては別にいいと思っている。が、いつかきっと矯正はするつもりでいる。
あるていどもふもふとして振り返ると、両目を面白いほどに見開き唖然としている両親と領主が目に入った。あ、と思わず声を漏らす。
「り、リッカ……その、獣たちは、まさか……」
「うん。神獣の青龍、白虎、朱雀、玄武。こーちゃん……黄龍に任されたんです。」
「黄龍様、だと!?いや、まさかとは思っていたが……」
「じゃあリッカのお願いって、もしかして……」
察しのいい母の言葉にうなずく。リッカのお願いは、今日の契約の儀でこの神獣四匹と契約させてもらうこと。とはいっても、これは黄龍の提案であり、神獣四匹も望んでいることなので、拒否権は無いに等しいのだが。
「はい。今日の契約の儀は、この子達とさせてもらいたいと思って。」
「しかし、神獣様と契約なんて聞いたことないぞ……」
「それに、神獣様と契約したら、嫌でも目立ってしまうぞ?リッカは目立つことが嫌いだろう?」
「いえ、そのために黄龍がこの子達に姿を小さくする術を教え込ませてくれたので。」
「なるほど、今の姿は偽りの姿、ということか……」
今の白虎たちは、到底神獣に見えないほどかわいらしく、もふもふとしている。それでも領主や両親が見抜けたのは、ずばぬけた魔力感知能力に加え、神獣たちが身近な存在であり、その気配に慣れているからだろう。だからこそ、その言葉もあやふやではあるが理解もできている。おそらく、三人以外の者や、全く知らないものから見れば、ただの小さな獣に見えるはずだ。
「だめ……ですか?」
こてりと首を傾げたリッカに父も母も弱い。領主ですら、言葉に詰まっている。しかし、この提案は黄龍が発端だったもの。先にも言ったが、拒否権はあってないようなものなのだ。
「……いいだろう。しかし、条件を付けさせてくれ。」
「条件、ですか?」
「契約の際に封印の呪も一緒に行うこと、それが条件だ。」
「封印の呪……」
「いくら神獣様とはいえ、何もせずに人間の従魔にすることはできない。それに力も強大だ。制限をかけたいわけではないが、許してくれ。神獣様だから気づかれたときにパニックになる恐れがある。絶対にバレてはいけないという訳では無いが、文句をつけてくる者も多いだろうしな。それに、封印をかけることで常時魔力を使いながら姿を偽る必要もなくなる。」
「それは……」
仮にも相手は神獣。そんなことが許されるのかと思ったリッカだったが、それは突如現れた存在によって、解決することになった。黄龍である。しかも黄龍は本来の大きい姿で現れたのだ。驚かないはずがない。
黄龍は地面に着地すると、リッカの顔に自身の顔を寄せ、頬擦りした。
『よい、よい。封印の呪など、障害にはならぬ。こやつらをリッカと共に行かせることの方が大事さ。』
「黄龍様!!??」
「あらあら……大きいわねぇ……」
「そういう問題じゃないだろう!?サクラは暢気すぎる!」
『いつもリッカには世話になっておる。私からも、よろしくたのむよ。』
まるで何もかもが黄龍の思いのままになっているようで、リッカは思わず遠くを見た。目の前では黄龍の言葉にうなずく領主がいる。ひとまず、許可が出たことにほっとしながら、リッカは腕の中の白虎たちを撫でた。
5
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
転生美女は元おばあちゃん!同じ世界の愛し子に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!《『転生初日に~』スピンオフ》
ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。
私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。
そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。
早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯
私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。
『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』
そのために私は⋯
『地上に降りて冒険者になる!』
これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』の可愛いくまの編みぐるみ、おばあちゃんこと凛さんの、天界にいる本体が主人公!
が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。
また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。
こちらも、よろしくお願いします。
*8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~
楠富 つかさ
ファンタジー
都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる